1986年のことだったと思うが、アメリカにいる井上
健からの便りで、「トミー・ジャレルそっくりにフィドルを弾く少年が現れたと大騒ぎになっている」と聞いた。
その少年こそ、ここで紹介するカーク・サッフィンだった。
同じ86年にオールド・ホロウ・ストリングバンド(Flying
Cloud−001−CDで再リリース入手可)でデビューし、ばりばりのゲイラックスサウンドを聞かせてくれた。ライリー・バーガスのギターとテリー・マクマレイのバンジョー、そして父のウェイン・サッフィン等と一緒の演奏は、当時のU.Gを十分に驚かせてくれた。U.Gはウェイン・サッフィンをポール・サッフィンと勘違いして、カークはトミーの近くに住んでいて習ったんだなと思い込んでしまった。しばらくして誤解は判明したが、今でもその早とちりを思い出すと自分自身で恥ずかしい。
実際のカークの家は、グリーンズ・ボロの近くのウォーカータウンにあり、トミーの住んでいたトーストとは2時間ほど離れている。カークはずっとここに住んで、その後、数多くのCDでフィドルとバンジョーを弾いている。
これが気に入ったら Kirk Sutphin “Old roots , New branches” county-CD-2711を聞いて欲しい。
ぜひとも聞いて欲しい一枚だ。 入手先はこちら
CDジャケットには古いフィドラーの写真が使われている。ふたを開け、CDを取り出すと同じシチュエーションで、カーク・サッフィンがフィドルを構えている。ジャケット写真のフィドラーはカークの祖父シドニーで、この2枚の写真には100年近い歳月が流れている。
−Old 97 record 002
しかし祖父の死後カークはすぐにはトミーを訪ねず、2年間レコードを聞きつづけ、それから父にトミーのところへ連れていってくれるように頼んだ。トミーと並び真剣な顔をしてフィドルを弾く幼いカークの写真がいい。ひ孫みたいなもんだから、これじゃ、教えたくなっちゃうな。
余談だが、若きライリー・バーガスやリッチ・ハートネスもこの頃からトミーのところに通っていた。
01 Fire on the Mountain -
02 Peacock Rag -
03 Sweet Marie -
04 Chinese Breakdown -
05 Let Me Fall ? -
06 Rachel -
07 Prison Sorrows ? -
08 Peek-a-boo Waltz -
09 John Hardy -
10 Don't Drink Nothin ' But Corn -
11 Sunny Home in Dixie -
12 Lonesome Road Blues -
13 John
Henry -
14 Honeysuckle -
15 When I Can Read My Title Clear ? -
16 Yellow Rose of Texas ? -
17 Lee County
Blues -
18 Home Sweet Home / Silver Bells ? -
ライナーノーツによれば、カークが幼かったある日、祖父の家のポーチの階段を上りかかるとフィドルが聞こえた。それは祖父が30年ぶりに弾いたフィドルの音で、カークはそれまで祖父がフィドルを弾けることさえ知らなかったという。カークはその音色に打たれ、兄弟と一緒に祖父から手ほどきを受ける。
祖父は一年後に亡くなってしまうが、若い頃,兄弟や家族と楽しそうに楽器を弾くシドニーの写真が二枚載っている。カークをフィドル音楽に引き付けるには十分な腕を持っていたのだろう。
その祖父は「わしが若い頃この辺で一番上手いフィドラーは、トミー・ジャレルと言う名の奴だったな」と聞かせてくれた。
Grandpa's Favorite
1 Fire on the
Mountain , 9
John Hardy ゲイラックス地元人間のエディ・ボンド(U.Gはフィドルの音と歌声以外、彼についてなにも知らない)にフィドルをまかせて、カークはバンジョーを弾いている。1
はカークの二重録音でクロー・ハンマーとフィンガースタイルのツインバンジョー。トミーのデビュー作品、ブルー・リッジシリーズ(County713ほか)をお手本に、そこにはないラウンドピーク・チューンを。
9 はU.Gの好きな曲。演奏はうなるほど味が濃い。ジェームス・リヴァ(f)、アンディ・ウィリアムズ(f)とデヴィッド・ウィンストン(bj)の若くて活きの良い演奏と、甲乙つけがたい。そう言えば、どちらもトミーに捧げてるな。
2 Peacock Rag どこかで聞いたことのあるような、親しみやすいメロディ。
3 Sweet Marie 最初は弦の上をボウがすべるようなパット・コンテのフィドルに違和感があったけど、なんども聴いていてふと気がついた。トミーのボウもよくすべってるよな。急に始まるカークの歌がまた素朴だ。
5 Let Me Fall , 12 Lonesome Road Blues ,14 Honeysuckle , 17 Lee county blues このユニットNew Camp Creek Bandこそ、カークが夢に見た組合わせだろう。バーリン・クリフトンとポール・サッフィンとともに40年前の偉大なバンド、キャンプクリーク・ボーイズ(County-CD-2719)を再現する。ギターとマンドリンのリズム隊のオリジナルメンバーが二人いるだけで完璧に再現できている。テンポこそオリジナルよりゆっくりになっているが、リズムがどんなにそのバンドのオリジナリティを決定づけているかという良いお手本だ。バーリ
ンのマンドリンが良く聞こえるのがカークのこだわりか。渋い声を聞かせてくれたポールは8月に亡くなってしまい、オリジナルメンバーはいまやバーリン・クリフトン一人になってしまった。
カークがフレッド流にズ―ズ―と引っ張ってフィドルを弾けば、トム・マイレットのバンジョはカイル・クリードのカチカチした音色を程よく甘くして合わせる。5.のコロコロと上がって5弦を2回たたくところは思わず「イヨッ、トム」と掛け声をかけたくなる。12.ではポールの良い歌が聞ける。U.GはいつもKey−Dで歌うが、こんどKeyAでポールみたいにDに行くところで下げて歌ってみよう。フィドル弾いてね。
ユニット名をニュー・〜・バンドとしたのは、奥さんのリサが入ってるからか。リサは全編でいいギターを弾いてカークをバックアップしている。
6 Rachel ,10 Don't Drink Nothin' But Corn 子供の頃からのトミーフィドル教室の仲間ライリーのバンジョーとリサのギターで。10 はAパートが1回でBパートが1回か、Bは2回半って数えればいいのか。どちらも弾きたくなる、いい曲だ。
7 Prison Sorrows このユニットはカークのもうひとつの憧れ、Charlie Poole and his North Carolina Ramblersの再現。Charlieはフィンガースタイルのバンジョーを弾きながら歌う人。そのバンドでフィドラーだったポジー・ローラーの一族達と、ニュー・ノースキャロライナ・ランブラーズを聞かせてくれる。このユニットではバンジョーを弾くことも多いカークがフィドルを弾き、キニー・ローラーがチャーリー・プールになりきってバンジョーを弾きながら歌う。このユニットで、あと二曲ぐらい聞きたかったな。
13 John Henry 1.とは逆にカークのフィドルとエディのバンジョー、リサのギター。
16 Yellow Rose of
Texas パットのフィドルに、パットの盟友ビルとカークのツイン・バンジョー。歌うはエディ。都会人と田舎人の組合わせが良い。
このCDは、カークにとっての二人の祖父、シドニーとトミーの思い出を慕って作ったものであり、同時にカークが試してみたかったいろんな組合わせのユニットを聞くことができる素晴らしい作品。
Kirk Sutphin & Friends