瑞牆山/大ヤスリ岩/ハイピークルート
(2002.8.25)
メンバー:雨宮、原
(ARIアルパインクラブ)


 夏の終わりにミズガキ山に行って来た。

 今年の夏はどうも天気は良いのにパートナーとの都合があわず、計画が消化できずに悶々として過ごした。行けたのは穂高くらい。他は天気が悪かったり、丹沢のランニングトレーニングに代わってしまったりと、なんとも気分の悪い状態だった。最後の週末もあやうく潰れるところであったが、なんとか雨宮さんがつき合ってくれるということ。それでも、日曜日の朝発・日帰りとなると登れるところは限られてくるわけで、アプローチがちかく、アルパイン気分が味わえて、短いルートはないかと想像を巡らせていたら、そういえばミズガキ山にハイピークルートと言う初心者ルートがあったな、ということを思い出した。

 ハイピークルートは、大ヤスリ岩というミズガキ山本峰のピークの隣にニョキっとそそり立つ岩塔である。ハイピークルートがある面の上部は本当に「塔」という形容がしっくりくるほど真っ直ぐにそそり立っている感じ。この最終ピッチは本峰からよく見えるため、本峰の一般登山者ギャラリーから丸見えで、登っている時にかけ声はかかるは、登り切れば大きな拍手は起きるわで嬉し恥ずかしのルートである。
 ハイピークルート自体はうまく切れば全3ピッチ、トポどおりで行くと4〜5ピッチ。いずれにせよ短い。グレードも大したことはなく、ピンやアンカーもしっかりしてなんとなくゲレンデ気分って感じではあるが、秩父山嶺のそれなりの標高にあるので気分は爽快である。パノラマも申し分ない。


 8月25日(日)

<出だしのクラック>
 早朝に横浜を出る。うちの御近所である雨宮邸に行き、パートナーの雨宮さんをピックアップし、朝のすいている16号から中央道を飛ばして須玉へ。須玉から信州峠を目指して進み、ミズガキ山への標識が現れるところで右折。一路、植樹祭広場に向かう。
 大ヤスリ岩は本峰の隣にあるので、富士見平小屋から入った方がどうやら近かったのだが、我々はそれを知らず、植樹祭広場の手前の路肩の駐車場まで進む。もう終わりに近づいたとはいえ爽快な高原の夏の早朝の空気を肺に吸い込み、しかしそれだけでは全然目の覚めない重い体を動かしつつ準備をし、カンマンボロンや大面岩に進む道に入る。原はアプローチシューズを忘れ、雨宮さんに借りたシューズでアプローチするが、これが結構具合が良かった。
 カンマンボロンを通り過ぎ、森の中の小径を進む。当初の読みが甘く、大ヤスリ岩を勘違いしていたため途中で関係ない岩塔を大ヤスリ岩と勘違いし、彷徨う。正確な地図を持っていなかったのも災いしたのだが、大ざっぱなトポと記録を解読し、結局富士見平小屋からの道との合流点までいかないとならないということに気づき、それからはズンズンと進む。こんなことなら富士見平小屋からアプローチすればよかった〜。
 ミズガキの山域に特有の、無数に点在する小岩塔から派生する小さな尾根をいくつか乗越し、富士見平小屋からの道に合流する。この道は途中で踏み跡が不明瞭になるので注意が必要。合流するちょっと手前の若干広場状になったところから左上にそそり上がっている岩塔が大ヤスリ岩で、顕著なクラックが上に向かって延びており、その末端がハイピークルートの取り付き。取り付きから見上げると、あまりスケールは感じられない。
 取り付きでのんびりしゃべりながら腹ごしらえして準備をしていると、3人組の後続パーティーが現れ、それからはちょっと慌てて取り付く。どうせ懸垂で戻ってくるので、靴や重たいものは取り付きに残置する。

1ピッチ目A1W:雨宮リード。3ピッチ目(最終ピッチ)はリードしたいと申し出たが、このルートは1ピッチ目と3ピッチ目(切り方によっては4ピッチ目か5ピッチ目)が面白く、真ん中のピッチはチンケであるため、ツルベで行くとなると美味しいところをすべて僕がいただくことになるので、結局1ピッチ目は雨宮さんに譲る。が、結果的には最終ピッチより一ピッチ目の方が面白かったのだが・・・。
 出だしは左側にへばりついている台状の岩とメインの岩壁との間に出来ているクラックを3mくらい登り、台状の岩の上にでる。そこかが上に向かって右にトラバースして、メインのクラックの中へ。このトラバースは一手が悪く、緊張する。クラックと言っても、入口は超ワイド〜オフウィドス・チムニーで、フットアンドバックでずり上がる。ザックが邪魔なので、あらかじめハーネスにぶら下げておくと快適に登れるかもしれない。ある程度上がったら幅も狭くなるのでクラックの外に出た方が気分が良い。クラック沿いにしっかりしたボルトが打ってあり、ランニングにも事欠かない。
 クラックからフェースに乗り移り、15mほどでアンカーが現れる。これを飛ばし、上に延びる顕著な岩溝に入っていく。岩溝に入ってからはずんずんと進み、右側の壁にアンカーも現れるが、ピナクル状の岩も豊富でどこでも切れる。岩溝が途切れ、開けた場所に出たところでコール。だいたい35mくらい。

2ピッチ目W-:原リード。どっちがリードしても良かったが、その時の体勢からそうなった。開けた場所を右に連なる岩峰に沿って進み、ところどころクラック〜リスの走る緩傾斜フェースに取り付く。まずバンド状を左上し、そこからは何処でも登れそうだけど、クラック〜リス沿いに進み、上部の狭い緩傾斜チムニーに入っていく。右側の台状の岩塔のてっぺんに達するころ緩傾斜チムニーが終わり、アンカーが現れここでコール。これをもう少し進み、右側の台状の岩塔の上に這い上がってから切った方が良いかも知れない。このピッチはせいぜいV+に感じた。カムも結局使わなかった。岩塔の上はいわゆる「広場」で、すこぶる広い。お昼寝にはもってこいである。

<3ピッチ目の垂壁>
3ピッチ目A1:原リード。いよいよギャラリー丸見えの垂直フェース。まず一旦右側の広場に這い上がってから、左側にそそり立つ壁に取り付く。壁は見上げると結構長く、爽快そうであるが、ま、ボルトラダーである。僕にはピッタリ!情けない・・・。
 壁は初っぱなから人工でアブミの掛け替えに終始する。ラインはほぼ真っ直ぐ。ところどころ遠いボルトもあるが、177cm+長い手の原には最上段もさほど必要なかった。ラインが真っ直ぐなので、ほとんどツイン様にランナーをとってゆく。途中でアンカーも現れるが、これを飛ばして大ヤスリ岩のてっぺんまで延ばせる。このピッチはミズガキ山の山頂から丸見えで、晩夏の夏山ハイクを楽しむ人々がこちらに気づき、興味深げに眺めている。もう、サーカス見物の様相で、「がんばれー!」だとか「こわ〜い」だとか叫んでいる。きっとこんなチンケなピッチでも、岩登りをやったことのない人から見れば「どうやって登ってるんだろう・・」ってなもんなんだろうな。アブミを掛け替えてるだけなのにね。でも悪い気はしない。自意識過剰だ。


   <大ヤスリ岩のてっぺんで:原>
 だいたい40m強で大ヤスリ岩のてっぺんにたどり着く。てっぺんもしっかりしたペツルのアンカーボルトが打ってあり、快適である。てっぺんにたどり着くとなんとミズガキ山山頂のギャラリーから大拍手。ひょえ〜って感じだったが、まんざらでもなかったので一応手を振って応える。雨宮さんを迎えて握手。更に拍手。晩夏とはいえ、しっかり夏の空気を残したピークは爽快だった。青空に浮かぶ雲はまだ夏の雲であり、そよぐ風も高所の気持ちよさであった。食事をしてのんびり休み。3ピッチ目を懸垂下降する。懸垂下降している間にまたもや拍手。広場に降り立つと、後続パーティーのリードが登ってきた。
 広場からは登ってきたルートと反対側のアンカーを使って一回懸垂すると、一般道の脇に降りられる。そこから一般道に沿って取り付きに戻り、ハーネスを解いて荷造りをし、昼を過ぎたとはいえ高い太陽の光が木漏れる中を車に戻った。



<総括>
全体としてピッチもそんなに難しくはない。強いて上げるなら、1ピッチ目の出だしは慣れていないと苦労するかな、という感じ。それから最終ピッチの垂壁の人工は、これもさすがに人工の練習をしていないと手こずると思う。普通の体型の人なら、最上段に立って微妙なバランスを取らなければならないところもある。アプローチもそんなに遠くなく、天気がよければ景色もよく、メチャクチャ爽快である。ミズガキ山入門ルートとして、また日帰りお手頃ルートとしては最適なルートでだし、一回登っておく価値はあるかもしれない。




<3ピッチ目の垂壁を懸垂下降する雨宮さん>



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