EPISODE 8.
”暴れ天竜”に雄叫びをあげる!
第5章 完漕、そして、それはアートへ・・・    


 すぐ後ろからTOMのカヌーがその黄色い腹を仰向けに流れて来る。瀬の中、TOMの姿が確認出来ないほどの波の高さである。少し流れの落ち着いたところでTOMを見つけカヌーを牽引しつつ救出。

「いやー油断しました、モロに横波喰らいましたー!」

 昨日・今日で、すっかりパドリングに自信をつけたTOMも、さすがに“鵞龍峡”入口のワンツーパンチの洗礼には抗えなかったようだ。

 それにしてもこの“鵞龍峡”の風光明媚さと言ったら。釣り人も誰も立ち入ることの出来ない深く切り立った渓谷の底で爽やかに水を浴びて見上げる空と新緑のまぶしさ。しばし時間の経つのも忘れて周りの自然を体全体で堪能する。

「日本は最高ですよね、こんな自然が残ってて、先進国で国土の80%も自然が残ってる国って日本くらいなもんですよ!」
 天竜川に轟沈を喰らわされてもその猛威に敬意を表し絶賛するTOM。

「カヌーって、こんなところにも来れるんですねェ」

 身近でありながら人跡未踏の川原に降り立てる身軽なカヌーの魅力にも感激しているTOMである。遊覧船ではこうはいかない。

 さぁ次の瀬に挑もう。すぐ目の前にも落ち込みながら大きな瀬音を轟かせている荒波が見える。万一を考えレスキュー出来るようにYAJ艇は後から行く。先陣を切って赤い船体のカータ艇が突入して行った。ザンと大波に煽られて左斜め45度に艇を跳ね上げられる。左舷への素早いパドリングで体勢を立て直し見事着水。

 続いてTOMも同じコースを行く。落ち込みに入って一瞬姿を消した黄色い船体は次の瞬間カータ艇と同じようにバンと舳先を跳ね上げられて虚空を舞う。見事そのままのけぞるように白波の中へ消えて行くTOM。水飛沫の白と黄色いカヌーの残像を渓谷の新緑を映した流れに焼き付けての芸術的轟沈であった。なかなか手強い、さすが“鵞龍峡”。


 次にTOMは本流と、エディ(瀞場)に渦巻く反転流に捕らわれエディライン上で粗沈をかます。岩に囲まれた流速の早い場所でのエディラインって結構厄介な場所なのだ。

 ロデオをやる人はこのライン上でカートホイールや様々な回転系の技を披露したりするのであるが、初心者TOMには予想の難しい流れだったろう。
 
 バウをエディの逆流に捕らわれスターンを本流に引っ張られクルリとひっくり返されていた。

カヌーのお尻につかまって泳ぎながら
リベンジを期す”チン太”TOM”

 またまた堺屋流の景気語録で説明するなら“『上げ潮』と『下げ潮』がぶつかって『渦巻き状態』”な場所なのである。

 今日はノー沈でここまで来たTOMも“鵞龍峡”に入って三連続沈である。『このところ下げどまり、おおむね横ばい』だった自信も揺らぎつつある。

「悔しいっす、でもまだここからっすよ、“リベンジ”です」

 西武の松坂大輔ばりに“鵞龍峡”にリベンジを期すTOMであった。

 次に迫るはS字に大きく蛇行した瀬。ミャータ艇が先頭で進む。二人艇のファルトの後部座席から操艇するミャータ艇はウィリーのようにバウを跳ね上げてこの難所をクリアして行く。オープンデッキのカータ艇は白波をかぶってコックピットに水を湛えながらも軽快に瀬を越えて行く。振り返りTOM艇を見守る三人。休むことなくパドルを右、左と繰り出しこの蛇行する難関を越えて来た。

「よっしゃー!その調子!」

「ナ―イス、TOM―!」

 パドルを掲げてガッツポーズで声援に応えるTOM。

 赤い天竜橋が前方の崖と崖の隙間に見えた。いよいよ“鵞龍峡”の出口が近づく。天竜橋に向けて一段と波が暴れだし龍の体内から脱出を試みる我々を阻むかのように、その身をよじって荒れ狂う天竜。ストレートだがこれでもかこれでもかと延々と大波が続く。

 ミャータ艇が先頭で波涛を突っ切って行く。大きな波間を越えて行くミャータ艇は後ろからだとバウの先しか見えない一瞬が何度となくある。曲乗りと言わんばかりの果敢な操艇ぶりである。

 YAJ艇とカータ艇はほとんど横に並んで2メートルも間隔を空けず互いに

「それ大波!」

「岩は無いかー!」

 と声をかけ合いながら進む。波がとてつもなく大きく水量豊かな落ち込みが、その直後に巨大なバックウォッシュを作って我々の進行を妨げる。一瞬でも気を抜いてパドリングを止めれば逆流に呑まれ艇を返されそうである。バックウォッシュを力一杯のパドリングで振り切ってカータとふたり喚声を上げる。

「ヒャッホ―! 最高―!」

「ぅおっしゃー! ホゥ―!」

 延々続く波を越えながら、瀬音に負けず渓谷に響けとばかりに雄叫びを上げる。豪快な“鵞龍峡”の大波にすっかり先祖帰りしてしまう我々であった。

 天竜橋下。クリアして来た三人で最後にやって来るTOM艇を待つ。振り返って見ても恐るべき激流である。その中を黄色い船体を大自然のパワーに翻弄されながらも精一杯のパドリングで波頭を捉えて進んで来るTOM艇。そしてTOMも無事にこの大難関を突破して来たのであった。

「よーし、エエぞぉ―!」

「やったなー、TOM―!」

 みんなが大喝采で迎える。それに応えて生意気にデカイ口でも叩くかと思ったら、

「いやー、マジ怖かったッスよぉ、めちゃめちゃ―!」

 と妙に謙虚になっているTOMであった。大自然は人間を素直にするのかもしれない。

「どや、リベンジ出来たか?」

「はい、リベンジです!」

 真っ黒に日焼けした満面の笑みが今日の充実感を余すことなく表わしている。




 こうして2日目の後半戦も全員が完漕を果たし梅雨の時期ながらも快晴の中“FFF+FFツーリング”は無事に目的を達成し終了した。

「また今度も、ちょっと激流を目指しましょ!」

 それぞれに少し欲が出て更なる難関を野性の闘争心が求め始める。

「ボクはちょっとロールとか修得したいな!」

 パドリング技術の向上心も芽生えてきた。トンネルを抜け明るさが見えつつある日本経済。我々“チーム『F』”の中にも上を目指す新たな『変化の胎動』を感じつつ、夕陽に背中を押されながら東京への帰途に就いたのであった。

                   ・

 翌日、都内のカメラ屋で。

「あのぉ、スイマセン・・・これ芸術写真も入ってるんですけど・・現像よろしく頼みます・・・」

「はっ? 芸術・・・?」

 と首をかしげる店員に事情を話す。キャンプファイヤでのアミューズメントナイトのことだ。

「ハッハハハー、分かりました分かりました、出てるものは出しておきますので!」

 数時間後。出来あがった写真には、蛍のように光の尾を曳いて舞い散る火の粉の向こう側で、オレンジ色に照らし出された裸体を怪しげにくねらせる4人が写っていた。

「う〜む・・・“チーム『F』”の『F』って、やはり“フリチ○”の『F』・・・???」


ファイヤーズ秘蔵写真館

(大変失礼いたしております!)

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