朝日俳壇6/6



選者
の〜選句

朝日新聞の毎週月曜日。文芸欄ー俳壇を四選者が担当している。金子兜太・大串 章・長谷川櫂・稲畑汀子の四氏である。
10句を入選とし、そのうち一席、二席、三席の秀逸句に寸評を加えている。
選句=創作でもある。これらから選者の力と俳風も見えてくる。


稲畑汀子・選

@二個三個落ちて実梅も漬けごろに
寸評)花が終わって実った梅。なかの数個が自然に落ち、熟し加減が漬け頃と知っている経験。
・二個三個は梅焼酎。梅干しの漬け頃までには惜しむほど落ちる。

A黄砂積む牛拭かれつつられけり
寸評)黄砂に汚れた牛をに出すために拭いてやる手間。情が籠められた。

Bファンファーレより薫風の吹き渡る
寸評)初夏の心地よい薫風に誘われる。
・説明調かつ平凡。

C別れても思い出せぬ名花

D引力が浮力に勝り竹落葉

E神域の昏さを見せず若楓

F山越ゆる度に色濃き桐の花

G蚕豆やさやにやさしきしとね持ち

H湖に溶けたる若葉明りかな

I水鶏啼き古刹の池の深閑と


★10句の中の私の眼

☆なし
   
  
☆なし
   

☆黄砂積む牛拭かれつつられけり
   〜黄砂積まなくても主は売り渡すまで、牛の体を撫でさする。

金子兜太・選

@この年は五月と言ふも荒々し
寸評)今は分かるが、前書きを付けておく方がよい。「荒々し」が鋭い実感。
・年古れば鑑賞できない。「前書き」を付けずに表現=三陸は五月といふも荒々し

A新月はしづかなる耳朴ひらく
寸評)春の新月と開いたばかりの朴の花との照応優美。

B蛙とびこむまづしきもののまづしき音
寸評)この感応、いかにも個性的。

C代田満つわれらが地球水の星

Dジパングは我住む国ぞ麦の秋

E田植機の上は次男の日曜日

F白南風や双子のためにある乳房

G石を積むひとり遊びに夏落葉

H蚯蚓出て降下部隊の烏かな

I人は山に熊は黒々と下りてくる
寸評)人と熊との新鮮な共存感。
・助詞「と」が余分に見える。


★10句の中の私の眼

☆新月はしづかなる耳朴ひらく
   〜幻想を誘う「耳」。
  
☆蛙とびこむまづしきもののまづしき音
   〜蛙を擬人化。まづしき音(ね)色が哀しい感じ。諧謔の効いた一句。

☆代田満つわれらが地球水の星
   〜代田から水の星への広がり。

長谷川櫂・選

@打水や水の神呼ぶ風の神
寸評)水を打てば涼風が起こる。それをこういって、がぜんおもしろくなった。
・句意は、「風の神が水の神を呼ぶ」と言っている。

A原発のさつきの闇にぬつと月
寸評)五月闇梅雨どきのぬばたまの間。「ぬつと」がいい。
・平凡。響き合いの謂いが薄弱。

B諳んずる金芝河(キムジハ)の詩や青嵐
寸評)金芝河は団塊世代に一時もてはやされた韓国の詩人。
・説明句。

C節電の一言あつて更衣

D五月には五月の風の吹く日本

E更衣ジャンボ機軽くなりにけり

Fめまとひに好かるる覚えなけれども

Gひんやりと花の手ざはり白芍薬

H草原を走りをるかに夏燕

I青嵐仁者に徹し寿(いのちなが)


★10句の中の私の眼

☆なし
   
  
☆なし
   

☆なし
   



大串 章・選

@自分史の骨格素描明易し
寸評)夏の一夜をかけて、自分史の粗筋を書き上げた。肉付けの中で新しい自分を発見する。

A緑陰に喫煙男子林立す
寸評)最近は喫煙室のない事業所も多い。緑陰に煙草好きが集まる。

B青鷺の集中力をまのあたり
寸評)青鷺も作者も真剣。「まのあたり」に迫力あり。

C満月の赤くゆがみて植田かな

Dハイウエーの音を間近に滴れり

E道をしへ生まれ変はつて道祖神

F湿原にうぐいすの声つきささる

Gつばくらめ一直線といふ挫折

H端居では聞けぬ話となりにけり

I明るさを失わぬ老い更衣


★10句の中の私の眼

☆自分史の骨格素描明易し
   〜素描であっても記憶をたどるには日数がかかる。「骨格素描」のリズム。
  
☆つばくらめ一直線といふ挫折
   〜擬人化もできる含蓄。

☆端居では聞けぬ話となりにけり
   〜いったいどんな話になったのか興味を誘う。諧謔も豊か。