鋸岳(角兵衛沢〜七丈ヶ滝尾根)
(2003.12.27〜29)
メンバー:清水、原
(ARIアルパインクラブ)



 今年の冬こそは北鎌尾根に入ろうと思っていたのだが、結局パートナーが見つからず、またお流れとなった。でも、去年の正月山行も八ヶ岳のみだったので、今年はそれなりの山に入りたいと思っていた。
 有持さんとカツさんは滝谷に入るとのこと。その他、次々と他のメンバーの年末山行の予定が出始めると若干あせる。結局、黄蓮谷に入ることを希望していた清水さんと組むことになり、落ち着いた。決まったのは出発の3日前くらいで、なんともどたばた喜劇であった。
 場所は2泊3日で行けるところということで、甲斐駒の南山稜か、雪が多く苦労するようであれば比較的ラクチンな鋸岳に行こうということになった。
 結局、27日の午前中まで入っていたこの冬一番の寒波の影響で前日は大雪となり、特に神奈川県内は厚木から相模湖に抜ける国道413号線はもう雪国の様相。相模の国では一般車は雪道対応になっておらず、突然の豪雪攻撃で道路脇にわんさか車がスタックしている中をパジェロでそろそろと抜ける。こりゃあ南山稜に入ったら沢筋のラッセルが厳しく、下手すると3日で抜けられないかもしれないな〜・・・、ということで鋸岳に転進することになった。「鋸なら余裕っすよ〜」とか言っていたものの、ところがどっこい、これが世にも大変なアルバイトになってしまうとは・・・。


<風雲立ち込める戸台から入る>
 12月27日 くもり〜ときどき雪

 明け方に神奈川を出発し、午前中に戸台に到着。高曇りの曇天で、神奈川県内は大雪だったがこちらではそれほどでもない感じであった。戸台には年末年始に開設されている登山指導所があり、ここで登山届けを記入する。その後、戸台河原を黙々と歩く。
 この年末山行の時期は北沢峠に向かう登山客が死ぬほど発生しているため、トレースはバッチリで歩きやすい。曇天であるからして歩き始めても汗をかくこともなく、順調に進む。カミニゴリ沢を過ぎ、そろそろ角兵衛沢との出合かと思いつつ、5年前に入った原の記憶を辿りつつ戸台川を徒渉するも、山仕事用のピンク色のマーキングに惑わされて間違い。そういえば角兵衛沢分岐には立派な道標があったと思いだし、戻って登山道をさらに進み、今度は分岐を確認したところで戸台川を渡る。2人くらいのトレースがあった。
 マーキングと看板に導かれながら登山道を上がる。5年前は夕方に入ったため、その当時と雰囲気が全く違っていた。トレースは先行2名のものだけなので足下はふかふか。途中で休憩している先行2名を抜き、トップに立つ。すると思いのほかルーファイに悩む。高曇りのため光があまりなく、木についたマーキングがよく見えない。途中、立ち止まりながらルートを確認し、進んだ。

<角兵衛沢下部樹林帯を行く>
 やがて角兵衛沢本流のガレに出る。ところが、5年前に来たときのこの部分の記憶がまったくない。5年前は暗闇だったからか、樹林帯をひたすら詰めて角兵衛の岩小屋にたどり着いた記憶しかなかったのだが、今回はどうもガレ場に出てしまった。しばらくガレを詰めると右側に大岩が見え、河岸の尾根状を乗越して岩小屋に入った。ルート、間違えたかな・・・。雲が厚くたれ込み始めたが、天気予報を信じれば明日は晴れるはず。
 岩小屋には当たり前だが誰もいなかった。一番広くて平らな良いところを陣取り、テントを張る。5年前は岩小屋の奥に水が流れていた記憶があるのだが、今回は気温がかなり下がっているようで完全に結氷して水はとれない。でも、巨大なつららが豊富に取れるので水作りはラクチンだった。
 辺りに陽はまだ残っており、明るいうちにテントでくつろげるので、当然酒盛りが始まる。今回はビールと500mlのウイスキーを持ってきたのでほくほくである。テント内でつまみを作りながらひとしきり盛り上がり、適当にメシを食って就寝した。盛り上がっている最中に、途中で抜かした2人パーティーも岩小屋に入ってきて、我々より奥にテントを張っていた。



<結構急峻な角兵衛沢を詰める>
 12月28日 曇り〜晴れ

 うまくすれば2日で抜けられるかな〜などと甘い考えを抱いていたので、まだ暗い3時に起きて準備をする。氷点下14℃くらいの極寒中ではあるが、夏シュラフでも、テント+外張りなので快適に眠れる。体力的に余裕があるので、寒さにも耐えられるのだろうけど。
 朝飯を食ってテントをたたみ、ヘッテンを付けて出発。角兵衛沢に出て、ガレを詰める。斜度は出だしから急で、二俣の尾根上に這い上がるとさらに沢がせり上がってきた。勿論トレースはなく、ガレ場では非常に歩きにくい。斜面の急なところでは、ところどころ腿〜腰のラッセルで体力を使う。二俣付近でもまだ真っ暗だったので、ルーファイに気を使った。
 しかし、雪が不安定だな〜と思った。どうも今年は12月に入っても暖かく、半ば過ぎから突然雪が降り始めたという感じで、要するに根雪がしっかり出来ていないようだ。例年なら、11月くらいから降っては解け、降っては解けを繰り返してやがて固い氷雪が岩間に詰まり、根雪となってその上に雪が乗っていくという感じなのだけど、今年はそれがなく、いきなりドカっと雪が乗っている感じだった。おかげで不安定で、歩きにくいことこの上なかった。
 小休止を交えながら黙々と角兵衛沢を詰める。やがて空が白み始めると、威圧感のあった斜度も幾分感じがやわらぐ。角兵衛のコルが視界に入ってくると傾斜もゆるみ、足取りも若干楽になる。空は晴れており、これからの稜線歩きは快適かな〜と期待。コル近辺は風が強く、雪が飛ばされていた。
 コルで小休止する。しかし、5年前と同様、風がめちゃくちゃ強くて寒く、快適でないのでそそくさと進む。第1高点への登りに取り付くと、いきなり腿くらいのラッセルとなった、トレースを付けながら行くのは高速道路を行くよりしんどいが面白い。稜線上なのでルーファイに手間取ることはない。



<第1高点>
 ほどなく第1高点。快晴で、仙丈や北岳、甲斐駒が見える。甲斐駒は、非常に近くに見えるが、ここからの鋸尾根はアップダウンが激しく、見た目ほどに早くは辿りつかない。
 この後は小ギャップへの懸垂下降があるのでここでハーネスを付け、登攀具を身につける。
 稜線沿いを甲斐駒方面に向かうと、左に派生する尾根があるが、ここでは右よりに伸びる稜線が正解。途中、小ギャップへの降り口を原が間違えてしまったが、とにかくひたすらリッジ沿いに進む。ふかふかのバージンホワイトの稜線にトレースを付けるのは爽快で、5年前の高速道路とは大違い。う〜ん、鋸にしてよかったかな、と思ってしまった。
 ずんずんと高度を下げ、小広いテラス状の場所に出ると懸垂支点が現れる。ここは20mくらい。ロープ一本で足りる。
 小ギャップに降り立ち、第3高点を目指す。5年前もそうだったが見た目より簡単。稜上に這い上がって右に進み、鹿窓側に一段降りる。ここから鹿窓までトラバースだが、雪が不安定で悪そう。ちょっと足を踏み出してみるが、新雪がさらさらと崩れる。う〜ん・・・と考え、稜線沿いを見上げてみるが、まあV+程度。前回は雪が安定してトラバースできたけど、今回はロープを出して稜線沿いを進むことにする。原リード。
 V程度の岩場を行き、小ピークを乗越して降りる。ランナーは途中灌木で一本だけとった。このまま鹿窓手前のコルまで行けるかなと思ったが、最後の下降は3mくらいX程度のクライムダウンになりそうで悪い。その手前にハーケンが一本埋まっており、これがしっかりしていたのでここでとりあえず切る。悩んだが、簡単な岩稜なのでそのまま清水さんにフォローしてもらい、支点のところから若干テンション混じりでクライムダウンしてもらい、先にコルに降りてもらった。3mの下降なので原はハーケン一本で懸垂。ハーケン一本なのでなるべく足をしっかり壁につけて踏ん張り、テンションが支点にかからないように降りた。
 鹿窓を横目にみつつ、第3高点へ。5年前と同じで、あっさりたどり着く。ここからまた下降していき、今度は左寄りに下っていく。傾斜が急になり、岩場が露出した箇所を慎重に下ると、木にシュリンゲがたくさんかかった懸垂ポイントについた。陽が高くなり、雪の表面がテカテカと溶け出した。天気は回復し、かなり暖かくなっているよう。
 さて、ここから大ギャップまでの長い懸垂。ロープをたらして進む。が、最後傾斜が強くなったところまできて、まだ下が見えていなかった。清水さんのロープが45mなので、もしかしたら下まで届いていないかと思い、灌木でセルフをとって確認する。なんとか下まで届いていそうだったので、そのまま下降していくと、ぎりぎり下まで届いた。43mくらいの懸垂。50mロープなら余裕だけど、45mだとギリギリである。さらに降り立った急峻なルンゼが腰くらいまで不安定な雪がついており、悪い。雪を掻いてスペースを作り、清水さんを迎える。


<懸垂下降する清水さん>
 その後、急峻なルンゼを大ギャップのコルまで上がる。ところどころ胸までのラッセルでさらに不安定な雪でいつ雪崩れるかと緊張した。なんとか大ギャップまで上がり、今度は信州側に下降する。またこの下降も悪く、5年前はかけ下ったのに、今回はガレ場がまったくしまっておらず、その上に不安定な雪が乗っかっていて下りにくいことこの上なかった。そろそろと足場を確認しながら、後ろ向きになって降りた。
 ルンゼを適当に下り、第2高点から伸びる尾根からさらに派生する小尾根に取り付き、第2高点を目指す。この登りも腰〜胸くらいのラッセルを交える。

 第2高点で大休止をする。小ギャップから第2高点まで、懸垂、岩登り、ラッセル、ガレ場の急下降とオンパレードで楽しませてもらったが、いやはや体力は消耗した。午後に入っているので、先を急ぐ。
 第2高点から、これまた急下降で中ノ川乗越へ。中ノ川乗越まではルンゼの急下降で、5年前は尻セードでビュンビュン下ったのに、今回はこれまた雪が不安定なのでそろそろと下る。かなり時間がかかる。


<第2高点からの悪いルンゼ。これを下った>
 中ノ川乗越でまた小休止をし、なんとか今日中に六合目石室にたどり着こうと急ぐ。しかしここからが長い・・・。バリエーション的な部分はもうないのだが、小ピークのアップダウンがこれでもか!というくらいに続き、さらにトレースがないからルートファインディングをしながら、樹林の濃いところでは時折腰〜胸のラッセル。遅々としてスピードが上がらない。体力は消耗してくるし、陽は傾いてくるし、焦る。日没したら樹林帯の中で行動できなくなってしまうので、清水さんを残して途中からペースを上げ、藪と腰〜胸の雪を掻き分けヘロヘロになりながら根性で日没30分前に六合目にたどり着いた。コルにテントが一張りあったが、風がよけられるし下が平らで快適なので六合の石室へ。ザックをおいてアイゼン、ハーネス、ギアを解いて身軽になり、清水さんを迎えにコルに戻ると、あとから来た清水さんは原がいないのでもうツェルトを張ってしまおうかと思ったらしい。清水さんを石室へ導く。この6合目の石室は非常にわかりにくい。甲斐駒側の斜面に張り付いているので、良く目を凝らして観察するとわかる。コルから登山道を甲斐駒方面に踏み入れると、すぐに右側に伸びる細い踏跡があるが、これが六合目の石室に向かう道である。
 しかし消耗した。4:30過ぎから日没まで、ほとんど14時間行動であった。石室の中にテントを張って、食事を取りながら酒を飲むと一気に眠りに落ちた。




<朝日と甲斐駒ケ岳>
12月29日  晴れ

 結局、昨日で燃え尽きたので甲斐駒はやめにして七丈ガ滝尾根を下る。5年前と同じく、甲斐駒にはあがれなかった。七丈ガ滝尾根は5年前と同じでやはりメチャメチャ悪かった。途中、ルートを外しそうになりながら、また変な岩場を乗り越えながら進んだ。戸台本谷に出たあとも、5年前は河原が凍ってほどよく雪が乗っており、丹渓山荘まで河原を歩けたのだが、今回は水がガンガン流れていてそれができない。夏道に沿って高巻きつつ、時間をかけて丹渓山荘へ。時間は余裕なので、ゆっくり景色を眺めながらそろそろ昼にさしかかるポカポカの赤河原を戸台に向けて下った。年末山行で北沢峠に向かう大勢の登山者とすれ違った。












 <総括>
 山をなめてはいけない!というのが今回の感想。5年前はメチャメチャあっさりしていて、な〜んだこれだけ?という感じだったが、今回はトレースもなく、また雪が不安定だったので前回よりかなり苦労した。簡単なルートでもなめてはいけない・・・。
 大ギャップの懸垂のために、できれば50mロープを用意した方がいいかもしれない。ただ、これは途中の灌木などを使って25mつづ切れるので、軽量化したければ1パーティ、ロープ一本でも何とか行ける。ただし、切り方を間違えると足りないので要注意。
 中ノ川乗越から六合目までは結構長い。マーキングはほどよくあるが、時折抜けるのでルーファイ力が必要。原は未熟なため、途中リッジ沿いを行ってなんどかハイマツに足を取られてはまった。たまにピークの中腹をトラバースするように道がついている箇所がある。
 七丈ガ滝尾根は5年前と変わらずあれていた。マーキングは点在しているが、かなり複雑なルート取りなので注意。外した、と思ったらすぐに登り返して元に戻すことが大切。我々も何度か外した。
 戸台口にある仙流荘に綺麗なフロがある。500円で快適!
 メシはもちろん伊那IC近くのソースカツ丼であった。美味。
 今回も、やはり良いルートだと思った。色々な要素が楽しめるので、シーズンはじめの慣らしや、ハードルートへのステップに最適である。






<角兵衛沢から、朝焼けの仙丈ヶ岳>












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