アメリカの人間国宝

 結局、「スカー・レーン」は「スカイ・ライン」の訛りだったことがわかり、墓参は無事にできたが、墓地の管理人達も「トミー・ジャレル、ナショナル・ヘリテイジ」には、反応を示さなかった。

~American National Heritage Award~


Episode 1

 さて、オールドタイムのCDの解説やそのほかの文章を読んでいると必ず目にする、National Heritage という言葉。
 これはU.Gにとってあこがれそのものである。
 直訳すれば「国民的遺産」、日本で言う「人間国宝」だろうとの見当はつくが、アメリカには先住民族の伝統を除けば歌舞伎や長唄に匹敵するいわゆる伝統芸能は無く、どのようなものかと調べてみた。

 National Heritage Awardは 民間の寄付によるNational Endowment For The Arts 「全国芸術基金」が市民の投票により選定するもので、 1982年に、アメリカ国家という人種的モザイクのなかで、アメリカ国民又は永住権を持ち、出身民族固有の民俗芸術(folk art)に寄与してきたアーティストを顕彰するために創設された。

 選定されると、賞金10、000ドルが支給される。
 顕彰されているのは、伝統的音楽家のほかにも、民族舞踊、家具製作、鍛冶屋、カウボーイ詩人、チベットの仏教曼荼羅作者、日系のお茶(茶道)の先生など多くのジャンルに亘っているが、基本は米国在住で出身民族の民俗芸術を守り伝えていることにある。

 U.Gは伝統的音楽というとオールドタイムだけを考えてしまうが、ブルース、ブルーグラス、ハワイアン、アイリッシュ、インディアン、カリビアン、京劇、そしてなんと和太鼓の演奏者(日本人の移住者)までが含まれている。

 受賞者は20年間で250人を超えているが、オールドタイムミュージシャンも多く選ばれていてよかったと思うのは、U.Gのこだわり。

 ここでは、オールドタイム・ミュージシャンの受賞者だけをあげてみる

 アメリカは人種の混合であり、伝統芸術は古くても200年程度の歴史しかない。
だからこそ出身民族の民俗的な伝統を大切にしていこうというNEAの姿勢にこれからも注目していきたい。

 2000年からの受賞者に関しては、個人の写真と、紹介、別メニューによるインタビュー記事、そして上手くいけば、リアルオーディオによる試聴までできる。

- http://www.arts.gov/honors/heritage/Heritage06/Interviews.html

 受賞者リストはこのページの右に1982から2006までの数字があるのでそれを使ってたどる。

- http://www.arts.gov/honors/heritage/allheritage.html



そしてここまで読んでくれた方へのボーナスとして、下のアドレスをクリック。
- http://historywired.si.edu/detail.cfm?ID=120

ギヤつき糸巻きのフィドルとクラシック・ギター形ペグヘッドのフレットレス・バンジョーの写真。
スミソニアンのお宝だー。
誰と誰の楽器だかわかるねー。涙が出るぞー。
これについてはまた別の項でレポートする予定。

 U.Gは腹の中で「違う違う、自分たちが一番だと思い込んでいる村芝居に本物の歌舞伎の義太夫語りが突然現れたので誰も理解できない、というのがホントのところだ。」と叫んでいた。
 ケイジャンやオールドタイムに楽譜を要求することがどんなにおカド違いなことか。
 デューイに迷惑がかかってはいけないと思って自粛したが、声に出して言ってやりゃよかったと、今でも、しばしば思い出す。

 2001年初夏の良く晴れた昼下がり、私Uncle.Gryphon(以下U.G)は、ノース・キャロライナ州マウント・エアリーにあるトミー・ジャレルの墓に詣でた。
 その2年前、マウント・エアリー・フェスでトミーの息子(といっても70歳を超えているだろう)のウェイン・ジャレルに墓地の場所を尋ねると、彼は、「スカー・レーン・メモリアルにある」と教えてくれた。

 そして2年後、念願かなってその近くまでやってきたが、見つからない。
昼食の食堂で尋ねると、おやじが出てきたので「スカー・レーン・メモリアル」を聞くがわからない。
「トミー・ジャレル、ナショナル・ヘリテイジ」といっても反応を示さない。
着ていたT−シャツの絵を見せて、「マウンテン・ミュージック」というと
「あー、マウンテン・ミュージックか。それは向こうの山に住んでいる奴等がやってるものだ。」
と答えるしまつ。

いや、驚いた。

Next

1982年 トミー・ジャレル
1983年 スタンレー・ヒックス,アルメダ・リドル
1984年 エリザベス・コットン
1986年 オーラ・ベル・リード,ニムロッド・ワークマン
1988年 ドック・ワトソン
1990年 ハワード・アームストロング
1991年 エッタ・ベイカー,モーガン・セクストン,メルヴィン・ワイン
1992年 クライド・ダベンポート
1995年 ライマン・エンロー
1996年 ウィル・キーズ 
1999年 ボブ・ホルト
2002年 ラルフ・ブリザード,ジーン・リッチー

▲1990年シアトル Fiddle:デューイ・バルファ
Accordion:スティーブ・ライリィー

Cabin Talk Top

Top

▲ トミーのお墓

Episode 2

 1年ぐらい前のことだが、フランス系米国伝統音楽「ケイジャン」のフィドラーでナショナル・ヘリテイジ受賞者のデューイ・バルファが、劇団ふるさとキャラバンのバックミュージシャンとして日本に奇跡的に滞在していたことがある。
 ある晩、劇団主催のパーティーがあり、U.Gもデューイに会いたくて参加した。
 U.Gはひげおやじたちといっしょにケイジャンの真似事にトライアングルで演奏参加と司会をしたが、そのとき「ここに居るデューイ・バルファさんはアメリカの人間国宝なんです」と強調した。

ところがそのとき劇団の音楽監督とかいう人が言った言葉。
「この人はこちらが頼んだとおりに弾いてくれないんです。楽譜さえ読めないんですよ」。