EPISODE 1.
信濃の地でカヌーに目覚める!
第2章 おおいなる船出  


 ようやく東京組が到着したのは11時40分。 やはり等距離とはいえ都内からの脱出には時間をくうものである。

 
食事、車の廻送、カータの新艇の組立てを終え、いざ出発となったのは二時半になろうかという頃。民宿「よろずい」の脇の川原を出発地点とする。

 カータ艇はしっかり組み上がらずスターン(船尾)のチャックが閉まらないままのスタートとなったが今日のコースなら大丈夫だろう。

  カータは自艇で出発。 ナオは実は学生時代ボート部だったらしく水上での感覚はひょっとしたら今回の誰よりも上かもしれない。 そこで彼女には安定はしているが一人乗りのシットオンの艇に乗ってもらうことにした。

(記念すべき船出前のメンバーたち)
  ミャータは自ら志願して我が新艇(といっても中古だが)のプレイボートに。これで腕を上げると本人はやる気充分である。僕はまるで初心者のカズをメンドウ見ると言うことで我がファルト二人艇に(役得、役得)。

 狭い川なので順番に出発。 最後に我々が出た時にはもうカーブの向こうに3艇とも消えて行っており、なかなか快調な滑り出しと見た。

(順番に出発してゆく各艇)
 事実、意外に水量が豊かでスピード感もある。確かに周りはしっかり護岸された用水路だが流れは美しく河岸の緑も豊かである。

  まず追いついたのがミャータ艇。なにやらスプレースカートがはまらないと悪戦苦闘している。この流れなら大丈夫だから来い、と再出発を促す。

 やがてカータ艇、ナオ艇とも合流。なんとナオ艇は最初の橋脚に張り付いていきなり沈したそうだ。慣れているとは言え漕ぐ方向が後ろ向きと前向きでは勝手が違ったか。
横にいたカータも為す術がなかったらしい。幸い水深が50p程度なので起き上がって自力で脱出、再乗艇できたようだ。

 やがて川は両岸からせまる樹木が増え護岸した岸も消え、まさに里を流れる昔ながらの川の様相を見せはじめる。 川の両サイドにはワサビ園が点在し、この清らかな流れを生活の一部として利用している。汚水を垂れ流すだけでない、人の生活と密着した川のなんと美しいことか。

  張り出した大きな樹の枝に引っ掛かりそうになったり、目の前で急に飛び立つ水鳥に驚かされながら、大王ワサビ農場の水車小屋を通りすぎ雑木林の中を軽快なスピードで下ってゆく。


(橋の上からの歓声に応えながら軽快に旅は続く)

(まるで原野をゆく流れのよう)

 

 やがて薄暗かった雑木林が途切れ、開けた川原が先に見えた。穂高川、高瀬川が合流して万水川はここで終わりを告げる。いよいよ犀川への突入だ。

 合流地点の川原では別のパーティが休憩していた。 3艇のファルトだ。 我々もその少し先の川原に上陸を試みる。

「ホレ、ここで上陸!」

  と声を掛け上陸行動に出たが至近距離に寄って来たのはナオ艇のみ(これも最後は私が身を挺して受け止めた)。 その50メートル先にミャータ艇が漂着、カータ艇に至ってははるか200メートルくらい先に打ち上げられていた。 我が艇の周りには3人、多数決から言っても(しかも女性が2人だ)彼らがここまで戻ってくるのがスジってもんでしょう。

 出発後初の上陸休憩。

 夏の終わりの川面を渡る風が心地よい。 シットオンに乗ったナオ嬢も、スプレースカートが上手くはまらなかったミャータも、スターンのチャックを開けたままのカータも、みんなお尻を少し濡らしはしたが川下りの楽しさを満喫している様子。 カズ嬢と僕の二人艇も何度か張り出した枝に突っ込みながらも軽快に下ってこられた。


(背後に、打ち上げられたカヌーが見える)
 万水川はスタート地点の印象を良い方に裏切って、なかなか満足のいく川下りを楽しませてくれた。

 先に休憩していた3艇を見送る。
彼らの出発の仕方を見ながらエディー(瀞場)からの「ストリームイン・アウト」なんかをエラそうに解説してやる。 次からは200メートルも離れて上陸しないようにしたいものだ。

 さぁ我々も再出発だ。今日のゴール地点は数百メートル先に見える犀川橋の向こう側。 高瀬川の合流後は瀬らしい瀬も無くのんびりとたどり着けるはずである。

 犀川は流石に一級河川らしく大河の様相。両翼の河原も広々として気持ちが良い。長野市内で千曲川に合流しやがて信濃川に名を変え新潟で日本海に注ぐ。日本海まで235キロという看板が犀川橋に掲げてある。カータが言う。

「ほんならYAJさん、これで新潟まで帰れますやん」

  馬鹿言っちゃいかん。2、3週間会社が休みをくれるならやってやるけど。 そんな余裕のある職場でないことはみなさんご存知でしょう。

 川幅が広くなった分流れも緩くなった感がある。しかも北西からの向かい風が更に進行を遅くさせている気がする。 がんばって犀川橋を越えようとみんなパドリングに力が入る。

  その時である。振り向くとミャータがザラ瀬に捕まって立ち往生しているではないか。 艇から降りて流れの中に戻ろうとしているのだろう。しかし一向に動かない。 艇を川の流れに棹差す形で自分がストレナー(杭や橋脚といった水中の障害物)のようになってツッタッテいる。 カータが川下から声を掛けるが返事がない。 恐らく瀬音でかき消されて聞こえないのだろう。

5分ほど下流で見守っていたが、まるで動かない。微動だにしない。

彼はここで一生を終える覚悟をきめたのか?!


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