剣岳/6峰Bフェース/剣稜会ルート,6峰Cフェース/富山大ルート〜長次郎谷〜三ノ窓(1999.8.14〜17)メンバー:大野、原(ARIアルパインクラブ)

 8月13日(金) 新宿〜信濃大町

 23:50新宿発の急行アルプスで信濃大町へ。新宿駅で発車を待っていると宮川さんから大野さんの携帯に突然の電話。

 大野:「今ですか?アルプスの中です・・・」
 宮川:「オレいまアルプスの止まっているホームを歩いているのだけど・・・」
 大野:「え・・・」

 なんと、窓の外にプラットホームを歩いている宮川さんを発見。「あ゛〜っ!」とお互いを指さし、車内でのおしゃべりが始まったのでした。ちなみに宮川さんは小川山に行く予定。小淵沢で降りてゆきましたとさ。

 それからこの日、役所を出る前に自宅に電話してみると、我が母親が「あんた!剣で人が死んだらしいわよ!」と吠えていた。場所は確認できず。なんとなく気になる。


 8月14日(土)曇り〜雨 信濃大町〜室堂〜熊の岩

 信濃大町からバスで扇沢へ。そこからアルペンルートを一路室堂へ。室堂に8:15分頃到着。このルートをスムーズに行くためには、まず信濃大町駅でアルペンルートの切符を買ってしまうこと(扇沢〜黒部ダムまでの一番バスの指定がここで買える。並ばなくても一番バスにあぶれることはない!)。それから、黒部ダムで、トロリーバスの終着点からケーブルカーの駅まではダッシュすること(ケーブルカーの駅で整理券を配っている。ここで遅い整理番号になってしまうとその後のロープウエーもその先のトロリーバスも相当遅い便になってしまい、室堂着が遅くなる。ま、我々はダッシュしませんでしたけど、周りものんびり歩いていたので早い整理番号がとれました。)。

 室堂で水を汲み、今にも降り出しそうな空に雨具を羽織る。8:30室堂出発。みくりが池の脇を通って雷鳥沢に一旦下り、別山乗越へ登りかえす。別山乗越にだいたい10:30。乗越に上がってみると剣沢からの風が相当強く、雨もぱらついている。小屋のなかでしばし休む。
 そこから剣沢を下る。剣沢の小屋までは普通の登山道の下りで30分もかからない。さらにしばらく行くと雪渓に降り立つ。雪渓の状態は良好。しかしなんと言ってもこの山行のために買ったハンワグの登山靴はとても歩きやすい。普通のトレッキングシューズとは大違いでアイゼンなしでも足下の心配はまるでなかった。
 しばら下っていくと平蔵谷を合わせ、源治郎の末端を過ぎ、八ツ峰の切り立った末端が見え始め(マイナーピーク?)長治郎谷出合にたどり着く。ここで11:45。順調なペースである。休憩を入れ行動食を食い、アイゼンを付けて12:00過ぎに出合出発。右に八ツ峰、左に源治郎を眺めながら長治郎谷を詰める。
 徐々に傾斜は増し、息が切れ始め、しばらくすると雨が強くなる。小休止を一回交え、全身ずぶぬれになりながら熊の岩に15:00前に到着。雨のため後半はスローペースとなった。一カ所雪渓が切れているところがある以外は快適な雪渓歩きであった。
 長治郎谷を詰めている最中には上から人がたくさん降りてきたが、すれ違う人々に昨日の事故の事を聞くと、なんと峰Dフェース富山大のようだった。我々も行く予定なのでちょっと気になる。事故の原因によっては取り付かない方がよいはず。なるべく情報を収集しようと思った。
 熊の岩には我々の他にテントが5張。隣の隣のゴアライトはなんと廣川(JECC)、大野(風来坊)ペアのものであった。
 全身ずぶぬれの身体はテントに入ってゆっくりしていると急に冷え込む。すぐ近くの水場から水を汲み、早めの食事をとって翌日の晴天を祈って就寝した。

 8月15日(日)晴れ〜曇り〜雨 熊の岩〜八ツ峰峰/Cフェース剣稜会、Dフェース富山大〜熊の岩

 朝起きるとなんと雨はやんでいる。急いで朝食をとり、支度をしてCフェースへ(6:00頃)。少し朝寝坊してしまったにも関わらず、まわりはもっと自堕落な方ばかりのようで、我々が峰全体で一番乗りであった。
 Cフェースは剣稜会を登る。すぐ後ろに追いついてきたのはガイドの森中パーティー。森中氏はこの岩を知り尽くしていて早い早い!お客の女性も相当登りれているようで「なんでガイド山行なんてするのだろう・・・」と思わずうなってしまうほどうまい。きっとお金持ちなのだろうな、と納得。途中、我々が正規ルート(たぶん)をとっている最中に森中氏がショートカットルートをとり、あっさり抜かれる。その後ろには廣川、大野ペアが迫っておりビレイポイントで改めて挨拶。廣川氏はトレードマークの一眼レフを担いでの登攀であった。
 剣稜会は技術的に難しいところは皆無で、すこぶる快適。特に、5ピッチ目(切り方によっては4ピッチ目)の高度感のあるリッジはとても気持ちがよい。途中から青空が広がり、この山行で唯一の夏空登攀であった。
 この登攀中、森中氏から峰についていろいろアドバイスを受けた。また、森中氏と廣川、大野両氏から一昨日のDフェースでの事故の情報を聞くと、どうやら2ピッチ目でルートを誤り、変なところで支点をとって落ちたとのこと。森中氏からは「必ずきちんとしたビレイポイントで支点をとらないとダメだよ」と言われた。どこでも切れそうな剣稜会を登っている最中、本当にそうだなあ、と思った。Dフェースに行くか悩むが、天気は晴れだしているし、Cフェースの頭で「行けるよ。昨日、俺達も雨の中を4ピッチ目まで登ったもの」との廣川氏の言葉に、次はDフェース富山大に行く事を決心する。登山靴に履き替え、5・6のコル経由で峰基部にもどり、Dフェースに取り付いた。
 Dフェースの基部にまわり、取り付きを探す。剣稜会は一発で取り付きが分かったが、富山大はCフェースとの間のルンゼをちょっと入ったところにあり、少し迷う。基部には久留米大に取り付こうとしていたJECCの岡田パーティーがいたが、Cフェースとは大違いの濡れ濡れの岩にAフェースへ撤退していった。
 さっきまで晴れていたのに天候が急変。霧雨が降り始めた。でも、行けるところまで行こうということで取り付く。フェースは濡れていてわるい。グレードが一段づつアップしたようであった。特に2ピッチ目の凹角と3ピッチ目の核心は濡れ濡れでわるい。足のフリクションが信用ならない。
 1ピッチ目、大野リード。トポでYのピッチ。一部濡れていて嫌らしいが、ホールドもガバが豊富で問題はない。
 2ピッチ目、原リード。トポではV+のピッチであるが、凹角内が濡れ濡れでとても登れない。仕方がないので右側のフェースを登る。最後、ハングにブチ当たってしまう。なんとか越えられそうであったがその先にビレイポイントがあるかどうかわからない。それに、凹角は左へランペとなって続いており、このハングを越えると正規ルートからかなり離れてしまう。ここでミスったら岳樺の二の前を踏んでしまうので慎重にルートファインディング。濡れ濡れでグレードのあがったハングの基部を慎重にトラバースしてゆくと、シュリンゲがかかったリングボルト2本のビレイポイントがあった。多分ここが正規の支点。錆がひどく、あまり衝撃はかけたくないようなリングボルトであったが、その先にはビレイポイントは確認できず、ここでコール。
 3ピッチ目、大野リード。トポではY−。出だしは何のことはないフェースだが、濡れているので非常にいやらしい。核心は切り立ったフェース。ここも濡れ濡れ。縦に走ったクラックがホールドで、乾いていれば何のことはないのだろうが濡れているので相当怖い。右側のカンテ状に足をかけるとほっと一息。その後、乾いたフレークのホールドをつかみつつビレイポイント。悪いコンディションにも関わらず大野の見事なリードは頼もしい限りであった。
 トポ(日本の岩場)ではその次のピッチが左上のみであるが、実際はリッジの途中までのばせる(もしかしたら、我々のルートどりが違う?)。ビレイポイントもリッジ上にしっかりある。リッジ通しにもう1ピッチ切って(両方ともYのピッチ)、あとは簡単な級を1ピッチ。Dフェースの頭は霧の中であった。

 再度・のコル経由で下降。予定では今日中に三の窓にベースを移して、明日剣尾根を狙う予定。二人とも体調もバッチリ、行ける。
 ところが!熊の岩に戻る途中で雨が降り出す。テントに入った途端本降りになり、本日停滞を決めこむ。この時点で剣尾根は完全にあきらめ。明日の朝一で三の窓へ移動することとする。

 8月16日(月) 曇り〜雨

 今日は三の窓に移動した後チンネ左稜線を片づけ、最終日の朝一で1時間位のショートルートを一本登って早月を下山する算段。雲が多いが雨は降っていない。朝4時過ぎに起き、ベースを撤収して長治郎谷の雪渓を詰め始めた。
 上部は雪渓が切り立ってきて6本爪の原はちょっとビビる。ゆっくり行けば行けないこともないが怖いなあと思っていると、さらに上部で雪渓がバックリ割れている。う〜ん、と悩んでいると丁度八ツ峰のZ・[のコルが見える。ガレたルンゼを這い上がればなんとかコルに立てそうなので、そうする。こんなルートを行く人などおらず、ルンゼ内は浮
き石だらけで悪かったがなんとか・のコルへ。このころからまたしても天候が急変し、雨が降り出した。
 Z・[のコルに立つと、その向こう側にドーンとクレオパトラ・ニードルがそびえていた。丁度、池の谷ガリーへのショートカットルートが確認できるのでそこを行く。が、雨で濡れているため、結構悪い。途中、クレオパトラ・ニードルと八ツ峰の頭とのコルまでのフィックスが張ってあるところでフラットソールに履き替えたら効果抜群!今までの3倍くらいのスピードで歩けた。
 コルに上がると今度はチンネとおぼしき岩壁が見える。ガスっていて視界がきかず、位置関係を把握するのにとても苦労する。この辺りは岩が複雑に入り組んでいるので、なにも見えないこのコンディションで、しかもこの山域は初見の身にはルートファインディングの良い修行であった。ガリーを詰めて今度はチンネと八ツ峰の頭とのコルへでて、池の谷ガリー側におりる。なんとなく位置関係に確信がもてず、地図とコンパスで確認しながらガリーを降りた。しばらく行くと三の窓が突然現れる。テントが1張。雨に濡れた惨めなツェルトが2つ。
 でも、実はこの(長治郎雪渓〜八ツ峰Z・[のコル〜ショートカットルートから池の谷ガリー〜三の窓)のルートが熊の岩から三の窓への最短なのではないだろうか。X・Yから八ツ峰主稜をつめるより、池の谷乗越をまわるより早い(と思う。)。 三の窓でテントを設営し、中で少し休んでいると土砂降りとなる。チンネの方からはコールが聞こえるが、これでは取り付く気にはならず、昼寝。
 16:30頃雨が上がり、雲が切れ始める。しかし、今から準備をして取り付いたら夜間登攀確実で、再度雨が降ってきたらとても危険なので今日の登攀はあきらめる。そのかわり取り付きを確認するためにチンネ基部を偵察。すでに誰もいないチンネの岩を基部に沿って左稜線側へ移動していく。ここかな?と目星をつけるが今一確信がもてず。しかし、三の窓に帰る途中、ある角度から少し離れて見たら、登山体系や日本の岩場のトポの略図とチンネのシルエットが全く同じになる!ここで取り付きを確信。いや〜、岩の観察は「離れた位置+岩場に近づいて」というのは鉄則ですね。基部をウロウロしていても同定できない取り付きでも、離れてみると一発で分かる時がある。
 とりあえず、明日の晴れを祈って就寝。昼寝充分なのでなかなか寝付けなかった。

 8月17日(火) 雨(早月尾根下部では晴れ) 三の窓〜池の谷乗越〜本峰〜早月尾根下山〜馬場島

 これまで朝一は必ず晴れていたので、今日もそれを期待。朝3時に起きて4時に出発し、左稜線をサクッとのぼって早月下山の予定。ところが・・・・。
 テントをでると超濃霧!すぐ隣の小窓の王も、ジャンダルムさえもその姿が見えない!
 それでも日が昇れば登れるかと待つが、4時頃とうとう雨が降り始める。テントの中で様子を見るが止む様子はない。ふかーいため息をついて、「もう・・・、もう・・・・」と牛になりつつハーネスを外し、シュラフカバーへと戻ってしまった。
 しょうがないので下山。6時頃撤収を開始し、6時半に三の窓を出る。池の谷ガリーを登って池の谷乗越へ。長治郎上部は雪渓が続いていた。そこから本峰へ。いくつも岩峰を越えて行くが、霧のため視界が全くなく、ルート取りには気を使う。
 突然人の声が聞こえたと思ったら本峰。ここでしばし休み、早月を下る。上部は一般道にしては結構悪いなあ、という印象であった。早月小屋あたりから晴れ始める。どうやら下界は晴れているようだが、上の方を見上げるとまだ深い雲のなかだった。そのまま黙々と下り、馬場島へ。剣の頂上から原が4時間、大野が4時間40分であった。結構良いペース?でも、有持・藤原の化け物コンビなら3時間とかで下ってしまうのではないかねえ。

 下界はまさに夏であった。馬場島ロッジのセンターでタクシーを呼び(だいたい35分くらいでくる。ちなみに僕の携帯はここでは「圏外」であった)、上市駅へ(タクシー代6800円)。駅前の銭湯(350円。番台のあるすこぶるレトロなもの。ちなみに石鹸もシャンプーもない。シャワーもなし。)で汗をながし、電車で富山へ。富山で軽く一杯やって、電車の中ではなぜか割腹ものの大笑いをしながら越後湯沢経由で東京へ帰りました(富山から3時間半)。

 結局、雨にたたられて峰の2本にとどまったけど、それでもこの天候で登れたのはラッキーだったと思う。また、剣沢〜長治郎〜八ツ峰〜池の谷上部〜三の窓(チンネ)〜本峰〜早月と歩き回ったおかげでこの山域の概念が把握できたことはとても大きな収穫だった。この山域は岩が複雑で、トポや地図では読めない高低差やアプローチルートの悪さ、岩場の状態やテント場の状態(水場やアプローチ等)が把握でき、次回に向けてはとても意味のある山行になった。

 次なる目標は剣尾根とチンネの諸ルート。それから、なんとなく小窓尾根という長大な尾根にもあこがれております。

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