正月山行以来、7月からの留学に備えてTOEFLやらGREテストやらの受験勉強と諸準備に明け暮れていたのでろくすっぽ山にもいけず、2月に四十八滝にアイスクライミングに行っただけであった。このままだと本当に雪を見ずに終わってしまうなと思い、また5月の連休に黒部横断を計画していることもありそのトレーニングと雪の状態の偵察を兼ね、4月に爺が岳東尾根に入った。一緒に行ってくれたのは、四十八滝でも一緒に行ってくれた清水さんと、黒部横断を一緒に行くことになっている恩田さん。僕は日帰り余裕だろうと思っていたのだが、最終的にいや一応一泊の準備をしていこう、ということになりテントと炊事道具を担いで上がることとなった。
爺が岳は後立山連峰に位置し、鹿島槍の南側に位置している。鹿島槍は二つの顕著なピークがあるが、爺が岳のピークは3つである。山頂からは主に3つの主要な稜線を従えるが、扇沢側から中峰に突き上げる主稜線から大谷原方面に伸びる支尾根が東尾根。一応バリエーションルートではあるが稜線上に登攀要素は乏しく、初級者向けである。しかし八ヶ岳などに比べるとルートが長いこと、エスケープルートが乏しいこと、また雪が不安定であればナイフエッジの通過やセッピの処理など、バリエーションルートを行くための技術は必要になるので、初級者のレベルアップや後立の積雪期の入門ルートとしては最適だろうと思う。
<駐車場にて。恩田さんと清水さん>
2004年4月10日(土)
金曜日の深夜に横浜を出発し、恩田さんをピックアップして清水邸へ。ここで車を清水号に換え、一路鹿島を目指す。
鹿島集落に入るあたりで左手を注意深く見ていたのだが、鹿島山荘の取り付き口を見過ごし、大谷原の手前まで行ってしまう。引き返して鹿島山荘前の駐車場に車をとめ、準備をした。しかしこの駐車場は田んぼと公道の間にあり、明らかに私有地である感じがするがどうだろうか。私有地であるのなら、快く使わせてくれている地主さんに感謝である。
6:00前に出発。駐車場の裏手から鹿島集落を突っ切り、鳥居をくぐって沢を遡行するように藪の中を進む。すると踏跡らしきものが沢を左岸に渡るところあたりで右上からガレ沢が急激に落ち込んでおり、このガレ沢沿いにトレースが現れる。ここまで10分くらいであるがふみ跡が不鮮明なので少し迷うかもしれない。
いきなり結構な急登であるが、ウォーミングアップには丁度良い感じ。この斜面の雪は大方解けていて、ザレた砂の道は非常に歩きにくかった。30分ほどの急登で稜線に出て、ここからは樹林帯の尾根を進む。ところどころ腿あたりまではまる雪がわずらわしいが、まだ体力も十分で気持ちが良い。尾根はたおやかでかつ明瞭で、ところどころマーキングも現れるので迷うことはない。身体も温まってきて樹林帯を吹き抜ける風が気もち良い。ところどころ休止を交えて高度を稼いだ。
<爺が岳を望む>
しばらく登り続け、いい加減パノラマのない樹林帯の急登りも飽きたな〜というところで丸山から伸びる顕著な稜線に出て、少し行くと1,777mピークに出る。ここから一気に展望が開ける。行く手には爺が岳が大きくそびえ、右には鹿島槍がたなびく雲流を従えていた。上空の気流は荒く、おそらく山頂付近は相当な風が吹いて良そうだった。
それからもしばらくはノーアイゼンで進み、1,978mピークを過ぎたあたりでナイフエッジが出てきたのでここでアイゼンを装着。さらにしばらく行くと少しギャップ状になったナイフエッジが出てきた。今回はノーザイルでもいけたが、支点となる潅木にはシュリンゲが一杯かかっていたので雪が不安定なときや天候が悪い時にはザイルを出すのだろうと思う。
<ジャンクションピークへの最後の登り>
しかし今回の山行では恩田さんが絶好調で、途中で「トップ代わろうか?」と申し出ていただいてからジャンクションピークまでずっとトップで突っ込んでくれた。雪稜ではところどころ腿まではまるラッセルになるところもあったが、ペースも早く、本当に絶好調であった。
核心を越えると雪稜は延々と続き、ところどころ雪が腐っていやらしい斜面も出てきたがだましだまし高度を稼ぎ、扇沢からの主稜線に東尾根が飲み込まれるところからさらに急登となる。稜線に出てからは我々がトップでトレースも何もなく、主稜線の急斜面のバージンホワイトにアイゼンを突き刺すのは結構爽快だった。急登を超えると主稜線上のジャンクションピークに到達する。
ここで作戦を練る。一応当初は1泊して赤岩尾根を下ろうかということになっていたが、時間は昼前だったので日帰りすることに決定。重たいテントや炊事道具などはここに残置し、ピークを往復する。恩田さんは水は行動食をすべてポケットの中にしまい、空荷であった。
ジャンクションピークから爺が岳の頂上までの稜線は広く、視界さえ確保されているのであればとても気持ちの良い稜線である。今回は曇天高曇りで、上空の風が強く、怪しげな雰囲気がかもし出されていたが、ところどころクラストした雪面が登り易かった。ただ、視界が悪いときには広いので少し注意が必要かもしれない。まあ、斜面を上がる感覚を失わずに進めばかならず爺が岳の山頂にはたどり着くはずだが。
頂上直下で左に回りこみ、ハイマツ帯を抜けいよいよ傾斜が急になった斜面を一登りすると爺が岳の中峰の山頂である。視界は本当に360度に広がる。しかし今回は風がとてつもなく強く、少し下がったところで休止を取った。
<山頂から一目散に下る>
さて、風も冷たいので休止もそこそこに下降する。クラスとした雪面をガシャガシャ降り、登りの1/3くらいの時間でジャンクションピークへ。荷物を纏めているとしたから7人くらいのパーティーがやってきた。装備からして1泊で冷池を回るのだろうと思う。我々はそそくさと荷物をまとめ、一目散に下る。時折アイゼンの裏の団子を落としつつ、ガシャガシャと進み、水と、下界に降り立ったら捨ててしまうであろう行動食を消費せんとむさぼりつつ、結局山頂から鹿島集落まで2時間半程度、全行動時間9時間程度で降りてしまった。
<総括>
鹿島山荘の裏手の鳥居付近から、急斜面への取り付きまでが踏み跡が不明瞭で少し分かりにくいかもしれないが、地形図を頭に思い描きつつ進めば見つけられると思う。この踏み跡にたどり着いてしまえば、その後は明瞭で迷う心配はない。
稜線上には登攀要素はほとんどない。今回もノーザイルで余裕だった。ただし、新雪期であれば下部の樹林帯のラッセルは相当なアルバイトになるであろうし、ナイフエッジももっと不安定になるだろうと思う。季節によっては、心配な箇所はアンザイレンして進んだほうがよいと思う。
テント場は1,978mピーク以降は乏しいとのことだったが、はっきり言って核心部を除けばなんとかどこにでも張れてしまう感じはした。しかし稜線上に現れる各ピークは広く、整地をすれば相当快適なテント場になるし、特にジャンクションピークは格好のテント場である。
ジャンクションピークから爺が岳までの稜線は広いので、積雪期でトレースもなく、さらに視界が悪いときには注意が必要である。むやみに進まない方がよいかもしれない。
雪の安定した春であれば、天気さえよければそれこそ後立の大パノラマが堪能できる。白馬主稜や鹿島槍の東尾根に比べると相当簡単だが、一度トレースしても良いと思う。