甲斐駒ケ岳/赤石沢奥壁/中央稜
(2001.11.23〜25)
メンバー:豊山、原
(ARIアルパインクラブ)

 11月にはいると恒例のアイゼントレーニングと救助講習会を行うこととなっている。11月初旬は広沢寺にアイゼントレに通い、中旬はには救助講習会を行い、さて、3連休は?ってなことで色々なやみ、当初北鎌にでも行くか〜なんていっていたが結局甲斐駒になった。南アルプスだし、雪はないだろうと思っていたがアイゼン登攀のトレーニングにはなるだろう。それに奥壁/中央稜は前から行きたいと思っていたルートでもあり、狙うに不足はなかった。

<朝日に染まる赤石沢奥壁>
<2001.11.23>
 今回の相棒は女ランボー豊山。しかし、この女ランボーも前日まで仕事にあえぎ、22時頃に電話で連絡を取ると「・・・仕事おわらないっす・・・、やばいっす・・・」とのこと。あ、こりゃあ今日中の出発は無理かな、と僕も仕事を続ける。それでも天気予報は移動性高気圧にすっぽりと覆われたご機嫌な三連休を予言していたので「お〜い、絶好の移動高だぞ〜」と再度電話をかけると、「あと一時間で終わらせます!」とのこと。山となると仕事にさえ目の色が変わる、やっぱりこいつもアホやな〜と思いつつ、結局金曜日の早朝、5:00時豊山邸に迎えに行くことになった。そして出発。

 三連休の初日ということで道が混むかなと思っていたが、かろうじて中央道渋滞にもはまることなく須玉までいけた。ここから白州に入り、例のごとく地獄の黒戸尾根の入り口、竹宇駒ケ岳神社に到着。今回は冬季登攀への一歩ということで、ボッカ訓練も意識し、3日間にしては大き目のザックを背負って出発。でもこの大きめのザック、実は酒とつまみで膨れているだけだったりする。

 黒戸尾根下部は落ち葉の絨毯で、まさに晩秋の木漏れ日ハイクって感じだったが、実はこの落ち葉の下にごつごつした岩があり、歩きにくいことこの上なかった。また、重量感満点のザックが「こなきじじい」のように背中に覆いかぶさり、ボッカ訓練とはいえやはり黒戸尾根はだるいのだった。
 順調にイーブンペースで進み、刃渡り付近から登山道にも根雪が見えはじめる。刀利天狗を過ぎ、黒戸山のトラバースあたりから遠望する黄蓮谷はもう結氷しているようであった。それから篠沢七丈瀑も心細いながらつながっていた。

 寝不足のランボー豊山は若干ばて気味だけど、「八合目付いたら偵察いきたいっすね〜」とやる気満々。五合目からの梯子も顔を青ざめながらクリア。なんとか七合目にたどり着く。七合目の小屋で水をもらおうとするも、すでにパイプが凍っていて、水は小屋番の方が汲み上げているらしい。せめて売ってくれないかな、と聞いてみると「テントの登録をすればタダだよ」とのこと。それから「今、奥壁の雪はみんな溶けちゃったから時間もかからないし、ここ(7合目)にテント張っても余裕だよ」とのこと。それならどうせテントの登録するのだし、八合目まで上げずにここで泊まりますか、ってなわけで7合目泊となった。

 早々にテントを張り、早い目の夕食をとってなんと17:00過ぎには寝てしまった。下界では考えられない睡眠時間で、山に来ると体調バッチリである。星空が綺麗だった。

<2001.11.24>
 アタックの朝は3:30に起床、朝食を食べて準備をし、5:00出発。まだ真っ暗でヘッテンで上がる。だいたい八合目に付く頃には明るくなってきた。岩小屋でギアを付け、八丈バンドのトラバースに入る。八合目までは一般道にもバッチリ根雪があったが、八丈バンドはモロ東向きのため雪が溶けている。歩きやすかった。
 はじめは水平のしっかりした踏跡で歩きやすいが、リッジ状を回り込んで奥壁が目に飛び込んでくると一気に急降下する感じで奥壁基部まで向かう。雪が乗っかっていると若干歩きにくいかもしれない。
 奥壁基部付近はアプローチルートは再び水平になる。二つの大きなルンゼも顕著で確認でき、その間の中央稜もすぐに同定できた。でも、取り付きが・・・。結局、我々は中央稜も落ち込みより若干右ルンゼ寄りの、鉄板でてきた碑の横にあるしっかりした新しいボルト2本に吸い寄せられ、ここから取り付いた。でもこれはどうやら右ルンゼの取り付き立ったようだ。
 1P目:原リードでスタート。トポには中央稜の1P目はW級と書いてあるけど、立っていてどう考えてもフリーではいけない。それにボルトの間隔もどう考えてもエイド用。う〜ん、となやみ、でも行きますかってなことでアブミを出してクリア。途中、劇的に遠いボルトがあり、ほぼ垂直の壁を半分フリーで次のピンをとらなければならず、ちょっと緊張した。フェースから大きなチムニー・クラックに入っていくところは突如ピンがなくなり、カムも使えず、おそろしいランナウトであった。そのチムニー・クラックをヒイヒイ言いながらクリアし、雪の詰まったルンゼをフロントポイントで這い上がると突如ドスラブ。アイゼンフリーで死にそうになりながら、カム二本が使えたのでなんとかクリア。中央稜がこんなに難しいわけはなく、この時点で「違う・・・」と思う。おそらく中央稜はもっと左のリッジ沿いのはず。戻れそうな箇所を見つけるが、ロープの長さや支点も気になるところだったので、とりあえず右ルンゼ1P目終了点までのばす。終了点は懸垂支点様のもので、ボルトが数本打ち込まれシュリンゲがたくさんかかっていた。
 フォローの豊山に途中までのぼらせ、ドスラブの手前からリッジ方面に行くように言う。「いけそうです」とのことなのでそのまま伸ばしてもらい、豊山に木でアンカーを取ってもらって、僕はそこまでカムを回収しながら懸垂で降りる。降りてみると、さらに向こう側に中央稜の正規ルートのシュリンゲがかかっているのが見えた。まんまと間違えちまいました。
 2P目:豊山リード。草つきを左寄りに一段越えると中央稜のラインらしきシュリンゲのかかった木が見える。やはり中央稜はもっと左だった。正規のラインに戻ってすぐに10mくらいのスラブにぶち当たる。1ピン目が遠く、アイゼンでは結構悪い。スラブが終わったところで左にトラバースし、何のことはない草付きを行く。本来ならこのピッチでW+、A0のピッチの下までいけるのが我々は変なところで切ったので届かない。適当な立ち木でコール。
 3P目:原リード。単なる草付き

<4P目出だしの垂壁をリードする豊山>
 4P目:豊山リード。出だしは垂壁。アイゼンなのでアブミを出すが、フラットソールならA0で行けるのかな・・・。垂壁が終わると右にトラバースするように一段上がり、へんな露岩と草付を上がる。ピンがないのでアイゼンだと悪く感じる。木を掴むと終了。その後バンドを右にトラバース気味に進むとワイドクラックが出没する。ちょうど半身にして体が入るくらいのクラックで、フラットソールであれば中に入り込まずに行けそうだけどアイゼンだとそうは行かない。何度やってもザックがつかえるので、ザックをはずし、ハーネスにぶら下げてクラックの中に入り込み、オフウィドゥス登りっぽく越える。ここもピンがなく、ランニングは立ち木で取る。これを越えると終了。
 5P目:原リード。過去の記録だと、アイゼンであればこのピッチが悪いという。出だしは一段上がって階段状の凹角に入り込み、簡単にクリア。これを越えると立った一本クラックが天に伸びており、ここが核心。アブミを出す。2ピンはスムーズに架けかえ、3ピン目はクラックの中に打ってあり、きっと雪が詰まるとこれが見つけられなくて苦労するのだろうが、今回は雪がなかったので見つけることができた。この3ピン目を使っても次のピンまで遠い。クラックの中にプレートアブミが入り込んで苦労する。ひーひー言いながらクリアすると今度は草付クラックとなる。ここもピンがなくランナウト。露岩にたどり着きピンが現れクリップ。あとは小さなクラックにエイリアンをかませながら進み、傾斜が緩んだところでまた2mくらいの垂壁が現れ、フリーランナウトでこれを越えてコール。アイゼンだと結構きつかった。キャメロットのNo3〜3.5が欲しかった。
 実質的登攀はこのピッチで終わり。でも、この先は傾斜もゆるくなる分雪も現れ、コンテで行くにはちょっと、という感じだったので丁寧にピッチを切る。また、この先はルートファインディング力が必要。リッジなので大きくはずすことはないが、へんなところに入り込むと時間を食う。
 6P目:豊山リード。草付を上がる。広くなったところで右ルンゼ側にそれ、コール。
 7P目:原リード。右ルンゼ側の側面を行き、しばらく行った所で現れる凍った草付ルンゼをリッジ上に向けて這い上がる。ここで初めてアックスを振るう。持ってきてよかった〜。リッジから右にバンドをトラバースするように進み、コール。

<7P目をフォローする豊山>
 8P目:豊山リード。ところどころ露岩が現れる草付をひたすら上に向かって進む。途中、立ち木で何本かランニングを取る。
 9P目:原リード。U〜V程度のいやらしい露岩を拾いながら登る。アイゼンだとちょっとばかし気を張る必要がある。
 10P目:豊山リード。20mほど上がると広くなる。ここで迷う。結局、右ルンゼ側に伸びるバンド(踏み跡)に延ばすことにする。バンドに入ったところでコール。
 11P目:原リード。右ルンゼを眺めながらバンドをひたすら進む。45m延ばすと黒戸尾根の稜線が見えた。
 12P目:豊山リード。もろい岩塊を一段上がり、少し下ると右ルンゼから伸びるピッチに出た。どうやら最後のピッチも右ルンゼルートに入ってしまったようだ。傾斜のきついスラブをアブミを使いながら登る。ピンは程よくあるが、稜線への抜け口にはなく、若干緊張。終了点はハイマツが豊富。豊山根性のリードでした。

 稜線上に出ると、すでに陽が傾き加減だった。遠く早川尾根、鳳凰三山の向こうには富士山も見え、我々の完登を祝ってくれているようだ。とりあえずよくやりましたね、ってなことで握手。この瞬間はやっぱり良いねえ〜。

 二人とも甲斐駒の頂上はなんども踏んでいるのではなっから上に向かうきはなく、ガチャを片付けてそそくさを降りる。8合目に戻ってくると、ああ朝はここからスタートしたんだなぁと、すこし感慨に耽る。鳥居の手前で雷鳥が我々を導いてくれた。
 テント場に戻り、7合目小屋でビールを分けてもらって今日も祝杯。2日目にしてビールにありつけるとはなんと贅沢なことか!と感動しつつ、それでも二日目の疲れは確実に我々を睡眠に落とし込んでいった。充実感満点の睡眠だった。

<2001.11.25>
 今日は下山するだけだが、早めに降りて混まないうちに帰ろう!ということで6時にテント場を出る。下りは楽だが、それでも黒戸尾根は長く、飽きる。刃渡りを過ぎるとまた秋が戻ってきて、朝日が木漏れ日となって気持ちいよい。最近膝と腰にインパクトをかけないようにと下りで走ることを自制しているが、それでも9時前には竹宇に降りてしまった。贅沢な午前中は温泉と新蕎麦を求め、さらに充実感を増し、まだ渋滞前の中央道を東京に向かった。



 





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