EPISODE 5.
鯛の尾頭付きツーリング!
第2章 これぞ清流!  



 その後は順調に西への旅を続け、左側に青々と広がる太平洋を見ながら富士川、安倍川、大井川を越えて天竜川の手前袋井ICに到着。そこから一路進路を北へ向けて天竜川に沿って遡上する。天竜川の大きな川原の白が水面の青と見事なコントラストをなしている。天竜市を抜けて春野町へ。午前10時半目的地気田川に到着した。早速上流に向かう。

 スタート地点は春野町役場前の右岸の川原から。今回は車1台で来たので3人を降ろしひとり下流のゴール地点に戻る。今日のゴール地点は秋葉キャンプサイト。シーズン中春野町区間はキャンプサイト以外の宿泊を禁止されているのでここをゴール、宿泊場とする。

 上流に戻る足だが、あいにくキャンプサイトでは回送を頼める人が出払っている。タクシーを呼ぶにも天竜市から来るので30分はかかるとのこと。しょうがないので国道沿いに出てヒッチハイクをする。アメリカンムービーの様に親指を立てても誰も停まらないのは百も承知。学生時代に取った杵柄@、ここは助けを求めるようにタオルを大きく振るのがコツ。田舎の方なら10台に1台は「どうした?」と言って停まってくれる。昔この手で本州最北端、青森は大間崎まで辿り着いたものである。

 1台目の軽トラ。オトリ鮎を売りに行くらしく

「鮎が死んじまう」

  と行ってしまう。何台か素通りした後の軽のワンボックスのおじいちゃん。スタート地点の対岸まで行ってくれると交渉成立。今日の気田川の状態、釣師の様子、町の食料品店の情報などを聞きながら送ってもらった。

さぁ、出発!
目が覚めるような清流。 日本一と言われるのも納得の水の透明度。どう表現してもこの川の美しさは伝えられないと言うほかない清らかさである。このところの晴天続きで水量は少なめだが川底の石ひとつひとつが手に取るように見える素晴らしい流れである。


 おまけにミャータのミソギの甲斐あってか朝から見事に晴れ渡った晴天。さっきのバンのおじいちゃんも今年一番の暑さではないかと言っていた。ミャータもこれで「嵐を呼ぶ男」の汚名返上と思って良いのではないかな。


 さてそのミャータ艇には今回の初心者アッサーが乗る。ミャータのエスコートも慣れたもの、任せて大丈夫だろう。カズがシットオンのマリブに。マリブは今回で我が艇としてはラストツーリングとなる。カズ嬢、愛情込めて乗ってあげて下さい。そして私は愛艇クロスファイヤーに乗って南に向けていざ漕ぎ出さん。



杵柄・・・・

YAJは学生時代、徒歩で東海道を完歩するなど貧乏旅行の大好き人間だった。 ヒッチハイクの極意は東北旅行の際に体得。 この後のカヌーツリングでの途中撤退の時などにも十分活用されている。



 流れに一片の曇りなく、また淀みに溜まる濁りなく、水そのものの存在を感じさせない程に流れゆく気田川。敷きつめられた玉砂利の川底の上を
 無重量で飛んでいるような錯覚に陥ると言えば大袈裟だろうか。

 広々とした白い川原には人影もなく、気田川を包み込むように抱く天竜の山々からは蝉の声が静かに降り注いでいる。静謐の中パドリングの音を道連れに下り行く我々。


 

 蝉の声はここ静岡でも今やミンミンゼミだ。ニイニイゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシの順に日本の夏を演出する蝉たち。今年は春の酷暑、その後の長雨の影響でどの蝉の初鳴きも例年と較べて遅いと聞く。またミンミンゼミが近ごろ多く聞かれるらしい。地中の水分が少なくても育つと言われるミンミンゼミ。街の舗装化が進みアスファルト、コンクリートの地面が増えて地中の水分が少なくなってもその生命力でしぶとく数を増やしているのだろうか。

 ミンミンゼミが終わり、ヒグラシが鳴いて、ツクツクボウシがやがて鳴く。ツクツクボウシは夏の暑さが「尽く尽く」と鳴くと言う。その頃には秋の気配が漂ってくるのだろう。冷夏といわれる今年の夏。ツクツクボウシの初鳴きはなるべく遅くにと願わずにはいられない。

 直角に近いクランク状のシュプールを描いて蛇行を繰り返す気田川。コーナーをクリアするごとに違った風景が広がる。ふたつコーナーをクリアする。右へ90度、左へ90度曲がると結局また南向き。正面から降り注ぐ今日の陽射しは川面を漂っていていも暑いくらい。

 ゆっくりと左へ曲がってゆく流れの左岸に絶壁から大きく木が覆いかぶさっている木陰の淵が数百メートル続いている。ちょうど良い木陰なのでパドリングもせず涼を取りながら流されてゆく。ミャータ・アッサー艇だけは張り切って漕いでさっさとこの木陰の淵を通り過ぎて行ってしまった。カズ艇、YAJ艇は、頭上の木から垂れ下がる蔦に捉まったり記念撮影をしながら流れてゆく。


 木陰の淵を抜けると炎天下の川原に着けてミャータ・アッサー艇が待っている。そんなに急ぐなと言ってみたが、水深が無い箇所を通過するのについつい勢いをつけて行ってしまうので早くなってしまうと。確かにファルトで下るにはあと30センチ、いや、せめてあと20センチでも水深があればもっと楽に下れるだろう。船底を擦ったミャータ艇はすでに5センチほどの浸水があり、そのうち水船になりそうである。しかし艇の中に進入した水が一向に冷たく感じないので水抜きするのもメンドウになってしまう。南アルプスの南斜面を流れてゆく気田川は水温が高く通年川下りができると言われる所以である。

再び直角クランクを抜けてキャンプサイトの前を通過する。地元の小学生の
「オジサン!乗せてよ!」
攻撃に遭って足止めをくらう。


オジサンと少年
「お、オジサンかよ!」と内心思いながらも3人程をカヌーに捉まらせてその辺りをクルクル回ってサービス。川で遊ぶものはお互い楽しく、時には一緒になって遊ばないといけないのだ。

 犬居橋に向けて少し流れが早くなり橋の向こうには瀬が見える。橋脚のその先には釣り人が。橋脚に張り付かないよう舵を切りながら、続いて釣り人の竿にも気を付けて瀬を突破。釣り人も竿の手元を通ってと指示をしてくれ大きく竿を掲げて進路を空けてくれる。ミャータ・アッサー艇も無事に通過。ひとり舵のカズ艇も橋脚にちょっとヒヤッとしたがクリアしてその先の小さな州に到着。上陸休憩とする。

 艇を降りて改めて流れに触れてその清らかさを堪能する。これまでカヌーをしていて水に落ちるのは一種の罪悪であったが、この気田川はカヌーになんぞ乗らずにそのまま流れていった方が気持ちが良いのではと思えるくらい。事実ミャータは思うが早いか少し上流からプカプカとライフジャケットの浮力を頼りに漂って遊んでいる。

 最初は躊躇していた女性陣も温泉に浸かるような気分で州の脇の小さな瀞場に浸かって寛いでいる。川底に苔のぬめり等が一切ないのも気持ちが良い。漂うミャータにレスキューロープを投げて救命演習などをして楽しむ。

 のんびり流れに足を浸けて休んでいるうちミャータがとうとう鼾をかいて寝はじめた。そーっとみんなで艇を出して次の岩陰の州まで漕ぎ出す。まったく気づいた様子のないミャータ。岩陰に隠れて回りの水面に石を投げてみるのだがすっかり熟睡している様子。

 程なく目が覚めてキョロキョロする様を見て大笑い。すぐに我々を見つけたミャータも

「5秒ほど焦りました」


まるで温泉気分?

 今度来た時ここの州の回りは「ミャータおいてきぼりの淵」とか言われたりするのかもしれない。

 さて今日のゴールに向けてあとひと漕ぎ。新秋葉橋を越えればすぐに我々のキャンプサイトだ。少し西に傾いた太陽に向かってのパドリング。キャンプサイト前の水浴びの子供たちを縫うように瀞場に辿り着いてゴールイン。まだまだ水から上がるのが惜しいくらいの気分だが今日のところはここで終了として陸に上がる。


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