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さぁ、いよいよ出発。ミャータの新艇披露でもあるし今シーズンの初ツーリングなので景気良く進水式とシャレこむ。 シャンパンでもあればいいのだが最寄りの店に無く、とりあえず炭酸入りのアルコール飲料で乾杯。それぞれの艇の舳先にも注いで、いざ進水!
新船長ミャータと海の男イサゴペア、カータ・シュウペアが続く。今日は全艇がファルトの二人艇だ。先導する僕は今回はのんびり独り舵で行く。
天気予報では午後から下り坂。寒気が入り込むため大気の状態は非常に不安定になり雷雨を伴うことも、などと言われていたが幸い薄曇り状態で踏みとどまってくれている。ときどき薄日も射す程のまずまずの天候。
ペア同志で抜きつ抜かれつの競争をしたり、体当たりを食らわしながら下る。 男だけとなるとどうもやることが荒っぽい。自分の進路に他人の船が入ると決まって
「敵艦発見、突撃体勢に入る!」
敵艦の方も
「迎え撃てーっ!」
となる。
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出発前の記念撮影 |
シュウとイサゴが特に威勢がいい。 そりゃそうだ、自艇ではないのだから。横っ腹にまともに食らったカータが
「ぎょえええー、オレの船じゃ、やめろ!やめてくれ!」
昨日までの雨で幾分増水気味の那珂川。ザラ瀬や1級程度の瀬を越えて順調に下る。 八溝大橋を越えたあたり陽射しも強まってきたのでお互いの船の上から記念撮影などを始める。
ミャータ・イサゴ艇のふたりがカメラに向かってポーズのつもりか同じ方向にふたり一緒に体をひねった。 あっ、そんなにひねると、と思う間もなく、なんと川の真ん中で沈! 馬鹿にもほどがある。粗沈も粗沈、なんとも形容し難い粗沈である。男ふたりの悲鳴と船上の3人の歓声が広い川面を渡って行く。 陽射しはあっても4月の川の水はまだまだ冷たいのである。ふたりはお互いを罵りあいながら中州に泳ぎ着いていった。
我々3人も少し下流に上陸し、濡れネズミのふたりを笑いながら眺めていた。まさか沈するとは思ってなかったふたりは着替えも無く服を脱いではふたりで絞り合っていた。イサゴなどはどんどん脱いでいって、しまいには川原で素っ裸になって服を絞っている。大笑いである。で、そのままの格好で
「いやぁ、ご迷惑おかけましたぁ」
などと言って近づいてくるではないか。
「こらぁ、その格好が迷惑じゃ!」
「来るな、こっちに!」
「てめえは、ラ族か!」
ラ族というのは日清のカップラーメン「ラ王」のCMで俳優椎名桔平演ずるところの裸の男の事である。ありとあらゆる罵詈雑言をものともせず川原で素っ裸のイサゴは
「俺のこと椎名桔平と呼んで」
と、めげる事を知らない。
もうひとりのラ族ミャータは好きで裸になっいてるようではなく濡れた服を着るに着れず、例によって情けない声で
「ス、スンマセン・・・お待たせして・・・さ、寒ぶっ、うううっっ・・・」
と震えている。ラ族にTシャツを貸与して文明社会に連れ戻し再出発。ミャータ新艇の初沈は思わぬチン騒動で我々の記憶に残ることとなった。
その後は快適な川下りが続く。シュウがひとりで漕艇することにし、私の艇の前席にカータ、ラ族はそのままラ族同志で下る。瀬が近づくと決まって全員でそちらの方に寄っていく。ラ族のふたりはすっかり開き直っている。
「もう怖いモン無いっすよ!」
元気なイサゴに対して前に座るミャータはもう寒さと疲れからか、どうにでもしてといった風情で、ある意味開き直り。
大松橋の手前、左岸に岸壁、そこから2メートル程間を空けて大岩が流れの中に顔をだしている箇所がある。流れがその間に集中して結構な白波。オマケに瀬の出口は左岸の岸壁が迫り右へカーブしている。2〜2.5級の瀬か。ガイドブックには岩の右側を通過すると書いてある。

前席に乗るは、ライジャケも付けていないラ族
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ラ族の勢いに乗せられて下っている我々は当然
「行くでしょう、ここは!」
と左寄りの大岩と岸壁の間のわずか2メートルの隙間を狙って突入してゆく。前席のカータが
「ふんがぁ!」
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と雄叫びを上げて白波をかぶり必死にパドルを繰り出す。大岩と白波を突破し、岸壁沿いのボイル(壁に当たって川底から水面に向かって湧き出すように盛り上がってくる水流)にもめげずカータ・YAJ艇はクリア。
シュウの単身艇も身軽に波を蹴散らしてくる。最後はミャータ・イサゴ艇。イサゴは開き直って歓声を上げてパドリングを繰り返し、ミャータはミャータで開き直ってパドルを胸の前に掲げて微動だにせずに荒波に乗っかっている。左岸の岸壁にぶつかりそうになり、イサゴに
「漕げっ、漕げよう!」
と言われても動かないミャータってある意味スゴイと思う。
後から分かったのだがミャータは瀬の中は漕がなくても良いと思っていたらしい。
「だって、瀬の中って流れがあるじゃないですか」
「??? ・ ・ ・ ・ ??」
うーん、返す言葉にも躊躇してしまいそうな見事な勘違いだが、カヌーにとってのパドリングは推進力を得るためだけでなく船底以外にもう一点カヌーを支える支点を得ることにある。カヌーが不安定になる瀬の中では流れよりも素早くパドルを繰り出す事が定石とされている。やはりミャータって、なんだかとってもスゴイと思う。
今日のキャンプサイト、境橋のたもとに着いたのは夕方5時になろうかという頃。春の日は長いといってもなんとなく薄暗くなりはじめていたし川面を渡る風も涼しくなってきていた。ラ族のふたりも疲労困パイ。三連アーチの境橋が見えた時は正直ホッとした。
たくさんのカヌーイスト達がテントやタープを張って既にキャンプサイトの設営を終えていた。多くはここをスタート地点として明日ここからの下流を下るのだろう。ほとんど最終組で到着した我々も早速テントの設営、焚火の準備にかかる。イサゴは濡れた下着を脱ぎ捨てここでも下半身ムキ出しのまま作業している。みなからはその頃すでに「ラ王」と称されていた。シュウとカータが車の回収に向かおうとする。テントを組み立てていた「ラ王」イサゴが
「なんで、ふたりで行くんだよ? 手伝ってくれよ!」
彼はまだ車の廻送・回収のカラクリが理解できていない。
今日のメニューはトリ団子鍋。春とはいえ沈した奴もいるものだから暖まる料理がよろしい。ショウガとニンニクのよく効いたトリ団子は実に2キロのミンチを材料にしているのだが程なく男どもの胃袋に納まっていった。メシを食べたいというリクエストも出てカータの御祝儀用のコシヒカリが危うく狙われる所だったが冷凍焼オニギリで済ませることで事無きを得た。
食後は焚火を囲んで暖を取る。よく見るとミャータに貸した私のTシャツのデザインが斬新なものになっている。ブルーの地に白の横文字のデザインだったはずが何故かお腹と背中に白い四角い模様が増えている。
「キリバイっす、寒いんっすよ」
使い捨てカイロの貼り付けタイプを腹と腰に当てているのであった。 一方で「ラ王」が下半身ムキ出しで闊歩しているかと思えば、一方で冷え性のカヌーイストがいて、いやはや男だけのキャンプサイトは異様で困る。焚火の火がいよいよ燃え盛る頃にはカータが踊りだし、やがて歌が飛び出し、怪しげに夜は更けていった。ちなみに最初に眠りについたのはやはりお疲れミャータ君であった。
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