週刊エコノミスト(05.12.20号)

「生保 信頼度ランキング」

− もうちょっと“いい仕事”してね −




またまた、恒例の”週刊エコノミスト”(12月20日特大号)の生保ランキングです(詳細は、書店でバックナンバーを捜してみて下さい。税込み630円です)。
今回のランキングも、前回(6月)のランキングの際のコメント(下記リンク参照)そのままに、首をかしげざるを得ないランキングとなっていますが、軽く触れてみます。
ところで、今回の内容は、前回の内容と重複した箇所が、多々あります。
ご了承ください(それほど、ここで指摘しているランキングの問題点が、一向に改善されないのです)。
http://www.melma.com/backnumber_27382_518824/

まずは、相も変わらず、指標に継続性がありません(今回は、5項目のうち1項目が入れ替わり)。
“編集部は00年度決算から定量分析に基づく独自の生保ランキングを年2回発表しており、今回は10回目にあたる”と文中で自負していますが、肝心の指標の継続性がなくては、残念ながら、単発のランキングと大きな違いはありません。

●新契約伸び率 → 第3分野保有契約年換算保険料伸び率
第3分野という新市場の開拓力=成長力という視点から、この「第3分野保有契約年換算保険料伸び率」を指標としたようですが、早々と第3分野に特化していた一部の外資系生保には不利な指標といえるのではないでしょうか。
各生保の第3分野に対する取り組みを把握するなら、むしろ、保有契約年換算保険料における第1分野と第3分野の比率などを対象とした方がわかりやすいように思います。

こう毎回指標を入れ替えると、特定の生保のランキングをよく見せるために、指標を入れ替えているように勘ぐられるだけだと思うのですが、いかがでしょうか(前回ランキングとの比較も、意味をなしませんし)。

ところで、本来の「信頼度」って、エコノミストが取り上げた5項目(指標)で、測れるものなのでしょうか。
本当に「信頼度」を全面に押し出したいのなら、例えば、
●TV−CMの正確さ(信頼度)
●パンフレットの正確さ(信頼度)
●セールスの質(信頼度)
なんてものが、本来生保に求められている信頼度にあたるのではないでしょうか。でも、これは数値化すること自体が無理でしょうから、ランキングには馴染まないような気がします。
時々、経済紙(マネー雑誌)で、「信頼度」に関わるような項目を含んだ読者アンケートなどを実施しているケースも見受けられますが、これらのアンケートは統計学上の信頼性を担保できていませんので、単なる人気投票になりがちで、それも契約者が”デメリットすらメリットと思いこんでいる”ケースなどを排除することができませんので、やはり「信頼度」の指標にはなり得ないでしょう。

その意味からすると、今回取り上げられているネット調査「安心して契約できる生保(3社まで)」「信頼できない生保(3社まで)」は、噴飯ものです。
アンケートの設問からも、「安心して契約できる生保」と思う生保の理由が、“有名だから(55.5%)”“経営内容や業績、財務内容がよい(32.6%)”“コマーシャルや広告でよく見る(31.2%)”では、単なる「知名度・認知度のアンケート」でしかありません。
一見すると“経営内容や業績、財務内容がよい(32.6%)”は、客観的な情報を基に回答しているように見えますが、これも回答者がすべて生保の決算書を読みこなす能力があるとは考えられませんから、あくまでも「そんな気がする」程度の回答でしかなく、その意味からも、経済誌が行うアンケートにしては、余りにも内容のないアンケートといえるでしょう(格付と比較しても、“経営内容や業績、財務内容がよい”なんていってられない格付の生保が、「安心して契約できる生保」ランキングの上位にきていることが、その証明といえるでしょう)。
その結果は一目瞭然で、「安心して契約できる生保」は“大手生保”か“TV−CMの多い生保”に偏っているようです(TV−CMや新聞広告には、デメリットの情報が十分に告知されていない、なんてことを疑っていない方がほとんどでしょうし)。
本来、読者が必要としている、実際に「安心できた生保」「信頼できなかった生保」のランキングとは、“似て非なるもの”である点に、注意が必要と言えるでしょう。

<安心して契約できる生保>    (S&P格付)   <信頼できない生保>      (S&P格付)
1.日本生命       48.9%  A+     1.明治安田生命     31.7%  A−
2.アメリカンファミリー 30.8%  
AA     2.ジブラルタ生命    7.2%  AA−
3.第一生命       30.6%  A−     3.カーディフ生命    6.9%  格付なし
4.住友生命       17.9%  
BBB    4.アリコジャパン    6.2%  AA+
5.アリコジャパン    17.6%  
AA+    5.マニュライフ生命   5.6%  AA+
6.ソニー生命      10.5%  A+     6.日本生命       5.3%  A+
7.明治安田生命      6.3%  A−     7.太陽生命       5.2%  A
8.三井生命        6.0%  
BB     8.朝日生命       4.9%  BB−
9.東京海上日動あんしん  5.7%  
AA−    9.プルデンシャル生命  4.5%  AA−
10.チューリッヒ生命    5.0%  格付なし   10.富国生命       4.0%  A−
11.プルデンシャル生命   3.0%  
AA−    11.共栄火災しんらい   3.9%  格付なし
12.太陽生命        2.4%  A      12.第一生命       3.8%  A−
13.朝日生命        2.3%  
BB−    13.マスミューチュアル  3.5%  AA−
14.オリックス生命     1.9%  A−     14.ピーシーエー     2.7%  格付なし
15.損保ジャパンひまわり  1.8%  
AA−    15.住友生命       2.6%  BBB
16.富国生命        1.6%  A−     16.ハートフォード    2.3%  
AA−
17.大同生命        1.5%  A      16.あいおい生命     2.3%  格付なし
17.あいおい生命      1.5%  格付なし   18.三井生命       2.2%  
BB
17.損保ジャパンDIY   1.5%  格付なし   18.アメリカンファミリー 2.2%  
AA
20.アクサ生命       1.4%  
AA−    18.富士生命       2.2%  格付なし
一つもない        18.1%         一つもない       40.0%

となると、「信頼度」を全面に押し出したランキングは、無理という結論になるでしょう(単なるアンケート結果の垂れ流しでしかありません)。

「生保の信頼度」でどうしても企画したいのなら、ぜひ、
●TV−CMの正確さ(信頼度)
●パンフレットの正確さ(信頼度)
を、実際の事例を使って、その読みこなし方を解説してみたらいかがでしょうか。
手法としては、「金融広告を読め」(光文社新書)を、そのまま「生命保険編」として、パクればいい訳で。
まあ、スポンサーの関係(広告料の大きいな生保ほど、”信頼度”に?が付く可能性が高いかも)で、雑誌でこの企画が通るとは思いませんが、読者のために「生保の信頼度」を周知させたいのであれば、非常に喜ばれる企画となるでしょう(そもそも生保関係のランキングは、読者のためと言うより、生保関係者にスポットで購入させるための企画でしょうから、実際は企画に「生保ランキング」とつけば、何でも良いのでしょうが)。
ちなみに、「金融広告を読め」(光文社新書)では、生命保険商品として”変額個人年金””外貨建て個人年金”くらいしか取り上げられていませんが、それでも「金融商品にうまい話はない」ということは十分、ご理解いただける内容となっています。

まとめとして、「総合順位」を2005年3月期比で保有契約高がプラスとマイナスでグループ分けをした上で、<補正>してみました(
赤字の生保は、2005年3月期と比較して保有契約高が減少した生保)。
補正をすると、格付け(S&P)に近づいてきて、据わりがよくなることからも、安心度ランキングの総合順位を鵜呑みにするのは、個人的には”いかがなものか”と思わざるを得ません。


<総合順位>          <総合順位(補正)>      <格付け(S&P)>
1.ソニー生命         1.ソニー生命          A+
2.アメリカンファミリー生命  2.アメリカンファミリー生命   
AA
3.プルデンシャル生命     3.プルデンシャル生命      
AA−
4.アイエヌジー生命      4.アイエヌジー生命       
AA−
5.アクサ生命         5.アクサ生命          
AA−
6.
日本生命          6.東京海上日動あんしん     AA−
7.
富国生命          7.アリコジャパン        AA+
7.東京海上日動あんしん    7.損保ジャパンひまわり     
AA
9.
マニュライフ生命      9.大同生命           A
10.アリコジャパン       10.三井住友きらめき生命     
AA
10.損保ジャパンひまわり    11.太陽生命           A
12.
第一生命          12.日本生命           A+
13.
ジブラルタ生命       13.富国生命           A−
14.大同生命          14.
マニュライフ生命(破綻歴あり) AA
15.
明治安田生命        15.第一生命           A−
16.
AIGエジソン       16.ジブラルタ生命(破綻歴あり)  AA−
17.
アクサグループライフ生命  17.明治安田生命         A−
18.三井住友きらめき生命    18.
AIGエジソン(破綻歴あり)  AA+
19.
住友生命          19.アクサグループライフ生命   格付なし
20.
朝日生命          20.住友生命           BBB
21.
三井生命          21.朝日生命           BB−
22.太陽生命          22.
三井生命           BB
23.
T&Dフィナンシャル生命  23.T&Dフィナンシャル生命   格付なし

<補足>07.01.28
ところで、格付けが高いのに補正後の総合順位が低い3社(マニュライフ生命、ジブラルタ生命、AIGエジソン)ですが、1度破綻という形で契約者を裏切った過去を考慮すると、総合順位はこのあたりが妥当だと思います。
とはいえ、この程度のランキングを信用するくらいなら、生保の決算やソルベンシー・マージン比率を、じっくりと調べるべきでしょう。


2006年9月期決算 一覧
2006年3月期決算 一覧
2005年9月期決算 一覧


ソルベンシー・マージン比率 一覧(2006.9期)
ソルベンシー・マージン比率 一覧(2006.3期)
ソルベンシー・マージン比率 一覧(2005.9期)


“最新”の格付け、ソルベンシー・マージン比率(支払い余力)、決算は、下記リンクからどうぞ!






おまけ。
「不払い件数は、明治安田が突出」という生保各社の過去5年間分の支払件数をまとめた表が、29ページに掲載されています。
これだけみると、本当に明治安田生命が突出しているように見えますが、もう一手間(100万件あたりの不払い率を算出)かけると、あらら不思議なことに、明治安田生命は1位ではなかったようです(不払い件数の順位より、100万件あたりの不払い率の順位が上位になった生保は、
赤字で表示)。
100万件あたりの不払い率で見ると、1位は損保ジャパンDIYで、明治安田生命の8倍も不払い率となっているのです。
最低の不払い率である住友生命と比較すると、何とその不払い率の差は1,542倍という、非常に大きな差であることが分かります。
これが、単に不払い件数だけで比較しただけなら、25件の差でしかありませんでした。
記事の内容に合わせるために、おざなりの分析といえるのではないでしょうか。非常に、残念です。
なお、ここで言う「不払い件数」とは、本来支払うべき保険(給付)金を生命保険会社が払わなかった件数のことであって、いわゆる、告知義務違反などで保険会社から保険(給付)金を払ってもらえなかった件数ではありませんので、誤解のありませんように。

<補足>07.01.28
それと、マスコミでは「不払い」を一括りで報道していますが、明治安田生命(とはいえ、本来は明治生命のやったことですが)の不払いは、他生保の不払いとは、次元が異なる悪質さで、その点からいえば、マスコミは不払い件数という側面だけを報道することで、明治安田生命の「会社ぐるみの詐欺」といっても良いような犯罪行為の毒消し(つまり、「明治安田生命だけではない」と思わせること)を図っているようにも見えます。
簡単に言えば、うっかりの不払い(他生保)と、最初から払うつもりのない不払い(明治安田生命)を、意図的に同じ「不払い」という形で、お茶を濁しているのです。
これでは、味噌も糞も一緒です。
不払いは、生命保険会社のサービスとしては本来あってはいけないことですが、ただし、その契約件数からすれば、「うっかり」ということはあり得ます(もっとも、不払い件数は、各生保の自己申告なので、どこまで正直に調べたのか、その点は非常に頼りないのですが)。

ところが、明治安田生命の不払いは、会社ぐるみで
  • 告知で嘘をつかせて加入させ(本来は、告知をきちんと行っていれば加入できない人に対して)
  • にもかかわらず、給付金の請求に対して、加入時に嘘の告知をしていたと言うことで、一切払わないか、一方的に契約の解除を行った(本来は、告知に嘘があった場合でも、既往症と給付金の請求内容に相関関係がない場合は、支払い対象となる可能性が。あるいは、給付はされなくても、契約解除にはならない可能性があります)

という犯罪行為なのです。
各種の生保ランキングもそうですが、その情報を鵜呑みにしても意味のない(情報を提供する側の意図で、操作されている可能性がある)ランキング、その典型といえるのではないでしょうか。

ちなみに、「不払い」でもう一つ注意点が。
例えば、上皮内がん(アフラックでは“上皮内新生物”といいますが、上皮内がんと上皮内新生物は同じレベルのがんを指します。アフラックのがん保険に加入している方は、注意が必要です)は保障の対象とならないガン保険に加入していた人が、上皮内がんで保険金を請求した場合、もちろん保険金は支払われませんが、これは「不払い」には該当しません。
たとえ、「どんなガンにも安心」といってTVーCMやパンフレットで宣伝していたとしても、生保会社は契約者の不注意(勘違い)ということで、保険金を払ってくれません。
そして、このような「契約者の泣き寝入り事例」は、「不払い」にはカウントされないのです。
契約者の心情からすれば、これこそが「不払い」であるべきなのですが、決して生保は「不払い」とは認めませんので、お間違いなく。


<不払い件数(過去5年間)>     <100万件あたりの不払い率>
1.明治安田生命      1,053   1.
損保ジャパンDIY    833.33
2.日本生命          57   2.明治安田生命       104.02
3.朝日生命          45   3.
クレディスイス       60.61
4.アメリカンファミリー    45   4.
チューリッヒ生命      52.94
5.アリコジャパン       32   5.
マニュライフ生命      41.94
5.マニュライフ生命      32   6.
オリックス生命       40.38
7.損保ジャパンDIY     30   7.
大和生命          38.28
8.アクサ生命         26   8.
共栄火災しんらい      26.32
9.第一生命          25   9.アクサ生命         23.13
10.オリックス生命       17   10.
東京海上日動フィナンシャル 21.74
11.クレディスイス       14   11.
三井住友きらめき      10.39
12.大同生命          12   12.
T&Dフィナンシャル    8.85
12.プルデンシャル生命     12   13.プルデンシャル生命     6.88
14.AIGスター        10   14.アリコジャパン       6.64
15.チューリッヒ生命      9   15.AIGスター        6.57
16.損保ジャパンひまわり    9   16.
富士生命          6.29
17.三井住友海上きらめき    8   17.損保ジャパンひまわり    6.18
17.大和生命          8   18.朝日生命          6.02
19.三井生命          7   19.大同生命          5.99
19.富国生命          7   20.
日本興亜生命        5.60
21.住友生命          5   21.日本生命          4.12
21.東京海上日動あんしん    5   22.
あいおい生命        3.19
23.ソニー生命         4   23.東京海上日動あんしん    3.14
24.T&Dフィナンシャル    3   24.アメリカンファミリー    2.63
24.AIGエジソン       3   25.三井生命          2.40
24.ジブラルタ生命       3   26.富国生命          2.29
27.日本興亜生命        2   27.第一生命          2.16
27.共栄火災しんらい      2   28.AIGエジソン       1.67
29.東京海上日動フィナンシャル 1   29.ソニー生命         1.13
29.あいおい生命        1   30.ジブラルタ生命       0.79
29.富士生命          1   31.住友生命          0.54
※保険金と給付金の件数を合計     ※不払い件数÷個人契約件数(年金を除く)×1,000,000







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