朝日俳壇2/28



選者
の〜選句

朝日新聞の毎週月曜日。文芸欄ー俳壇を四選者が担当している。金子兜太・大串 章・長谷川櫂・稲畑汀子の四氏である。
10句を入選とし、そのうち一席、二席、三席の秀逸句に寸評を加えている。
兜太氏のみ寸評に意欲。この意気を見習ってほしい。私は蕉風を追うのみ・・・。

選句=創作でもある。これらから選者の力と俳風も見えてくる。


大串 章・選

@水音を包んで滝の凍てにけり
寸評)「水音を包んで」が巧み。凍滝の崖に沿って、細い水がちょろちょろ流れているのだ。

A鬼やらい時には鬼に憑かれたし  
寸評)平々凡々たる毎日、時には鬼に憑かれてみたいものだ。

B白き馬ホワイトアウトに嘶けり
寸評)雲とも雪原ともつかぬ白一色の世界、白馬の嘶(いなな)きが聞こえる。幻想的な句である。

C洋上の闇に船乗り鬼やらひ

D立春のスカーフ巻けば飛べさうに

E田と畑一枚にして深雪晴

F鯛焼きを食べて娘に諭されぬ

G火の山は火を噴きつづけ春立ちぬ

H鍋蓋のタップダンスや春の音

I歌人より俳人親し西行忌

★10句の中の私の眼

☆B白き馬ホワイトアウトに嘶けり
   〜「白き馬」の斡旋がすばらしい。詩的幻想を誘う。
選者がもっとも蕉風を踏んでいるとみる。私の尊敬する所以である。
  
☆A鬼やらい時には鬼に憑かれたし
   〜生真面目一途では活きづらい。

☆@水音を包んで滝の凍てにけり
   〜叙景に心情を加えなければ、このような句は生まれない。



稲畑汀子・選

@あらためて雪を魔物とながめをり
寸評)二月になっても降り続く雪、雪のために命を落とした人も百人を超えたという。美しい雪景色を魔物とながめる作者の心の推移が想像される。

A雪の朝転ばぬやうに転びけり  
寸評)転ばぬように転んだとはまこと雪道である。思いがけない雪の日本列島の一コマ。

B除雪車を掘り出していゐ山の宿
寸評)山宿の雪の朝の様子である。雪まみれの除雪車を先ず掘り出さねば。

C列島にずしりと雪の重さかな

D一瞬の春の夢なる飛翔かな

E切岸に及ぶ冬耕なりしかな

F薄氷を押せば日輪動き出す

G鶯に誘われてゐる竹箒

H白梅は日を紅梅は影まとふ

I寒晴れといふ一枚の大気かな


★10句の中の私の眼

☆なし
  
  
☆なし
  

☆A雪の朝転ばぬやうに転びけり
   〜雪道を用心して歩くが、転ばぬように歩いて転ぶ。心理を見事に描いた。
選者が「雪」に興味津々であっても、三席すべてを選ぶとは?

金子兜太・選

@甲板に銀河の果てに豆を撒く
寸評)情景新鮮。そして拡がる気持ちの奥に虚しげな影を見る。それも新鮮。

A人はいい人間はいや寒雀
寸評)「人」は生のままの人。「人間」は社会に組み込まれて複雑化した人と受け取る。

B寄鍋や被爆者となり永らえる
寸評)淡々と書いて痛み深し。

C日向ぼこ雪の怖さを知り尽くし
寸評)作者は雪国の人。上五が利いて実感十分。

D山脈てふ気脈や失せじ山眠る

E句に集ふ二月礼者のもてなしに

F鬼やらひ風邪治まりても一人なり

G寒明けの声に振り向く盲導犬

H春立つや根拠はないが運の良し

I二月二十六日の朝雪降るな
寸評)かの二・二六じけんにいまもつよく反発する作者。

★10句の中の私の眼

☆A人はいい人間はいや寒雀
   〜海鼠とかクラゲとか雀でなくてよかったと思うけれど、「人間」として生きる煩雑。
  
☆H春立つや根拠はないが運の良し
   〜特別どうということもないが、なんとかまた春を迎えることができる。「根拠はないが」に敬服。

☆B寄鍋や被爆者となり永らえる
   〜被爆経験者も寿命を迎え年々減少の一途。国の義務としての救済も不十分。「寄鍋」に複雑な余情が漂う。

☆C日向ぼこ雪の怖さを知り尽くし
   〜漁師のように、生活のための除雪は命がけ。死ぬ目の会った人でないとわからない。体が不自由になってやむなくジーッとしてるのかもしれない。

☆@甲板に銀河の果てに豆を撒く
   〜銀河が豆のように散らばっている。「果て」はやや衒い。

長谷川櫂・選

@節分や夢の朝刊配達人
寸評)暁の夢うつつのうちに朝刊を配る音がきこえた。「夢の朝刊配達人」から世界が広がる。明日からは春。

A牙のごとしたたってゐる氷柱かな  
寸評)水をしたたらせている氷柱なのだが。「牙のごと」といえば生々しい。太古のサーベルタイガーの牙ような。

B存へて喉の仏へ春の水
寸評)いつものように水を飲むだけのことも、こう言えば詩になる。

C軽き荷を負ひたるごとき暖かさ

D鮒麿とか浮きに名をつけ春の水

Eへつふつと転げやまざる霰かな

Fいずれ口いずれ肛やら海鼠裂く

G何匹や縺れてをりぬ猫の恋

H葦焼いて近江は煙の国となる

Iランタン祭不老薬搗く春玉兎


★10句の中の私の眼

☆なし
   
  
☆C軽き荷を負ひたるごとき暖かさ
   〜日常体験している心理を見事に一句に立てた。

☆@節分や夢の朝刊配達人
   〜「夢」が常套だが、夢がある。