ワーグナーの魔力

 ワーグナーの音楽は麻薬だ…。

『ワーグナー物の虜になると他のオペラが退屈で聴けない』

 と、語るワグネリアン。何故、そのような魅惑に満ちた音楽なのか?!

 ここでは、そのワーグナーの音楽について、ちょっと解説していきます。


 ワーグナーはドイツ国民オペラの流れを引き継ぎ、更に革新、発展させ、『楽劇』を作り出しました。
 音楽史上、ドイツオペラを世界的優位に立たせた人であります。
 (オペラはイタリアが本場だったわけだし)

 さて、それまでのドイツオペラが、どれもセリフ入りでジングシュピールの要素を留めていたのに対して、ワーグナーは【リエンチ】以降、その要素を捨て、それまでの番号オペラの形式から脱し、新しく指導動機、シュプレヒゲザング、無限旋律などの手法を使い、台本の戯曲性強化をし、オペラ(歌劇)を『楽劇』にしたのです。

 それでは、ワーグナーが用いた新しい手法を個々に解説していきたいと思います。


 


T 指導動機(ライトモティーフ)
      ライトモティーフ〔Leitmotiv(独) leading motive(英)〕
         指導動機、示導動機、誘導動機などと訳されます。
例.ベートーヴェン
第五交響曲
【運命】の動機




 ぽちっと押してみよう!
 これが「動機」だ!!
そもそも動機というのは、

「それ自体で、ある表現性を知覚させる最小の音楽単位たる旋律断片、あるいは音形という。通常主題の中に含まれる」

 と、いうものなんですが、要するに一番小さい「意味」を持つ旋律といったところでしょうか。
 指導動機とは、ワーグナーの基本的な作曲技法で、ある人物、場面、想念などを表わす「動機」をいいます。しかし、指導動機はそのままではなく、その場面場面に応じて、リズムや音程が自由に変形します。

 「愛の動機」とか、「ヴァルキューレの動機」とか、「指輪の動機」とか様々ですね。

 この指導動機の手法はモーツァルトの【ドン・ジョバンニ】などにも見られますが、首尾一貫して用いたのは、ワーグナーが最初です。





U 無限旋律、シュプレヒゲサング

 無限旋律という語は、ワーグナーは著書『未来の芸術』で用いた言葉。

 それまでの伝統的なイタリアオペラは、アリア、二重唱、合唱、などとそれらをつなぐレチタティーヴォなどから構成されていて、それらにはすべて歌劇の最初から番号がつけられていました。

この形式を『番号オペラ』といいます。


 この形式だと、個々の音楽が分離してしまうと感じたワーグナーは、無限旋律シュプレヒゲザング
(Sprechgesang 歌と語りの両方の性格を持つ声楽演奏の一種)などによって、オペラ全体を一つの大きな曲 としたのです。

 無限旋律と彼が名付けた様式は、音の流れがどこまでも流動し、発展していく形で、織物の糸が次々に絡まって行くように、旋律は休みなく成長し、溶け合って行くものです。
 そして、主和音による終止をできるだけさけます。
 これもオペラ全体を一つの戯曲にまとめるという主張によるもので、劇が終わらない限り、音楽だけが終わることはない、というものです。

 つまり、場面が転換しても、終幕にならない限り、音楽は延々と続くという…。くらくら。




V 前奏曲の採用

 ワーグナーは【ローエングリン】から、それまでの序曲形式から前奏曲を採用します。

 イタリア式あるいはフランス式の序曲は、オペラ全体と比較すると重要な意味を持ち過ぎると考えたワーグナーは、もっと簡潔で内容的意味の明瞭な前奏曲を用いたのだと考えられています。

 しかし、そのワーグナーの前奏曲は、意味はともかく演奏時間は結構長い…、と思う。




W その他

(テキスト)

 ワーグナーは自らオペラの脚本を書いています。
 従来の近代オペラがほとんどすべて脚韻の詩によっていたのに対し、これでは言葉自身のメロディと音楽とが不自然であるとして、ワーグナーは【トリスタンとイゾルデ】で頭韻と脚韻の両方を使って新しい表現を目指しました。

 この辺りは、自ら脚本を書いたワーグナーだからこそ出来ること。しかし、ドイツ語を解せない人にはさっぱり分からないっす。


和音

 ワーグナーの曲は、半音階とエンハーモニック
(十二平均律上、同音になるもの。異名同音)のおびただしい使用がされていて、これは無限旋律の特性と密接な関係があります。

 その和音の表現能力は徹底的に追求され、調性の崩壊ぎりぎりまで発展しています。これは現代音楽の無調性音楽の到来を導いたといわれています。

 【トリスタンとイゾルデ】前奏曲で使われている「トリスタン和音」と呼ばれるものが有名です。




Richard Wagner

 ホントかどうかは知りませんが、世にある文献のうち、最も多いのがゲーテ、次がワーグナーなのだそうです。

 ワーグナーは自らの楽劇だけを上演するバイロイト祝祭劇場を造り、そこを『寺院』として、自身を『司祭』にしようとしていました。そして、集まる王侯貴族達は『信者』、上演される作品は『神聖な儀式』。

 こんな不遜なことを考え、実際に実行した人はなかなかいません。

 最初、ワーグナーはライン河畔のどこかに劇場を建て、たった一回だけ入場無料で上演を行い、その後劇場を燃やしてしまうことを考えていたようです。
 ワーグナーの援助をしていたルートヴィヒU世も自ら建築したノイシュヴァンシュタイン城を、自分の死後爆破するように命じていたそうだけれども、類は共を呼ぶといううか、両者共、尋常じゃないです。
 なんていうか人並みはずれてロマンチック。

 彼の音楽の普遍的なテーマは、愛の(もしくは死による)救済…題材は歴史的なものではなく、象徴的なものを表現するため神話世界です。
 神話世界は単純にカッコイイのですが、さて、愛による魂の救済、となると、ハテ…??
 ワーグナーの描く『愛』は壮大でちょっとめまいがしそうです。

 ワーグナーはヴェルディを徹底的に無視しました。ヴェルディの【レクイエム】も聴いているハズですが、なんのコメントも残していません。同じ時代に生まれ、お互い前人未到の域に達したにも関わらず、二人は出会うことがありませんでした。
 少々不自然さを感じるのですが、これは彼の性格であり、意識してのことだったのかもしれません。

 それにしても、あのワーグナーの壮大な音の奔流。周囲を省みず自らの芸術をひたすら体現しようとしたワーグナーだからこそ生み出した、前人未到の音楽なのでしょう。



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