その1−15
『 透明人間 』

美輝は夢を見た。自分が透明人間になった夢〜
本当に透明になってみたい、といつも思っていた。
学校からの帰り道、横断歩道の真ん中に小さな箱が落ちていたのでお金が入ってるのかな、と思いながらドキドキして開けてみた。中には透明のつぶ1個とピンク色のつぶ1個はいっていた、おいしそうなので透明のほうを1個口にいれるとトローッととけて飲み込んだ。
「ただいまー」
台所ではお美輝のお母さんがネギをきざんでいた。
「テストの成績は、どうだったの?」
トントンきざみながら言った。
「うーん」
白い紙がお母さんのほうに近づいてきた。
紙を受け取って点数をみた、国語が65点。
「何よこれ、前より悪いじゃない?しっかり勉強しないからよ、さぁ早く宿題しなさい」
「うーん、やだなぁ」
と言って美輝は紙をひっぱった、そのときお母さんは紙だけが動いてるのに気づいた。
「ウワワーッ、美輝、みきーどこにいるの?どこにー」
紙がすーっと遠ざかっていった。
「おやつがあるわよー」
すると冷蔵庫がひらいた、中からパンの耳を包んだビニールの袋がスーッと出てきた。お母さんは目がとびだしそうになっていた。
牛乳もかってにでてきて、見ているとパンと牛乳がテーブルの上にならんでドンドンへっていった。
「美輝ちゃん、美輝ちゃん?」
お母さんがさけんだ。
「母ちゃんなにー」
お母さんのすぐそばにきていた。
「ウエーーーっ」
お母さんは気を失った。
「かあちゃん、かあちゃんしっかりしてーーっ」
そこへお父さんが帰ってきた。
「おかえり、母ちゃんがー」
「どうしたんだ、おい母さん母さん」
お父さんがゆすぶったらやっと起きあがった。
「父さん・・美輝が、美輝がアワワワ声がするけどいないよー」
「美輝、タオルをぬらして持ってこい!はやくー」
お父さんがあわてている。
「はーい、持ってきたよ」ぬれたタオルがむこうから近づいてきた。
「ギョギョギョー、おばけだー」
「なにものだー」
お父さんはとび上がった。
兄の大貴は6年生、ノートを広げて1+1=2、2+1=3 ひたいに汗がにじんでる。お皿にはおやつのメロンパンが4個ならんでる。ソーッと近づいた美輝はメロンパン1個つかんだ。ついでにもう1個。
「お腹すいたー」
大貴は汗をぬぐってパンに手をのばす。
「エエーッ、4個あったのに2個しかない、えーと4−2=指をかぞえて2だ、まちがいない、ばんざーい、引き算もできるぞー」
1個食べながら喜んでいる。大貴のひたいから大粒の汗がポトポト落ちた。
美輝は面白くない。いつもいばってる兄ちゃんを困らせたい。
足にかみついた。
「イテテーッ、なんだよー」
近くをゴキブリが歩いてる。
「やろう、ぶっころしてやる」
追いかけたが逃げ足がはやい。
今度は、うしろにまわって頭をゴツン。
「イテーッ、やろうっ、なんでー」
振り向いたが誰もいない。もう一つゴツン。
美輝は面白くてしようがない。
「ワハハハー、ハハハーッ」
声だけがひびきわたる。
「ギョギョギョーーー、美輝のおばけだーっ、たたたすけてー」
「美輝ちゃーん、買い物にいってよ」
「あんたはかわいそうに見えなくなったけど私の大切な子供、キュウリとトマト買ってきてね」
お母さんがやさしく言った。
「うん、わかった」
お金を受け取ってそとにでた。
夕方の人通りは多く、犬の散歩をしている人に出会った、「キャイーン」犬の足をふんだ。
「あれっ、どうしたの?」
その人はびっくりしてふりむいた。
「ゴチーン」
むこうから来る人にぶつかった。美輝はころんでしまった、見えないので相手の人がよけてくれない。
店につくまで人をよけて歩くのが大変、ついたときはクタクタに疲れていた。
キュウリとトマトをかごにいれてレジにいくと、レジの人は目をむいて手をふるわせながらおつりをくれた。
帰り道も人をよけながら歩く、またぶつかった、ころんでキュウリとトマトが道にちらばった。あわてて一つ一つひろってると手をふまれ、顔をけられて美輝は傷だらけ。
「うぇーん、うぇーん」
泣きながら帰りついた。
「どうしたの?ありがとう、美輝はなんで見えなくなったのかしら……」
美輝はピンクの玉を思い出した。引き出しから玉をとりだして一つ飲みこんで台所に行った。
「まあー、美輝が美輝が…見える見えるー」
お母さんは涙をポロポロ流しながらしっかりだきしめてくれた。
「もうこりごりだー」
つぶやきながら美輝は手や顔にリバテープをはりつけていた。
〜おしまい〜