EPISODE 7.
非・不沈艦大行進ツーリング!
第3章 チン太の試練 


 五分ほど待つがTOMは現れず。流されたとはいえ数百メートル程度、一キロは流されていないはず。コーナーの向こうに誰か見えないか右岸沿いに岸を少し上流へ向かって歩いてみる。左へ流れが曲がっているコーナーの右岸。ここからならスタート直後のザラ瀬が見える。岸沿いを歩いて来るならどのコースを来ても見渡せるはずであるが、TOMの姿は見えない。

 さらに五分経過。誰の姿も見えてこない。いやーな想像が頭に浮かぶ。

(沈した瞬間、TOMが足を切って流血でもしとるのかな・・・?)

(誰かの船がトラブって、出発できなくなったとか・・・?)

(曇ってきたし、みんなで中止にしたんじゃ・・・)

 (それともオレを置いて温泉に行ったか!?)

 待たされれば待たされるほど悪いほう悪いほうへと思考は転がっていってしまう(今思うと最初に浮かんだことのほうが、悪いコトだと思うが・・・)。 
 川原にひとりの孤独を胸に、先ほど漕破してきた「シャモの瀬」右岸の大岩の上で遠くコーナーの向こうに誰か現れるのを待ち続けたのであった。。

 ようやく現れたのはアッサー・ミャータ艇。どういうわけか瀬に入る流れの前からミャータだけが水没してカヌーのスターン(船尾)に金魚のフンのようにぶら下がって流れてくる。

 ミャータのやることはいつも我々常人の想像を超越している。 どこかでカヌーによじ登るかと見ていたが、そのまま三級の瀬に突入しミャータは顔面にザンザン波を食らってこの荒瀬を越えていった。

“人間ラダー”ミャータの身を挺した見事な操艇ぶりとして理解しておこう。

 次にカータの新艇サファリがやって来た。一人乗りのその船の舳先に「おサルの電車」よろしくTOMを乗せて。どうやらTOMは先ほどの沈の時にサンダルを流失してしまい川原歩きもままならないのでしかたなくカータが乗せてきたようだ。瀬の入り口の大波。左岸寄りを行くTOM・カータ艇は波の左肩に乗ってしまって横殴りにTOMが投げ出される。勢いカータも

 「せ、制御不能ーー!」

 と叫びながら、横転したカヌーの真っ赤な船底の向こう、白波の中へ消えていった。次の大波が迫る。
 
 二人してカヌーによじ登るが、もうどうすることもできない。波をかぶってしかめっ面でしがみつくカ−タと、こんな事態でも「アハハ」と笑ったような笑顔でカヌーにぶら下がっているTOMが妙なコントラストを醸し出して大岩の上で見守る私の横を流されていった。

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 最後のマッツン・ササヘー艇。今回一番経験の浅いふたり組。心配して見ていたが、瀬に突入してからの安定感といったら。

 前席マッツンはほとんど目をつぶってのパドリングだが、それを補って余りある安定性。さすが“ミス・起き上がり小法師”である。前回の“ミスター・沈”ササヘーと乗っていてもその地位は微動だにしないものであった。無事、瀬を突破してゆく。

 「シャモの瀬」下流でようやく全員集合。いざ出発となってからすでに一時間近くが経過している。いきなりのトラブルスタートである。それもこれも、やはりTOMが川をナメてデカイ態度をとるのがいけない。自然に対しては常に謙虚であらねば。

 天気のほうも転がるように下り坂。すでにポツリポツリとお湿りが。それもこれも、やはりマッツンがお祓いをしていないのがいけない。自然に対しては常に誠実であらねば。

 なんてオヤジ的お小言を言う間があったら先を急ごう。


 



 最大の「シャモの瀬」を越えた後はたいして難しい流れはないはずである。のんびりと、それでいて確実なパドリングで進んでゆこう。
 そう思ってふと後ろを見るとTOMがなぜか、またカヌーの黄色い腹に捉まって「アハハ」と笑って泳いでいるのである。


「おまえ、何やってんだー!」

「いやぁ、なんででしょうね? ハハハ」

 岸に着けて水抜きを手伝ってやる。

 さぁ、こんどは流れもない瀞場だしガンバッテ漕ぐか、と思って横をみるとTOMがバナナボートに捉まったサルみたいに、またまた「アハハ」と流れてくる。


「なんでこんな所で沈してんだよ!」

「分かんないっすよ、真っ直ぐ行かなくって」

 真っ直ぐ行かないのは分かるが、だからって横転しなくてよさそうなものだが。また水抜きを手伝う。

 先ではマッツン・ササヘー艇が時々舵取りを誤りズザザザザーと勢いよく岸や隠れ岩に舳先を乗り上げたりしている。そのメンドウを見ているうちに追い越して行ったTOMがまた先のほうでコロンと「粗沈」を繰り返す。またまた水抜き。

「いやー、スンマセーン」

 ひっくり返って冷たい水の中を何度も泳いでTOMも疲れているだろうが屈託のない笑顔で笑っている。逆に水抜きを手伝う僕のほうがなんだかもう腰がヘロヘロである。出発早々にTOMの艇を追っての全速力でのパドリング、それから実は「シャモの瀬」直前で座礁していたマッツン・ササヘー艇を助けに瀬を泳いで一往復している。もうそろそろ救出もイヤになってきていた。

いいかTOM、カヌーってのは倒れそうになった時、無理に体を起こしちゃだめなんだよ、逆にこうやって体を投げ出してパドルに体重を預けてだな・・・」

 なんとかTOMにリカバリーを覚えてもらおうと、ローブレイス、ハイブレイスを実演して見せてみる。

が、ヘロヘロの腰が言うことを聞かずハイブレイスの体勢まま水面下に沈んでしまう僕。情けなや、TOMと並んで水抜きである。

「アハハ、大丈夫っすか?」

「うるせぃ、おまえのせいだ!」

 今日はこれまでの時点ですでに“ミスター・沈”の称号はTOMのものである。


 「チン太って呼んでやるよ!」

 
嬉しそうに前“ミスター・沈”のササヘーが茶化す」

 その後も“チン太”TOMは飽くことなく数回「粗沈」を繰り返しカータと僕で代わる代わる面倒を見つつ下って行く。あちこちで停まっては水抜きを繰り返し一向に距離が稼げない。一方で雨足も少し強さを増してきていた。



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