朝日俳壇5/2



選者
の〜選句

朝日新聞の毎週月曜日。文芸欄ー俳壇を四選者が担当している。金子兜太・大串 章・長谷川櫂・稲畑汀子の四氏である。
10句を入選とし、そのうち一席、二席、三席の秀逸句に寸評を加えている。
選句=創作でもある。これらから選者の力と俳風も見えてくる。


大串 章・選

@少年の日の世界地図夕桜
寸評)世界地図を見ながら夢を膨らませた少年時代。夕桜が往時を偲ばせる。

A一日の空のはじまりつばくらめ
寸評)朝空を燕が勢いよく飛ぶ。さあ今日が始まるぞ、という感じ。

B母一人菜の花色の灯を守る
寸評)「菜の花色」が懐かしい。母への感謝の気持ちもこもる。

C揺れやみし畳に跳ぬる金魚かな

D福島に初音や耳を疑ひぬ

E花人になりきつてゐる独りかな

F葱坊主子らのみ通り抜けて行く
・平凡

Gとこしへの日本を思ふ桜かな
・平凡

H花筏言問橋をくぐりけり

I桜咲く初めて咲ける木もありて


★10句の中の私の眼

☆@少年の日の世界地図夕桜
   〜大志を抱いた時期もあった。回想であるので「夕桜」→「春の宵」のほうが味が深まる。
  
☆A一日の空のはじまりつばくらめ
   〜空を旋回する燕。「空」が巧み。

☆B母一人菜の花色の灯を守る
   〜苦楽の生活の灯を母がすべて灯し続けてきた。感謝の意が籠もる。


稲畑汀子・選

@さくら掃く不粋な人のをりにけり
寸評)桜の季節の推移の中で、落花の風情を楽しみ、散り敷いた花屑の美しさを見た。それを掃いてしまうとはなんと不粋。
・やはり桜は咲いた情景が華。散る風情は一興あるが、散り敷いた花屑や蘂などは美しくはない。

Aゆつくりと湾を出でゆく花の塵
寸評)散った桜が湾へ流れつつただよう情景の妙。
・月並み。

B花便りたとひ大地は揺るるとも
寸評)地震の地へせめて届けたい花便り。
・生き死にの被災地の事情を思えばそのような余地はない。実感を伴わない一句。

C風に乗りきれず初蝶黄を乱す
・平凡

D花冷や万蕾の息ひそめをり
・平凡

E父植ゑし卒園桜五十年
・平凡

F春愁と言ふ気怠さでありにけり
・平凡

G春暁や伸びして欠伸して生きて
・駄句

H分別のいづれ可なりや紫木連
・駄句

I春寒や人智及ばぬことあまた
・平凡

★10句の中の私の眼

☆なし
   
  
☆なし
   

☆なし

金子兜太・選

@ゆるされよ甲斐路に花の咲き満ちし
寸評)この大震災のときに、の心情だが、満開の花の美しさも十分に伝わる。

A笑わない山ばかりなり陸奥は
寸評)軽妙に哀しく。

B避難所の老母と遊べや雀の子
寸評)一茶句の本歌取り嬉し。

C花透くも日日穢い満ちて行く我ぞ
寸評)「透く」「満ち」の対応旨し。

D春耕は尿奔出の牛思ひ

E雛納めはつと男の手が見えて

F耕せる胃の腑にほつと日の射せり

G夫惚け抱きしめてゐて暖かし

H卒然と風にさらはれ紙風船

I原子力止めよ変色する穀雨
寸評)後半の喩え方、個性的。


★10句の中の私の眼

☆@ゆるされよ甲斐路に花の咲き満ちし
   〜被災地への痛切な思いやり。
  
☆A笑わない山ばかりなり陸奥は
   〜「山笑う」の反語の妙。これも隣県の人の思いやり。

☆B避難所の老母と遊べや雀の子
   〜「我ときて遊べや親のない雀・・一茶」を踏まえた一句。遠く離れた県外から母親を思う気持ち。

長谷川櫂・選

@福島の空こそ泳げ鯉のぼり
寸評)いつもは当たり前のことだが、いまではかなわぬ願いとなってしまった。原発周辺では。

Aいかなごや疾く受難せり小さきゆゑ
寸評)小さいゆえのあわれ。放射能汚染はやがて大魚にも及ぶ。
・小さい者に限らない。牛乳もその他調べてない生き物が数多。

B政権や鶏がらのごと春にあり
寸評)鶏がらなら、出汁くらいはとれるのだけれど。

C新しき茶の香り立つ一軒家
・平凡

D花吹雪翼広げて舞ふ如し
・平凡

E亡国の原発事故や花八分
・駄句

F惜春とはとても言へなくなりにけり
・平板

G村一つ花の帳隠れけり
・被災地は村一つではない。

H空也上人いつも春泥杖につけ
・平凡

I節電の噴水とまる花の雲
・平凡

★10句の中の私の眼

☆@福島の空こそ泳げ鯉のぼり
   〜
  
☆B政権や鶏がらのごと春にあり
   〜理屈っぽい。直喩の「鶏がらのごと春にあり」→隠喩「春鶏がらとなりにけり」とすべきところ。

☆なし