鹿島槍/東尾根〜北俣谷スキ−滑降
(2001.3.24)
メンバー:有持、前田、原
(ARIアルパインクラブ)

 憧れの鹿島槍にスキーを担いで登ってきた。東尾根は普通は1泊か2泊するルートだが、いつもの攻撃的なワンデイにトライ。下りのバックカントリースキーはさすがに体力的にキツく、日没後の下山になったが、久しぶりに燃え尽きたという感じの山行だった。
 バックカントリースキーにはまりそうである。

<大冷沢を詰める。朝日に照らされる布引岳>
 3月24日(土)晴れ

 明け方の4時半に大谷原に到着。仕事が「かきいれどき」で週中に徹夜混じりの原は寝不足を理由に運転をサボる。おかげで車中でちょっとは睡眠を稼げた。
 まずは今日のために買ったロシニョールの88cmのショートスキー「フリートレック」の調整をする。そんなもん家できちんと調整すべきなのだけど、暇がないのでしょうがない。二人を待たせつつ、プラブーツにビンディングを合わせる。そう、今回が初滑走。なのに鹿島槍のてっぺんから滑り降りるのだ。我ながら「無謀」すれすれのチャレンジだなあ。ま、せいぜいうまくやろう。
 調整を終え、ザックにスキーをくくり付けて出発。5:30。ワンデイの予定なので、ビバーク装備はフリースとシュラフカバーだけ。スキーを担いでもさほど重さは感じなかった。
 林道を大冷沢(おおつべたさわ)左俣沿いに取る。今年は雪が多かったが、やっぱり大量の残雪が林道を覆っていた。しばらく行くと右斜面にマーキングが現れる。ここが東尾根の取り付き。かなり末端に近いところから取り付く。
 トレースがあるのでラッセルの必要はなく、稜線に出てからはぐんぐんと高度を稼ぐ。残雪のブナ林を分け入るのはとても穏やかな気持ちだった。が、すでに気温が高く、汗が噴き出してくる。こんなに気温が高いと上部の雪壁の状態が心配だ。


<第1岩峰をリードする有持さん>
 淡々とブナ林を縫うように進むと、森林限界を迎え、一の沢の頭にたどり着く。このピークは広く、テントが数張りは張れる。スノーブロックを積み上げたテント跡があった。
 眺望は満点なのだが、肝心の鹿島槍の姿は見えない。かなり奥ゆかしい山で、東尾根を詰めていると、最後のジャンダルムである荒沢の頭に立たないと頂上は見えない。
 一の沢の頭から一旦ギャップに下り、小ピークをいくつも越え、二の沢の頭、第1岩峰、第2岩峰と続いている。右よりには天狗尾根も眺められる。天狗の鼻が緩やかなピークを描いていた。
 アップダウンを繰り返し、二の沢を越えて、第1岩峰基部にたどり着く。第1岩峰基部にもテントが張れる。
 第1岩峰は雪がべっとり残っていた。気温が高く、かなり緩んでいて悪いだろうから、アンザイレンすることにした。有持さんがリード。我々は雪の状態が悪そうだったので基部の平らな部分でスタンディングアックスでビレイしたが、10m程上がった灌木に残置シュリンゲが見え、ここをアンカーにしても良いだろう。ここからなら50m丁度で上部雪壁まで出ることができる。我々は、ザイルを二本つないで上までのばした。終了点もスタンディングアックスで取る。
 登ってみると第1岩峰は悪かった。気温が高く、雪壁が強烈に緩んでいる。先行者が付けたステップも、簡単に崩れる。精神衛生上、とてもよろしくなかった。
 終了点から稜線を目指して雪壁を行く。季節が進めばここの雪も落ちて、ハイマツ帯になるのだろうが、まだ傾斜の緩い雪壁であった。第1岩峰よりは傾斜が緩いので、雪の緩みもあまり気にならなかった。稜線に上がると、ところどころ荒沢側に強烈に雪庇が張り出したナイフエッジとなり、第2岩峰にたどり着く。第2岩峰は思ったより立っていた。


<第2岩峰をリードする原>
 さて、例のごとくイチローとリードじゃんけん。せっかく後輩がリードしたい!と言っているのだから譲れよ!という感じだが、いやいや、甘えさせてはいけません!結果、原が勝ち、リードをもぎ取る。
 岩峰基部には数段上がったところに何本かハーケンがあり、アンカーにできないこともないが、まだ雪がべっとり残っているので、不安定な岩間より安定した雪面でスタンディングアックスビレイをすることとした。
 ピッチ上はランニングは豊富にとれる。ただ、ハーケンの頭がつぶれていたりするので、細めのシュリンゲを多めに持っていくと役に立つ。数段あがって、チムニー、というより凹角に入っていく。核心部は若干かぶり気味だが、ガバガバで問題はない。いざ登れなくなってもお助けシュリンゲが嫌と言うほどかかっているので初心者でもなんとかなる、と思う(責任もてませんが・・・)。スタンスが取りづらいかもしれないけど、思いっきり足を広げれば快適に越えられる。核心を越え、2手くらい嫌なところがあるが、ま、問題はない。岩峰のてっぺんにはシュリンゲがたっぷりとかかったアンカーがあり、ここでコール。だいたい30〜35mくらい。
 フォローの二人もがしがしと登ってきた。時刻は14時を過ぎ、そろそろ陽が傾き始めるので先を急ぐ。相変わらず高度感もあり最高に気分の良い雪稜を進み、荒沢の頭へ。ここで鹿島槍のてっぺんと北壁が見える。陽が陰り、光の射し込まない北壁は、なんとも不気味な印象だったが、下部につづいているカクネ里は谷間に開けており、なんとも柔和な印象だった。ほんとうに妖精の集落でもありそうな気分だった。
 最後の急登を経て鹿島槍の北峰に到着。北峰の頂上はかなり狭い。ゆったり、という感じではなかった。15:00過ぎ。

<鹿島槍北峰への最後の登り>
 さて、これからスキー大滑降なのだが、まあ、ピークまで来たので記念撮影などをし、行動食を取って作戦を練る。さて、どこから滑るか。第1岩峰のあたりの雪の状態では、ちょっと滑るのはごめんだな〜と思っていたが、陽が陰ったので雪もしまり、大丈夫だろう。
 東尾根上の北峰からちょっと下がったところから北俣本谷側にエントリーできるところがあったが、北峰直下にもエントリーできそうなところがあったので下ってみる。しかし、ここは雪面から15cmくらい下に弱層があり、ボツ。しかたないので南峰の方へ進む。疲れている足には、吊尾根の小さなアップダウンも身体に堪える。
 南峰までの吊尾根上にもエントリーできそうな場所がなく、スキーで滑り降りるのは無理かな、と半分あきらめかけていると、南峰基部のルンゼ状にエントリーできそうな場所を見つけた。ここは南峰の陰に隠れていて完全に陽が陰っている。雪も締まっている。若干アイスバーン気味だけど、なんとかなるだろう。途中に滝があったら・・・・。ま、スキーを脱いで懸垂でもするか!
 ってな感じでスキーに履き替え、準備をする。有持さんは「何かあっても恨みっこなしね」なんて言っていたが、何かあったら死んじゃうんだから、恨んでいる暇はない。

<滑降中、一休みする有持さん>
 さて、エントリー。いきなり50°くらいの傾斜で、しかもアイスバーン気味なのでビビる。斜滑降でエッジングしてなんとか降りようとしたが、コワイのでうまくいかない。結局、初っぱなのバーンはスキーで滑ったのか、尻で滑ったのかわからないような状態だった。
 100mくらい滑ると、左からルンゼを合わせ、傾斜も若干緩くなる。でも、両岸の岩壁からの小雪崩れでデブリができており、滑りにくい。
 その合流点の下は傾斜がまたきつく、完全にアイスバーンになっているので念のためアイゼンに付け替えてしばらく下った。アイスバーンが終わり、傾斜が緩めになったところでまたスキーに履き替え、滑降。だいぶ慣れてきて、転びながらだったけどターンも決められるようになった。こうなると楽しい!暮れなずむ北俣本谷は気温も下がり、雪崩の心配ももうない。表面はふか雪がうっすら乗っていて、不整地のバックカントリーだけど快適だった。ま、ところどころデブリが出現し、ボーリング球大の雪塊がゴロゴロしているところがあり、そんなところで派手にこけるとひどく痛いのだけどね。
 風を切りながら進み、傾斜も十分緩くなると中岩沢を合わせ、二の沢を合わせ、西俣出合にたどり着く。ここら辺になるとところどころに堰堤が隠れていて、不用意に滑ると大ジャンプすることになるので注意が必要。もう完全に日没してしまった。
 大冷沢沿いの林道になってからも緩く下っているのでスキーで進む。ヘッテンを照らしながら、木々をよけながら(^^;;;森の中をスキーで進むのはなにやら異様な面白さだった。
 結局、駐車場までスキーで降りれた。時刻は19:00過ぎ。まずまずのタイム。バリエーションからの登頂、スキーでの北俣本谷滑降、ワンデイと、充実しまくりの山行でみんな満足。がっちりと握手をし、薬師の湯に浸かり、食事をし、真夜中の中央道を東京に向かった。

 〜総括〜
 この時期の東尾根は登りやすいと思うが、今回は気温が高すぎるのを除けばベストだったと思う。ただ、この時期でもまれにある大雪の直後であれば東尾根下部は相当のラッセルになるのでワカンは必携だし、日程的にも1泊〜2泊は見た方がよい。
 東尾根の取り付きは一瞬「え?ここ?」というところだが、マーキングがあるので注意深く右の斜面を観察していれば見落とすことはないだろう。そこからぐんぐんと稜線に向かって行けばよい。稜線に這い上がれば、あとは明瞭。稜が顕著なので、トレースがなくでも迷うことはないと思う。
 東尾根下部にもテントが張れるところは数カ所あったと思う。また、一の沢の頭は広いので、数張り張れる。第1岩峰までも何カ所かテントが張れるスペースがある。要するに、第1岩峰まではテントサイトは豊富である。しかし、第1岩峰より上はテントは張れない。ビバークできる場所といったら、第2岩峰基部くらいだろう。ちなみに、北峰と南峰の間の吊尾根上は結構テントも張れると思う。
 第1岩峰は雪がべっとりついていて悪かったが、雪がなければノーザイルでも行けると思う。第2岩峰は技術的には難しいことはないが、ロングルート上部にあるロッククライミングピッチなので、その時点で残されている体力、精神力などによってグレードはいかほどにもなる。経験の浅い人がいる場合には、細心の注意が必要だろうと思う。
 全体的に荒沢側に張り出している雪庇には注意が必要。
 今回は北俣本谷を滑ったが、気温が高く、緩んでいる時には、すくなくとも僕はエントリーする気にはなれない。また、当然だけど、降雪後間もなく、まだ完全に枝沢から雪が落ちてない時にはエントリーしないこと。でも、とても気持ちの良い谷だったので、チャンスがあったら是非滑ることをお勧めする。
 足が揃っていればワンデイも十分に可能だが、赤岩尾根を下るとなると相当なアルバイトになるのでさらに時間がかかるだろう。1泊か2泊で予定を組めば、余裕をもって後立を楽しめると思う。


 

<東尾根上の我々のトレース。荒沢側に雪庇が発達している>


















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