唐沢岳/幕岩/大凹角ルート(2000.7.29〜30)メンバー:藤原、原(ARIアルパインクラブ)


 屏風に入る予定だった週末に、穂高の混雑を恐れて唐幕に行って来た。本当は、藤原さんと広島を狙う予定だったのだが、先行パーティーがいたため断念。大凹角をサクっと登ってきた。

<高瀬ダム基部からの唐幕。すぐそこに見えるのだが・・・>

 7月29日(土)晴れ(明け方は雨)
 いつものごとく、仕事のため遅い出発となる。25時頃に藤原さんと落ち合い、中央道へ。諏訪湖あたりから雨が降り始め、こりゃあダメかな、とあきらめかけていると豊科を降りるあたりで止む。すっきりしない空だけど、予報ではにわか雨はあるのもも土日は晴れ。そのまま七倉へ。七倉に4:30頃に到着し、そのままいつもどおり一睡もせずに山に入る(^^;;。ゲートは6時まで開かないから、高瀬ダムまでは歩かなければならない。
 七倉は北鎌に来て以来だった。独特の空気がある。秘境の玄関口という雰囲気がぷんぷんとしている。なんだか、わくわくする。
 長いトンネルを抜け、50分程度の歩きで高瀬ダム基部へ。タクシーでそのまま通り抜けてしまうと分からないのだが、ダムの基部からはくっきりと唐幕が見える。唐幕に向かって唐沢を詰める。見た目には1時間程度でたどり着けそうな気がするが、ところがこのアプローチが悪くて長い。岸に付いた踏み後はところどころ途切れ、水流の中を進まなければならない箇所もある。渓流タビを持ってくれば良かった、と思ったくらいだった。また、金時の滝の高巻きでは、古いフィックスがかかったぐずぐずのガリーを詰め上がらなければならず、また、このフィックスが切れそうなので要注意である。
 幾分沢が開けたと思うと、B沢出合いであり、ワシの滝がかかる。ここが唐幕基部への目印。突如現れるフィックスと踏み後に導かれながらバンドを上がり、B沢を少し詰めると若干戻る感じで右上する踏み後が沢筋に沿って現れる。これを詰めると程なく大町の宿。しかし、初見の我々はここで迷い、B沢を上まで詰めてしまった。
 大町の宿で荷物をパッキングし直す。松の木バンドでのビバークを覚悟していたので、最小限のビバークセットをサブザックに詰めて出発。
 今回、基部へは前の週に入った有持氏のアドバイスに従い、強引に藪をこいで大洞穴ハング基部まで直登するルートをとったが、正規ルートはひたすら踏み跡を上に詰め、大凹角の基部の手前で左へトラバースしていく。すると、踏み跡がある。大洞穴ハング基部直下のスラブは濡れていて悪かった。
 大洞穴ハング基部までたどり着くと、広島には先行パーティーが取り付いていた。大阪ぽっぽの会の方だそうで、なんでも広島は4回目くらいだそう。「くらい」というのは、大洞穴ハングだけを練習しに何回か通ったそうで、なるほど登りは慣れていた。出だしだけ少し呼吸があわなかあったようだが、A3のハングをあっさりとリードされていた。しかし、荷揚げをするということなので時間はかかりそう。悩んだ結果、我々は追随をあきらめる。京都ルートを登ろうかと思ったが、そこまで心の準備はなく、大凹角をサクッと登って今日は大町の宿で宴会をしようということになった。
 大洞穴ハングから大凹角取り付きまでトラバース。最後の草付きは若干嫌らしい。

<大凹角取り付き。濡れ濡れ!>
 さて、基部について上を見上げると、なんじゃこりゃ!水がじゃんじゃんしみ出しているではないか。明け方まで降り続いた雨は相当な量だったらしく、大凹角は「凹角」だけあって激しくしみ出していた。でも、ま、大凹角ならこれくらいじゃないとおもろないわ!ということで取り付くことにする。12:00。
 1〜2ピッチ目、藤原さんリード。トポでは1ピッチ目は20mV・A1、2ピッチ目は35mVなので、つなげちゃうこととする。足りない分はコンテで飛ばす。藤原さんは1ピッチ目も余裕で、でも濡れ濡れなのでさすがにA0であったが早い早い。あっと言う間にロープが一杯にのび、コンテで原が続く。原もA0。2ピッチ目の終了点は洞穴テラスということだが、洞穴というよりは深いジェードルという感じだった。ピンも豊富で支点も申し分ない。
 3ピッチ目、原リード。トポではフリーでYであるが、ここまで濡れているとフリーという気もしない。アブミを出して時間短縮。途中から気持ちの良いフリー。乾いていたら下からフリーで挑戦したいピッチ。支点も豊富である。ボサテラス手前の支点でコール。単なる勘違いであった。
 4ピッチ目、藤原さんリード。3ピッチ目を原が少し手前で切ったため、若干長くなる。ボサテラスからバンドを左上する。途中、ホールドの乏しい一枚フェースがあって、楽しい。ジェードル手前でコール。

<3ピッチ目終了点(原)。>
 5ピッチ目、原リード。出だしのジェードルは濡れ濡れの上、ランニングが取れない。キャメロット0.5を一発噛ませ、上がる。濡れていて出だしの切り立った部分が悪いが、その後は簡単にザイルをのばす。上部はジェードルの左壁を登り、テラスに支点がある。ここでコール。
 6ピッチ目、藤原さんリード。ジェードルを一段上がると緩傾斜帯であるが、トポを落とし、フォローの原がこれを取りに一旦降りたため、結局10mくらいのばして切った。
 6ピッチ目(途中)〜7ピッチ目、原リード。緩傾斜帯の草付き/フェースを行く。ランニングは皆無で、簡単だけれど30mランナウトの濡れていている露岩は生きた心地がしない。とはいえ、切るのもなんなのでルーファイをしながらコンテで飛ばす。目の前には大チムニーが確認できるので、とにかくその基部を目指す。基部手前でリングボルト一本を発見。緩傾斜帯で大墜落もあり得ないし、なんといってもパートナーは藤原さんなので、これを支点として切る。
 8ピッチ目〜9ピッチ目、藤原さんリード。大チムニーのフェースを上がり、顕著なランペを左上する。トポではランペ手前で切ると書いてあるが、余裕でつなげられる。ただし、フォローは落ちると、すっげー振られるので要注意。A1のピッチであったが、藤原さんはA0でリード。スゴイ腕力。原もつられてA0でフォロー。
 10ピッチ目、原リード。チムニー状を人工で上がる。根性でA0で行こうかと思ったが、とうとう睡眠時間30分の身体が悲鳴をあげる。登っていても、なんだか夢の中にいるようでふわふわ。危ないのでアブミを出す。ところが、チムニーの壁を這い上がった後のフリーはどこまでもランナウトだった。若干嫌らしいところもあり、ちょっと緊張する。40mほどのばすと、右側にテラスが見え、這い上がると右稜の頭、終了点であった。灌木でアンカーを取る。15:00を少し回っていた。

<終了点で(藤原さん)>
 右稜の頭からは烏帽子岳等、後立の山々が見渡せた。標高が低いせいか、気温は高いが、唐幕の終了点はなんといっても爽快であった。後は右稜を降りるだけなので、大休止で体力を回復させる。原は睡魔との戦いであった。

 さて、右稜を下降する。頭から踏跡に沿って下るとシュリンゲが一杯かかった懸垂支点に出る。途中、スッパリ切れ落ちた部分があるので、夜間の行動は慎重にならなければならない。25m懸垂でカモシカの泊まり場へ。ここから若干クライムダウンし、数えて2つ目の懸垂支点から懸垂をすると丁度良い。そこからはひたすら懸垂を続ける。支点はしっかりしているし、明瞭なのでよほどの事がない限り見落とすことはない。草付きやブッシュ帯が多いので、結束は平行エイトをした方が良いだろう。藤原さんはフィギュアエイトも作らず、ただの一重で平行エイトを作っていた。ひたすら懸垂を続けていくと、右稜のコルに飛び出す。右手には大凹角の取り付きが見える。ここから大町の宿までは明瞭な踏み跡をたどればよい。

 大町の宿は天国であった。いままで色々な岩小屋に泊まってきたが、そのなかでも最高に快適だった。すぐ脇から水が取れるし、平らで雨はよけられる。我々はツェルトとマットを敷き、持ってきたビール350ml×4と酒1lで宴会。すべて飲み干し、程良く酩酊し、夜も更けたので寝た。広島を登っていたら、今頃ビバークだったから、くやしいけど、ちょっと得した気分だった。

 7月30日(土)晴れ

 早起きする必要もない。今日は下るだけ。ゆっくり支度をし、唐幕を瀬に向けて七倉へと向かった。途中、金時の滝は急峻なガリーを下った。高瀬ダムに降り立つと、夏空が広がっていた。とても暑かった。薬師の湯で汗を流し、うまい信州そばを喰って中央道を行った。藤原さんと広島リベンジを誓いつつ、明るいうちに東京についた。


 <総括>
 大凹角は唐幕入門編であるが、谷川の中央稜やバットレス四尾根に比べたら数段難しいので要注意。整備されてはいるが、ルートファインディングを誤るとタイムロスにつながる。また、緩傾斜帯はランニングは全くとれないので、注意が必要。ま、簡単だけれど。
 やはり乾いている時に登りたいと思った。フリーはすこぶる面白そうだった。

<右稜の頭から烏帽子岳を望む>















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