EPISODE 5.
鯛の尾頭付きツーリング!
第1章 ミステリーツアー! 



 ミャータにお願いしていた次回「愛」のツーリング計画が一向に日程が定まらず、従ってフィールドの選択にも至らぬまま夏がやって来ていた。夏と言っても今年は異常気象。北陸、東北地方では梅雨明け宣言はとうとう出ず仕舞い。冷夏を通り越していきなり秋を迎えるのではと、まことしやかにささやかれる昨今。業を煮やしたカズ嬢が一念発起してみんなに宛てて檄を飛ばした。

「こんなに涼しいと、つい忘れてしまいがちですがカヌーのこと覚えてますか? ずーっとミャータさんのスケジュール調整を待っているのですがなかなか連絡が来なくて・・・。そこで、思い付きました。 幸いそれぞれ違う部署でもあるので皆で夏休みをとって行きませんか?」

 強きモノ、汝の名は「女」なり。

このカズ嬢の大胆不敵提案に基づいてトントン拍子に計画は進み、お盆明けの週に決行となる。丁度その頃、千葉の方へ出かけるついでがある。みんなと一緒に出発できる利便さもあり好都合だ。出発地点が一緒であれば現地での待ち合わせ場所を決める必要も無く、また間際にツーリング場所を決定しても問題がない。何しろお天気に恵まれないツーリングが続いていたので天気の良い方に向かって行けるのはありがたいことである。

 お天気に恵まれないのは「嵐を呼ぶ男」ミャータという思わぬ伏兵がいたことは前回の阿賀野川ツーリングの際発覚した。なんとかこのジンクスを変えておきたいと思う。お祓いの意味を込めて水害のあった新潟の市役所に義援金の受け付けをやっているかと問い合わせたら受け付けてくれるとのこと。どうせミャータの奴は「ボクの所為じゃないもん」と思っているだろうから、先手を打って義援金を納めておく。窓口で納める訳を話すと

「そうですか、そんなヒドイ雨男がいらっしゃるんですか」

  と係りのオジサンは笑顔で手続きをしてくれた。新潟市長が代表を務める新潟地区の日本赤十字発行の領収書を頂いた。これでミャータの運も変わって晴天続きのツーリングとなってくれれば安いものである。

 お天気の方はこれで安心(?)。さらに念には念を入れて候補地を2ヶ所挙げておく。東京から北へ向かい東北の川を下るA案と、西へ向かって東海地方の川のB案。これなら「嵐を呼ぶ男」が列島縦断の台風を呼ばない限り大丈夫だろう。なにしろ夏休みを取ってわざわざ平日に出かけるのだから天晴れな太陽の下、いかにも夏らしいツーリングをしてみたいものである。行き先は直前に決めることにして
「夏のミステリーツアー」と題して、当日を楽しみに待つこととなった。
 
 さて参加メンバーは発起人のカズを筆頭にミャータと僕。ハルオ・カータは当日「ラ族」たちとの別の企画と当たってしまったため残念ながら不参加。

 新メンバーとして木材部からアッサー女子が初参加することになった。カズ嬢が「妹分」と呼ぶ、なにやらラフティングに興味を持っている女性らしい。木材部での彼女の仕事は本部長秘書。なんとも魅惑的なポジションではないか。上司のスケジュールから服装のチェックと何から何まで手玉にとって、それでいて陰ながら男を立てて支える女秘書。いろんな妄想が駆け巡ってしまうのであった。


 アッサーだけが横浜在住なので北へ向かうか西へ向かうかでピックアップポイントが違ってくる。でも「ミステリーツアー」なだけにギリギリまで集合場所は明かせないのであった。



 

 
 
出発を週明けに控えた金曜日。僕はその日の夕方には新潟を出て千葉へ向かう用事があった。天気予報を見るといったん日本海に抜けていた梅雨前線がいつのまにか関東北東部に再び下がってきている。いったい今年の夏はどうなっているんだ。8月も半ばでまだ梅雨前線が日本列島上をうろついている。こいつはそのまま秋雨前線になるつもりか。

 この時点で行き先を西に決定する。前線の動きからして北上することはあっても、これ以上南下することは普通考えにくい。

 目指すは静岡、春野・天竜地区の気田川。明石山脈に源を発し南アルプスの南肌を太平洋に向かって緩やかに蛇行して流れる天竜川の支流である。全国パドラーの憬れ四国の四万十川とその水質の良さを競う日本屈指の清流である。晴れた日には5メートルの淵の底まで見えると言われている。夏の降り注ぐ陽光の下、そんな流れをのんびり下れたら最高だろうなと、早くも気持ちは静岡の空の下へ飛んでいってしまっているのであった。

 そんな気分に水を差すように昼過ぎの天気予報は、前線が更に南下して九州・中国地方に大雨をもたらしていると報じている。「嵐を呼ぶ男」が再び嵐を呼ぼうとしている。みんなへの最終連絡。

「週末はケータイ、ピーエチの電源はオンにしてスタンバっているように。急遽北へ向かうこともあり得る!」

 まさにミステリーツアー

 新潟より涼しい千葉で土曜を過ごす。太平洋側が北陸新潟より涼しいのだから今年はどうかしている。しかし日曜日の昼過ぎあたりから俄かに空気が湿気を帯び蒸し暑さが戻ってきた。太平洋高気圧が張り出して来たのだろう。前線もどうやら再び北上を始めた様子。この調子なら明日は予定通り静岡に向けて出発できそうである。

 当日朝。いつものことながら気分は遠足前の小学生状態。目覚し時計より早く目が覚めてしまったので暗い中とっとと出発することにする。順番では先ずはカズ家であるが早くに起こしてもと思い予定を変更して独身寮のミャータから迎えに行くことに。

 早朝3時半に南柏に到着。荷造りがまだのミャータを急かして次にカズ家に向かう。ミャータは以前カズを送って行ったことがあるのでアテにしていたが、これが大失敗。まったくもって「記憶にございません」状態。結局カズ嬢に電話して教えを乞う。

「あとは近くまで行けば大丈夫っスよ」

 のミャータの言葉を信じて行くがこれまた失敗。カズ家の目の前を素通りしてしまい、窓からそれを見ていたカズ嬢に再び電話をもらってようやく辿り着く。

 ミャータの「大丈夫っス」もだんだんカータ化してきている・・・。

 カズ家の愛犬マロンに別れを告げて今度は横浜のアッサーを迎えに。

 都会の道路は早朝4時から随分車が多いもんだ。2年余に及ぶ新潟暮らしですっかり地方モードに入っている僕はなんだかドキドキもんでハンドルを握る。新潟では7時になってもこれほど車はいないゾというくらいの交通量。

 なんて感心しているうちに横浜を素通りして気づいたら本牧埠頭にまで来ていた。横浜観光名所ベイブリッジを渡ったことにすら気づかないなんて、オイラってすっかり田舎者!

 それでも予定の時間に遅れること10分程でアッサー宅の近くまで戻って来ていた。待ち合わせの指定場所は第二京浜道路子安台の歩道橋の下。アッサーからのメールによるとそこに立っていますとのこと。

 確かにアッサーは立っていた。が、しかしそこは幹線道路の第二京浜。片側三車線の大通りだ。平日朝6時の横浜は既に活気に満ち溢れ京浜工業地帯を縦断するこの道路はトラックが唸りを上げて行き交っている。その流れに乗って走っている我々。路肩も何もない歩道橋の脇に駐車出来るはずありません。手を振るアッサーに車内から三人して手を振ってお返しをするのが精一杯。アッサーの目の前を時速70キロで通り過ぎていった。

さようなら、アッサー!

カズ家、ベイブリッジに続く今日3度目の素通りの後なんとか裏路地へ滑り込みアッサーにもそこまで来てもらう。ほとんど家の近くだそうだ。こんなことなら家まで迎えにいってあげればよかった。

 いざ出発。裏路地に入ってしまったのでアッサーに道案内をお願いする。まずは第二京浜に戻らねば。路地の先に少し広めの通りが見える。

「アッサー、それ何かな?」

  と通りの名前を尋ねたつもりだったが、

「ユニーです!」

「? ☆!」

  そんなローカルなスーパーマーケットの名を言われても。確かに道の向こうに「ユニー」は存在したが、それを聞いて私にどないせえっちゅうねん!

秘書というイメージからして「次のT字路で県道にぶつかります、それを左折して約400メートルで第二京浜、国道1号です、時間にして約3分、横浜に向かう交通量が多くなる時間帯ですので気を付けて進入してくださいね」くらいのナビゲーションが入るのかと期待していたので思わずズッコケてしまった。

待ち合わせ場所の設定で気づくべきだった。とっても気さくなオトボケアッサー秘書なのであった。

「だって秘書になってまだ2週間ですよぉ。その間にした仕事って本部長が会議中にコーヒーこぼして、新しいYシャツを買いに走ったくらいですもん。それですらもう大変だったんですから」

女性秘書というミステリアスな存在の固定観念を見事に打ち砕いてくれるのっけからの早朝ダブルパンチであった。
 思わず、君自身がミステリーツアー?と言いたくなる(笑)。 



愛犬マロン・・・・ 「ペット」ページの「Puff's Friend」をご覧下さい。 画像が拝めます

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