EPISODE 8.
”暴れ天竜”に雄叫びをあげる!
第2章 轟沈、そして畳三畳!  


 の中でよく聞こえないが、川の中に立つTOMとその前をドンブラコと流れ来る黄色いカヌーの腹が目に入る。やってしまったな、TOM。本日の水浴び一号だ。やはり瀬の難易度は人それぞれ。誰がどこで沈をやらかすか分からない。しかしTOM選手、沈してもいいが、カヌーを放しちゃいけない。

「オッケー、オッケー、こっちで回収するから―! 泳いで来―い!」


 瀬の下で叫ぶが、TOMはまだ瀬の中に立って犬掻きのように胸の前で手をグルグル回している。なにかと思えばパドルも流してしまったようだ。パドルまで手放しちゃいかん。しかもパドルはどこを流れているのか、その姿すら見えない。TOMは川底を探るように水没してパドルを探している。

「TOM―、いいから―、予備のパドル積んでるから―!」

 ようやく流れて来るTOM。堺屋太一語で言うならば“『底ばい』ではなく『横ばい』”でプカプカとやって来るTOM。その間に私はカヌーを回収する

「カータ―、レスキューロープでTOMを引っ張り揚げてやってくれー!」

「よっしゃー、大漁、大漁ー!!」

 ロープに引かれて岸によってくるTOM。その後、幸いなことにパドルもどこかの岩に挟まっていたのか『底ばって』いたのか、しばらくして流れてきたので無事回収。いきなり見せ場を作ってくれた”ミスター沈”TOMであった。

★流れてくるTOMを待つカータの図

 それにしても天気も良く気温も高く、フィールドとしての天竜川も豊富な水量と落ち込みながら大きく波立つ瀬が快適極まりない。

「いやぁー、ここ最高っすねー!」

「絶対、また来たいわぁー!」

  口々に絶賛の声をあげる。スタート30分ですっかり天竜川に魅了されてしまう我々。瀬と瀬の間隔が程良く、しかも我々の技量でちょっとヒヤッとするスリルが心地よい。

台城橋手前、大きな三角波Hがおよそ300メートルも続く護岸の岸沿いの瀬を過ぎ、万年橋に向かって大きく右へ曲がり落ち込んで行く瀬に挑む。右岸にテトラIがあり注意が必要。私のすぐ右後ろを行くTOMに

「テトラ、気をつけろ!、もうちょっとこっちへ・・・」

 と言っているうちに

「ふわあぁぁぁ、 あー!」

 と、なんとも気の抜けた声と共に波に揉まれカヌーの下に消えて行くTOM。

 まだまだ瀬は続くのでレスキューは後回しで、こちらがまず瀬を抜けることに専念。万年橋を過ぎたあたりで振り返って見ていると、またもパドルを離してしまい必死でカヌーにしがみついてTOMが流れて来た。

 パドルを回収してカヌーはカウテールJで牽引。右岸に付けて救出。初心者二度目のフィールドとしては、かなり手強い天竜川であった。今日も“ミスター沈”の称号を独り占めするTOM。

「いやぁー、でもオモロイっすよ!」

 と、かなりご満悦である。


★轟沈!波に揉まれるTOM!!


H 三角波 ・・・

大きな川幅が狭まったり、急な流れが遅い流れに当たったところにできる波。 岩などによるものではなく、ほどよく楽しい波
I テトラ  ・・・

テトラポット。 川の護岸に使われるが、見た目も悪いが、始末も悪い。 やっかいな障害物の筆頭
J カウテール ・・・

レスキュー道具のひとつ。 カヌーのスターンに取り付けたりして、牛の尻尾よろしく人のカヌーなどを牽引してあげる


 さぁゴールも間近だ。が、前方にはかなりの白波の立つ瀬が見える。いざ、行かん。先頭切ってミャータ艇が行く。思ったよりも大きな落ち込み。最後尾のカータからはミャータの頭はすっかり落ち込みの向こうに消えて見えなくなるほどの落差。しかも30メートル程あった川幅が急激に狭まり三分の一になってドドッと落ち込んで行く。ミャータ艇が二度三度バウを跳ね上げられながら進んで行くのを見つつ艇を進める。

 落ち込みを下りきったところで左右からぐっと寄せられたV字型の波の背に翻弄される。それはまさに“天竜”という龍の舌先で弄ばれているかのよう。右からの波にドンとスターンKを持ち上げられもんどり打っての轟沈。ものすごい水圧だ。沈脱してカヌーにしがみついて水面に出たとたん目の前には


畳三枚分くらいの大きさの波が頭上から襲う。


 続いて三畳半、四畳半。水の浸入を防ぐべくハッチLを上に向けた艇を何度となくめくりあげひっくり返す大波。巨大な龍の舌は次から次へと容赦なく波間を漂う沈脱者を襲う。もうなすがまま。瀬が落ち着くまで流され続けた。
 ようやく瀞場に辿り着き左岸に上陸。TOMも案の定、カヌーに捉まり流されて来ている。無事にクリアしたのはミャータとカータであった。


「いやーめちゃオモロかったっスわー、YAJさんとTOM、ほぼ同時に沈しとりましたよー、ハハハー」

 最後尾でコトの一部始終を眺めて来たカータが嬉しそうに笑っている。他人の沈って、これほど楽しいものは無いからね。

 それにしてもガイドブックなど当てにならないものだ。“オオタキの瀬”を優に凌ぐ巨大な瀬であった。

「いやぁ、天井くらいから波が落ちてくる感じやったよ! なぁ、TOM!」

「そうそう、僕の通った落ち込みなんか2メートルはありましたからねぇ!」

 ここは沈脱者の特権である。自分が沈した瀬はできるだけ大袈裟に表現しておかないと。これがきっとそのうち3メートル、4メートルの落ち込みとなって脳裏の中で増幅してゆくMに違いない。

 その後は軽い瀬を越えて明神橋右岸のゴール地点に到着。ここは地元パドラーの練習ポイントとなっているらしく川原には立派なカヌーハウスが建っており川面にエントリーしやすいように階段が設けられている。4艇ほど地元パドラーがロデオボートやスクォート艇Nで川と戯れていた。挨拶をすると

「これから下るんですか? え、下ってきた。じゃぁ、あのテトラ脇の瀬も越えて来たんですかー!すごいなぁ!」

 僕とTOMが轟沈をかましてきた瀬のことだろう。地元パドラーでも一目を置く結構チャレンジングな瀬だったようだ。

Kスターン ・・・ カヌーのおしり。 舳先はバウ 
Lハッチ ・・・  みなしご (うそうそ) カヌーに乗るところ、その空いた部分のことをいう
M増幅してゆく ・・・ 
轟沈はフンドウズにとって勲章である。 凄まじければ凄まじいほど、後々の語り草となる 
Nスクォート艇 ・・・
 
太ると乗れなくなるダイエット志向の人用の船(^^) ミステリー・ムーブは遠くから見るとただ人がパドルを持って溺れているようだ

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