出発を週明けに控えた金曜日。僕はその日の夕方には新潟を出て千葉へ向かう用事があった。天気予報を見るといったん日本海に抜けていた梅雨前線がいつのまにか関東北東部に再び下がってきている。いったい今年の夏はどうなっているんだ。8月も半ばでまだ梅雨前線が日本列島上をうろついている。こいつはそのまま秋雨前線になるつもりか。
この時点で行き先を西に決定する。前線の動きからして北上することはあっても、これ以上南下することは普通考えにくい。
目指すは静岡、春野・天竜地区の気田川。明石山脈に源を発し南アルプスの南肌を太平洋に向かって緩やかに蛇行して流れる天竜川の支流である。全国パドラーの憬れ四国の四万十川とその水質の良さを競う日本屈指の清流である。晴れた日には5メートルの淵の底まで見えると言われている。夏の降り注ぐ陽光の下、そんな流れをのんびり下れたら最高だろうなと、早くも気持ちは静岡の空の下へ飛んでいってしまっているのであった。
そんな気分に水を差すように昼過ぎの天気予報は、前線が更に南下して九州・中国地方に大雨をもたらしていると報じている。「嵐を呼ぶ男」が再び嵐を呼ぼうとしている。みんなへの最終連絡。
「週末はケータイ、ピーエチの電源はオンにしてスタンバっているように。急遽北へ向かうこともあり得る!」
まさにミステリーツアー。
新潟より涼しい千葉で土曜を過ごす。太平洋側が北陸新潟より涼しいのだから今年はどうかしている。しかし日曜日の昼過ぎあたりから俄かに空気が湿気を帯び蒸し暑さが戻ってきた。太平洋高気圧が張り出して来たのだろう。前線もどうやら再び北上を始めた様子。この調子なら明日は予定通り静岡に向けて出発できそうである。
当日朝。いつものことながら気分は遠足前の小学生状態。目覚し時計より早く目が覚めてしまったので暗い中とっとと出発することにする。順番では先ずはカズ家であるが早くに起こしてもと思い予定を変更して独身寮のミャータから迎えに行くことに。
早朝3時半に南柏に到着。荷造りがまだのミャータを急かして次にカズ家に向かう。ミャータは以前カズを送って行ったことがあるのでアテにしていたが、これが大失敗。まったくもって「記憶にございません」状態。結局カズ嬢に電話して教えを乞う。
「あとは近くまで行けば大丈夫っスよ」
のミャータの言葉を信じて行くがこれまた失敗。カズ家の目の前を素通りしてしまい、窓からそれを見ていたカズ嬢に再び電話をもらってようやく辿り着く。
ミャータの「大丈夫っス」もだんだんカータ化してきている・・・。
カズ家の愛犬マロンに別れを告げて今度は横浜のアッサーを迎えに。
都会の道路は早朝4時から随分車が多いもんだ。2年余に及ぶ新潟暮らしですっかり地方モードに入っている僕はなんだかドキドキもんでハンドルを握る。新潟では7時になってもこれほど車はいないゾというくらいの交通量。
なんて感心しているうちに横浜を素通りして気づいたら本牧埠頭にまで来ていた。横浜観光名所ベイブリッジを渡ったことにすら気づかないなんて、オイラってすっかり田舎者!
それでも予定の時間に遅れること10分程でアッサー宅の近くまで戻って来ていた。待ち合わせの指定場所は第二京浜道路子安台の歩道橋の下。アッサーからのメールによるとそこに立っていますとのこと。
確かにアッサーは立っていた。が、しかしそこは幹線道路の第二京浜。片側三車線の大通りだ。平日朝6時の横浜は既に活気に満ち溢れ京浜工業地帯を縦断するこの道路はトラックが唸りを上げて行き交っている。その流れに乗って走っている我々。路肩も何もない歩道橋の脇に駐車出来るはずありません。手を振るアッサーに車内から三人して手を振ってお返しをするのが精一杯。アッサーの目の前を時速70キロで通り過ぎていった。
さようなら、アッサー!
カズ家、ベイブリッジに続く今日3度目の素通りの後なんとか裏路地へ滑り込みアッサーにもそこまで来てもらう。ほとんど家の近くだそうだ。こんなことなら家まで迎えにいってあげればよかった。
いざ出発。裏路地に入ってしまったのでアッサーに道案内をお願いする。まずは第二京浜に戻らねば。路地の先に少し広めの通りが見える。
「アッサー、それ何かな?」
と通りの名前を尋ねたつもりだったが、
「ユニーです!」
「? ? ? ☆!」
そんなローカルなスーパーマーケットの名を言われても。確かに道の向こうに「ユニー」は存在したが、それを聞いて私にどないせえっちゅうねん!
秘書というイメージからして「次のT字路で県道にぶつかります、それを左折して約400メートルで第二京浜、国道1号です、時間にして約3分、横浜に向かう交通量が多くなる時間帯ですので気を付けて進入してくださいね」くらいのナビゲーションが入るのかと期待していたので思わずズッコケてしまった。
待ち合わせ場所の設定で気づくべきだった。とっても気さくなオトボケアッサー秘書なのであった。
「だって秘書になってまだ2週間ですよぉ。その間にした仕事って本部長が会議中にコーヒーこぼして、新しいYシャツを買いに走ったくらいですもん。それですらもう大変だったんですから」
女性秘書というミステリアスな存在の固定観念を見事に打ち砕いてくれるのっけからの早朝ダブルパンチであった。
思わず、君自身がミステリーツアー?と言いたくなる(笑)。
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