蒼き騎士の伝説 第一巻                  
 
  序章 ファースト・コンタクト  
                 
 
 

 

 伝説の世界は確かに存在する。

 遥か昔に、遠い未来に――。

 

<ファースト・コンタクト>

 西暦ニ一四ニ年。
 宇宙船エターナル号の三人の乗組員達は、コールドスリープから、今まさに目覚めようとしていた。
 彼らはこの惑星カルタスに派遣された、初めての親善使節団である。

 

 かつて地球人は一つの夢を託して、一枚のゴールドディスクを宇宙の果てへ送った。いつの日か自分達と同じ、あるいはそれ以上の知的生命体がディスクを見つけ、解読し、何らかのメッセージを返してくれることを期待して。
 もっともこの計画は、科学的というよりむしろロマンチックな質のもので、日夜万物を、極めてシンプルな数式で表すことに心血を注ぐ科学者達の、ちょっとした甘い夢に過ぎなかった。しかし、その夢は、意外にも現実のものとなる。
 そう、西暦ニ一一九年、地球人は自分達が孤独ではないことを、ついに知り得たのだ。

 その年の七月、火星ステーション付近の宇宙空間に浮遊していたカプセル状の物体が、ある一隻の貨物輸送船によって回収された。長さ一メートルほどの銀色に耀くカプセルは鉄製で、中には、数十年前まで一般的に使われていた光ディスクが、多数納められていた。それゆえこのカプセルは、宇宙航行中の不慮の事故によって流出した貨物、もしくは、不当に廃棄された物として扱われる。そしてその持ち主探しが、グランディア(宇宙空間における航行ライセンスを所有する民間会社)の管轄下で行われた。
 その時の担当責任者、後に、<世紀の発見を五ヶ月遅らせた男>と非難されたマイク・ドーレンは、こう語る。
「我々は持ち主の手掛かりをつかむため、ディスクを全て再生しました。しかし、あれは――あれは誰が見たって、二昔ほど前の安っぽいSF映画か、一風変った語学ソフトにしか見えません」
 確かにそのディスクが最初に映し出すのは、少し先の尖った、通常より一回り大きな耳をした男性が、ローマ帝国時代のような衣装を纏い、にこやかな笑みを浮かべる姿であった。あげく、『地球のみなさん、こんにちは』と、英語で話しかける。続いて彼らの地、その人間がカルタスと呼ぶ星が紹介され、蒼い、地球によく似た惑星が大写しとなる。その後画面が切り替わり、どう見ても地球上のどこかにあろうと思われるのどかな田園風景が、いっぱいに広がる。先の尖った耳の子供達が、聞き馴染みのない言語を発して転げながら遊ぶ傍らで、二つの頭を持った子犬のような小動物が戯れる。
 普通の神経の持ち主であれば、これを見て即座に、地球外知的生命体からのメッセージだと判断したりはしないだろう。マイク・ドーレンを責めるのは、かなり酷なことなのかもしれない。しかし、彼に科学的な知識がもう少しあれば、もっと早く事態が変ったであろうことは否めない。そのディスクの中には、未だ地球人が解明していない様々な真理が、見事な数式で示されていたのだ。
 結局の所、このマイクの元で全く価値を成さなかったディスクは、数ヶ月後、紆余曲折を経て、一人の科学者ヘルムート・テーラーの元に届けられた。
 奇しくもその日は十二月二十五日。
 まさに、神の啓示とも言うべき至宝のディスクは、この日ようやく、正当な評価を与えられたのだった。

 遥か彼方、四万光年の距離を隔てた惑星カルタスからもたらされた知識は、地球の科学力を飛躍的に進化させた。幸いにも、当初危惧された急激な変化による混乱や争いは、最小限に止まった。最高度の科学力によって生み出された圧倒的な物質的豊かさが、それらを凌駕したのである。
 地球は満たされた。人々は感謝した。
 地球人は心をこめて、その意をカルタスに送った。
 しかし……。
 何故か、カルタスから返事は来なかった。何度メッセージを送っても、同じだった。

 カルタスは、我々を拒んでいるのか?
 それとも――?

 

 
 
  表紙に戻る             次へ  
  序章・1