今年のGWは剣の赤谷尾根から北方稜線、あわよくば剣尾根R4かチンネを登ろうという事になっていたが、有持親分の御令息が体調を崩し、また前半の天気も今一だったので後半に赤谷〜北方稜線のみやることとなった。
当初はGWの最後の3日を使って、ということでここまでは正常だったのだが、僕とイチローがが明神/東稜からワンデイで帰ってくると、なぜかワンデイの計画となっていた・・・。
・・・。
赤谷尾根ワンデイ・・・。そりゃ無理だ・・・。と冷や汗をたらしつつ、極限まで荷物を切りつめたザックに、しかしスキー(フリートレック)の重量だけはどうしても減らないな〜、とため息をもらしつつ、馬場島を出たのであった。
<赤谷尾根から池ノ平山。左右のギャップがそれぞれ大窓と小窓
小窓から延びているルンゼ(西仙人谷)を滑り降りた>
5月4日(金)晴れ
前日、夜通し車を走らせて朝の3時前に馬場島に到着。そのまま準備をして出発。長い一日の始まり。軽量化したつもりだったのに、なぜか僕の荷物が一番重かった。ま、ザイル係だから仕方ないか。
馬場島から白萩川沿いに進む。正月に来た時は初っぱなからラッセルだったけど、さすがに春は雪は溶けている。数倍歩きやすい林道を取り付きに向かっていく。
左からブナクラ谷を合わせるとすぐに赤谷尾根の取り付き。赤いマーキングがあるが、我々はこれを見逃し、少し上部から取り付いた。取り付きはまったく道路脇のガケ、と言う感じで、これが長大な赤谷尾根の入口とは思えない。
さて、藪漕ぎである。朝露に濡れ滑りやすい悪路を、藪をかき分けていく。これは冬はラッセル地獄だな〜、とこの冬の山行を想像する。程なくマーキングが現れ始める。赤谷尾根上はマーキングが豊富である。下部は樹林帯の緩傾斜が続き、登攀要素は全くない。小窓尾根とはかなり感じがちがう。
途中何度か小休止を交えるも、今日中に降りてしまおう!という狂人的な計画のためほとんど歩きっぱなし。それでも森林限界を越えると鮮やかなパノラマが広がり、目と心臓を和ませてくれる。右手には早月尾根から本峰、剣尾根、チンネ、小窓の王が朝日の中に立ち並び、池の平山、白ハゲ、赤ハゲと、これから目指す憧れの北方稜線がくっきりと見えた。見た目、「あ、結構近いかな?」などと思っていたが、これが甘かった。北方稜線は見た目以上にアップダウンが激しいのだった。
<赤谷尾根上部から赤谷山>
森林限界を越えるとリッジがクラストしており、さらにだんだん痩せてくるのでアイゼンを装着。春の日差しが強く、日焼け止めを塗り、サングラスをかける。
目の前には赤谷山がそびえている。最後の登りは結構つらい。息を切らせつつ、赤谷山の頂上に立った。
赤谷山からの眺めは絶品だった。特に、これまで見たことのなかったブナクラ乗越から先の北方稜線(の北部。我々はこれから逆方向、北方稜線南部を目指す)には感動した。猫又山、毛勝など、まさに「秘境」というイメージの黒部の山々がたおやかに連なっていた。見た目に威圧感はないけど、冬はその気象条件の難しさもあり、難所と化す。う〜ん、いつか行ってみたいところだ。
さて、せっかく赤谷山に着いたのに、有持親分は「休憩は15分ね」と無下もない。せっかくピーカンのハイキング日よりなのだから、のんびり楽しみましょうよ〜、と猫なで声を出したかったが、その場でアイゼンキックを喰らいそうだったのでやめた。今回初めて一緒に山行をする藤川カツさんもイチローも淡々と準備を始めている。これは覚悟を決めて行くしかなさそうだ。
<白ハゲ近辺。雪庇が発達している>
さて、ここからが長い北方稜線の始まり。まず緩やかな雪面を下って、また登り返して赤谷山と同じくらいの高さの白萩山に立つ。そこからまた下って登って赤ハゲ、また下って登って白ハゲを通過する。赤ハゲも白ハゲも雪で埋まっており、なんで「赤」と「白」なのかはさっぱり分からなかった。夏にはその岩肌の色がそうなるのかな、などと思ってみたりするが、激しいアップダウンにとりあえず心臓は破裂しそうであった。
白ハゲからは大窓に向かって一気に切れ落ちている。途中ガレたルンゼには雪がなく歩きにくかった。原はおろしたてのレインウエアにアイゼンで穴を空けてしまい、超ブルーになっていた。
大窓は広かった。テントは詰めれば7張くらいは張れそうだった。我々も小休止。天気が良く、のどが渇く。なんとか水を増やそうとペットボトルに雪を詰め込んで振る。冬であれば水に雪を入れるなんて致命的愚策(水が凍ってしまうため)だけど、気温が氷点を上回っているのでちゃんと雪が溶けて水が増える。なんとありがたいことか!ああ、春なのだな〜、太陽の光よ、ありがたやありがたやと感動した。
さて、ここからが地獄だった。まずは大窓の頭への急登。ザイルは不要だけど、傾斜がキツイ・・・。気温は高いし、背中のスキーは重たいし、まさに「ああ、生き地獄」状態だった。しかも、大窓の頭にたどり着くと、池の平山はまだ向こうだった。大窓と小窓の間は、赤谷尾根から見ると短く見えるが、実は細かいピークが連なっていてかなりアップダウンがある。本当に騙された気分・・・。
とふてくされていてもしょうがないので、歩き出す。幸、ノーザイルで行けたが、雪の状態が悪ければアンザイレンすべきところが何カ所かあった。池ノ平側をトラバースするところなどは、上部のキノコ雪が崩れたら一巻の終わり。慎重に通過した。
いくつかピークを越えると、やっと小窓への下りになる。これが結構長い。危うい急雪壁をクライムダウンし、トラバースするようにリッジに戻り、少し広い広場状のところからまた急下降になる。途中に懸垂支点が何カ所かあり、コンディションが悪ければ懸垂するところだが(というか、普通は懸垂するよな・・・・)、先を急ぐ我々は小窓まで一気にクライムダウンしてしまった。
<小窓からの西仙人谷。ここからエントリーした>
小窓から上を見上げると、小窓尾根上はものすごい渋滞!おそらく遅いパーティーが詰まらせていたのだろけど、まるで穂高の縦走路のように人が連なっている。時間もかかり過ぎておりこのまま本峰を回ったのではワンデイは無理、また僕の体調もあまり良くなく、さらに大混雑の三の窓にツェルトで幕営する気にもならず、小窓から西仙人谷を滑り降りて、今日中に富山に入って酒盛り!ってなことになった。
小窓から池の平側にはスキーのトレースが付いていた。とても緩やかな傾斜でデブリも少なく、池ノ平側を滑ればさぞや快適な滑降が楽しめるだろうに、我々が滑るのは富山側の急峻な西仙人谷。しかも、赤谷尾根からここまで一気に歩いてきており、足は既にパンパン。ターンを決めるのがしんどそうだ。
さて、エントリー。僕はフリートレックは二回目(^^;;;ちゃんと練習しろよ!ってなところだが、時間がないのだからしょうがない。ぶっつけ本番でも、ま、うまくやるしかない。でも、鹿島槍の時より傾斜は緩く、威圧感はなかった。雪もちょうど良いザラメで滑りやすい。ひと滑りすると、途端にゴキゲンになってしまった。やっぱりバックカントリースキーは面白いのだ。
西仙人谷は思いのほか緩かった。というのも、馬場島から小窓を眺めるとそこから延びるこのルンゼはメチャメチャ急峻に見えるので、「ああ、クリフジャンプをしなければならなかったらどうしよう」なんてな先入観があったものだからなおさらだった。ただ、途中デブリが流心をふさいでおり、滑りにくいところが何カ所かあった。
明るい谷間を滑りつつ、小窓尾根の側壁を眺め、ここの岩壁にルートを拓いた人はこのルンゼを詰めてきたのだよな〜と感慨に浸る。そのうち何回か大きく屈曲し、東仙人谷を合わせ、小窓尾根の取り付きである雷岩に到着。早い早い!小窓からここまで、20〜30分で下ってしまった!はあ〜、スキーのおかげやね。
雷岩から先も白萩川はおおむね雪渓となっており、タカノスワリを通過して取水口までなんとかスキーで滑ることができた。取水口でスキーをはずし、そろそろ限界に近づいている身体を引きずるように馬場島へ。白萩川沿いは淡い新緑が目と疲れた身体にやさしかった。
明るいうちに馬場島に戻ってきた。結局最後は小窓からスキー滑降となったけど、ワンデイ・・・・。ああ、ホントにやってしまったのね。しかし限界まで身体を酷使すると、さすがに充実感はある。上市で風呂に入り、富山でのビールはやっぱり最高だった。
<総括>
GWであれば赤谷は歩きやすいが、傾斜が緩いため、冬は相当なラッセルを強いられるだろうと思う。
赤谷取り付きには木の枝にマーキングがあるが、夜だとわかりにくい。ブナクラ谷出合をきちんと見極め、少し過ぎたあたりから取り付けばほぼ間違いなく赤谷尾根上に出られる。上部は若干エッジ状の箇所もあるが、登攀、と言う気分はない。
赤谷山から小窓までは、とにかく長い。見た目より小ピークがたくさんあり、また左右の動きもあり(馬場島側と池ノ平側をいったりきたりするトレースとなっており、これは側面から眺めるだけではイメージできない)時間がかかる。また、途中急雪壁やきわどいトラバースもあるので、コンディションが悪いときには注意。
西仙人谷はデブリが多く滑りにくい箇所もあるが、この時期であれば下までつながっており、余裕で滑降できる。ただし、はやり新雪が乗っている時や、上部に弱層が確認できる時などは絶対入り込むべきではない。また、枝沢も多く、側壁からの雪崩にも十分注意すべき。コンディションさえ良ければ、とにかく快適である。
赤谷尾根下部は藪が濃くて幕営は難儀。森林限界手前1500m近辺以降は樹林が薄くなり、テントサイトは豊富。どこでも張れそうな勢い。赤谷山頂上、赤谷山から大窓までの稜線上にあるコル、大窓にテントが張れる。小窓にもたくさんテントは張れそう。コンディションにもよるだろうが、テントサイトは豊富である。
この山域全般に言えることだが、確実なエスケープルートは少ない。天候を見極め、確実は状況判断が必要。これはGWでも同じ。
<大窓で。スキーを背負ったあやしい四人組が行く>
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