甲斐駒ヶ岳/Aフランケ/赤蜘蛛ルート(2000.8.5〜6)メンバー:島田(霧峰山岳会)、原(ARIアルパインクラブ)

 二年前の夏に有持さんと入ったAフランケに、また行くこととなった。二年前はコルデ=エスカラット・ルートの隣をネイリング混じりでラインを引いたが、ハンギングビバークの最中に雨に降られ退散した。その時、初めて見たAフランケに惹かれ、最もポピュラーな赤蜘蛛を、まずトレースしたいと思っていた。今回、アニマル島田さんが狙っているということで、是非僕と!と手を挙げ、ザイルを組んでもらうことにした。

<仙水峠のアニマルさん>
 8月5日(土)晴れ〜雨

 原が休みを取れず、土日の二日間での挑戦となったため、広河原、北沢峠経由で甲斐駒にアプローチすることにした。これだと広河原でぐっすり眠れるし、黒戸尾根を登るより体力の消耗は大幅に避けられる。
 広河原からの一番バスは6:50であるが、6:00過ぎから鬼のように長い列を作り始めたトップシーズンの登山者軍団を見て芦安村もおののいたか(?)、6:30に出発が繰り上げられた。おかげで北沢峠に7:00前に到着。綺麗なトイレで(もちろん紙付き)用をたし、準備をして出発。八丈沢やAフランケ基部の滲みだしはあてにならないので、仙水小屋で二日分の水(3リットルづつ)を汲む。仙水峠から駒津峰への急登にあえぎ、しかし鮮やかな夏山を堪能しつつ甲斐駒の頂上に11:00に到着。休憩をはさみ、黒戸尾根を八合目まで下る。八合目に12:00前後。
 ここまでの水の消費量が思ったより少ないので、八合目に500mlの水をデポし、Aフランケへと下る。二年前にアプローチしているので大丈夫だと思ったが、Aフランケの頭の岩小屋手前の八丈沢への分岐を見過ごし、岩小屋へと踏み後を辿ってしまった。すぐに気付いたので、正規ルートへと戻す。二年前に比べ、マーキングがやたら増えていた。これなら迷わずにアプローチできる。
 結局、八合目から約一時間でAフランケ基部へ。赤蜘蛛の取り付きで準備をしていると雨が降り出す。ちょっと迷うが、アニマル氏も僕も停滞する気など毛頭なく(もちろん敗退する気などさらさらなかった)、そそくさと取り付く。明日は晴れるし、大テラスまでならどうとでもなるわ!ってなもんだった。14:00前に登攀開始。

<1ピッチ目をリードする原>
 1ピッチ目、原リード。出だしだけハングで、2ピン目がなんだか遠いので最上段で巻き込み。その後は単調なアブミの掛け替え。取り付きからは1ピッチ目終了点とテラスが見える。
 2ピッチ目、アニマルさんリード。テラスから見えるディエードルの入口はフレークが豊富でせいぜいV級にしか見えないが、回り込んだところから見事なコーナー・クラックが上まで続いている。乾いている時なら快適にレイバックが決まるのだろうが、雨の中、濡れ濡れの壁に足を突っ張る事はできず、原はフットジャムを中心にスタンスを決める。おかげで地獄のように足が痛かった。45m位延ばし、支点とも言えないクラックラインの途中でカム×3+ハーケン1を使って切る。
 3ピッチ目、原リード。コーナー・クラックからフェースのボルトラダーに移り、単調なアブミの掛け替え。V字ハングの手前まで、25m位延ばしてコール。終了点はしっかりしたリングボルト。
 4ピッチ目、アニマルさんリード。V字ハングを左から回り込むように乗越す。乗越す手前でワンポイントフリー。V字ハングは越えたところにピンがなく、最初はアニマル氏もフリーで越えようとしていたが断念。ハングを越すと、あとはV程度のフリーで大テラスへ。大テラスは支点も幾つかあるし、しっかりした立木もあるのでアンカーには事欠かない。このピッチを登りはじめたころから雷がゴロゴロと鳴り始めた。
 大テラスは八丈沢側に完全に平らなスペースがあり、二人は横になれる。ここにザイルを渡してツェルトを張り、ビバーク。
 今回はスピードで抜けなければならないので、徹底的に軽量化を図った。よって、完全オープンビバーク装備であり、火のものも無ければ、マットやシュラフもない。防寒は雨具と冬季用下着一枚。行動食程度の食事をし、水を飲んで横になった。途端、原は熟睡。日没後に雨が激しくなり、ツェルトをばしゃばしゃとたたく音は記憶があるのだが、ピカピカ激しく光を放っていた雷には全く気付かなかった。アニマルさんは雷がこっちにこないかと気を揉んでいたらしい。でも、雷は落ちなかった。

8月6日(日)晴れ(ガス多し)

 3時に起きて、4時に出発!と言っていたのだが、なぜか起きると5時を回っていた。すっかり明るくなった空に慌て、軽く食事をし、ツェルトをたたむ。北沢峠から広河原までの最終バスは15:10で、これに乗り遅れると3時間の林道歩きとなるため、死ぬ。ちょっと焦り、6時過ぎに登攀開始。

<恐竜カンテを乗越す。アニマルさん。>
 5ピッチ目〜6ピッチ目、原リード。大テラスからディエードル様に入っていくラインが赤蜘蛛。トポでは5ピッチ目が40mとなっているが、20mも延ばすと支点が現れる。今回はこれを飛ばし、もう1ピッチ、トポで言う6ピッチ目まで延ばした。全部で60mくらい。ちょっと手品をする必要がある(ね、アニマルさん!)。トポで言う6ピッチ目は見事な垂壁に走ったリス沿いを、恐竜カンテを目指し人工で行く。途中、ピンが飛んでいる箇所はカムを使う。とはいえ、最上段orリストループに乗ると届くピンがほとんどだったので、手の長い原は結局2箇所だけしかカムを使わなかった。また、リングが飛びそうなボルトがあり、ここはタイオフ(フクタケの記録にもあった!)。でも、全体的に、例えば衝立/ミヤマとは比べものにならないくらいピンの状態は良い。途中で四本ハーケンが打たれている箇所があり、支点に出来そうであったがシュリンゲもかかっていないのでその上の正規の支点まで延ばす。支点はしっかりしたリングボルトが三本。これならハンギング・ビレイも怖くない。
 7ピッチ目、アニマルさんリード。3回アブミを掛け替えると恐竜カンテを乗越す。高くなりはじめた太陽がとても眩しかった。遠目のピンも、手長サルの原は二段目で届いた。後はひたすらアブミを掛け替え、立木のあるテラスまで。30mでコール。
 8ピッチ目、原リード。傾斜が一気に落ち、露岩を縫うようにして進む。ピンも豊富で簡単。ルー・ファイにもさほど苦労はしない。素直に進めばよい。広いテラスの大きな木までのばし、コール。35mくらい。ここから先は踏跡みたいなのがのびている。
 9ピッチ目、アニマルさんリードでコンテ。草付きを踏跡っぽいトレースに導かれて進む。所々露岩があるが、40m程延ばしたところでアニマルさんから「コンテ!」とコールがかかる。ひたすらトレースに導かれると、ポンっとAフランケ頭の岩小屋に出る。ここで登攀はおしまい。岩小屋には同志会のデポがあった。9:35。これならバスには間に合いそうだ。

 やあやあと言いつつ、握手。軽く行動食を食べ、ギアを片づけて8合目まで登り返す。8合目で水を回収し、頂上を目指す。黒戸尾根なら下るだけなのに、登らなければならないのはキツイが、思ったより頂上は近かった。そこから一気に駒津峰、仙水峠へと駆け下り、北沢峠には14:00に到着。最終バスまでの一時間、ビールで乾杯。いつも慌ただしく下山するので、山の中でのんびりする時間は格別であった。

 <総括>

 やはり良いルートだった。大好きなAフランケという事もあるが、ピッチ数もグレードも手頃。2ピッチ目終了点以外は支点の状態も良く、安心して登攀できる。ピンも衝立とは比べものにならないくらいしっかりしている。
 はじめて行く場合は、やはりアプローチに重点を置くべき。マーキングも増えていたので慎重に行けば迷うことはないと思うが、時間は見ておいた方がよい。悪い場所も多々あるので、大荷物の時には注意が必要。
 その他の核心は、ブヨ攻撃。とにかく喰われるので、余裕があれば虫除けと蚊取り線香を持っていくと良い。ありがたみは攻撃を喰らえばわかる。足首や耳の形が変わるくらい、喰われるのである。

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