北岳バットレス/四尾根〜中央稜(2000.10.8)メンバー:山中、石崎、原(ARIアルパインクラブ) 






 9月の週末は雨で全滅だった。バットレスも、屏風も雨で敗退、その他の週末はせっせと広沢寺に通うしかなく、いい加減ストレスが溜まっていた。
 10月の三連休は当初アニマルさんと丸東にでも行こうかと言っていたが、アニマルさんがお子さんの運動会に参加するということでボツ。それなら、新人とバットレスでも入るか!ということで、今年入ったばかりの山中さん(山さん)と石崎さんと一緒にバットレスの四尾根〜中央稜を登ることにした。ちなみに、一緒に入った有持さんはガイドのお仕事。福岡からバットレスを登りにきたお客様を二人連れて四尾根に向かった。

<朝日に浮かび上がる下部岩壁の紅葉>
 10月8日(日)晴れ〜曇り〜雪(下界は雨)

 日曜日の未明に広河原に入る。三連休の中日に入るということで、広河原に駐車スペースが空いているかどうか心配したが、なんとかとめることができた。この車の量では、バットレスにも例年どおりわんさか人が入っているに違いない。四尾根の大渋滞に巻き込まれたら中央稜への継登があやぶまれるということで、一睡もせず、午前3時前に出発。ヘッテンを付けながら大樺沢を詰める。と、前方にヘッテンが揺れている。どうやら同じ事を考える人は多いようだ。やれやれ、四尾根渋滞に巻き込まれませんように、と祈った。
 大樺沢二俣に付いても夜は明けなかった。休憩していると、白根御池小屋の方から何パーティーもやってくる。しかも、皆ヘルメットを持っているではないか。いかん!こりゃ四尾根は大渋滞になるぞ!と、一睡もせずに登攀に入るというクレイジーなやり方に慣れていない新人の山さんと石崎さんをせかし、下部岩壁に急ぐ。我々はbガリーを目指した。
 b沢出会いから一般従走路を離れる。目印の大岩には1パーティー休んでいて、これを抜かす。b沢を詰めている途中で夜が明け始めた。すると辺りは紅葉だった。今まで真っ暗の中を歩いてきたので全然気づかなかったけど、こんなに見事に染まっているとは!おもわずシャッターを切った。
 と、撮影にいそしみつつ、それでもbガリー1番乗りを目指して急ぐと、bガリー大滝取り付きには誰もいない。よかった。1番乗りだ。
 とにかく4尾根に早く取り付くこと。そうでないと、秋のバットレスは大渋滞に巻き込まれる。そそくさを準備をし、新人二人をせかし、原リードで取り付く。
 bガリー1ピッチ目、若干凹角気味のフェース。5尾根支稜の一ピッチ目に比べると岩も堅くピンも豊富。Vなので簡単。良いウォーミングアップ。25mくらいのばしたところに支点が現れるが、もう一つ先の支点までのばせる。40mくらいでコール。
 bガリー2ピッチ目、これもV級。とにかく急ぎたかったので、一杯に延びたところでコンテにし、bガリー終了点から尾根を乗越してcガリーに入り、ガラガラの悪いトラバースをクリアして四尾根に取り付く。四尾根側壁にはご丁寧に赤いペンキのマーキングがしてあった。誰がこんなもの書くのだろうか・・・。
 ザイルをつなぎながら四尾根取り付きまで来ると、我々が一番乗りだった。どうやら、5尾根支稜に向かった先行パーティーを見事に抜かしたらしい。やっぱりbガリーを上がるのが一番早いみたいだ。やったね!

<4尾根1ピッチ目をリードする石崎さん>
 一番乗りができたのであれば、ここから先は脅迫的に急ぐ必要もない。もう2回も登っている四尾根は新人二人の練習のためにリードを譲ることにした。
 はじめは石崎さんリード。その後、核心のX級のピッチからロープを付け替えて山さんがリード。二人ともスムーズにリードをこなしていた。マッチ箱の懸垂点で、ガイドなのにコンテでお客二人を引っ張る有持さんに抜かれる。ガイドなのに、四尾根を下から上までコンテ!いやはや、さすがにスゴイ・・・。でも、お客さんのおばさん二人は、目もくらむほどの早さで後方にどでかくそびえる見事な富士山の存在も目に入らない様子。福岡からはるばるやってきた憧れのバットレスがたったの1時間半で終わってしまうのであった。う〜ん、有持さんも罪なことを(^^;;;;
 我々も追随し、中央稜への懸垂点にたどり着く。ここから30m×1と40m×1の二回の懸垂でcガリーのどん詰まりに降りる。足場はぐずぐずに荒れているので、懸垂中何度も落石してしまう。下に人がいるときには注意が必要。懸垂支点はともにしっかりしている。


 さて、中央稜である。ここからは原がオールリード。昨日から一睡もしていないので、山さんと石崎さんには若干の疲れが見えるため、取り付きで少し休む。が、後続パーティーが懸垂で降りてきたため、先行されるとさらに時間を食うので先を急ぐことにする。取り付きのテラス状に上がるとやや左方にハーケン×3本が確認でき、これを支点とする。
 中央稜1ピッチ目。W+。見上げると切り立ったフェースで、若干くびれたところを突破できそうに見えるけど、岩がもろくピンもない。右方にハーケンが確認できそちらにザイルをのばすと傾斜のきついランペ状のラインが確認できる。最初のうちはハーケンもまばらであるが、シュリンゲが垂れ下がったハーケンにクリップすると、そこからは程良い間隔でハーケン、ボルトが続く。右上ランペを進み、一段上がると今度はバンドを左へトラバース。かぶっており若干嫌らしいが、ホールドもハーケンも豊富。トラバースしきると、ジェードルに入る。「日本の岩場」のトポでは、ジェードル入口で1ピッチ目を切ることになっているが、実際にはもう少しのばせる。ジェードルも最初は傾斜がキツイがだんだんとゆるむ。ハーケン、ボルトもまあまあある。45mくらいのばしたところでとてつもなく離れたハーケン三本が現れ、上を見上げると2ピッチ目(「日本の岩場」トポでは3ピッチ目。)のハング帯だったのでここで切る。1ピッチ目はハーケン、ボルトも豊富にあり、強度にも全く不安は感じなかった。山さんと石崎さんもちょっと時間がかかったけどクリア。

<中央稜4ピッチ目の原。核心を越えているので余裕>
 中央稜2ピッチ目。W。トポどおり、まずハング基部に上がり右へ右へとトラバース。ハーケン、ボルトも豊富。ただし落ちると強烈に振られるので注意が必要。トラバースしながら、ハング帯の越えやすそうなところを探す。すると、若干凹角気味のハングの弱点とも言うべきところにラインが確認できる。そこを突破。かぶっているけど、Wのハングなのでガバガバで気持ちよい。10mくらいのハングを抜け、右のリッジ寄りの第2ハングの基部にある支点でコール。35mくらい。「日本の岩場」のトポでは、第二ハングも越えることになっているが、我々の2ピッチ目の支点からではおそらくそこまで届かない。この第2ハング基部の支点もしっかりしており、問題はない。新人二人は荷物を背負ってハングを越えられるかな、と心配したものの、山さんも石崎さんも余裕でクリア。
 中央稜3ピッチ目。W(原によるグレーディング(^^;;;)。支点からそのままバンド状を左にトラバースし、やや凹角気味のラインから第2ハングを越える。かぶっているが、ガバガバなので気持ちよく越えられる。が、所々もろいホールド・ステップがあるので注意が必要。第2ハングを越え、さらに小ハングを越えると傾斜もゆるみ、右のリッジに向かって右上し、リッジに出たところで支点が現れる。30m強。
 中央稜4ピッチ目。V。リッジ沿いの気持ちの良いピッチ。3,192m峰の頂上直下ということもあり、もう爽快。岩は簡単。ルートも明瞭。50m弱で支点が現れる。
 中央稜5ピッチ目。V〜U。引き続きリッジを進むと、一気に傾斜がゆるみ、ハイマツ帯に突入する。50m一杯延びたところでコンテにかえる。二足歩行が可能なくらいに傾斜がゆるむと、頂上と一般縦走路が見える。そのままリッジ沿いに進むと、北岳の頂上にポン!と出る。このルートは頂上に直接突き上げるのでとても気持ちがよい。

<北岳の頂上で。左から山さん、石崎さん、原>
 一般縦走者は「どこから登ってきたの?」と驚いている。「いや、そこの崖から」なんて、こっちも調子こいて答える。頂上はシーズン最後の週末だけあって、登山者が多かった。そして、3,192m峰のてっぺんは、既に冬支度だった。
 記念撮影をし、食事をとっているとなんと雪が降り出した。時刻は13:00過ぎ。午後から天気が崩れることは予想していたが、しかし早出をして良かった。4尾根渋滞に巻き込まれていたら、中央稜はおろか、この雪に中敗退していたかもしれない。
 そそくさと荷物をたたみ、とっくに下山した有持さんの待つ広河原を目指す。標高を下げると、雪は雨に変わった。八本歯のコルからバットレスを見ると、雨のなか四尾根は渋滞していた。懸垂を始めるパーティーもいた。
 紅葉に燃える大樺沢を下りながら、そろそろ白い季節の到来だなあと思った。




 〜総括〜
 4尾根は相変わらず4尾根だった。特段特筆すべきことはない。
 中央稜への懸垂支点はマッチ箱の懸垂から2ピッチ登ったところの枯木テラスの下。のぞき込むと支点があり、一目で分かる。懸垂2ピッチ目も支点はしっかりしている。が、強烈に岩がもろく、浮き石、岩屑だらけなので落石には注意が必要。先行がいる場合には、先行が完全にcガリーまで降りてから懸垂を始めるべき。ロープに直撃したら大事故につながる。
 中央稜は事前に聞いていたより悪くなかった。全体的にランニング、支点もしっかりしており、豊富だったと思う。ただ、Wとはいえハング越えなので、慣れない人でビビりが入ると手こずるかもしれない。ガバガバだから、思い切りよく乗り越えること。
 第1ハング基部をトラバースしすぎるとリッジに出る。登れないことはないが、ランニングが皆無なので注意(有持さんと藤原さんはリッジ沿いを登ったらしい。)。ハングは見た目ほど難しくない。越えられる。
 なんといっても頂上に直接出るので爽快である。今度は大ハングルートを登りたいと思った。



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