朝日俳壇2/7



選者
の〜選句

朝日新聞の毎週月曜日。文芸欄ー俳壇を四選者が担当している。金子兜太・大串 章・長谷川櫂・稲畑汀子の四氏である。
10句を入選とし、そのうち一席、二席、三席の秀逸句に寸評を加えている。
選句=創作でもある。これらから選者の力と俳風も見えてくる。


稲畑汀子・選

@皆やがて無口になりて雪を掻く
寸評)今年は雪に難渋している地が多い。雪下ろしをしないと家の戸が開かなくなりそうだ。お互いに声を掛け合いながら雪かきに励むが、やがて皆無口になってしまった。

A蝋梅や一輪に呼び止められて  
寸評)一輪がほころんだだけなのにふと匂った蝋梅。呼び止められたとは妙。

B老残と言はれたくなし雪を掻く
寸評)雪を掻いて元気に励む作者の意地が伝わってくる。

C子を送り届けしスキー列車かな

D屈み見し寒牡丹の香を拾ふ

E飾取り商ひ常に戻りけり

F戎笹大阪弁の渦に買ふ

G太陽のきらめく雪の朝かな

H縁取りといふ葉牡丹の役処

I又今日も外に言葉のなき寒さ


●10句の中の私の眼

☆なし
  

☆D屈み見し寒牡丹の香を拾ふ
   〜豊かな美しさにふと顔を寄せて、また豊かな香りが鼻をつく。

☆A蝋梅や一輪に呼び止められて
   〜「一輪に」などとは先ずあり得ないが、「呼び止められて」で句になった。
   

金子兜太・選

@時喰うも力仕事や寝正月
寸評)今の時機、時間を睨んで仕事を追いかけている事業家のリアルな一句。

A大陸も海もあるらし冬の月
寸評)冬の月下の日本列島を取り巻く大空間が一気に。

B少年は冬の月追ひ職求む
寸評)少年にとっても就職難の当節。闘う姿が見える。

C古稀過ぐも母奔放や去年今年
寸評)「母奔放」が生々しい。この母に息子は頼り切っている。

D浦島の草履のやうな海鼠買ふ

E新玉の地酒の赤城山愛す

F初夢に拉致被害者の還りくる

G外套や津軽の夜の白き道

Hこの土を残すばかりぞ鍬初め

I吾輩は猫ではないが炬燵住み
寸評)下五が旨い。もじりの要領かくの如し。

●10句の中の私の眼

☆@時喰うも力仕事や寝正月
   〜動ける身体で世間並みに寝たり起きたり、テレビのも飽き飽きしてくる。元気な証拠。
  
☆C古稀過ぐも母奔放や去年今年
   〜家庭を子育てをやるだけのことをやってきた。もはや自分自身の生き様を演出してもいい。

☆Hこの土を残すばかりぞ鍬初め
   〜汗が実らない田畑でも、祖先が営々と守り抜いてきた貴重な財産。

長谷川櫂・選

@玉子酒やるべき時はやる男
寸評)実は頼もしい男なのだが、いつもは玉子酒でもなめて養生しているような人物。「昼あんどん」というべきか。

A別人のごとき妻の句初句会  
寸評)句会の句に、まだ知らぬ妻の一面にはたと気付く。知り尽くしているようで案外知らないのが夫婦。だから面白い。

Bまだ遊びたき連凧を降ろしけり
寸評)名残惜しげに引きおろされる凧。作者の気持ちもまた。

C新年や宇宙にも人仕事せり

D吾輩は猫ではないが炬燵住み

Eお七夜のふたご見に来よ寒すずめ

F餅を焼く一つが灰にまみれけり

G友老いて今年限りと言ふ賀状

H冬帽子海の底より父の声

I春を待ち入選を待つ心かな


●10句の中の私の眼

☆@玉子酒やるべき時はやる男
   〜日常は軟弱な風体であるが、大事な事態には臆せず力を発揮する。人は見掛けによらない。
  
☆H冬帽子海の底より父の声
   〜切迫感と臨場感。

☆なし
   

大串 章・選

@雪降るや日はまぼろしの月と成り
寸評)降り続く雪の中、太陽がぼんやりと霞んでいる。いや、もしかするとあれは夕月かもしれない。「まぼろしの月」が言い得て妙。

A眠らざる街を抱きて山眠る  
寸評)冬山の麓に街がかがやいている。「眠らざる街」を抱いて山が眠っている、といったところが面白い。

B白猫が雪の中ゆく使徒のごと
寸評)白い雪の中を白い猫がゆく。「使徒のごと」が清浄感を示してみごと。

C坂のぼり行きて春待つ風の中

D左義長や蒔絵のごとき闇の生れ

E雪降って昨日の怒り忘れたり

F夜鷹蕎麦街の灯しを消しながら

G大根のごとき氷柱となりにけり

H一月の光の中の新芽かな

I地吹雪へ言葉探しに行ったきり


●10句の中の私の眼

☆I地吹雪へ言葉探しに行ったきり
   〜俳句へのただならぬ情熱。「行ったきり」帰ってこないインパクト。
  
☆@雪降るや日はまぼろしの月と成り
   〜大雪ではなく粉雪の空。「まぼろしの月」への置換で詩になった。

☆B白猫が雪の中ゆく使徒のごと
   〜白猫を「使徒」への直喩の発想。