阿弥陀岳/南稜(1999.12.11〜12)メンバー:塚本、福島、原(ARIアルパインクラブ)



 12月10日(金)

 週中から嫌な予感がしていたのだが、やはり残業は免れなかった。昨日も遅く、当然パッキングもしていない。メールを使って塚本、福島と密に連絡を取り合っていたので、計画(書)に問題なかったが、寝不足と時間不足だけはどうしようもない。昼頃、塚本、福島に「今日は遅くなる」旨を伝え、しかし絶対に行くので相模湖駅で待っていて下され!と念をおす。

 24時過ぎにやっと今回の山行の資料をコピー。25時にやっと開放され、タクシーで帰宅。そのままありったけの荷物を車に積め、出発しようとすると携帯の着信音が鳴った。

 「もしもし〜、岳チャンですか〜、ゲヘヘ・・」

  誰だ、こいつ・・・

 「猛チャンですけど、いつ来るんですか〜???」

 完全に酔っぱらった濁声は三つ峠で聞き覚えがあった。きっとまた一升瓶を空けたに違いない。その後、ややシラフの塚本氏から「今、何処ですか?」と聞かれる。すこぶる答えにくかったが、「家を出るところです・・・」と、同情を誘うよう、極力申し訳なさそうに答える。時刻は26時30分。

 28時(朝の4時!)に相模湖駅に着くと、寝袋にくるまった強烈な酒臭を放つ不審者約二名を発見。そのまま車に詰め込み、出発。乗車するなりバッタリと寝込む二人であったが、こんなに遅くなってしまったからには何も言えない(二人とも良く怒らなかったなあ)。黙々と車を運転して八ヶ岳へと向かうのであった。

<舟山十字路にて(塚本と福島)>
 12月11日(土)

 八ヶ岳PAで仮眠しているとなんと朝の7時を回ってしまった。既に太陽は高い。「げっ!」とか言いつつ、「まあ、こうなったらゆっくり行きましょうよ!」と、遅れたのは自分のせいなのに都合のいい事を言い、一路舟山十字路へ。

 舟山十字路へは、美濃戸口へ曲がる道から数えて2本手前を右折する。交差点にはバス停があり、別荘地の大きな看板がある。でも、「舟山十字路はこっちよ!」という親切な看板はない。見た目は単なる別荘地の入り口で、ここが険しい阿弥陀南面の入り口とは思えない。

 道をひたすらまっすぐ行く。別荘地を抜け、未舗装の砂利道になり、再び舗装された道になるとすぐに舟山十字路である。道路脇の木に旭小屋や南稜を示す小さな看板がかかっていて、これが目印。でも、実際ここはT字路であった(地図で見てもT字路)。

 詰めれば3台くらい入れる駐車スペースに車を止め、原はパッキングを開始する。すでに塚本と福島はボケと突っ込みの応酬を繰り広げており、これからの山行が吉本新喜劇バリになることを予感させるのであった。9:30出発。

 旭小屋を見ておきたかったのと、立場川本谷に興味があったので「リーダー特権じゃ」と叫び旭小屋コースを取ることにする。旭小屋までの林道で男女の2人パーティーを追い越す。

 旭小屋は完全な廃屋で、小屋の中にテントを張って泊まるなら良いけど床に寝る気にはなれない。ちなみにここにはトイレがある。女性は要チェック。

 旭小屋は、南稜の末端から立場川沿いを少し上流に行ったところにあり、真うしろの稜線が南稜。南稜は八ヶ岳としては長大で、「稜」というよりは「尾根」という名の方がふさわしい。小屋の裏手にまわり、末端から一つ目の緩やかなコル状の鞍部へ登り、あっさり稜線上に出る。このコースはほとんど尾根の末端からつめる。爽快だ。

 傾斜は緩やかで、踏み跡も一般道並にバッチリついている。迷う心配はほとんどない。でも、稜線ははっきりしたリッジ状になっていて、樹林帯の割りには視界が良く効く。とても気持ちの良い稜線歩きであった。途中何度か休止をはさみつつ標高を稼ぐと、立場山のピークに着く。ここはまだ樹林帯の中であった。行動食を食いながら無線で雨宮Pを呼んでみると応答があった。聞けば阿弥陀/北西稜取り付き手前の森林限界付近とのこと。こちらも結構のんびりペースである。ちなみに、その時行者小屋にいた有持P(南沢大滝へ移動中)とは交信不能であった。

<ユーメイな青ナギ。正面の斜面が無名峰への登り>
 ピークから緩やかに下り、樹林が突如切れるとユウメイな青ナギ。立場川側がその名のごとく青灰色のザレ斜面になっているリッジをゆく。青ナギを過ぎると無名峰の登りにかかる。若干傾斜がきついが、積雪も少なく、先行パーティーのおかげでステップがついていてラクチンだった。左側に険しい広河原沢奥壁が見え出すと、狭い無名峰のピークに着く。ピークに立つと風が強かった。「無名峰」の看板があった。無名峰から見上げると、P1〜P4までのピークと、その彼方に阿弥陀本峰が勇壮にそびえている。この尾根は北鎌のミニチュア、という感じだ。無名峰はさながら独標に相当するのだろう。八ヶ岳において、こんな雰囲気を味わえるルートは他にないのではないかなあ、と思った。

 目の前のP1は小さく、むしろ無名峰の方が立派な位である。P1から少し下るとビバーク適地であるP1・P2のコルに着く。ここにはテントが3〜4張り張れる。

 時計を見ると14時を少し回っている。頂上に立てない時間ではないが、この先は一応核心(?)のP3の登攀がある。また、この分だと頂上ビバークになる可能性大で、土曜日の晩は寒冷前線が通過するかもしれず、頂上ビバークは避けた方がよいとのアドバイスもあり、早々にビバークを決め込む。一番平らで広い場所を選び、軽く整地する。丁度森林限界に位置するため、周りには若干の低木が生えているので、これを使ってロープを渡し、ポールを使わずにツェルトを張ることにした。

 そして当然酒盛り。共同装備に「酒」はなかっのだが、酒豪:福島のボルビックの1or1.5Lのペットボトルは日本酒だった。塚本もウイスキーを持参。酒を用意する時間がなかった原は、「えへへ・・・」と言いながら酒を注いでもらった。ありがとうございます。ちなみに、つまみもなんだか豊富であった。

 しかし塚本の装備はすごかった。軍手5枚重ねくらいの厚みはありそうなオーバー手袋。アルパインクライミングには全く向かないフリークライミング用のザック「ゲンゴロウ丸」(よく、こんなザックで北鎌単独したなあ。)。テルモスはチタンであったが幼稚園児仕様。メシはカップうどんの中身をビニール袋に移したもの。この気合いの入ったボケように、ああ、この人はコテコテの関西人なのだなあ、と福島と共に感涙。ちなみにゲンゴロウ丸に入らないからと言ってシュラフは車に残置してきたのだが、「そんなに着込めばシュラフに入れないだろうが!」というほどの防寒着着膨れ状態であった。福島と共に突っ込みまくると、塚本は至福の笑みを浮かべていた。たぶんマゾ気があるのでしょう。恵川女王様の筆頭下僕となってムチを受けたい〜、とも言っていました。恵川さんよろしく。

 一方の福島は相変わらず「オレってジャニーズ系だしさあ〜」とか訳のわからんことをぬかしている。あなたがジャニーズ系ならウーピー・ゴールドバーグだってオリーブ系だ。スカスカのツェルトの中でも朝の牛乳のごとく腰に手をあてて日本酒をあおっている。この人の肝臓はすでにフォアグラ状態に違いない。

 というわけで、このパーティー唯一の理性である原は、明日の核心P3を本当にこのノリで越えられるのだろうかと不安を抱いていた。P3ルンゼ内で突如ネタに入られたらどうしよう・・・。登高研トリオ漫才パーティー(恵川、榎本、伊藤)において、きっと同じ立場(唯一の理性)である伊藤さんの気持ちをかみしめる原であった。

 18時頃日没し、昨夜の寝不足もあって横になることにする。塚本、福島両名はシュラフカバーのみ、ということで、シュラフ持参の原であったがここでシュラフにくるまったら夜中にツェルトごとクリスマスルンゼに突き落とされそうだったので、シュラフカバーで寝ることにする。案の定、寒くて目が覚める。時計を見るとなんと20時。この殺人的な時間の進み具合に驚愕し、おかげで目は強烈に覚め、いったいこの先何時間寒さに耐えなきゃならんのじゃあ〜、と絶望に打ちのめされる。「う〜」とか「あ゛〜」とか言いながら、長い長い夜を過ごすのであった。


<P1・P2のコルからの日の出。富士山が見える>
 12月12日(日)

 4時過ぎ起床。もうガタガタ震えずに済む。塚本、福島が入っているツェルトに移り、火を使って朝食の用意をする。ツェルトの中だけ気温が上がり、思わずからだが緩む。食事のあと、まどろんでしまいそうであったが、5:30に意を決してツェルトをたたみにかかる。

 陽も高くなり始める6:40出発。P2を難なくクリアすると、目の前にどでかいP3がそびえている。正面の壁もルンゼ状をたどれば登れそうな感じであるが、やはり正規のルートであるP3ルンゼから行く事にした。ラッセルの跡とマーキングに導かれてP3基部を広河原沢側にトラバースし、カンテ状を越え、トラバースが若干下降気味になったところがP3ルンゼの入り口。トラバース途中からロープとワイヤーがフィックスされており、ルンゼ内にも続いている。

 出だしだけ「岩登り」という感じであった。とりあえず空身で這い上がってルンゼ内を覗いてみると、どうやらノーロープでも余裕で行ける。でもまあ、せっかくザイルを持ってきたし、今回はトレーニングも兼ねているしということで、アンザイレンすることにした。基部でハーネスを付け、ザイルを捌き、準備をする。

 1P目、原リード。ルンゼ内は程良い雪壁状になっていて、特段問題はない。ランニングもフィックスロープがかかっているボルトを使えばそれなりに取れる。やや傾斜がキツくなったところでフィックスロープが終わる。ここにはリングボルトと効いていないバカブーが打ってあり、一応シュリンゲがかかっていた。50mロープであれば、ここで切るのが正解。上の灌木までは届かない。原は効いていないバカブーで流動分散を取るのは何となく嫌だったので上の灌木を目指したが、行き着かずロープ一杯になってしまった。仕方なくクライムダウンし、ここで1P目終了とする。塚本、福島ともなんの問題ももなくクリア。

 2P目、原リード。やや急になったルンゼを詰めていく。S字を描くように岩帯を越え、上部の灌木へ。このピッチは全くランニングが取れない。丁度良い岩角も、灌木もない。仕方ないので、ピッチ途中の右岸の遭難レリーフの基部のブッシュを使って気休め程度のランニングを取った。ま、ノーロープでも行けますけどね。しっかりした灌木で2P目終了。

 そこでザイルをたたみ、あとは斜面を数メートル登って稜線に出る。陽が差し込まないP3ルンゼ内とは違い、稜線上は光で暖かい。

 稜線上をしばらく行くと、今度はP4。これも左から巻き気味に登る。基部をトラバースしていくと、途中からハーケンが程良い間隔で上部まで続いている。P4のピッチの方がランニングは豊富に取れるが、残念ながらロープが必要だとはとても思えない。練習もP3ルンゼで済ませているので、一生懸命岩に食い込んでいるハーケンには申し訳ないのだがロープは出さない。過去の記録を読むと、ここでザイルを出しているパーティーも多いようだ。雪の状態や天候によってアンザイレンするのだろうなあと思った。

 P4と阿弥陀本峰は狭いコル一つ挟んで隣り合っている。コルから若干右へトラバースし、ルンゼ状のところから頂上直下の岩稜帯に取り付く。この頂上直下でもザイルを出す場合があるようだが、これも余裕であった。ノーザイルで問題はなく、数メートル登ると広い阿弥陀岳の頂上に飛び出す。


<頂上にて(塚本と福島)>
 頂上は360°の大パノラマで最高の景色だった。塚本、福島とともに「やあやあ」と言いながらとりあえず握手。振り返ると南稜が大きくカーブを描きながら長く延びている。う〜ん、てっぺんか、と感慨に浸る。このひとときはいつ味わっても最高である。3人とも本気の笑顔であった。

 無線で雨宮・大野Pを呼び出してみると、小同心クラックの最終ピッチとのことだった。ちなみに彼らは1時間半で小同心クラック基部から横岳本峰まで登ってしまったようです。たしかに快晴で風もないベストコンディションだったけど、スゴイ記録!ちなみに、無線でこちらが下山する旨を伝えると、「原、まさかこの時間(9:30頃?)に下山するんじゃないでしょうね。」と大野王女。怖かったが、これから主稜につっこむ訳にもいかないので「お許しを〜」とひれ伏し、王女様のお怒りを沈めるのであった。

 下山路は御小屋尾根にとる。頂上直下の岩峰を梯子を使ってクリアするところがちょっとイヤだけど、あとはぐいぐい高度を下げていく。雪が少なくなってきたなあ、と思っていると傾斜が緩み、やがて樹林帯に突入する。ルートも明瞭で、茅野の平野にダイナミックに落ち込む尾根を諏訪湖を見据えながら豪快に下る。やたら景色の良い尾根だが、見とれると転んでしまうので気を付けましょう。

 樹林帯の中の小さなピークである御小屋山頂上から少し下ると美濃戸への分岐があるが、舟山十字路へは左のルートをとる。ところが!やや下ったところで原がルートファインディングミス。明瞭な踏跡を忠実に行けば良かったのに、ショートカットルートであると勘違いして、林業用と思われるマーキングの方へ下っていってしまった。ここは森の中の至る所にマーキングが見えるが、惑わされてはいけない。一番濃い踏跡をたどるのが正解。舟山十字路に降りる時には気を付けて下さいませ。

 で、結局何処に出たかというと、美濃戸でした。しょうがないのでタクシーを呼んで舟山十字路へ(約2,000円)。結局最後まで「なんちゃってリーダー」でしたが、ま、場に笑いを、ということで塚本、福島は許してくれたらしい。無事、舟山十字路にたどり着き、この時間なら渋滞に巻き込まれずに帰れる!ということで、風呂を割愛し、昼飯だけ食って一目散に東京へと向かうのであった。


<総括>
 南稜は技術的に困難な箇所はなく、コンディションさえよければ初心者でも登攀は可能。ただ、当然だけど一応バリエーションルートなので、アイゼンの前爪でしっかり立ち込める技術は最低限必須。また、悪天時には広河原沢からの風が猛烈であることもあり、立場川側に張り出すであろう雪庇には気を付けた方が良いかと思う。ま、どれだけ発達するかは不明ですが・・・。さらにコンディションによっては、P3ルンゼ内は雪崩れる可能性はあると思う(大雪崩にはならないだろうが)。また、氷結した場合などは、やはりダブルアックスを使うべきだろう。今回は結局1本だけしか使わなかったが。

 無名峰から先の、森林限界以上の岩稜帯では、八ツ独特の強い風には注意すべき。 P4と本峰の登りは、きちんとトレーニングしていればノーザイルで難なくクリアできると思う。ただし、これも雪の付き方や天候などコンディションによってはザイルを出すべき。万が一滑落したら高確率で下まで(沢筋まで)落ちるから、多分死ぬ。

 ビバーク適地はトポどおり、立場山までの樹林帯のなかに数カ所、立場山から青ナギまではどこでも張れそう、あとはP1・P2のコル。P2から先は張れそうなところもあったが、限りなく不適地。

 御小屋尾根の下山は上部で若干注意が必要だが、あとは問題なし。下部は尾根がとても広くなっており、さらに藪も薄いので何処でも下れてしまう、ので、道に迷わないように・・・。

 最後に、ボケと突っ込みの山行、とかいいましたけど、一番のボケは初日に3時間もおくれ、八ヶ岳PAで寝過ごし、最後にルートファインディングミスをした原でしたね・・・。お二人には大変御迷惑をおかけいたしました。これに懲りず、今後とも一緒に登って下さりませ。また、ボケと突っ込みを繰り広げつつ・・・。


(以下、福島による記録)

<日程>12月11日(土)〜12日(日)
<山域>八ヶ岳/阿弥陀岳/南稜
<メンバー>塚本、福島、原(CL)

<コースタイム>
11/Dec 舟山十字路 (09:30) ---> 旭小屋 (10:15) ---> 立場山 (12:15)
---> P1 (13:55) ---> P1・P2 のコル (14:00)

12/Dec P1・P2 のコル (06:40) ---> P3 (08:50, 09:00) --->
阿弥陀岳(09:20, 10:00) ---> 美濃戸口(12:45)

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