北穂高岳/滝谷/
ドーム北壁右ルート・4尾根〜ツルム正面壁
(2003.8.23〜25)
メンバー:恩田、原
(ARIアルパインクラブ)



 夏は短い。今年は特に梅雨が長引いてしまったため、特に短かった。7月中はグズグズと梅雨空が続き、8月に入ってようやく夏空が広がるようになり、高所の季節になった。8月中は奥又や屏風、滝谷など、とにかく真夏の登攀がすこぶる素敵な穂高の高いところの予定を立てていた。が、第2週は土曜日が雨でミズガキに変更、お盆の週末はもうそれこそ梅雨寒の様相で山どころではなく、結局8月も梅雨を引きずるような天気が続いた。
 第4週目の週末は、月曜日に一日だけ休みを付けて滝谷を予定していたが、これも直前まで天気がぐずりそうで冷や冷やだった。が、結局3日連続で快晴に恵まれ、今年最後の真夏の山行が実現した。

<光が降り注ぐ白出沢>
8月23日(土)
 今回は新穂高入山、上高地下山ということもあり、また帰りが月曜日で電車も比較的すいているであろうということもあり、さわやか信州号で新穂高に入ることになった。前日、不覚にもTOEFLのテストを入れていた原は、当初滝谷を下部から詰める予定だったので10本歯アイゼンにバイル、重登山靴という装備を背負い、汗だくになりながら満員電車に乗り、朝イチでTOEFLの会場に乗り込んだ。もうなにもかも不快で、やる気はミジンコほどに小さくなり、リスニングのテストではコクコクと居眠り。でも、結果はそこそこだったからテストというのも良く分からない。
 午後から出勤。少なくとも22:30には職場を出ないと間に合わないいので、それまでに猛烈に仕事をこなす。21:00頃に食事ついでに近くのコンビニにダッシュして行動食などを購入。結局、ギリギリまで電話が鳴り続け、慌てふためきながら職場を出た。丸の内線で新宿へ出て都庁駐車場のバスターミナルまでこれまたダッシュ。今日は朝から晩まで走っていた。貧乏ヒマなしとはこのことか・・・、って単なる遊び過ぎという話もある。
 25日(月)の天気予報が思わしくなく、ルートは恩田さんと協議の上、白出沢から北穂まで詰めることにした。よって、アイゼンも職場に残置、重登山靴も残置。こんなことなら家から重たい思いをして持ってこなければよかったとちょっと後悔。アプローチシューズは、いつも皇居の周りをランニングしているときに穿いているシューズを持っていくことにした。
 集合時間ギリギリに着くと、恩スケ氏も着いたばかりのようだった。トイレを済ませ、バスに戻ると自分が最後。すでにスタンバっている乗客や運転手さんの視線が痛かった。席に着くとすぐにバスは動き出す。とりあえずビールとつまみを空ける。恩田さんはなんだか健康診断のエックス線撮影で変な影が見つかったそうで、酒は控えているとのこと。それでも山には来るのだから、やっぱりこの人もアホやな〜と思った。
 さて、だべりながらビールを飲み干すとバスは談合坂SSへ。ここでトイレを済ませると、その後、原は例のごとく爆睡。目が覚めると新穂高だった。6:00過ぎ。恩田さんに「爆睡?」と聞かれるあたり、周りから見ると相当猛烈な眠りに見えていたのだろうな。たしかに途中で何度か止まったSSは全く覚えていないのだから、我ながらこの何処でも眠れるという特技には呆れる。


<涸沢岳から北穂を望む>
 適当に朝メシを食い、水を汲んで7:00頃に出発。蒲田川は砂防ダム建設が進んでおり、景観はよろしくない。ショートカットルートを経て穂高平小屋へ。ここで休んでいると、原が途中でデジカメを落としたことに気がつき、取りに戻って時間をロスする。8:00過ぎに穂高平を出発。
 夏の青空のもと、林道を意気揚々と歩いてゆく。緩やかな傾斜は確実に高度を上げ、やがて白出沢出合の小屋へ。キャンプ禁止とか書いてあるけど、これだけ快適な平地であればキャンプもしたくなる。穂高平で時間を食っているので、休憩もせずにやり過ごし、登山道に入る。登山道は白出沢沿いの斜面に移ったところで何箇所か崩壊しているところがあったが、シーズン前に整備されたような補修がなされていた。出合から40分も歩くと徒渉ポイント。ここもやり過ごして右岸に移り、道は一気に悪くなってチェーンに沿って急登を進む。小さなルンゼを越える地点で休憩。この沢の水は飲める。
 さらに急登にあえぎながら小尾根を乗り越して再び白出沢に出るとあとは白出乗越まで一気にガレ沢を突き上げる。雪渓が濃く残っており、今年の冷夏を感じさせた。何度か休憩を交え、高度が上がるにつれて気温も下がり汗も引いてきたところで穂高岳山荘に到着。行動食を頬張り、水を購入する。
 ここで休んでいると、隣のおじさんが「明日は天気が悪そうだよ」という。もしかしたら悪天が早く来るのかな・・・。とすると、一本も登れずに終わってしまう・・・。ということで、せめて今日中に北壁一本だけ登っておこうということになる。それであれば急いで出発。涸沢岳を越え、北穂とのコルに急降下。一般道にしては悪く、ガイドの一行はアンザイレンして通過していた。
 と、急いでいるときには何かが起こるもので、涸沢岳と北穂とのコルの最低鞍部からヤッホーのコールが聞こえる。急いで駆けつけると、スリップして足をひねり、動けなくなった登山者だった。既に北穂の小屋と穂高岳山荘には伝令が走っており、少し涸沢岳側に戻ったところで携帯電話が通じたので警察には連絡済みとのこと。足には杖で添え木がしてある。しかし、今いる地点は北穂への斜面が迫っておりヘリでも容易にピックアップできなさそうであったので、涸沢寄りの開けたピークに移すことにする。ザイルを使って背負子を作り、怪我人を背負って移動。「70kgあるんですが」とのことだったが、火事場で重さはあまり気にならなかった。しばらくすると北穂の小屋からレシーバーを持った救助隊が到着。チームで動いているようで、あまり色々な人が口を出すと現場が混乱するので怪我人を引き渡す。あとはヘリを待つだけなので、我々は荷物をまとめて行くことにした。しばらく行くと、東邦航空のヘリがやってきて、二度目のアプローチでピックアップしていった。ま、無事でなにより。
 4尾根との合流点ではツルムを確認する。その後やせた尾根を北穂に向かい、ドームを回り込んだところで少し登山道から外れ、登攀の準備をする。途中トラブルもあり時間も食ってしまって15:00前だったが、ドームの2ピッチなら1時間もあれば終わるだろうということで取り付くことにする。あたりはガスってきて、風も冷たかった。ゴアの雨具を着る。フラットソールに履き替えて登攀具のみ身につけて出発。
 北壁へは登山道からドーム基部に向かって微かな踏み跡をたどる。途中、悪いトラバースも残地シュリンゲがあるのでなんてことはない。北壁の取り付きは小広いテラスになっている。上を見上げると何本かラインがある。どのラインでも良かったが、一番顕著で面白そうな凹各の右ルートをとる事にした。また、恩田さんは北壁は全部登ったことがあるとのことで、原がオールリード。

 1P目 WA1:出だしはWの快適なフリー。ピン間隔も程よく遠く、ホールド・スタンスともに豊富で楽しめる感じ。10m弱上るとチムニーに入る。チムニー内は残置もあるが、ベタ打ちではないので、キャメロット1番とそれ以下のエイリアンとかが数個あると気が楽。原はカムを2つ使った。フットアンドバックでズリ上がるが、抜け口が狭く、身体をねじり込むと落ちそうだったのでアブミを出してしまった。これを抜けるとすぐ右側にテラスがあり支点が見える。25mくらいしか伸びていないのでおそらくもっと上まで行けるのだろうと思うが、チムニー登りで息が上がっているので(と、なにより白出沢のアプローチ直後で疲れが蓄積しているので)、ここで切る。

<ドーム北壁2P目をフォローする恩田さん>
 2P目 WA1:テラスから凹角に戻る。フリーで凹角を上がると、ボルトラインは右側の壁に移っており、明らかに人工のボルト・ハーケン間隔。これを人工で上がると、再び凹角沿いにラインを戻し、20mくらいで凹角を抜ける。ここから傾斜が一気に落ちる。支点らしきものもあり、トポどおり切るとすると1P目はここまで伸ばせるのだろう。傾斜が落ちてからはどこでも登れそうなV程度のラインとなり、ドームのテッペンに向かってズンズン進むとレリーフとともにしっかりした支点が現れる。だいたい45m。
 ドームのテッペンでロープを解くと、急に激しい便意を催し一目散に登山道に下りる。北穂の小屋までとても間に合わない感じだったので岩陰で用を足す。
 危機的状況から脱し、ふとドームを振り返る。短いけど、なかなかいいルートだった。これで明日雨が降っても1本登ったから気持ちとして言い訳が付くな〜と思いながら北穂の小屋に向かった。北穂の小屋では、とりあえず今日の行程に生ビールで乾杯。800円と世にも高い生ビールであったが、新穂から北穂へのアプローチ+ルート1本と充実した行程を祝うには安いものだった。
 北穂の小屋はメシも旨いという。テラスでビールを飲んでいると、夏とはいえ一万尺の高地ではすでに冷え込んでおり、これからツェルトを張る気分にもなれず、さらに日頃の寝不足に加え充実した初日の行程で身体の疲労度が急上昇していたので小屋に泊まることにする。朝食は自分達で作ることにし、1泊1食付で7,000円ちょい。小屋に泊まるなんて、実に7年ぶりくらいだった。
 小屋の食事は豚肉のしょうが焼きで、新鮮な野菜もついていてさすがに旨い。味噌汁とごはんはお代わり自由であるが、さすがに30代の胃袋は青春時代に比べると小さくなっており、2杯も食うと満腹。すると食べ終わった途端、今度は激しい睡魔に襲われる「ね、眠い・・・」と恩田さんに訴え、すぐさま割り振られた寝床に直行し、19:00過ぎに原は撃沈。暖かく平らな布団は激しい熟睡を誘い、朝まで目が覚めることはなかった。


<黎明のドーム>
 8月24日(日)
 4:00前に熟睡から目が覚めると星が瞬いていた。天気は良さそう。目を覚ますためにすぐさま冷え込んでいる外に出て、朝食の準備。茶を飲み、ジフィーズを食べる。4:30を過ぎになると空がかすかに白みはじめ、5:00にはすっかり薄明るくなってきた。アメリカ在住の韓国人のコロンビア大学の先生と話をしながら登攀の準備をする。また北穂の小屋に戻ってくるので、無駄なものをスタッフバックに詰め、残置する。今日はc沢を下降する。
 松浪岩の基部から一般登山者向けの×印の鞍部を乗り越え、まずはb沢の支流側に入り、北山稜P1の手前を乗り越してc沢左俣に入る。c沢左俣に入ってからは、とにかく悪いガレ沢を延々と下る。安易に足を出すとすぐに岩雪崩が起きるので、最新の注意を払って下る。途中、V−程度のクライムダウンを交え、ドーム北壁、西壁、ダイヤモンドフェースを左手に見ながら延々と下る。標高を下げていくと気温も上がり、汗が出てくる。また、注意深く下っているのでスピードも上がらず、神経を使うため結構疲れる。途中、トポには15mの滝は懸垂をせよと書いてあるが、全部クライムダウンできた。
 1時間以上かけてc沢の二俣にたどり着く。結構広く、二俣も顕著なので分かりやすいと思う。左からは3尾根が落ち込んでいて、右俣の奥にはグレポンが見えるが、岩肌が真っ白であった。1998年の地震で大崩壊したようだが、その痕跡は如実だった。
 二俣からは四尾根に向かって、右側にトラバースするようにスノーコルへと上がる。微かな踏み跡があるのでそれを辿る。スノーコルはテントが1張くらい張れそう。また、スノーコルというくらいなので、7月上旬までは残雪があるようだが、8月下旬のこの時期には消えていた。
 ここで登攀具を付け、フラットソールに履き替える。登攀中に催すのは嫌なので、ハーネスを付ける前に用を足す。
 さて、いよいよ登攀開始。最初はU〜V程度の登りが120〜150mくらい続くので、ノーザイルで上がる。だらだらと岩登りを繰り返し、尾根が平坦になってしばらく行くと急に斜面がせりあがっている。ここがザイルピッチの始まり。残地ハーケンで支点を取る。

 1P目 V:原リード。Vでどこでも登れそうだけど、良く見るとラインが見つかる。ハーケンは少ないが必要性もあまり感じない。途中、1ポイント垂直に近いフェースがあり、体感X−。でも問題はない。しかし、つかむとフレークごと動く岩が多く、信用ならないので注意が必要。トポどおり40m程度伸ばすと支点が現れる。


<2P目をリードする恩田さん>
 2P目 V:恩田リード。フレーク状に突き出たハングチックなフェースを豊富なホールドに導かれて上がる。カンテを左み回り込み、フェースに出たところを直上して尾根上に戻る。やがて傾斜が落ちて平坦になったところでコール。目の前にAカンテが迫っていて、Aカンテに入ったすぐのところに支点があるが、その手前の平坦地でも切れる。恩田さんは手前で切っていた。

 3P目 V:原リード。目の前の顕著なAカンテを超える。トポどおりホールドが乏しい。右側からカンテに取り付き、カンテ沿いに上がって尾根上に出る。40mほどでBカンテが目の前に現れ、ここでコール。トポだと3P目でBカンテも越えてしまうようだが、切り方が悪かったのか足りない。でも、支点になりそうなピナクルも多いので問題はない。

 4P目 V:恩田リード。Bカンテを越える。これもカンテ右側のフランケを上部の凹角状に向かって登る。稜線上に出るとまた傾斜が落ち、平坦になる。あと少しでCカンテ手前のコルに達するところが10m程度ザイルが足りず、手前で切る。

 5P目 U:原リード。足りなかった分を延ばしてCカンテ手前のコルの懸垂支点まで。支点は2箇所あるが、下側の方がしっかりしている。しかしコルからこの支点までのクライムダウンには注意が必要。

 ここからツルムのガリーをツルム基部に向かって懸垂下降する。15〜20mの懸垂で、一本で十分。さらにクライムダウンも可能かと思えるくらいで、はまったら登り返しも容易にできそうだった。傾斜はついているが小広いのでビバークも可能だろう。

 さて、ツルムの登攀。一昨年の秋に登っている恩田さんに従い、ボルトが二本打ってある顕著な支点へ。「一昨年はこのラインを登ったよ」というラインを見上げるが、たしかに登れないことはないけどピンはなく、どう考えてもVではない。少なくともW+〜Xはある。これは違うだろうと思い、ツルムに向かって左側の若干カンテ状になったラインを見つける。カンテの上はボルトラダーになっており、VA1というトポと合致する。「恩田さん、あっちだよ」ということで、原リードで登攀開始。

 6P目 VA1:原リード。出だしはVのフリー。Vにしていは結構きわどくて面白い。その後、急斜面のフェースとなったところでボルトラダーとなり、A1。ルンゼ状が帯状ハングに抑えられたところに支点があり、ここでコール。トポどおり、20m程度。

 7P目 VA1:恩田リード。まず帯状ハングを右側から超える。超えた上のハーケンがゆるゆるで、恩田さんがクリップしようとすると抜けた。ハングには緑エイリアンがかませるので、これを使って上がる。トポにはVとなっているが、ハーケンが抜けてしまったためこのフリーはX。ハングを超えると、草つきクラック沿いにA1。15mくらい延ばしたところで恩田さんが迷っている。その後右にトラバースし始めるが、悪そう。ハーケンがないそうだ。しきりにクラックにへばりついた草と土を落としているようで、ビレイポイントには草と泥のシャワーが降り注いでくる。あまりに時間がかかっているし、残置ハーケンもないのであれば、おそらくルートを外しているのだろう。トランシーバーでルートを戻すように指示。ハーケン1本、カラビナ1本を残地してA1のラインが途切れるところまで戻る。良く見ると右ではなく、凹角状をフリーで直上するとラインがある。これを進むとバンド状のテラスが現れる。40mくらい。

 8P目 W:原リード。テラスからフェースを一歩あがって、あとは右上して右岩稜へ。15m程度で右岩稜に出たところで支点が現れる。ここで切らずに次の左へのトラバースラインに入ってしまうと、ザイルが全く流れなくなってしまうだろう。

 9P目 V:恩田リード。右岩稜沿いに一段上がり、電光クラックのフェースに向かって真左にトラバース。まるで三つ峠の亀ルートのトラバースを彷彿とさせるが、あれよりはスタンスは広い。電光クラックの基部まで延ばせるが、我々はその手前のルンゼを横切る手前でコール。

<電光クラックをリードする原>
 10P目 WA1:原リード。いよいよ核心の電光クラックの登り。バンドをさらにトラバースして電光クラック基部へ。ここにしっかりしたハーケン、ボルトがある。上を見上げると電光クラック沿いにボルトラダーがあり、これをA1で進む。トポどおり小さなハングを二つ越え15m程度でこのフェースを抜ける。途中、アブミに乗った途端にガクっとお辞儀をするハーケンがあり、全体的に老朽化していて気が抜けない。フェースを抜けると階段状を一段上がり、右にトラバースするとエンピツピナクル。ここからツルムのテッペンまで延ばしたが、最後まで良い支点が現れず、やむなくハイマツの根で切る。しかし、支点としては心もとなく、何故か虫の知らせがしていたところに電光クラック基部にたどり着いた恩田さんから「支点がしっかりしてないのだったら、替えたら?今セルフビレイも取れるし安定しているから」とレシーバーが入る。そうだ、やっぱりこんな支点を取っていたらいけないと思い直し、恩田さんに途中のしっかりした支点でセルフを取ってもらいつつエンピツピナクルまで戻る。しっかりした岩でビレイポイントを作り、恩田さんと迎える。

 11P目 U:恩田リード。結局、ツルムのテッペンを経由せず、右側のバンドをトラバースするように向こう側に回ると懸垂支点が現れる。10mくらい。

 ここから20mの懸垂。今回我々が使った懸垂支点は大きな岩に新しい目のシュリンゲが一本かかったところであったが、他にもいくつか支点があるようだ。右からトラバースしていくと、自然とこの支点にぶつかる。出だしが空中懸垂っぽいので、少し緊張する。
 ツルムのコルに降り立つと、ツルム側に支点がある。ここでビレイを取る。いよいよあと2ピッチで終わる。

 12P目 W:恩田リード。快適なフェースを10mくらい上がり、凹角内へ。凹角はフットアンドバックで這い上がる。30mくらいでテラス状のビレイポイントに付く。

 13P目 WA0:原リード。ビレイポイントから真上に続くリッジ上を行こうとするが、残地ピトンが全くないので戻り、右にトラバースするルートを取る。慎重にトラバースしていくと、凹角が現れ、ボルト、ピトンのラインが確認できたのでここを行くことにする。A0と書いてあるけど、ホールドが豊富なのと、ボルト・ピトンが信用ならないのでフリーで上がってしまった。これを12mくらいでクリアすると、一気に傾斜が落ち、目の前に穂高の一般道へ続くルンゼが目に入る。ガレた足元に注意しながらリッジに取り付き、しばらく行くが残地ボルト等は見つからない。45mくらい延ばしたところのピナクルで切る。

 この後、4尾根が穂高の斜面に吸い込まれるところまでコンテで伸ばすと、なんでこんなところに?って感じで2本しっかりしたハーケンが現れた。ここまで延ばすのかな・・・、とクビを捻る。ここまでは50mでは届かない。でも、安定しているのでここでザイルを解く。一応登攀終了。一般道まではノーザイルでいけるが、疲れていることもあるのでフラットソールは脱がずに行くことにした。

 北穂の小屋に着くと16:00を回っていた。テラスでガチャを分け、ギアを片付けながら明日の予定について協議。天気予報は当初と打って変わって晴れを告げている。予定では明日屏風を登ることになっているのだが・・・。もう昨日からの全日行動で身体はボロボロである。
 片付けが終わり、行動食を口にするとなんとなく元気が出てきて、ここまで登ったのだから徹底的に登りますかね〜ってことになり、今日中に屏風岩1ルンゼ押し出しの徒渉ポイントまで降りることにする。テラスでお茶をしていた縦走者から「今日は?」と聞かれ、「これから横尾あたりまで降ります」というと、仰天していた。18:00出発。一目散に南稜を駆け下り、涸沢へ。ここでビールを仕込み、水を満タンにしてまた駆け下る。途中でヘッテンを付け、なおもズンズンと下り、渡渉ポイントの対岸、岩小屋跡に辿りついた。時刻は21:00。
 一般道の道端に荷物を下ろし、ビールを空け、食事を作る。縦走者が見たらなんと異様な光景かというところだが、幸いこの時間にこのあたりをうろつく物好きは我々だけらしく、誰にも遭遇しなかった。満腹となり、道端でツェルトを被って寝る。22:30満天の星空を眺めながら寝るのは結構気分が良かったが、明日は動けるだろうか・・・。


<T4尾根基部。8月末だというのに、こんなスノーブリッジが残っていた>

 9月25日(日) 晴れ
 5:00頃、空が白みはじめたところで起きる。こんなところを一般登山者に見られたら恥ずかしい。が、早い人たちはすでに横尾から上がってきており、我々の奇異な姿に驚きつつ「おはようございます」とさわやかに挨拶してくれた。朝食を作り、準備をして6:00過ぎに出発する。屏風の頭を抜けるのは到底無理なので、最低限の荷物以外は残置する。
 さて、渡渉をすると、またもやヘリコプターが現れた。見ると、屏風岩の上部、雲稜ルートが東壁ルンゼに合流したあと、雲稜の最終ピッチあたりで怪我人がいるようだ。梓川の河原に東邦航空のヘリが着陸し、救助人員を下ろしている。これはピックアップできる場所まで人力で下ろすのかな〜、と思っていると、案の状、救助者を乗せて現場を何回か往復していた。帰りのあずさ号の中で新聞で確認したら、60過ぎの女性二人のパーティーが落石を喰らって救助を求めたようだった。いずれにせよ、無事でよかった。
 さて、我々は1ルンゼ押し出しを詰める。このハード行程で3日目となるとさすがに身体が重い。それでもT4尾根基部にたどり着き、T4に取り付く。恩田さんリード。なんだか手こずってるな〜と思って見ていたら、いざ自分が登るとなると、もう手足が疲労で全く動かなくなっていた。いや、T4尾根1ピッチ目がこんなに悪く感じられるとは・・・。終了点につき、恩田さんと顔を見合わせる。時刻は8:00過ぎ。この体力ではスピードを上げることは不可能で、今日中に帰ろうとするとおそらく雲稜完登は無理だろう。なにより、この体調で登り続けたら怪我をする。ということで、下降を決意。懸垂で基部に戻り、1ルンゼを下って押し出しに出、荷物をまとめて横尾から徳沢、上高地へと歩いた。昨日、一昨日と充実した山行だったので、気分は爽快だった。さらに天気も良く、午前中に上高地へ向かう道をとおるというのも格別だった。
 上高地では、バスの時間をずらして上高地温泉ホテルで風呂に入った。なかなか気分が良かった。バスターミナルに戻り、ビールを飲んでいい気分となり、新島々行きのバスに乗った。松本では始発に乗るため時間をずらし、駅ビルの蕎麦屋でまた一杯。あずさ号に乗り込んでからは、いよいよ徹底的に酔っ払ってやろうとウイスキー、ワインに手を出し、あっというまに八王子に付いてしまった。電車で行くのも良いな〜とつくづく思ってしまった。

<総括>
 やっぱり真夏は高所が良いと思った。涼しいし、なんといっても景色が最高。ビールも旨い。高いけど。
 ドーム北壁は特筆すべきこともないけど、強いてあげるならカムを用意していくと良いと思う。アプローチもルートも短いので、一般的に言われているように悪天時の合間や、少し時間が余ったときにサクッと登ると良いと思う。
 4尾根はアプローチからルーファイとアルパインの総合力が必要だと思った。まず、c沢左俣の下降が悪い。十分落石に注意をしないと、大事故につながると思う。また、4尾根、ツルム全体的に岩がもろく、どれもこれも信用ならないという感じだった。また、特にツルムは残置ピトンなどが開拓時のもので老朽化が進んでおり、グレードはトポより辛く見ておいた方が良いと思う。アクシデントに臨機応変に対応できる能力が必要だろうと思う。
 しかしこれぞアルパインというロングルートは充実する。古寂びたクラシックではあるが、名ルートをトレースできて本当に良かった。






<ドームの頂上。北穂をバックに>












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