共済の“非営利”はメリットか?

ー 商品の比較は正確に ー


10月(平成17年)に入って、全労済の“こくみん共済”のTV−CMが盛んに流されています。
皆さんは、あれほど“非営利”を謳っている共済が、タレント(白石美帆さん)を使ってまでTVーCMを流す必要性があるのかどうか、不思議に思いませんでしたか。
そこで、常日頃から考えていた共済についての疑問を、いくつかのポイントにまとめて、考えてみました(今回は、全労済の“こくみん共済”に絞っていますが、他の共済も同様と思って、お読みください)。
 ●TV−CM等で強調している改定内容の優良誤認を招きかねない誇大表示
 ●商品改定の内容と、本来の共済の範囲との整合性
 ●共済が強調する“非営利”性への疑問


“こくみん共済”制度の改定内容について
2005年10月1日から、こくみん共済の保障内容が改定されました。
「掛金はそのままに保障をさらに充実、また移行タイプの充実で保障期間を延長いたしました」と謳っていますが、本当に、そのような理想的な改定になったのでしょうか。
こくみん共済のHPでは、改定のポイントとして、次の4つを上げています。
1.一生涯のあんしんをプラス。「医療終身タイプ」新登場!
2.より大きい保障の「大型タイプ」が、新登場!
3.「総合タイプ」が、さらに頼れる保障に!
4.「医療タイプ」が充実、力強くなりました

そこで、それぞれについて、検証をしてみました(以下の内容は、あくまでも私見です。内容はご自分でご判断ください)。


1.一生涯のあんしんをプラス。「医療終身タイプ」新登場!

「一生涯のあんしんをプラス」ということで、いわゆる「終身医療保険」を思い浮かべるかと思いますが、こくみん共済に「終身医療保険」が登場したのでしょうか。
ようは、こくみん共済の各タイプ(キッズタイプを除く)に付加をすることにより、以下の保障が上乗せできる「特約」と考えた方が正解のようです。

 ●入院日額:3,000円(1入院の上限180日、通算日数1,000日)
       日帰り入院から対応
 ●手術給付:1回につき30,000円
 ●保障期間:終身
 ●払込期間:終身
 ●掛金額 :加入時の年齢・性別により異なる(本来の共済掛金に上乗せとなります)
       30歳 男(1,362円)、女(1,374円)
       40歳 男(1,776円)、女(1,770円)
       50歳 男(2,400円)、女(2,412円)

したがって、この「終身医療タイプ」単独で加入することは出来ません。
また、掛金がこれまでの“一律”ではなくなり、加入時の年齢と性別によって異なることになっています(掛金が加入途中でアップすることはありません)。
とすると、掛金は実質アップすることになるわけで、「掛金はそのままに保障をさらに充実」というアピールは、この新商品「医療終身タイプ」には当てはまらないようです。

さて、感想ですが、日額3,000円は、他のタイプの入院日額(例えば、医療タイプなら)と足せば、それなりの日額9,000円(6,000円+3,000円)に出来ます。
ただし、それは、入院のリスクが非常に少ない「60歳まで」で、それ以降70歳までは日額4,500円(1,500円+3,000円)に、一番心配な70歳以降は「医療終身タイプ」の日額3,000円のみとなってしまいます。

できるなら、医療保険は次のポイントから、選択した方が良いと思いますので、残念ながら「医療終身タイプ」の効果はそれほど高くはないと思います。
共済は、掛金が2,000円だから有効なのであって、それ以上にお金を払うのなら、そもそもきちんとした生命保険に加入すべきでしょう。

 ●日額が、老後になってから減らない
 ●保険料は、老後になる前にすべて払い終わる
 ●保障は、平均年齢までカバーできるように
 ●日額は、差額ベッド代で困らないように、5,000円〜10,000円程度に
 ●保険会社の財務内容は、格付の上位にあること


2.より大きい保障の「大型タイプ」が、新登場!

「最高保障額3,000万円の大型タイプ」という表記は、優良誤認をしかねない、問題のある表記です。
死亡保障額は、病気による死亡保障額を、まず表記すべきで、交通事故や事故で死亡した場合の死亡保障額を全面に出すのは、リスクの大きな差(事故で死亡する確率は、2%程度でしかない)から言っても、契約者の誤解を生む可能性があります。

ということで、3,000万円は交通事故で死亡した場合の保障額であり、大型といいながら、実は「病気死亡」では、1,200万円の死亡保障でしかないのです。
果たして、これで、「大型」といえるのでしょうか。
これまでと比べて「大型」であっても、これまでも、こくみん共済“総合タイプ”に2口(掛金4,000円)加入すれば、病気死亡は800万円確保できていた訳ですから、わずか1.5倍の保障額アップに過ぎずません。
たしかに、掛金は、総合タイプ2口を1.5倍した金額よりも割安ですが、これは単に、小口(掛金2,000円)の共済も大型(掛金5,400円)の共済も経費は同じと言うことで、掛金にしめる経費率が下がったと言うことが、原因と考えられます。

このように、共済のパンフレットなどは、常に、保障額の大きい「事故死亡」を先に目に付くように記載していますが、これはとても、「組合員の利益を第一に事業が行われます」「最大奉仕の原則」と謳っている全労済の精神や生協法に、大きく反していると言わざるを得ません。

もっとも、マスコミの理解度も、下記URLの程度でしかなく、一生懸命お先棒を担いでいるのが現状です。
http://www4.plala.or.jp/anshin/W_Diamond_05_01_29.html


3.「総合タイプ」が、さらに頼れる保障に!

60歳以降の保障を継続するための“移行タイプ”の拡充を「最高満85歳までの保障が実現」ともっとも強調していますが、病気の入院については、どの移行タイプを活用しても「最大でも70歳まで」しか保障を継続できません。
2.と同様に、本来、保障額をアピールする場合は、事故や交通事故の際の保障内容ではなく、病気の場合の保障内容を記載すべきです。
したがって、正確には「事故の保障は、最高満85歳まで(病気の保障期間70歳はこれまで通りです)」と記載すべきだったでしょう。
もちろん、新発売の「医療終身タイプ」を「総合タイプ」に付加すれば、病気の入院でも日額3,000円の給付金を終身(年齢による終わりがない)維持できますが、そのためには、掛金の上乗せも必要となるわけですから、総合タイプだけでは「最高満85歳までの保障」を実現できないことに変わりありません。


4.「医療タイプ」が充実、力強くなりました

「日帰り入院から給付」が目玉のようですが、そもそもが、これまでリスクに相当する掛金よりも多目に掛金を集めて、それを割戻し(36.2%:16年度)していたわけですから、これまで通りの掛金の額で、日帰り入院からの給付を実現することは、それほど大したことではないと思います。
保障が充実した代わりに、割戻しが減るだけですから。
それをさも、“こくみん共済”の努力で実現したかのような表現は、正確な内容を伝えていないのではないかと思います(他の共済も、同じような手口は使っていますので、業界の問題なのですが)。

共済の“非営利性”は、本当に組合員のメリットなのか

全労済(もちろん他の共済も同じようなものですが)は、“非営利性”を、次のようにアピールしています。
協同組合は、生活をより良くしたいと願う人々が自主的に集まって、営利を目的としない事業を行う組織です。(中略)営利を目的としない協同組合では、組合員の利益を第一に事業が行われます。

でも、上記のことは、そもそも協同組合の根拠法令である「消費生活協同組合法(生協法)」によって、次のように“非営利”が定められているためであり、協同組合はその制限によりその範囲を逸脱できないだけなのです。

第9条(最大奉仕の原則)
組合は、その行う事業によって、その組合員及び会員に最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行ってはならない

つまり、協同組合(全労済の正式名称は“全国労働者共済生活協同組合連合会”)であれば、非営利は当たり前であって、わざわざアピールするほどのことではないのです。
また、共済事業も生命保険と同様、損をしたら事業を継続できないわけですし、利益を剰余金として組合員に割り戻すことも、生保の配当金と考え方は同様ですから、“非営利”だからこそできること、とまでは言えないのではないでしょうか。

そこで問題になるのは、TV−CMや宣伝媒体による広告です。
TV−CMの目的は、どう見ても募集であり、「自主的に集まって」とはいえないように感じます。
少なくとも、募集に経費をかけないから掛金が安いといったイメージは、TV−CMからは伝わってこないのですが、いかがでしょうか。
本来の募集形態は、職場や組合ごとに「職場推進員」や「地区組合組織」が加入の促進を図るようなのですが、現状は、それらの組織に加入していない第3者を取り込むために、TV−CM等の宣伝・広告を行っているように見え、この点でも、組織を大きくするために、本来の協同組合のあり方から逸脱し始めている印象を持たざるを得ません。

そもそも、“非営利”というと、“ボランティア”とか“手弁当”をイメージしがちですが、もちろん全労済の職員がタダで働いているわけではありません。
全職員を把握することは出来ませんので、全労済のトップである理事長について調べてみると、おもしろいことに気がつきます。
そうです、いわゆる“労働貴族”(労働者の皆さんの上がりで、労働者以上の生活を送る、優雅な方々)のみなさんが活躍する場が、全労済のようなのです。
ちなみに、現在の理事長である「石川太茂津」氏は、その経歴を見ると、どうやら「電機連合」の地方組織の事務局長だったようです。
前理事長であった「鷲尾悦也」氏の経歴は、より華やかで、鉄鋼労連委員長、連合事務局長、連合会長を渡り歩いた、生え抜きの労働貴族といえるようです(HPには、せめて理事の経歴を掲載すべきでしょう)。
この傾向は、全労済のみというわけではなく、他の共済も多かれ少なかれ、労働貴族が余生を送る場として活用されています(もう一つの選択肢は、国会議員への道でしょうね。ただし今回の選挙では、親密政党である民主党が大敗したため、当選は難しかったでしょうが)。
したがって、全労済の場合の“非営利”とは、理事長から副理事長、事務理事、常務理事、業務執行理事、監事長、副監事長といった総勢11人の役員(その他に、非常勤の役員もいるようです)に報酬(手弁当ではないはずです)を払ったうえで、最終的に利益が出なければ“非営利”であるといったレベルの“非営利”では、と勘ぐられてもしかたないでしょう。


また、消費生活協同組合法には、第2条の2項で「消費生活協同組合及び消費生活協同組合連合会は、これを特定の政党のために利用してはならない」と規定されていますが、その規定からも、非常に特定の政党と結びつきが強い労働団体から、理事長などの役員を受け入れるのは、いかがなものでしょうか。
見ようによっては、特定の政党の、間接的な受け皿といわれても、おかしくはないように思います。

以上、今回は、全労済の“こくみん共済”の商品改定を中心に、共済制度につて考えてみました。
共済制度は、民間生保でも簡保でも取り扱わない、非常に少額な保障を提供してくれる貴重な存在です。
ただし、それは、儲けを度外視しているわけでもありませんし、非常に効率的な組織である訳でもありません。
今回の商品改定による拡大戦略は、これまでの郵便局と同じで、民間のサービスに追いつくための、本来は必要とされない拡大であり、加入者の利益のためと言うよりも、組織が拡大を止められないことが原因といえるではないでしょうか(その意味では、役所や第3セクター的な臭いがします)。
その点に十分注意して、掛金を払えば払うほど良いことがあるわけではない、ということを念頭に、掛金に見合う保障プランをご選択になったらいかがでしょう。





<補足> 06.11.23

2006年11月18日号の週刊ダイヤモンドの特別レポートで、「内部資料で明らかになった“全労済”不適正契約の全貌」という内容が取り上げられました。
要約すると、次の4つのポイントで全労済の運営について、実態を解明しています。

  1. 共済とはいっても、共済の根幹である「特定性」は事実上失われ、実態は生命保険会社同然
  2. 「団体生命共済」における不適正な掛金割引(全体の31.9%の団体が不適正な割引を受けている)
  3. 杜撰な運営と監督官庁の規制の限界(生協法には、共済に対する罰則がない)
  4. 労組幹部の天下りが高コスト体質の元凶

上記の内容の一部については、すでにこの「共済の“非営利”はメリットか?」で、“非営利性”のTV−CMを使ったアピールについて疑問を呈していたわけですが、週刊ダイヤモンドもようやく、共済が掲げる“非営利の胡散臭さ”に気づいたようです。
また、さすがに全労済の全理事・監事の出身を調べ上げるなど、経済専門誌の面目躍如と言ったところです。

ただし、全労済の“こくみん共済”と都(県)民共済と比較して、「こくみん共済は安くない」と決めつけるのは、勇み足といえるのではないでしょうか。
なぜなら、共済そのものが1年更新であるため、他の共済が保障内容を良くすると、翌年その内容に追いつくように保障内容を見直すことで、切磋琢磨しているからです。
したがって、現時点での保障内容や割戻率のみで、あれこれ言うのは、贔屓の引き倒しといった感は否めません。

また、ここで是非、指摘しておきたいのですが、週刊ダイヤモンドは以前、
「危ない“共済”」(2004年1月29日号)という特集で、全く経営内容について踏み込むことなく、安易に「共済団体は非営利であるがゆえに掛け金も安い」(その安いということをアピールするために、同じ保障内容とは全く言えない民間の商品と無理矢理比較をして、あたかも共済が「安くて良い保険」であるかのように誘導したことも大きな問題ですが)と言い切っていた経緯がありますが、今回の記事で、それに関しての反省の弁は全く見あたりませんでした。

この11月18日号は先週月曜の発売でしたが、大きな書店ではバックナンバーも並んでいますので、ぜひご一読してみてください。
でも、そもそもがこの編集部には、生命保険に詳しい編集者がいないようなので、記事を鵜呑みにはしない方が良いでしょう。



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