明神岳/東稜〜主稜下山
(2001.4.29)
メンバー:石崎、前田、原
(ARIアルパインクラブ)

 今年のGWは冬の偵察がてら赤谷に入る予定だったが、なんだかんだで日程が後半にずれ込み、当初後半に予定していた明神/東稜を前半に登ることとなった。
 僕はずっと前から明神岳近辺の岩場や奥又白に憧れがあった。明神岳や前穂のピークの手前の、岩が入り組んでいて梓川沿いからは目視で確認することができない神秘的な場所。そんな特別な思いで下宮川谷に分け入ったのだが、あっけないことにワンデイで完登してしまった(^^;;;なんだか拍子抜け?


<養魚場の脇を下宮川谷へ。石崎さんとイチロー>
 4月29日(日)晴れ〜曇り〜雪/雨

 当初30日の悪天/停滞を予想し、停滞日は盛大に酒盛りで暇をつぶそうと3日分+αの食料をザックに詰め、見た目に「一体何日山にこもるの?」と問いかけたくほどザックは肥大化していた。前夜沢渡で就寝。なるべく天気がもつようにと祈るも、下界でお留守番の塚本兄さんの「テルテル坊主逆さにして雨乞いしてやるぜ!」の不気味な一言が気にかかる。ふん!雨男のあんたが山に来なければ晴れるわい!とやり返すも、天気予報は確実に下り坂。ええい、こうなったら意地だ。雨にだって負けずに稜線上で宴会/酩酊してやる!そんでビールをたっぷり吸収し、晴れ晴れした顔で登頂してやるもんね〜。吠え面かくなよ!と鼻息を荒げる。でもね、普段は持っていかないフライを用意したり、ザックカバーを購入したり(^^;;;随所に「濡れねずみ回避対策」が弱気にも散見されるのであった。やっぱり雨は嫌なのね。トホホ。
 GWは沢渡からのバスも早く、始発は5:30分。上高地に6:00過ぎに到着。水を汲んで出発。バスターミナルの前は工事中で、水くみ場は二階の展望台にあった。家族旅行のガキンチョから、「そのザック何キロくらいあるのですか」とさわやかに質問される。あ、いや、そんなに重たくないよ・・・、と笑顔で応答するも、たった3日分のはずがそんなに巨大に見えるほど食料を詰め込んだかと我ながら苦笑い。ガキンチョのGW絵日記にはきっと「巨大な荷物をもった怪しいお兄さん達に遭遇しました」と少年期の劇的な感動として記されるのであろう。
 7:00過ぎに明神。ここでクソをする。紙もあって快適!


<宮川のコルからX峰の岩場。脆そう・・・。>
 いつもなら徳沢に向かっていくのだが、今日は明神が入山口。気持ちの悪い観光オババのたむろする橋を命がけで渡り、徳沢方面に若干進んで青い屋根の養魚場へ。7:30。養魚場裏からマーキングに導かれて下宮川谷に入る。ここらへんは迷いやすい分マーキングが豊富。下部は雪もない樹林帯だが、すぐに雪渓が現れる。途中からマーキングは左の樹林帯に延びていくが、過去の記録に従い、途中からマーキングを無視してルンゼを忠実に詰める。二俣状になっているところで今度は左岸にマーキングが現れ、上に向かって右側の「小さい方」のルンゼに入る。雪は締まっていて快適。宮川のコルで小休止。目の前には5峰の岩場が大迫力で迫る。でも、脆そう。憧れの岩壁だけど、今の自分には取り付く能力はないのう・・・、と黄昏れる。ここからアイゼン装着し、上宮川谷に入り、ひょうたん池へ。9:30。昨晩の幕営跡があった。ひょうたん池は雪の窪地で、夏には水が溜まるのだろうが、すこぶるつきの展望があるわけでもなく、わざわざここまでハイキングに来るほどのものでもないなあ、と思う。すごくあこがれていたのだけど、「あれ?」って感じだった。ひょうたん池から下又白へはばっさり切れている。茶臼の頭の下又白側はめちゃくちゃ脆そうな絶壁で、菱形岩壁も黒ビンの壁もルンゼ群もとても登れる気がしない。ああ、我が憧れの岩壁はまだまだ雲の上の存在か・・・・。と黄昏る。二回目。ここから真上に延びる顕著なリッジが東稜。すぐ上の第一階段上には先行パーティーが見えた。

<第1階段を見上げる。見た目より傾斜が強く、悪い>

 ひょうたん池で大休止し、ギアを装着。第1階段へ雪稜を進む。第1階段取り付きには左側に腐ったフィックスがかかっているが、右よりをブッシュ混じりに木登りするとノーザイルで行ける。大岩に頭上を遮られ、それを右から回り込むように急雪壁に進む。この雪壁は甘く、もう少し季節が進むと崩れるかもしれない。また、第1階段全般的に見た目より「悪い」と感じると思うので、コンディションによっては積極的にロープを使った方が良いと思う。ブッシュや立ち木でランニングは取れる。

 第1階段を抜けると傾斜も緩み、淡々と雪壁から雪稜へと高度を稼ぐ。先行パーティーが入っているので、バケツが一杯。歩きやすいけど、面白みは半減やな〜。
 雪壁はやがて雪稜となり、「う〜ん、これが猫の耳?」というピークを踏むと目の前に2峰〜5峰までの主稜が現れる。2峰には3〜4人パーティーが取り付いていた。ここら辺から奥又側に道があるらしいけど、とても二足歩行で行けるようには見えなかった。そこから一旦下ってバットレス基部へ。先行はたくさんいるようだった。バットレス手前に広いコルがあり幕営可能。





<バットレス全景。中央やや左寄りのリッジっぽいところがルート>
 バットレスの登攀。まずは本当にバットレス状の10mくらいの一枚岩を左から越す。基部に残置アンカーはないが、左から巻くように行けばノーザイルでも行ける。が、若干際どいので不安に感じるようならアンザイレンした方が良いかもしれない。一段上がったバンド状にハーケンが一本。我々はここから申し訳程度にザイルを延ばした。草付きに取り付いてからはアックスが良く効くし、すぐに傾斜も緩む。そのまま頭上ののっぺりした一枚岩の核心ピッチ基部までのばせる。核心ピッチ(1ピッチ目)基部には残置フィックスもあるし、支点も豊富。
 バットレス1ピッチ目、前田リード。残置フィックスが渦のように張り巡らされているスラブ状を2歩ほどあがり、右よりの凹角へ。凹角にもフィックスが垂れ下がっている。ハーケンも豊富。凹角を忠実に詰めてもいけるし、50cmくらい右よりにフェースのラインも取れる。しっかりスタンスに前爪で立ちこめれば行ける。終了点はしっかりしたアンカー。
 ここから上は見た目に雪壁が安定していた、というか、天気予報どおり午後から曇って気温も下がっていたので締まっており、主峰頂上まで一気にコンテで進む。でもlこの雪壁は気温が高く緩むと嫌らしいかもしれない。今のところつながっている。主峰頂上に14:45であった。
 目の前には前穂から奥穂、西穂の稜線と岳沢の岩場が広がっており、北方には下又、奥又、前穂東壁が眺められる。う〜ん、この眺望は明神からでないと見れないなあ、と感慨に浸る。前穂との間には2つくらいピークがあり、思ったより時間がかかりそうだった、のは発見だった。
 天気はさらに下り坂なのでここで下山を決心。そうと決まれば休止は最小限にして15:00頂上発。ガレガレの道を2峰へ向かう。主峰と2峰のコルにはテントが1張くらい張れる。


<V峰とV・Wのコル手前から岳沢に派生する支尾根>
 2峰にもフィックスが嫌と言うほど垂れ下がっている。一番右に垂れ下がっている白いロープと中央の青いロープはおそらく下降用のもの。登高ラインは左側壁にある。雪に埋まっているのかコルには残置アンカーはない。石崎リードで取り付く(今回、原は若手に任せてサボったなあ(^^;;;)。一段上がって左側壁にトラバース気味に回り込み、バンドを若干進んでそのまま階段状を登る。階段状になってからは残置ハーケンはないが、ホールド、スタンスも豊富(というか階段?)だし、フィックスもかかっている(必要性はまったく感じないのだけど・・・)。コルから45mくらいで終了点。この時点で小雪が舞い出す。16:00。
 ザイルを解き、ガレた稜線を3峰へ。2・3のコルまでは雪も皆無だったが、3峰登りに雪面があるのでアイゼンは装着したまま。2・3のコルから3峰へは右から巻くようにして登る。3峰頂上でアイゼンをはずし、3・4コルへ下降。5峰近辺では先行パーティーが幕営準備をしている。4・5のコルにも張れるようだし、5峰の先にも何カ所か幕営可能地があるようだ。我々は今日中に下りたかったので、過去の記録に従い、3・4のコルの手前から岳沢に向かって派生する顕著な支尾根を下降する。獣道にも満たない踏み跡チックなものが認められる。ハイマツのなか、雪から雨に変わり、すべりやすい。20〜30分くらい下ると急にリッジが細くなり、その一歩手前から右側(前穂寄りの斜面。いわゆる中明神沢側)に急雪壁のルンゼが現れる。ここを下降。ただし、このルンゼは急峻なので、新雪が乗ったときや気温が高いときには絶対に入り込んではならない(と、思う)。制動かけつつ横這いになってずるずる滑る。ひたすら下ると幅が細くなり、本流(中明神沢)に出合う。出合い直前のゴルジュっぽくなっているところが幅が狭く傾斜もキツイので要注意。中明神沢からは本格的に尻セード。ビュンビュン飛ばしてあっという間に岳沢ヒュッテの下のテント場の、さらに下に出る。ここまで下れば完全に安全圏。時刻は18:00過ぎ。
 岳沢は雪渓が切れるまで雪渓を進み、途中から夏道に合流して上高地へ。途中でイチローがはぐれ、う〜ん、こんなところで道に迷って遭難なんてシャレきかんなぁ〜と思っていると、後からイチローが現れた。19:00前、林道に出る。
 雨も本降りになっているので、小梨平でテントを張って祝宴をすることにする。結局一日で戻ってきてしまった。こんなことならテントも食料も持たず軽量化すれば良かったとブーブー文句を言いつつ、単なる重たい荷物だった酒と食料を消化せんと脅迫的に酒宴。ソーセージ、チーズ&パン、パスタ、マーボー豆腐、鰯のオイル・サーディン、鶏肉の炭火焼き、チーカマ、おにぎりの残り等々、雨天停滞対策宴会のネタを重荷の恨みを晴らすべく噛み砕き、ビール×700ml、ワイン×500ml、ウイスキー×500ml(余ったが)のアルコールと共に胃に流し込むのであった。石崎さんもイチローも僕も、今日の山行を象徴するかのようにピッチが早く、次第にろれつが怪しくなる。酩酊し始めるころには、鬱陶しかった雨音も眠りを誘う心地よい子守歌となり、高いびきが小梨平にこだますることとなったのであった。

 翌日、若干小降りになった雨の中、上高地のバスターミナルへ急いだ。雨の割にはすがすがしい朝だった。




<主峰頂上で。石崎さんとイチロー>
 <総括>
 今回は一日で下山してしまった。コンディションが良ければ軽量化して十分ワンデイで狙えると思うが、天候や雪の状態にも左右されると思う。
 全体的にザイルピッチになり得そうなところにはフィックスが「これでもか!」というほどかかっている。ワンポイント手がかりにする程度に使うなら良いが、全体重をかけるのは危険。2000年11月のどんぐりの事故では、第一階段付近を通過中、体重をかけていたフィックスが切れて滑落死亡している。この事故を無駄にしないためにも、フィックスに頼りすぎた登攀はさけるべき。
 日本のクラシックルートではU峰の登りが核心と書いてあるが、核心はどう考えてもバットレス1ピッチ目。スタンスが若干細かめなので、最低限のトレーニングを積んでいないと通過に手こずるかもしれない。バットレス上部の雪壁は安定していれば登りやすいが、雪の状態によってはアンザイレンすべき。岩を縫うようにして進むのだが、露岩にしっかりした支点が等間隔であり、スタカットでも確実にビレイできる。不安を感じたときにはアンザイレンすべき。
 U峰の登りは階段状。見た目より簡単。出だしにアンカーはないが(埋まっているのかもしれない)、終了点はしっかりしている。U峰から先もU級程度の岩場が出てくるが、慎重に下ればザイルはいらない。
 V・Wのコル手前からの支尾根は下部急雪壁の下降に注意が必要。気温が高かったり新雪がのっているときには、少なくとも僕は絶対入らない。忠実に主稜を下る方が安全。でも、この支尾根を使うと3倍くらい早いと思う。条件さえ整えばきわめて有用な下降路。
 幕営地はひょうたん池に10張以上、バットレス手前の広いコルには4〜5張、主峰・二峰コルに1張くらい、W・Xのコル及びX峰より先にも数カ所適地があるようだった。しかし、バットレス手前、主峰・二峰コルは雪の状態によって幕営可能性がだいぶ変わる。雪が減れば確実に不適地に近くなると思われる。

 いやしかし、良いルートだった。でもねえ、まさか一日で終わるとは・・・・。

<バットレス1ピッチ目(核心)をリードするイチロー>



















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