EPISODE 8.
”暴れ天竜”に雄叫びをあげる!
第1章”FFFツーリング” 


 暦の上では立春から135日目を“入梅”とする。太陽暦では6月12日頃を言う。ところが今年は梅雨入りしてからのほうが天気が良く、我々がツーリング予定日と定めた6月中旬の当日は朝からカラっと五月晴れのような快晴。

 カータ、ミャータ、TOMを乗せた我がレガシーは軽快に中央フリーウェイを一路長野県を目指し南アルプス沿に高度を上げて行く。

 前回、前々回と悪天候の中、途中退散のツーリングが続いたため「晴天&完漕」をテーマに掲げた今回のツーリング。名づけて

フンドウズ FINE(=晴天)&Finish(=完漕)ツーリング、”FFFツーリング”
と銘打っての今回の企画。

 見事に第一ハードルの晴天はクリアしている。山沿いを行く中央自動車道のトンネルの先には常にまぶしい光と色鮮やかな新緑が我々を迎え包み込んでくれる。
先日発表された@大幅プラス成長となった今年1―3月期の国民総生産(GDP)のように『縮小してきた経済が一年半ぶりにトンネルを抜けた形』といった、実に幸先良いスタートであった。


 途中、車中から電話を入れて現地情報の収集。こういう時だけカヌーの天敵であるアユ釣り向けの釣具屋情報が重宝する。解禁日、釣師の数、川の増水加減など、いかにもこれからそちらに釣りに出かけますといった調子で質問する。

「いやーどうもありがとうございます、あ、それから遊漁券Aはおいくらですか?」

 カヌーにゃ全く関係無いことまで聞いて電話を切る。

「ヨッシャー!、釣師は気にならんくらい川幅あるって! 昨日夕立があってそこそこ増水しとるって! よーし行くぞ、天竜―!」
  

@新聞発表 ・・・ 1999年6月11日 朝日新聞朝刊より
A遊漁券 ・・・ 

遊漁券だけに有料(^^;) これを買っているという理由だけで、川を我がもの顔で占有したがるバカ釣り師がいる


 4人、車1台なのでFFFの他に、柔軟(flexible)と激流(flood=氾濫)をも視野に入れて“FFF+FF”を最終目標としていたので、フィ―ルドの選択も臨機応変にと考えていた。でも、これで決まりだ。目指すは日本三大急流のひとつ“暴れ天竜”の異名をとる一級河川天竜川。

 諏訪湖に端を発するが、諏訪湖の工業廃水まみれの天竜川は南アルプスに沿って南流し、その支流、木曾山脈の清流を集め、下るにつれて純度を増していく風変わりな川である。今回我々が目指すのは後半に渓谷を含む、ちょっと腕に覚えのパドラーが挑む、チャレンジングなホワイトウォーター水域である。


 昼過ぎ。順調にスタート地点松川宮ヶ瀬橋右岸に到着。今回は車1台で来たのでTOMが下流に車を置きに行ってタクシーを拾って帰ってくる。その間にミャータ艇の組立てBや準備を済ませTOMの到着を待っていざ出航。

 快晴、肌を焼く陽光、浴びるスプレーも心地よく、太陽に向かっての軽快なツーリングがスタートした。100メートルを越す河原の広さ、川幅も2、30メートルあり確かに釣師は気にならない。

 思ったほど汚れていない流れが水量も豊かに我々を運んでいってくれる。

 宮ヶ瀬橋を越えてすぐに右岸沿いに大きく落ち込みながら白波を立てる“オオタキの瀬”が登場。さぁ、いきなり本日最初の難関だ。岩がらみの瀬で難易度も高い。ガイドブックCによるとこのコース最大の瀬とある。インフレータブルDのカータ艇が軽やかに波に乗って瀬を越えて行く。YAJ艇もポリ艇の強みで波を切り裂いて進む。次のファルトのミャータ艇は岩に突っかかったようでいったんスタックしたが瀬を越えて来た。

 最後のTOM艇。前回の久慈川Eでは華麗なる沈を数限りなく披露してくれた“チン太”ことTOM。今回の第2目標である
finish(=完漕)の成否は彼のパドリングにかっている。ここは見事に突破してやってきた。全員が第一関門漕破である。


 カヌーをする際の川の難易度を1から5の等級あるいはクラスで表すが、これが非常に主観的で曖昧であることはパドラーの間では、いわば常識。そもそも水量や気候条件であっという間にその様相を変化させる川というものには、なかなか普遍的な尺度は適用できない。ましてやツーリングの難易度ともなるとパドラーの力量にもよるので、それこそ標準化は難しい。

 この“オオタキの瀬”もガイドブックによっては3級と記す場合もあるだろう。しかし全員漕破の我々から見れば、かつて2〜3級と恐れた犀川の“杭の瀬”Fよりも楽に感じられる。“月例文学”と揶揄される経済企画庁発表の経済報告Gのように『極めて厳しい』『はなはだ厳しい』と、いっそ曖昧な表現に終始してしまうのも手かもしれない。


 そんなこんなでこのコース最大の難所とされる『はなはだ楽しい』“オオタキの瀬”を越えて進んで行く我々。

 続いてまた瀬が現れる。川が二手に分かれ左の流れが白波を立てて落ち込んでいる。Flood=激流)を目標に掲げる我ら。当然白波に向かって進路を取る。しかしこんども先ほど同様『極めて楽しい』瀬である。カータ艇、ミャータ艇、YAJ艇が順調に波を掻き分け進んで行く。その時背後からTOMの声が聞こえた気がして振り返る。

「ヤジ・・・ さーん!・・・カ・・・−! カヌ・・・ 流・・・され・! ・・ パド ・・ !!」


Bミャータ艇の組み立て

ミャータ艇は組み立て式のファルトボート(フォールディングカヤック) ファルホーク社(当時)のバレント
Cガイドブック
今回参考にしたのは、ラクーン社のMAP。 アライグマの絵がとてもかわいい。主に初心者〜中級向けの川を紹介している。
Dインフレータブル
空気を膨らまして使う船。 その剛性と手軽さ、保管場所をとないことから、近年人気の種類である
E久慈川 EPISODE 7.ご参照
F杭の瀬 EPISODE 1.ご参照。 とにかく当時の我々にとっては最大の瀬だったのでした
G経済報告

毎月中旬に発表される経済観測。 堺屋太一になってから、さらにその文学的表現には磨きがかかった

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