翌朝。川面を霧が流れゆく中、早朝から早くもアングラーがロッドを繰ってポイントへの狙いを定めている。昨日より陽射しはあるようだが暑いという程の天気でもなさそうだ。隣のパーティーは早くも撤収を済ませ川面へのエントリーを開始している。
我々も朝ゴハンの準備に取り掛かる。女性陣が用意してくれた朝食は目玉焼きにウィンナー、シーチキンの挟まったロールパンにスープに紅茶、トーストも付いて豪華なもの。こんな朝食が出るんだから慌てて漕ぎ出さなくてもと思ってしまっても無理はない。ゆっくり準備にかかってコースを短めに設定することで今日の予定を組んでみる。
短くしても今日は2ヶ所ほど難関とされるところがあるので時間的には昨日と同じくらいかかるだろう。沈の危険性も勿論あるので昨日のカータみたいに凍えられてもと思いガスコンロを積み込み昼食は暖かいカップラーメンにすることに。コンビニでの買い出し、車の廻送、幕営撤収を分担して行う。11時過ぎ、出発の準備は整った。
今日は出発前にやることがある。実は昨日のキャンプサイトのすぐ先がいきなり今日の難関その1「八海橋下の瀬」なのである。流れが強いとか波が高いという瀬ではないがテトラで堰止められコース取りが非常に限られたテクニカルな箇所である。幸い橋の下なので全員で欄干から身を乗り出して進むべきコースを確認する。
左岸寄りを除いて橋の下にびっしりテトラがある。それぞれが頭の中でコース取りのイメージを描いてみる。橋の手前でテトラに吸い寄せられないように左90度に進路を取り、隠れ岩と沈木がらみの落ち込みをクリアしてすぐ右へ切り返し、橋をくぐったところでテトラを越えて落ちてきた流れに呑まれないよう左舵。なかなか高難度の瀬だ。
この瀬のスカウティング(下見)を済ませ、いざ出発。
瀬のコース取りを示すことと下流での沈脱者のレスキューの為、YAJ艇が一番に行くことに。二番手カズ・カータ艇にじゅりあ・ナオ艇が続く。最後は昨日の後半見事な舵取りを披露したミャータを後ろのレスキュー部隊として残こし、この瀬に挑む。一艇がひっかかると後続は進路を断たれる狭いコースなので
「いいか、下までクリアしたのを確認してから来いよ!」
と一声掛けて、いざ行かん。
リジットタイプの艇なので隠れ岩の引っ掛かりは心配ないので落ち込みの瀬と合流の波に注意をと思いカヌーを進める。左ターン、落ち込み、右ターンをバウラダーをかましてクリア。橋の下のエディ(瀞場)で後続の様子を見ようと小さくターンを入れて上流へ向いた。しかしエディが小さくテトラ超えの合流波にグイグイ引っ張られてゆく。ええい、ままよとそのまま後ろ向きで次の瀬に突入。サーフィンを入れながら瀬を越えていった。
瀬の下の左岸に付けた時、次のカズ・カータ艇が最初の落ち込みの手前へアプローチを開始していた。
落ち込みから右ターン、そして合流の瀬。後ろ舵のカータがブレイスを入れて艇を支えクリアして来た。
続いてじゅりあ・ナオ艇。あれれれれ? テトラ越えの流れに捕らわれたのか艇が横向いて橋脚脇のテトラに張り付かんとしている。更に悪いことにミャータ艇がそこに突っ込む。あれほど間隔を空けて来いと言ったのに。結局上流から再トライを試みることになったのだろう、三人とも沈脱して腰から胸辺りまで水に浸かって艇を押し戻そうとしている。 |

瀬をクリアしてくる
カータ・カズ艇
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しかし落ち込みとテトラ越えに向かって流れる水圧はかなりのものらしく行っては戻りの繰り返し。なかなか思うように艇が戻ってゆかない。下で見守る3人も「うわぁ、冷たいだろうな」と思っていたが、当人たちは汗だくで暑かったらしい。
ミャータはひとりで2人乗りのバレントをもてあまし、じゅりあ女史も水圧に耐えかねカヌーにしがみついてないと立っていられず流されそうだったとか。その中でじゅりあ女史もろとも二人艇ファルトボートを引き上げるナオ嬢の力強さは群を抜いていたという。カヌーとじゅりあ女史を曳いて少しづつだがジワリジワリと上流へ進んで行く。間近でその姿を見ていたじゅりあ女史は
「うちの会社も大事な戦力を流出させてるなぁ・・・」
としみじみ思ったと言う。「影の課長」、流れの中でも冷静に人間観察が出来ていらっしゃる。
流石のナオ嬢(まさに「流れの中の石」の如し、サスガとはこの事を言う?)を擁しても「八海橋下の瀬」の引き込みには抗えないようなのでレスキューに向かう。
ミャータ艇をテトラの脇で受け止め、フリーになったミャータにキャンペットを支えさせてじゅりあ・ナオの二人を再乗艇させる。そこから左の落ち込みには方向転換が出来そうにないので思い切ってテトラ越えの落ち込みを越えさせることに。テトラ越えの落ち込みは流れの中にテトラの四角い角が白波の間に見え隠れしているが、テトラの真横で僕が指示を出し、落ち込みのすぐ上流から狙いを定めて突入。テトラの角と角の間の流れに上手く乗って見事にクリア。
その後ミャータ艇を二人でポーテージして堰堤を越え、ようやく全員が「八海橋下の瀬」の下流へたどり着いた。一日のオープニングとしては充分にハデな、そう今日これからの旅路を暗示するかのようなスタートとなった。
今日もその後の先導はバレント・ミャータ艇が務める。自ら進んでと言っていいだろう。スイスイと快進撃を続ける。みんなで
「やっぱり彼女が出来ると違うな!」
「愛の力は偉大だ」
などと感心して眺めている。
そう、前回那珂川の水の上で「実は・・・」と聞かされたミャータの「彼女出来た宣言」。あの時はカータもまだ知らされていないとのことだったので黙っていたが今は公然となり本人も冷やかされるのもまんざらでないと言った様子。廻送中の車中でも強気なオノロケを存分に聞かせてもらったが、それについては本人の名誉のため伏せておくことにする。
「愛の力」に支えられ安定感を増したミャータ艇が八海橋以降の中州の散在する流れを巧みな判断でコースを見極め下ってゆく。あまりの調子の良さに残る3艇との距離が随分と開いてしまうほどであった。
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