ミディ/コスミク山稜とその夜の珍事

2001.7.30


 ミディへ

 朝一番のケーブル(6:00発)を捕まえるべく、4:30起床。サマータイムが適用されているのでまだ真っ暗。6:00でも薄暗いくらいだった。適当に朝飯をたべ、行動食としてゆで卵を人数分つくり、昨日買っておいた水を沸かしてお湯を作りテルモスに注ぐ。みんな出発の心地よい緊張感に浸りつつ、準備を進める。

 アパートの鍵を閉め、ミディ・ケーブルの駅に急ぐとすでに登山者でにぎわっていた。チケット売り場にはすでに列が出来ており、我々は「既予約」の列に並ぶ。
 6:00にチケット売り場が空いたと思ったら、同時にケーブルが動き出した。当然、一番のケーブルに乗れる者はいない。6:00にチケットを売り始めるのだから当たり前(^^;;;でもケーブルは行っちゃう。日本だったらせめてチケット売り場は5:45頃に開くところだが、ヨーロッパとはこういう国なんだね〜。昨日、一番のケーブルを予約したはずなのに手渡された引換券は6:20発のものでおかしいな〜と思っていたが意味が飲み込めた。
 さて、ケーブルでミディ山頂へ。途中の駅(ブラン・デ・エギーユ(plann de l'aiguille))で一回乗り換える。ケーブルはどの便も満員。でも、早朝の便にはさすがに観光客は乗っていなかった。
 ミディの山頂駅(3800m)に到着し、装備をつける。ケーブルの駅の二階のレストランで焼きたてのパンを買い、行動食に足した。


<タキュル/ノースフェーストライアングル
三角形の左辺がレフト・エッジ>

 モン・ブラン・デュ・タキュル/ノースフェース・トライアングル〜転進

 山頂駅のトンネルをくぐり、シャモニ針峰群側にある展望台からバレ・ブランシュの大雪原に下りる。トレースがバッチリついているので安心だったが、途中でバックリとクレバスが口をあけており、ちょっと緊張。
 大雪原からは目指すタキュルのノースフェース・トライアングルが正面に立ちはだかっている。その上にタキュルがそびえ、右奥にはモン・モディが見えた。左遠方にはグランドジョラス/ノースフェースが間近に見えた。これまで写真でしか見たことがなかったので、憧れの「生ジョラ」はちょっと感動だった。
 タキュルへのノーマルルートを左側にそれ、トライアングル基部を目指す。傾斜がきつくなってきたところで、タイトロープビレイで進む。オーダーは雨宮・豊山・前田組と原・石崎組。
 トライアングルを左に回りこみ、傾斜がさらにきつくなってきたところでシュルンドを一つ越す。すでに斜面がせりあがっており、クラストしているところはアイゼンの前爪で立ちこまなければならないくらいになった。
 と、前を見ると豊山が遅れている。ちょっときつそう。さて、そろそろスタカットしますか、というところで前の3人に追いつくと、やっぱり豊山が苦しそうだった。標高は3500mくらいだけど、一気に3800mまで高度を上げたので高度障害が出たようだった。でも、他のメンツはケロっとしていたので、おそらく体質なのだろう。初日だし無理は禁物。というわけで、早めに帰る僕と豊山はトライアングルをあきらめ、グレードの低いミディ/コスミク山稜に向かうことにし、2パーティーに分かれた。


 ミディ/コスミク山稜

 バレ・ブランシュの大雪原に戻り、とりあえずタキュルのノーマルルートに足を向ける。今日、ある程度この高度で運動をし、高度順化しておいた方が良いと思ったので、大体ミディの頂上と同じくらいの高さまで息を切らしつつ上がる。そこから再びバレ・ブランシュに降り、今度はミディ/コスミク山稜(Aiguilles du Midi/Arete des Cosmiques)を目指す。
 通常、コスミク山稜に取り付くには、バレ・ブランシュからミディのコルに上がり、そこから取り付くようだが、せっかくコスミク山稜の末端に近くにいるのだから末端近くから取り付くことにする。雪面を適当なところから上がり、途中から岩場が出てきて2級〜+程度のミックスとなる。とにかく天気がよく、手のひらに当たる岩の感触が最高に心地よかった。
 リッジに這い上がり、さらにミックスの岩稜を行くと、コスミク小屋のテラスにぶちあたってしまった。左右はすっぱり切れており、どうやら先に進むにはこのテラスから小屋を通り過ぎなければならなそう・・・・。テラスには人がたくさんやすんでおり、ちょっと気が引けるが仕方ない。テラスをつっきり、小屋の食堂を横断して玄関から出た。小屋のお姉さんは不審そうであったが、ここはJapanese smileで切り抜ける。


<ミディのコルからコスミク山稜を見上げる>
 小屋を出てミディのコルへ。ここで一休み。ここから一気に傾斜が急になる。
 とりあえずスタカット。原オールリードでスタート。ルートの様子を見つつのぼり、行けそうだったのでロープがいっぱいに伸びたところでコンテにした。最初は雪壁だったが、すぐに2〜3級程度のミックスとなる。途中、少し悪い場所に出たところでアンカーをとり、セカンドをビレイしてスタカット。そして、悪場はビレイしてもらってクリア。そんな風にコンテとスタカットを交えつつ、高度を稼ぐ。ちょうど冬の甲斐駒を少し難しくしたような感じだった。
 もう、何ピッチ登ったか分からないくらいのところで、小ピークに立つ。ここから20m懸垂×2。二回目の懸垂はクーロワールに落ち込んで行き、ロープの先が見えないので不安だが大体20m。懸垂の終了点から大きなピークを回り込むように進み、急竣なルンゼへ。雪壁は気温が高いせいでグサグサになっており、嫌らしい。ピッケルのシャフトを使い登るも、あまり生きた心地がしないので急いで上がる。
その後も2〜3級程度のミックスが続き、小広いコルに出たところで小休止。ここからがコスミク山稜の核心。
 出だしは切り立ったフェース。見たところ壁に雪はなく、みんなアイゼンをはずして登っているので我々もそうする。バットレスでのトレーニング、やっといてよかったな〜などと思う。
 先行はガイドパーティーなのだがなぜかアメリカ人の客がリードしていた。ガイドと話をすると「彼がリードしたいと言うので・・・」とのことだった。でも、結構てこずっている。「このピッチ簡単ですよね」とガイドに言うと「うん、簡単」とのこと。でもW級の登山靴登攀だからまあ、てこずるやつはてこずる。、リードさせてよかったのでしょうか(^^;;;
 先行が行った後で我々が取り付く。原リード。出だしの切り立ったフェースはお助けに導かれてクリア。よく見ればガバもあり、ホールドもスタンスも豊富。登山靴でも不安は感じなかった。フェースを一段這い上がり、左にトラバースしてルンゼの中に入り、一段あがってピッチを切る。終了点にはなにもないので、ピナクルや岩に絡めてアンカーをとる。
 そこから左に回りこんで核心2ピッチ目。これも見た目難しそうに見えるけど、取り付いてみればホールドもスタンスもあり簡単。フェース状を上がり、左からルンゼっぽいところに入り込んで直上。途中で先行が詰まったのでピナクルでピッチを切り、豊を導く。そこから上は簡単そうだったので豊に先に行ってもらう。ほどなく終了点、midiのてっぺん。展望台のすぐ隣でギャラリーがすごい。終了点にはアンカーが打ってある。
 さて、どこからmidiケーブルの建物の中に入るのかな、と見ると踏み跡はそのまま観光客がうようよいる展望台にかかっている梯子に向かっている。げ、あの雑踏にこの汚い姿で突入するの?と若干気が引ける。展望台ではものめずらしげに我々を眺める観光客が出迎えてくれる。

 
 え?鍵がない?

 さて、我々は帰る準備。タキュル組と無線で連絡を取ってみる。
 「ケーブルの最終って何時?」
 と、交信が入る。まだ終了していないようだ・・。やな予感。
 ケーブルの最終は17:00過ぎ。時間はすでに15:00を回っている。どう考えてもタキュルに行った3人は最終のケーブルに間に合わない。
 結局タキュル組はルートを終え、頂上をあきらめて下山し、コスミク小屋に泊まることとなった。
 問題はホリデー・アパートの鍵だった。二つとも石崎さんとイチローが持っていて、我々は持っていない。
 それでもmidiのケーブルの駅でビバークと言うのも情けないのでシャモニまで降りることにする。電話やインターネットを使えば管理人のイアンと連絡が付くだろう。合鍵を貸してもらえるかもしれない。
 ところがこれが甘かった。ツーリスト・インフォメーションに行っても「イアンのホリデーアパート」を知っているやつはいない。インターネットで調べなおすもうまくアクセスできず、挙句の果てに深夜の日本にいる豊山の自宅に電話してお父様をたたき起こし、調べてもらうも不発。
 結局、我々はホリデーアパートに入ることができず、車で寝ることになった。車の鍵はかろうじて豊山が持っていた。
 とりあえず、明日朝一番でタキュル3人組に降りてきてもらおうとコスミク小屋に電話をかける。うまく雨宮さんにつながり事情を説明。すると気を使ってくれて「悪いからホテルでも泊まって。みんなで割り勘で払うから」との暖かいお言葉。この言葉だけで嬉しくなってしまい「いえいえもったいないから車で寝ますよ〜」と元気よくお断りする。
 汚い格好のまま町に出て夕食。せめて夕食だけは豪華にということでミートフォンデュを食った。その後、シャモニ中心部の泉で道行く人の好奇の視線を浴びながら顔と手足を洗い、車の中で寝た。

 と、なかなか面白い珍事で初日の終わった。


 
 

<コスミク山稜核心のピッチ。先行のガイドパーティー>
















「ランデックス針峰/東南稜(2001/7/31)」へ

戻る

<山のページ>トップ・ページに戻る