前穂高岳/北尾根W峰正面壁/北条=新村ルート
(2002.8.2〜3)
メンバー:恩田、原
(ARIアルパインクラブ)

 奥又白ノ池という池は有名だ。クライマーの聖地とか言われ、はたまた天上の楽園とか言われ、天国級のユートピアがそこにあるような印象があったが、僕はまだ足を踏み入れたことがなかった。
 奥又白ノ池は、主に前穂や北尾根東面に広がる岩壁に登るときのベースになる。前穂東壁は井上靖の小説「氷壁」の舞台となり、あまりにも有名であるが、井上靖が「氷壁」を書いたという徳沢からは、その壁のベースとなおるこの奥又白ノ池は見えない。一段高い台地状の場所にひっそりと水をたたえており、なんとも奥ゆかしい池だったりするのだ。

 前穂東面というクラシックな壁も一度は登ってみたい壁であった。かねてから右岩稜古川か北条=新村を登りたいと思っていたが、数年前の地震の影響で右岩稜古川が崩壊してしまい(最近JCCによって新たに整備されたようだが)、ではと、北条=新村ルートを前々から計画し、やっと実現した。奥又経験のあるオンちゃんがつき合ってくれることとなった。

<夏の岳沢>
8月3日(土)

 目処の立たない残業に、ああ〜こりゃあドタキャンか〜、と諦めモードであったが、夜中の23:00前に開放され、一目散に家に帰る。30分で用意をして、慌ててくる車に乗り込み、夜中の1:30に相模大野駅着。無事、恩田さんピックアップに成功!
 とはいえ、体調を崩し気味+連日の残業で、ありゃりゃまたもや扁桃腺が・・、ってな感じだったので、中央道に乗った後、釈迦堂PAで3時間爆睡。6時過ぎに目が覚め、ぎゃあ!といいつつ中央道を飛ばすも、みどり湖PAで再び1時間玉砕。原はシートを倒した後、3秒で寝息を立てていたらしい。
 そんなこんなで沢渡についたのが9:30過ぎ。10:00前のバスにのり、上高地に10:30。徳沢に向けて歩き始めたのは11:00前であった。こんなに遅くに山に入るのは初めてだったけど、ま、今日は奥又までなので余裕でしょうという恩田さんの言葉に励まされるのであった。

 夏のトップシーズンということもあり、明神や徳沢は人でにぎわっていた。徳沢まで一気に歩くと、早くもふくらはぎが張ってきて、うにゅ〜、大丈夫だろうか・・・、と不安になる。マッサージしてふくらはぎを柔らかくする。12:00過ぎ。
 奥又の水場は涸れていないと思うけど、念のため水を満タンにして12:30過ぎに徳沢を出発。新村橋を渡り、パノラマ新道を歩く。ちょうどその時間らしく、涸沢からのたくさんの下山者達とすれ違った。
 ガレ沢の脇の森の中の登山道を淡々と進み、パノラマ新道が右に90°曲がってガレ沢を横切るあたりが中畠新道との分岐。中畠新道へは、ペンキで「オクマタ」とか書かれている。そのマーキングの矢印の先の小尾根に取り付く。その左側が松高ルンゼ。
 小尾根に取り付くといきなりの急登。足の疲れを気にしながら、イーブンペースを保つようにゆっくりゆっくり進む。踏跡は思ったより明瞭で、マーキングも所々にあった。右側の中又白谷はまだ雪渓が残っていたが、上部のガレはとても悪そうに見えた。
 なぜか中畠新道に入る頃から雲が出始め、強烈な太陽の光を遮ってくれてありがたかった。が、汗はそれこそ決壊ダムのように流れ出てくる。良いダイエットになった。
 尾根が草付きの大斜面に吸収され、視界が広がるようになると、北尾根峰や峰の東面の岩壁が見える。雪渓はそこそこ残っており、しかし季節が季節なので上部に大きなシュルンドが走っている。奥又白ノ池の台地に上がるちょっと手前からW峰正面壁を観察。C沢を同定し、さらに甲南バンドを確認して北条=新村の取り付きを同定する。よく見ると、トポの概念図は岩場の特徴を如実に反映しているものだ。


<奥又白ノ池>
 取り付きが同定できたので、偵察は省略することにし、奥又白ノ池へ。台地に踏み上がるとすぐ目の前に突如池の水面が広がり、周辺にはそこだけ平坦なオアシスがあった。夏草が萌えながら風に靡いており、見上げると三本槍、前穂の岩壁がそびえ、開けた梓川側には常念山脈がたおやかに連なっている。いや〜、天国!本当に天上の楽園ってな感じだった。15:00。
 この日のテントは3張。すいていて快適だった。水場は下又白側についている踏跡にそって1分も下るとわき水が取れる。調理のための水を汲み、ツェルトを張って寝床を作り、大汗かいて担ぎ上げたビールで乾杯。燦々と降り注ぐ太陽のもと、上半身裸でグビグビ飲むビールはもう最高だった。マットを敷き、前穂の岩壁や入道雲がもくもくと大きくなる空を見上げながら、つまみを食いつつ、まどろみつつ、午後を過ごした。こんな快適なら一週間くらいいてもいいね。
 日が傾きかけ、睡魔が本格的になるころメシを食って就寝。ちょっとブヨがいたのには閉口した。今度は蚊取線香を持ってこよう。


8月4日(日)

 今日はW峰正面壁を登り、北尾根を上がって前穂から岳沢、上高地に下る予定。早出のため、3:00起床。軽く朝食を食べ、4:00過ぎにヘッテンを着けて出発。ほどなく明るくなった。
 中畠新道を若干戻り、踏跡が分岐するところで雪渓に向かって延びる上側の踏跡を取る。途中不明瞭になるが、上方を目指していけば確実だと思う。下方にも踏跡チックなのが走っているが、これは5・6のコルへの道。間違えると雪渓を延々と登ることになる。
 ガレた足場の悪い踏跡をトラバースチックに進み、雪渓に降り立つ。雪渓の手前でアイゼンを装着。オンちゃんも僕もフロントポイント付きの、それぞれ12本、10本のアイゼンを用意してきたので足下バッチリで快適に雪渓をつめる。上部のシュルンドはズタボロ寸前で、繋がっているところを縫うようにして進んだ。足下の雪がグラグラするところもあり、かなりヒヤヒヤした。雪渓が切れていて、そのままC沢へは入れないのでW峰基部に取り付き、基部をトラバースするようにC沢に入った。C沢の雪壁状に切り立ったシュルンドも、フロントポイントで余裕でクリア。一段上がり、松高ルートへの取り付き分岐と思われるところでアイゼンを外す。そのまま昨日同定した取り付き目指して上がる。すんなり取り付きにたどり着いた。
 用意をし、一休みして登攀開始。恩田リードでスタート。ということは核心の4P目は僕(^^)計った訳ではないが・・・。


<4P目 核心のハングを越える>
1P目 V 30m、恩田リード。取り付きの岩を回り込んで顕著なルンゼ状を上がる。が、最初はちょっと右側にラインを取る。ピンは少なめで、終了点近くで結構傾斜が立ってくる。ま、簡単ですが、Vって感じではない印象。30m程度でコール

2P目 V 30m、原リード。さらに上に延びているルンゼ状を忠実につめる。このピッチは本当にV。簡単。終了点もピンが3本のしっかりしたもの。

3P目 V40m、恩田リード。右側のフェースにもシュリンゲやハーケンが確認でき、そちらに進むもちょっと難しそう(というか、Vではなさそう)。戻って、頭上に顕著に延びているルンゼ状の続きを行く。こちらが正解。ピンもそこそこ出てくる。チムニーっぽいところに入る
あたりはW−は付くでしょう、って感じだった。チムニーから先も面白い登りがつづく。40m程度延ばすと、5人は横になれそうな広いテラスに出る。上部に核心ピッチのハングが見える。

4P目 WA1 25m、原リード。フリーでは10-だそうだ。出だしはフリーで数段上がるも、ハング越えはう〜ん、と言いつつアブミを出す(^^;フリーで越えるのは今度にしよう。ハングだけどピンの間隔も狭く、困難さは感じなかったが、久々のハングなのでちょっとスムーズでなかた。ハングを越えると切り立ったフェースを数歩右のトラバースし、右上する感じで上がるとビレイポイントが現れる。

5P目 WA0 25m、恩田リード。まず真横に数歩トラバースし、一段下に降りて更にトラバースしてカンテを越える。越えると立ったフェースのラインが上に向かっておりこれを進む。トラバースは嫌らしい。特にフォローはA0が効かず(回収するのだから当たり前(^^;;)なかなか恐怖体験だった。立ったフェースのラインを5m程上がると傾斜がおち、さらに10mくらい上がるとビレイポイントが現れる。ピンもしっかりしている。

6P目 V 40m、原リード。Vは出だしのフェースだけで、10mくらいでこれを越えると一気に傾斜が落ち、草付き混じりのU程度の登りをズルズルと続ける。ビレイポイントは適当なハイマツを使った。

 上を見るとU程度の登りがW峰に向かって延びている。あとは適当に登れるな〜と、ここでザイルを解く。9:00過ぎ。なかなか良いタイム。恒例の原のキジのため若干長めに休止。北尾根の登攀があるので、そのままハーネス、ギアはつけ、リッジ状をW峰に向かう。W峰ピークから若干X峰側にくだった肩で北尾根のラインと合流。W峰に上がると、V峰を登攀中のパーティーが1パーティーだけ見えた。渋滞はない。3・4のコルに降りる。
 V峰の登りで軽くザイルを使い(2P目は原が間違えて難しいラインを取ったため(^^;;;)、U峰の下りは懸垂もせずクライムダウンして前穂頂上へ。11:00過ぎだった。

 今日は朝からガスが多く、白い雰囲気の中の行動だったが、前穂の頂上も視界はきかない。でも、充足感に浸りつつ、やあやあとオンちゃんと握手。やはりピークはいい。
 大休止し、食事を取る。重太郎新道から続々と登山者が上がってくる。やはり夏なんだな〜と思う。写真を撮ってあげるときに、「そのギア貸して下さい〜」なんて言われてちょっといい気になる。

 12:00前に頂上を出て、重太郎新道を真っ逆さまに下る。本当にこの道は一般縦走路にしては急峻で、岳沢ヒュッテが真下に見える感じ。ビールが飲みたくて、一目散に下った。岳沢で生ビールをぐびっと飲み、更に上高地まで走る。大汗かいてうまいビールを飲むため。ビールのためなら疲れまくった身体にもびしびしとムチが入る。上高地はまるで休日の銀座状態。14:00前。2時間足らずで下ってしまった。缶ビールで乾杯。

 沢渡までのバスは長蛇の列で、おおよそ2時間半〜3時間待ちという。冗談じゃない!と往復のバスのチケットを精算してタクシーに乗り込む。そそくさと沢渡に降り、風呂に浸かって幸せ人となり、夏の午後の風に吹かれ、またもビールを飲みながらこの山行を振り返りつつ呆けた。


<総括>

 奥又は意外に近い。昼に上高地を出ても、余裕を持って明るいうちに着ける。初日に奥又の計画なら、早出の必要はない。ま、早く出て昼前に奥又に着き、のんびりのんびり過ごすという手もありますが。
 雪渓対策としては、ちょっと重たいかも知れないけどフロントポイント付きの(最低)10本歯アイゼンがお薦め。簡易アイゼンより行動は段違いに早い。
 視界が良ければ、前穂の東面をよく観察すれば取り付きは同定できる(無論、岩を見る目があれば・・・)。ただ、ガスっているときはかなり同定は困難だと思う。困難度も危険度も増す。
 北条=新村ルートはトポで感じるより登りごたえがあり、面白いと思った。核心をフリーで越えればもっと充実すると思う。ただ、ピンはさすがに老朽化している感じ。6P目より上はどこでも登れる。W峰のてっぺんを目指していけばよい。

 いやはや奥又の岩場は快適であった。今度は是非長期滞在したいと思う。


<W峰頂上で 左:原、右:恩田>











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