丸山/東壁/緑ルート(1999.10.2〜3)メンバー:大野、原(ariアルパインクラブ)


 丸山東壁/中央壁/緑ルートに行ってきました。

 遅い先行パーティーと夕刻からの悪天のおかげで中央バンドまでとなりましたが、中央バンドに抜ける最後のピッチで、アイアンマンの8ピッチ目を登ったため、充実した登攀となりました(単なるルート・ファインディング・ミスという噂もある(^^;;;)。


 10月1日(金)
 原は急行アルプスで信濃大町へ向かう。秋のシーズンだから車内は結構混んでおり、指定席のデッキにも人が寝ていた。大野は車で直接扇沢へ。

 10月2日(土) 晴天

 この時期、扇沢から黒部ダムまでの一番のトロリーバスは朝7:30発。信濃大町からのバスは6時前には到着してしまうので、かなり時間がある。着替えをし、歯を磨き、コンタクトレンズを入れ発券を待つ。大野女史は道路トラブルに見舞われ7時頃の到着。スシ詰めのトロリーバスで黒部ダムへ。
 バスを降り、黒部下流へ向かうトンネルから外にでるとやはり晴天。この標高では紅葉はまだだった。クライマーとおぼしきペアが登山道を行くのを見て我々も慌てる。一路黒部渓谷を内蔵助谷出合まで急ぐ。
 内蔵助谷出合から真砂方面へ向かうと道は登りになり、程なく黒部の巨人、丸山東壁がドーンとその姿を現す。思えば初めての本チャンがこの丸山東壁(開拓!)であった。改めて見上げるとやっぱりでかい。国内最大級のビックウォールだけのことはあるなあと実感。
 基部へはそのまましばらく登山道を詰めれば良いのだが、原が変なところを中央壁へ直登しようとして迷い、時間を食う。結局この間に1パーティーに抜かれ、緑の取り付きに着いたときには2番目であった。先行パーティーが行くのを待って登攀開始。
 緑ルートはうわさ通りのボルトラダーであった。一ピッチ目こそフリーが所々混じるが、その後は過剰なまでのボルト連打に唖然。最上段への立ち込みも数えるほどであった。
 しかし、このすっきりしたビックウォールの高度感と眺望は抜群であった。昨夜のアルプスで冷え、風邪気味で頭ガンガン状態であったが、眼下に広がる黒部の景色を見ているだけですっきりしてくるようだった。というのは気のせいで、やっぱり頭は痛かった。ビレイポイントで病人の様な顔をした原に見かねた大野が、持参のバファリンをくれた。それを服用。ビレイポイントで薬を服用するヤツなんていねえよなあとつぶやきつつ、次回からは救急セットの中にバファリンを加える事を決心するのであった。でも、この薬のおかげで頭痛は軽減しました(でも、相当つらそうな顔をしていたらしい(^^;;;)。
 三日月ハング手前のピッチを大野リードで登攀中、右から1パーティー割り込んできた。彼らは確か扇ハングルートに入っていたはず。ハングの手前で降りてきたので「あれ、おかしいな」と思っていたのだが、なんと緑ルートに割り込んでくるとは・・・。聞けば緑に行く予定だったのにルートファインディングをミスり、扇ハングルートに入ってしまったとのこと。おかげで我々は3番目になってしまった。勘弁してほしい!
 さらにこのパーティー、すっげー遅い!三日月ハングではフォローが「登れません〜!」と泣きを入れ、立ち往生。仕方ないので、すぐ後ろをリードしていた原が手取足取りのハング越えレクチャーをし、やっと越えてくれた。これで上部大ハングを行くつもりだったのだろうか。「要修行」と、宮川氏がいつも僕に言うセリフを思わずつぶやき、先を急ぐのであった。ちなみに三日月ハングは安定したボルトが過剰に打ってあり、全然余裕。
 三日月ハングの先の1ピッチもボルトラダー。大野リード。原はセカンドでビレイポイントにたどり着くと、先行パーティーのトップが次のピッチで詰まっている。「あのリード、さっきフォールしてた」と大野女史。緑でフォール?そんなに悪いのだろうか?それとも単に下手くそなだけなのだろうか?
 相当時間をかけ先行パーティーが抜けていき、それを見やって原がリードで取り付く。デカいフレークをつかんでそれを乗越し、先行パーティに倣ってそのまま左へトラバースしていった。
 これが運命の分かれ道。実は正規ルートはここを左の草付きの中に紛れたボルトを辿るのであった。先行パーティのルートファインディングミスにつられてきちんとトポを確認しなかったのが悪かったのだが・・・。
 右へのトラバースもちょっと嫌らしい。不安定な草付きにおそるおそる足を出し、そこからリングボルトにアブミをかけ、上を見上げる。
  ・・・・。
 ピンがない。
 おかしい。緑はボルトラダーのはずなのに。
 もう一度よく見ると、なにやらネジ(あの、日曜大工とかに使うもの!)が埋め込んである。しかも、頭が下に向いている。
 あれを使うのだろうか・・・。それ以外にない。でも、そんなプラスのネジの頭にかかるものと言ったら2の細引きだけだった。これを使うしかない。しかしリングの吹っ飛んだボルトの穴にかける訳ではなく、あんなに下を向いたネジの頭にかけるにはタイオフしなくてはならない。
 おそるおそるアブミの最上段に立ち込み、両手を壁から離してタイオフを作り、ネジの頭にかける。それにアブミをかけ、じわりと乗り、アブミを動かさないように上に上がる。
 次も同じ様なネジ。ところが今度は最上段に立ち込んだだけでばタイオフが作れない。仕方がないので細引きを引っかけ、アブミをかけ、アブミごと細引きをねじって気休めの固定。はずれない様にじわりと乗る。
 その上のネジもタイオフが作れず、細引きをねじってのる。そしてほぼ垂直の岩のカチホールドを手がかりにアブミのリストループ(!)に立ち込み、カンテを乗越すような感じで小さな草付きスタンスへ恐る恐る立ち込む。その上もホールドがなく、悪いフリーを一歩かましてやっとリングボルトにたどり着く。ここにシュリンゲをかけて下に残置してしまったアブミを回収。回収したついでに、ネジにかけた細引きを全てタイオフにかけ直した。
 ふ〜っと一息ついて上を見上げると、またネジであった。もういい加減にしてほしい!と叫びたくなるが、こんなところクライムダウンできる訳がなく、上に抜ける以外にない。しかしここが核心で、まるで小川山の水晶スラブの様なところをフリーで2ムーブ入れないと上のネジに届かない。こんな高度感バリバリのところで、しかもランニングも満足にとれないところでフリクション登攀なんて・・・。本当に清水の舞台から飛び降りる覚悟で足をあげ、でも、こんな体制でタイオフなんて出来ないので苦し紛れにエイリアンの柄をネジにかけ、それにアブミをかけてジワリと乗る。その上がやっとリングボルトであった。ここにフォロー用のお助けシュリンゲを残置。でも、大野はこれを使わずにクリアしたらしい(さすが!)。
 やがて傾斜が落ちてきてフリーに入る。最後の一歩も悪く、フリーに変わるところでアブミを残置。回収しようかなと悩みつつ、ま、その下も遠くて悪いからお助けアブミということで!、とか言い訳をしつつ(^^)そのまま残し、フリー&ランナウトのスラブを急いで終了点へ。日没間近であった。
 ちなみにフォローの大野もノーテンでこのピッチクリア。しかも、細引き一本以外は全部回収成功でした。

・・・・・・結局、このネジラダーは、「アイアンマン」の8ピッチ目の後半であった・・・。思わぬピッチを登ってしまい、怖かったけどおかげで大ハングを登らずも充実したのであった・・・・・・・・

 天気は今夜から崩れるという。すでに空には怪しげな真っ黒の雲が立ちこめている。明日の登攀は無理だ。大ハングを見上げると、ランニングさえしっかりしていれば大したことはねえじゃねえか!とくやしまぎれに吐き捨て、ホテル丸山を見学して同ルートを5ピッチの懸垂下降。1ピッチ下ったところで完全に日没。それからはヘッテンでの下降となった。

 この懸垂でテクニカルに特記すべきことが2つばかり。

 垂壁の連続下降であったのでロープはピッチ毎に一々束ねず、重みを利用して下にのばしていったのだが、ちょうど3ピッチ目の下降(三日月ハングのところ)時に、岩角に片方のロープが岩角に引っかかってしまった。暗い中での懸垂だったのでなかなか気づかず、しばらく下降を続けてようやく気づく。下降を止め、ちょうどハングの下だったので振り子気味に岩にはりつき、一番近いリングボルトに近づき、アブミをひっぱり出してリングボルトに掛け、懸垂ロープを仮固定して止め、フィフィで体を安定させて引っかかったロープを直した。
 もし気がつかずに下降を続けていたら事故に繋がったかもしれない。垂壁での懸垂下降時のこういった動作は確実に練習しておいた方が良いなあと思った。でも、あんまり練習できるところってないか?(^^;;;三つ峠の「セストグラフィティスト」を懸垂下降して練習?

 その下、4ピッチ目の下降時、セカンドで降りてきた大野が「上で結束がゆるんでいたから締めてきた。もう一度確認した方がいい」とのこと。ロープを引くとなんとスクエアー・フィッシャーの「フィッシャー」の部分がほどけていた!あ〜、おそろし。連続下降の時のビレイポイントでは結束を一々確認することも大切だと思った。

 下まで懸垂下降をしてホッと一息。最初は体調が悪くどうなるかと思ったが、大充実の登攀だった。

 歩き出すと雨が降り出した。下降は正解だったなと思いつつ、内蔵助谷の脇にテントを張った。翌日、朝8時まで爆睡したおかげで体調はバッチリ!時折雨がぱらつく雲の中の黒部峡谷は、今にも仙人が出てきそうな雰囲気だった。

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