今シーズンにどうしても谷川の壁系に行きたかったのだけど、4月〜5月上旬並みの暖かさが続いており、コンディションがすこぶる悪い。それでも一ノ倉尾根には行っておきたいと思っていたが、原の仕事が結局金曜日の深夜(土曜日の朝4時)まで続き、断念。それでもどうしても山に入りたい気分だったので、1月に行く気がおきなかった旭の東稜に行くことにした。これをトレースすれば東面の主要ルートは制覇したことになるしぃ・・・。
<上部岩壁手前の急峻なルンゼ>
2002.3.16 晴れ
土曜日の朝6時に相模大野駅に集合の予定であったが、朝4時に帰宅した原はおそるおそる恩田さんに電話を入れ、土曜日の夜発に変更してもらう。20:30に相模大野駅に向かい、そのまま高速を飛ばして清里へ。地獄谷の入口への林道はまだ雪はあったが、一昨年の同じ時期にくらべるとやはり少ない。いつも車を止めるゲートからさらに奥まで車を進め、歩く距離を縮める。こんなとき、パジェロショートは頼りになる。
車を止めて仮眠。夜中の2時過ぎにむっくり起き出し、おもむろに準備を始める。恩田さんが腕時計のアラームをセットしておいてくれてよかった。アラームがなければ根性なしの原はきっと寝坊した。
今日も強烈に気温が上がるということで、雪が緩む前に登攀を終えてしまおうとザイルは一本。ギアも最小限にして出発。荷物は軽いけど、平日に慢性睡眠不足の原はあまりペースが上がらない。
ヘッテンであたりを見回し、かすかに残るトレースをところどころ広いながら出合小屋へ。小休止してすぐに出発。権現沢との出合は真っ暗で分かりにくく、過去の記憶を頼りに旭東稜を同定する。このまえ来た時は権現沢に少し入ったところにあるガレルンゼから稜線に這い上がって結構悪かったので、今度は上の権現沢に少し入り、そこから斜面を直上した。途中、さすがにアイゼンがないときついくらいになったので、不安定な急斜面の途中でアイゼンを装着した。末端の取り付きは、権現沢側のルンゼから上がるより、上の権現沢側から上がった方が良い。
稜線に出ると、顕著なリッジどおしに淡々と進む。ところどころマーキングが現る。途中、ナイフエッジの通過があり、雪が腐っていていやらしかったのでザイルを出して軽く確保した。その後も春山の歩きやすいリッジをぐいぐいと高度を上げるのみ。リッジからルンゼ内に入り、さらに傾斜を増し、フロントポイントを利かせダブルアックスで上がっていくとやや傾斜が緩くなったところで目の前に五段の上部岩壁が現れる。ここで6:30過ぎ。どうやら雪が緩む前に核心を越えられそう。
上部のナイフエッジの雪が緩むことを考えるとスピードで抜けなければならないので、左側の草付き壁を登る。
<頂上直下の雪稜>
1P目、恩田リード。「じゃんけんする?」と聞かれるが、あまり調子がよろしくなかったので恩田さんに譲る。テラスから少し壁に入った潅木でビレイを取り、スタート。木がたくさんでホールドもランニングも事欠かない。木でつなげないところはワンポイント程度アックスを振るう。問題なく50m延ばして立ち木でコール。
2P目、原リード。相変わらず木登り感覚で上部の稜線を目指す。稜線に出ると、上の権現沢側に雪庇が張り出したナイフエッジとなり、エッジ上を雪庇を踏み抜かないよう見極めながら進む。45mくらい延ばしたところにちょうど良い潅木がありここでコール。エッジ上はランニングは取れない。
3P目、恩田リード。安定していればノーザイルでもいけるけど、日が当たり温度が上昇し始めているので雪の状態を考えスタカットを続ける。エッジ上を進むと傾斜が緩み、細かいアップダウンを経て50mいっぱいで左側の斜面のダケカンバが現れ、ここでコール。
4P目、原リード。目の前の頂上直下の岩稜帯を目指す。岩稜の基部にイボイノシシが刺さっていた。このイボイノシシの少し左上にちょうど良い潅木があり、ここで切る。45m。
5P目、恩田リード。岩稜を左から回り込む感じで急峻なランペ状を微妙なバランスで上がり、回り込んだところからリッジ通しに直上。傾斜が緩むと旭岳の頂上がすぐそこに見えるが、残念ながら50mいっぱいに伸ばしても少し手前まで。左側のダケカンバでビレイできる。
結局、オーダーで1ピッチ分得した原が先に頂上に立ってしまった。時計を見ると8:45。すっかり明るくなった春の日差しで景色はバッチリだったが、立場川側からの強風は半端ではなく、頂上に出ると体感温度は一気に下がる。握手もそこそこに、そそくさとザイルをたたみ、一般縦走路をツルネに向かう。ツルネの登りでは、強風に押し上げられて少し楽チンだった。
ツルネの頂上から東稜側に少し下ったところで風はさえぎられ、ポカポカとなる。いやはや、5m違うだけで季節が1ヶ月違う感じだった。ようやく落ち着き、ハーネスを解き、ギアを整理し、食料を口にした。
ツルネ東稜はいつものとおり快適に下り、あっという間に出合小屋へ。クロカンスキーを履いたパーティーとすれ違い、そのまま地獄谷を下り、11:00過ぎに車に到着。ほどよい充足感と春の暖かい日差しの中、温泉、ビールつき蕎麦をほお張り、すこぶる贅沢な昼下がりだった。
<総括>
二週連続の雪稜系であったが、登攀要素は先週の谷川/東尾根よりこっちの方がある感じ。でも、状態によってこれだけ違うものかと痛感した。昨年の1月に敗退したときは、ま、悪天が迫っていたこともあったが(例の中央道方面に記録的な雪を降らせた日!)、アプローチももっと困難だった。それがこんなにサクッと行けちゃうなんてね〜。
上部岩壁は、やはり左からクリアすると楽チン。昨年は1m弱積もった雪を掻き分けながらリッジどおしに行ったけど、チャレンジするならリッジ通しに行ったほうが充実するだろうと思う。リッジ通しにいく場合には、カムが数種類あったら良い。僕だったらエイリアン緑、キャメロット0.5、1を持っていくかも。三段目の登りで使う。
5段を越えてからも気が抜けない、のは意外だった。ナイフエッジの登攀に慣れていないと、雪庇の見極めが難しく、滑落する可能性はある。滑落したら絶壁なので助からないと思う。
これで東面の主要ルート3本を登ったけど、やはり旭/東稜が一番キツイとおもった。