ヴェルディの魅力

 ヴェルディは頑固一徹オペラ職人!!

 徹底した劇場人で、優秀な脚本家と共に、大衆のために数々のオペラを提供した、プロフェッショナルなオペラ作家。

 世界でもっとも上演回数が多いと思われる、ヴェルディのオペラの特徴を、ここでは解説していきます。


 ヴェルディは伝統的なイタリアオペラとその劇場の舞台に乗っ取った音楽を書きました。

 ワーグナーは自らの哲学や文学論の表現のため、いつ上演されるかもわからないテキストを書き続けましたが、ヴェルディは劇場から与えられたテキストにこつこつ作曲をし、意見の食い違いに議論を交わしながら、上演するよう進めていったのです。

 『劇と音楽の合一』を目指しながら、ヴェルディの扱ったのは神話や伝説とは無縁な、終始現実的な“人間”のドラマでした。




 特徴1

 ヴェルディの生きた当時のヨーロッパは動乱の渦中でした。オーストリアの圧政下にあったイタリア独立運動の最中に生きただけに、ヴェルディの作品は愛国的情熱の産物であり、それが祖国の独立を呼ぶ人々に迎えられたのです。
 そして、【ナブッコ】の『行け、我が想いよ黄金の翼に乗って』という、ヘブライ人が祖国を懐かしむ合唱曲は、イタリア統一のシンボルとなったのでした。

 ヴェルディのオペラの大部分が男性を中心に展開するのは、そういう時代背景があってのことでしょう。彼の劇的中心人物はバリトンで、二枚目なテノールを避けて、表現の幅広と激情性に富み、力強い表現を求めました。




 特徴2

 ヴェルディの用いたソプラノは様々な多様性を持っています。

 レオノーラ
(運命の力)のようなコロラトゥーラ技巧を要求する役、
 ヴィオレッタ
(椿姫)、ジルダ(リゴレット)のようなリリコ
 アイーダ
(同)やデズデモナ(オテロ)ドラマティコなリリコ・スピント

 など、広範囲な役柄が多いです。
 これらの役はすべて宿命に翻弄される女性の立場の弱さと、それに耐えようとする熱情と強い意志を表現しているようで、ヴェルディの女性観ともいえましょう。




 特徴3

 作曲上の特徴としては、アンサンブルが重視されています。従来のイタリアオペラの和音を充填するだけに過ぎないものから、ヴェルディは個々の性格を強く主張させながら、独自の手法で発展させました。
 ヴェルディの音楽は力強く簡潔で、その簡潔さを支えているのが、和声の技法と、響きの研究と、美しい旋律です。

 この著名な例は【リゴレット】の第三幕の四重唱でしょう。




 特徴4

 管弦楽の処理についてですが、単なる旋律に付随するものではなく、劇的進行と密接な関係を保っています。
 また、歌手に自然に音を認識させるよう、書かれている点も、オペラ作曲上、重要な点です。




 特徴5

 彼のオペラの声部の扱いは、最大限にその効果を発揮するよう作曲されています。
 例えば、主役が登場直後において、聴衆に強い印象を与えるように、もっとも効果的な音域で書かれていることも、【声】を知りつくした計算のなせる技でしょう。

 でも歌手はやりがいありそで、つらいかも…?




 特徴6

 ヴェルディはオペラの構成の問題と演技に注意し、音楽と演技の密接な関係を総譜に記しています。それは【演出上の覚え書き】としても書かれていますが、総譜を細かく検討すれば、当然、役の配置や動作なども推察できるようになっています。

 そのため、常に舞台経験豊かなピアーヴェなどの脚色を仰いでいて、決して原作のままオペラ化をしていません。




 特徴7

 ヴェルディのオペラの主役達は、社会からはみ出された、せむしの道化師
(リゴレット)、そそのかされたり軽蔑されたインディオ(アルツィラ)、娼婦(椿姫)だったり、公にされなかったり、損ばかりしている役柄が多く登場しています。
 こうした人々は当時の芝居やオペラには、登場し得ない主役でしたが、ヴェルディは彼らに対して強い連帯感を持ち、『人間の尊厳』を描いたのでした。




 その他

 後年、ヴェルディは古くからの番号オペラによる構成を捨て、ワーグナーのような通作書法をとるようになります。
 ヴェルディはよくワーグナーの影響を受けているようにいわれますが、それはワーグナーの理論と美学を模倣するものではありません。

 彼はワーグナーの理論書や論文を入手し、自分なりに研究し、その結果、自分のイタリア的なものと相容れないものであるであることを認識したのです。
 ヴェルディにとって、イタリアは声楽の国、ドイツは器楽の国であったようです。彼の音楽はいかなるときも輝かしい『歌』を忘れてはならず、それは彼のイタリアの音楽家たる誇りと、その伝統を継承することを意味したのです。




Giuseppe Verdi

 本当はヴェルディのオペラの特徴を語る必要などないのかもしれません。

 ヴェルディは【アイーダ】がワーグナーの影響にある、と評論された時、こう語ったそうです。

『聴衆は音楽が何風に書かれているかなどと惑わされてはならない。オペラは良ければ拍手、ダメならブー、それだけだ。音楽にはイタリア風も、ドイツ風も、トルコ風もない。あるのは、ただ音楽だけだ』

 彼は徹頭徹尾、プロのオペラ作曲家であり、聴衆に音楽を提供し続けたのです。

 彼の人生は誠実で堅実です。貧困の末、妻子を亡くしながらも悲しみに耐え、農園を管理しながら自らを『低地(バッサ)の農民』と称し、その後生涯の伴侶となったジュゼッピーナと共に、つつましやかな生活の中で後期の作品を生み出しています。

 最晩年のヴェルディが生涯最高の作品としたのは『音楽家のための憩いの家』で、その音楽家の為の“老人ホーム”は今も引退した音楽家達が静かな生活をおくっています。

 それで私は思うのです。ヴェルディは頑固一徹オペラ職人!
 何も難しく考える必要はありません、ヴェルディのオペラを観よう!そこには、運命に翻弄されながら、健気に生き様とする主人公達が、舞台の上で力強く歌っています。彼の音楽は没後百年経った今も色褪せることなく、鮮やかに人間のドラマを描いているのです。



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