谷川岳/東尾根
(2002.3.8)
メンバー:吉田、原
(ARIアルパインクラブ)


 なんだかんだ山に行けず(行かず)気が付いたら3月になっていた。
 3月は谷川の壁系を攻めようと思っていたのだが、結局トレーニングも準備もたらず、東尾根に行くことになった。ヨッシーとは久しぶりのザイルだった。



<一ノ倉沢/衝立岩>
2002.3.8 晴れ

 例年のことだけど年明けは仕事が激務化し、3月のこの時期、職場はまさに阿鼻叫喚とも言うべき状態に陥っており、山に行くモチベーションと維持するのは難しく、それでもパートナーのヨッシーを首都高のPAで延々と待たせ、息せい引っ張り現地に向かった。いい年こいてあんたもバカやね〜と自らつぶやくも、サラリーマン山屋さんなんてこんなもんでしょう!といつもの楽観主義で押し切る。命がけで遊ばなきゃ気がすまないっつ〜、要はバカだわな。

 さてさて、関越道は順調に過ぎ、随分先に出たはずの有持、藤川Pに水上ICの先のコンビニで追いつく。彼らは二の沢の予定で、気温が上がる前にとっとと登ってしまいたいと、我々には目もくれず走り去って行った。買い物をして谷川岳ロープウェーの駐車場へ。準備をしている右ペアを眺めつつ、我々はのんびり東尾根だからもうちっと寝ますか、といって寝入る。
 しか〜し、ヘッテンを付けた大パーティーがぞろぞろと出合に向かっていくではないか!目を閉じていてもなんとなく落ち着かず、
 「ねぇ、ヨッシー・・・、オレらも出ようか・・・?」
 とボソっとつぶやき、次の瞬間脱兎のごとく準備を始めた。まるで夜逃げ人のようだった。時刻は午前4:30過ぎ。

 有料駐車場のエレベーターを上がり、6Fのエントランスホールの暖かい絨毯の上に横たわっているビバーカーを踏みつけないよう避けてとおり外に出る。指導センターで計画書をボックスに入れ、既にトレースバッチリの高速道路となった林道を出合へと向かう。やっぱり2月に来たときより雪の量と質が違う。ツボ足でも全然埋まらない。

 マチガ沢出合を過ぎる頃には夜も白みだし、一ノ倉沢出合に着く頃にはすっかり夜が明けていた。と周りを見渡すと、なんという人か!夏のシーズンのように人がわんさか。すでに登っている人も含めると、ざっと50人近くいたのではないだろうか。いや〜すごかった。
 なんともげんなりし、でもめげずにここでハーネス、ギアを装着。アイゼンも付けて、一ノ倉沢を詰める。すでにバケツとなったトレースに従って、本谷と別れて一ノ沢に向かう。テールリッジを登っている人はコンテナ大のブロックに難儀しているようだった。滝沢方面にも数パーティ入っていた。
 トレースにしたがって快適に一ノ沢を詰めるが、原は腹が痛くてペースが上がらない。どこを見渡してもしゃがめるところなどなく、う〜ん、がまんがまん、とつぶやきながら脂汗をかく。シンセンのコルに着けばなんとか場所があるだろう・・・、との薄い望みを抱いてシンセンのコルに到着すると、淡い期待も打ち砕かれた。
 うわ〜、このまま我慢して東尾根を登れなど拷問じゃ〜!!ええい、いっそ殺せ!そのような卑劣な攻めをせずに一気に殺せ〜!
 と叫びたかったが、そんなこと叫んでいてもお尻の穴の緊張感が緩むわけでもなく、またこのまま緩んだら大変なことになるので、安心して緩める場所をなんとか斜面下に見つけ、一ノ倉沢側に若干下って尻を出す。ああ〜、天国。脇を登っていく後続の方々には「えへ!」と愛想を振りまいてみたが、しゃがんでる僕に目を合わせてくれなかった。

 さて、核心をクリアしたところで再度ハーネスを締めなおし、第2岩峰に向かう。すでに先行が取り付いているが、トポどおり岩峰を直登しているパーティーは結構手こずっているようだ。次のパーティーは右からトラバースして岩を回り込んでいったが、これもあまりよくなさそうだった。我々は下からトレースの付いていないところをショートカットしてしまおうかと思ったが、数日前に降った新雪と、その前の高気温のおかげで融け固まった層の間に弱層ができており不安定で、とてもノーザイルで行く気にならなかった。仕方ないので順番待ち。すでに行列となっている後続のことを考えて、たまたま一緒になったT山岳会の伊藤さんペアのザイルを借りてトラバースした。雪の状態は悪かったと思う。

 さて、第2岩峰をトラバースし、雪稜に出るとまた岩稜帯となる。先行パーティーが手こずっていて、またここも順番待ち。ノーザイルで、途中まであがり、なんとか左から行けないものかとヨッシーにトライしてもらうが、浮石に翻弄され、あやうく滑落するところだった。落ちるコースが良かったので事なきを得た。
 いやいややっぱりこのような狭いところで追い抜こうなどと姑息な考えはいけません。順番どおりに行きましょう、と、結局ここも伊藤さんのザイルを借りてクリア。よっしーは再度左からトライして行った。


<二の沢本谷。最後の雪壁の詰める>
 岩稜を越えるとひたすら雪稜を進む。途中、シュルンドがバックリ開いているところが何箇所かあって緊張する。やはり昨日から今日にかけて気温が高すぎるのと、数日前に降った新雪で状態は悪い。シュルンドをさけつつ、マチガ沢側に張り出した雪庇をさけつつトレースを刻み、進むと、2の沢本谷の最上部と合流する。2の沢右壁には小規模な雪崩が数回発生していた。気温が上がっている証拠。でも、11時を過ぎると、なぜか気温が落ち着いた感じだった。
 トップのパーティーは何箇所かザイルを出していたが、我々が行く頃には悲しいかなバケツになっており、結局以降ノーザイルで進んだ。第1岩峰は結局2の沢本谷を登って巻いた。二の沢本谷には有持・藤川パーティーのトレースが付いており、それが拡張されてバケツになっており、歩きやすい反面、少し情けなかったりした(^^;;;

 バケツトレースに導かれ、最後の雪庇もなんなく越えて国境稜線へ。少し下がったコルに出て、ハーネスとギアを外した。

 帰りは西黒尾根を下った。気温がたかく、雪庇の境目にシュルンドがバックリ口をあけているところも何箇所かあり、少し嫌だった。それから最悪なくらい長かった。こんなことならスキーを持っていって西黒沢を滑降した方がよかったと、後悔した。


<総括>

 豪雪地帯の雪稜系のルートに共通していることだけど、とにかく雪の状態に左右されるルートだと思った。安定していれば、それこそ早いだろうけど、雪が不安定だと第2岩峰のトラバースですら難儀だろうと思う。それからマチガ沢側に大きく張り出している雪庇には注意が必要。一ノ倉側の雪面をトラバース気味に行くが、一ノ倉側も状態がわるければ積極的にザイルを使った方が良いと思う。それでも、スタンディングアックスか、デッドマン等を使うしかなく、そういった悪い状態だと確実な確保は難しいかもしれいない。
 という意味で、最後の二の沢本谷に出てしまえばかえって楽かもしれない。ここの雪壁は急峻で風が吹き抜けることもあり、比較的硬い。だが、二の沢本谷からマチガ側に出たところは上部に国境稜線からの雪庇が張り出しており、また強烈に日当たりも良く雪面も緩くなるので傾斜は落ちてくるが注意が必要。最後の雪庇は、雪庇のトマの耳側のはずれが崩しやすいようだが、これも状態に左右されるだろうと思う。

 侮れないと思う。白山書房の冬期クライミングには1級下と書いてあるが、たとえば2級の中山尾根とかよりずっと総合力が必要だと感じた。ま、状態がよければ簡単でしょうけど。




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