明星山/P6南壁/左岩稜(2000.10.22)メンバー:豊山、小林、原(ARIアルパインクラブ)

 ARIでは通常11月からアイゼントレに入る。10月最終週は出張で沖縄に滞在するので、無雪期のクライミングはこれが最後になるなあ、と思いつつ、明星に入った。当初金曜日の夜に出て土曜日も一本登ろうと思っていたが、雨のため日曜日のみとなった。土曜日はP6南壁対岸の東屋でARI大集合の大宴会。例のごとく死ぬほど酒を飲み、ことごとく酩酊し、翌日二日酔いで脱落者2名(+被害者1名)を出したが、合流した新潟の方々も含め、全11名、5パーティーでうじゃうじゃ南壁に取り付いたのであった。
 明星は初めてなので、まずはユーメイかつ名ルートかつ簡単な左岩稜を登ることにした。今回も、新人の豊嬢(豊)と小林(こばくん)と組んだ。

<明星山P6南壁上部>
10月22日(日)晴れ

 昨日の深夜までに及ぶ大酩酊劇により、朝は皆遅い。飲み過ぎで気だるさが残るが、朝日に照らされる壮大なP6南壁を見たら一気にモチベーションが高まる。う〜ん、登りたい!
 当初、有持さんとキャプチュードを予定していた藤原さんが、二日酔い+火傷(どんなに激しい飲みだったか、わかりますね。)のため登攀を断念。僕は下山路も含めP6南壁の概念をつかみたかったので当初から左岩稜を登るつもりだったの。よって結局、ARIのマスコット(おもちゃ?)ガールである豊嬢とマダムキラーの怪しい新人こばくんと組むことになった。そろそろヨーロッパに旅立ってしまう雨宮さんが山中と組み、これも左岩稜。夜中にゲロだらけになり、それでも登ると意気込んでいるわりに顔色が悪いスズテルが初のARI山行となる新人の吉田君と組んで左フェース。有持さんは塚兄ちゃんと組んで左岩稜フランケに取り付くこととなった(よく考えりゃ、皆日和ったな(^^;;;)
 というわけで、ノロノロと準備をし、小滝川に降りる。雨の割には水量は少なく、なんなく渡渉をし、取り付きで準備をする。すでに2パーティーが左岩稜に取り付いていた。
 さて、原がオールリードで左岩稜に取り付く。取り付きは河原から8mくらい悪い草付き斜面を上がったところ。ハーケンが二本あるので支点にできる。
 1ピッチ目。X。Xのルートグレードだが、嫌らしいのは出だしのかぶったフェースだけ。2手目のホールドが縦で、足を上げるのに若干苦労するが、3ムーブくらいでクリアできる。かぶり気味のフェースにはランニングが一つ。15mくらいですぐに支点が現れる。さらに一段上のテラスまでのばせるが、そこには先行パーティーが順番待ちをしており、しょうがないのでたった15mでコール。しかし、豊はこの出だしのフェースが越えられず、アブミを出した(^^;;;というと本人が傷つくので、ま、ザイルが絡まったということも記述しておこう。

<2ピッチ目のフリー。原リード。快適!>
 しかし、一番先頭のパーティーは強烈に遅い!!慣れない新人を連れているのか、3ピッチ目の前傾フェースの人工でセカンドが立ち往生。1時間半くらいぶら下がっていた。ああ、いい加減にせぇ〜よ〜、ゲレンデで練習してからきてくれよぉ〜と、絡みそうになる。とりあえず、左フェースに行くスズテルパーティーに先にいってもらうことにして、我々は取り付きから15mだけ上がったこのテラスでお昼寝よろしく延々と順番待ちをするのであった。でも、この標高(500〜700m)だと10月下旬のこの時期で丁度紅葉のさかりで、目は飽きなかった。秋の醍醐味ですなあ〜。
 結局、セカンドがあまりに登れないためリーダーも後続に申し訳ないと思ったのか、先頭パーティーは3ピッチ目の終了点から懸垂して降りてしまった。おう、なかなか常識があるではないか。これで我々の前にいるのは1パーティー(三人パーティー)のみ。しかし、このパーティーもリードは早いのだけど、フォローの二人はなかなか遅い・・・。うちの豊やこばくんの方が広沢寺の大ハングで鍛えられているので全然早い。でもま、進み出したので文句はいえまい。こうなったらのんびり登ろうということで2ピッチ目に突入。
 2ピッチ目。W。ジェードル沿いから、被った部分を右から回り込む感じで進む。Wだけど、バットレスのそれと比べると断然面白い。ランニングもしっかりしていて豊富である。回り込んで左上すると、右上に支点が見えるが、これは左フェースの支点。スズテルパーティーがいた。左岩稜はそのまま左上し、テラスに這い上がったところで支点が現れる。しっかりしている。
 二日酔いのスズテルはとうとう血ゲロを吐いてしまい(^^;;;、2ピッチ目で敗退。懸垂して降りていった。ちなみに、左フェース2ピッチ目から50m×1で河原まで降りられる。

<3ピッチ目の人工。原リード>
 3ピッチ目。V、A1。幅の広い左上ランペに一段あがり、5mくらい進むと前傾壁の人工が始まる。ボルトの間隔は近く、若干老朽化しているものもあるけど、まだまだ強度に不安は感じない。でも、いつかは抜けるのだろうな〜、ババを引くのはだれかな〜、などと思いながらそれでも快適に進んだ。
 日本のアルパインルートは年々ランニング、支点が荒れているそうだ(当たり前だけど。)。15〜30年くらい前はルート開拓の全盛期であり、各ルートともハーケンの打ち足しの必要性はまったく感じなかったそうだが、今では、僕はハーケンを携帯するように努めている(確実なルートで軽量化しようとするときには、持っていかない。)。この左岩稜もいつか打ち直しをしないとならないのだろう。
 さて、下でビレイしているマダムキラーのこばくん。こいつがチョーうるさい。チョーを付けるほどうるさい。「はい、そこです!」「はい、うまいです。」「いや〜、うまいですね〜」「はい、あとちょっと!」と、しきりにかけ声をかけてくる。見てくれもあやしいが、言動もあやしかった。さすが、3○才の熟女とつきあっているだけあるわ〜、と、ARIも多様性の時代だなあ、ボケの塚兄ちゃん、肝臓フォアグラ状態の酒豪の福ちゃん、元ヤンキー・レディースの豊嬢・・・、一人一人の顔を思い浮かべると、「雲の上のドサまわり一座」とかいうお笑い新喜劇団ができそうだ。各ビレイポイントで一つづつネタを披露しながら登るというやつ。もちろん座長は僕ね。
 しか〜し、言動と顔似合わず、このこばくんなかなかうまい。人工もスムーズ。フリーも申し分ないでしょう。ガイド山行とはいえ、さすがマッターホルンサミッターだけのことはあるなあ、と感心した。今度は北壁だね(すげ〜!!)。
 前傾壁の人工は15m弱で終わり。直上していくとしっかりした支点が現れる。
 4ピッチ目。W、A1。フリーでグレードは5.8〜5.9。フリーで行こうかなと思うも、両足の親指が剥き出しになっているボロボロシューズでは心許なく(シューズ買えよ!とさんざんシュプレヒコールを浴びた。)、後続の雨宮パーティー追随しているので人工にする。でも、登り初めてから、ああフリーで行けたなあ、と後悔。上部は極力フリーでいった。
 出だしはやや凹角気味を直上、岩に押さえられたところで左の壁に取り付き、垂壁を左から回り込む感じであがる。岩を越えると傾斜は落ち、5m程でしっかりした支点が現れる。ここはハーケン・ボルトが豊富で、2カ所くらい支点がとれる。40m程でコール。
 5ピッチ目。V+。簡単なフリー。出だしのフェースを越えるとすぐに松の木テラス。ここまで20m弱。我々は延びきったらコンテにして先行を抜かしてしまおうとそのままテラスをやり過ごしてトポで言う6ピッチ目に突入。バンドを左のトラバースし、カンテを回り込んでまさに「左岩稜」のリッジに出る。ところが、カンテを回り込むとザイルの流れが強烈に悪くなる。結局コンテはあきらめ、50m一杯のばしたところに丁度期にシュリンゲが一杯かかったところがあったのでここで切ることにする。やはり、ここはトポどおり短くても松の木テラスで切るのが正解だと思った。
 リッジに出ると左岩稜フランケを登っていた有持、塚本パーティーにあった。あっちは先行パーティーもいないはずなのになんだか時間がかかったが、どうやら塚兄ちゃんが遅々として進まなかったらしい。「要修行」と有持さんから言われていた(^^;;;
 ここから上はコンテで大岩まで進む。先行パーティーをーぬかす。途中V−程度の岩は現れるので、超初心者の場合にはスタカットした方が安心かもしれない。3ピッチ切れば余裕で大岩までたどり着ける。先行パーティーは終了点までスタカットだった。
 大岩は左から回り込む。するとルンゼ状に突き当たる。ここは最後1ピッチだけスタカット。ルンゼ沿いにも進めるが、ランニングはない。左のカンテを回り込んでフェースを登った方が簡単(V程度)だし、ハーケンも一つあった。有持パーティーはルンゼ状を、我々は左のフェースを行った。
 1ピッチ登ると木々にマーキングが豊富な緩傾斜帯に出て、ここで終了。先行パーティーもおり、なんだかんだ時間はかっかったけど、まあ、登れたのでいつもの握手を交わす。岩壁帯は終わっているが、P6の頂上はまだ上。このルートは山の中腹で終わり。
 さて、ハーネス、ギアをはずして、軽く食事をして下降。明星はこの西面下降路が迷いやすい。終了点からとにかく右へ右へ(下方を見て右方向)進む。マーキングは増えているが、見落とすとやっかい。踏跡も獣道程度である。悪い箇所もあるので、雨の後など足場が悪いときには注意が必要。我々も雨の後でとても悪かった。荒沢山ダイレクトスラブに行ったときの前手沢の下降のようだった。マーキングに導かれながら、少しづつ下りながらとにかく右へ右へ40〜50分進むと左下に延びる顕著なルンゼに出る。このルンゼに出る前に下に降りてしまうと、岩壁帯が現れ、無理矢理下降するならば懸垂をするしかない。ルンゼに沿って下ると草原に出て、小滝川対岸に出る。渡渉をして林道を駐車場へ。駐車場では藤原さんと、ゲロ敗退したスズテルパーティーが待っていた。
 振り返ると、やはりP6南壁は大きい。迫力満点。フリーの技術を磨いて、フリー・マルチに挑戦したいと思った。

〜総括〜
 左岩稜は全体的にランニング・支点ともにしっかりしていて安心して登れる。良く登られているため、支点もわかりやすい。ただし、3ピッチ目の人工部分はしっかりトレーニングしていないとはまる。完全に前傾壁で高度感もあるので、トレーニングが足らないとビビリが入るだろう。フリー部分は簡単。誰でも登れる程度。ただ、1ピッチ目の出だしは注意。
 西面下降路はとにかくマーキングを見落とさないように進むこと。右に右に降りていく。
 左岩稜を懸垂で下る場合、うまく切れば松の木テラスから50m×2ピッチで河原まで降りられる(雨宮・新潟パーティーは時間切れのため同ルート懸垂下降であった。)。松の木テラスから3ピッチ目終了点まで50m。3ピッチ目終了点から一気に50mで河原に届く。このルートはくねくねしているので、ピッチ数の割には垂直距離は短い。松の木テラスから上は登攀価値はきわめて低いので、時間切れになりそうだったら懸垂を薦める。しかし、ルート沿いを降りるので、後続がいる場合には御法度だろう。
 秋の紅葉の時期は時間待ちも飽きないほど見事であった。のんびり登るのも悪くないルートである。


<元ヤンキー豊嬢とあやしすぎるマダムキラーこばくん。こばくんはこれでもマッターホルンサミッター>






















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