朝日俳壇3/28



選者
の〜選句

朝日新聞の毎週月曜日。文芸欄ー俳壇を四選者が担当している。金子兜太・大串 章・長谷川櫂・稲畑汀子の四氏である。
10句を入選とし、そのうち一席、二席、三席の秀逸句に寸評を加えている。
選句=創作でもある。これらから選者の力と俳風も見えてくる。


長谷川櫂・選

@干し蛸を春一番がもてあそぶ
寸評)干し蛸が春一番に吹きまくられて、小躍りしている。その姿おもしろし。明石の人のよむ明石の蛸の句。
・平凡

A春風やねむる子猫のひげの先  
寸評)一転して、こちらは春のそよ風。すやすやと眠る子猫のヒゲをかすかに揺らしている。作者の視線もこまやか。

B春寒や捨てられたるを知らぬ犬
寸評)さらに一転して、あわれな犬。わが身に起きたことをまだわかっていない。
・犬は状況を十分知っている。東北地震のあとの犬も飼い主を捜している筈である。

C三月十日花嫁衣装燃えにけり

D慟哭といふも楽しき涅槃絵図
・楽しい、気持ちが不可解。

E春の潮軍艦鳥を洗ひけり
・めったに見られない軍艦鳥、普遍性がない。作り立てた一句だが表現はいい。

Fこの沢の一番奥の春子かな

G洗濯機大修理して春の水
・平凡

H恋の猫いつも隣が恋敵
・類句

I朝食は俺が作ると寒卵
・平凡


★10句の中の私の眼

☆なし
   
  
☆なし
   

☆A春風やねむる子猫のひげの先
   〜繊細な観察眼だがやや付いてる感じ。「春寒や〜」とすれば・・・。


大串 章・選

@雛しまふ時の流れに身をまかせ
寸評)ひな祭りが近づくと雛人形を飾り、終わるとしまう。中七以下のリズムが一句の内容にふさわしい。

A白魚の水脱ぐやうにはからるる
寸評)白魚の入った網を秤にかけて量る。雫が零れる。「水脱ぐやうに」が言い得て妙である。

B苗木市金のなる木に値札あり
寸評)「金のなる木」とは面白い名前だが、その木に「値札」がかかっているというのが一層面白い。

C合格や空の青さに気づきたる
・平凡

D卒業の子と入賞の母と酌む
・平凡

E山怒る灰に埋もれし菠薐草

F万愚節投石いまも武器となり
・敢えて中東各国の民主化運動を想起するが、やはり曖昧。

G雛の瞳を背にして襖閉めにけり
・ややなんとも。

H妻と子の病みたる春の寒さかな
・平凡

I春暁やビル立ち並ぶ海の上
海の彼方の半島のビル群をながめた。「海の上」に浮かんでいるようだ。

★10句の中の私の眼

☆@雛しまふ時の流れに身をまかせ
   〜雛を早く仕舞わないと嫁入りが遅れる、と信じきってはいないが仕舞うときには、やはりとらわれている母親がある。
  
☆B苗木市金のなる木に値札あり
   〜滑稽句。「〜木の値は高き」とすれば、なお面白い。

☆A白魚の水脱ぐやうにはからるる
   〜「水脱ぐやうに」で詩になった。

稲畑汀子・選

@雪靴をまたもはかねばならぬかな
寸評)春めいてきたと思ったらまた雪に降られて難渋する雪国。雪靴を仕舞いかけたが、また出してきて履かねばならぬ。なかなか本格的な春になってくれないつぶやき。
・平凡

A白魚の水脱ぐやうにはかられる
寸評)白魚の漁がはじまった。水に透き通る小さな魚を量るのを、まるで水を脱ぐように見る感性。

B北山を隠す霞の日は呆け
寸評)霞の奥の北山の位置と太陽の姿。
・平凡な写生。

C野遊びの心に訪ひし島二つ
・駄句

D酒蔵の昏き中なるひな飾り
・駄句

Eまかり出づ蕗のたうみな濡れていし
・平凡

F子規の恋語りつ妻と桜餅
・平凡

Gきらきらと大地に還りゆく氷柱
・平凡

H岩場さへ飛び越えてゆく山火かな
・平凡

I治聾酒に一縷の望みかけもして
・平凡

★10句の中の私の眼

☆なし
   
  
☆なし
   

☆A白魚の水脱ぐやうにはからるる
   〜量る容器に入れるときの光景。「水脱ぐように」の表現が手柄。

金子兜太・選

@バックミラーにある棚田
寸評)新鮮の一語に尽きる。バックミラーに映る棚田の土の香が、早春のひかりとともに伝わる。 
・新鮮とはいえ「定型」を外れて、俳句とは認めがたい。自由律志向の選者らしい。

A花開くように炬燵で寝る家族
寸評)ささやかで明るい家族。喩えが旨い。
・平凡

B青饅(あおぬた)と老春といふものを生く
寸評)季語の「青饅」を十分に活用した。

C星をのせ月どんぶらこ耕せり
寸評)春耕の句。耕して夕暮れにいたり、空に月と星。「どんぶらこ」とはこころ憎い。 

D仄青き街を浮かべる海市かな
・蜃気楼とは、全くの想像句。

Eふるさとは鹿追う犬の声ばかり
・平凡

F所在なく路上の手袋濡れしまま
・平凡

Gもてなしのうぐひす餅に緊張す
・平凡

Hひなまつりいちごに群れし聖女かな
・娘たちはみんな確かに「聖女」。

Iアネモネやもはや退屈人気歌手
寸評)「アネモネ」がじつに働く。



★10句の中の私の眼

☆C星をのせ月どんぶらこ耕せり
   〜暗くなるまで畑仕事。星を乗せた月を「どんぶらこ」と風流にながめた余裕にも平伏。
  
☆B青饅(あおぬた)と老春といふものを生く
   〜70才を超えても色気は人並み。青饅を噛む歯はボロボロでも・・・。

☆Iアネモネやもはや退屈人気歌手
   〜アイドル歌手としてデビューしても入れ替わりが早い。そういえば最近は演出のみで、実力派のアイドルが生まれない。