スターダスト | ||||||||||
第五章 スターダスト | ||||||||||
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「フォーメーション、D−3」
バームクーヘン型の母船。今は味方となったその船から、冷たい女性の声が響く。
「ラジャー」
短く答え、指示に従う。
今日は、第十七次デルドーマ戦争、終結の日だ。シナリオでは、我がデルドーマ星人がこの決戦で大敗し、あえなく母星に退却する。存在しない、母星へ。ちなみに次の戦いは、十ニ年後を予定しているそうだ。地球の社会情勢によって、それが早まったりする場合もあるらしい。
無人戦闘機同士が、互いに啄ばみ合う姿を、ぼんやりと眺める。プログラム通り、徐々に劣勢となっていく様を、母船近くで待機しながら見る。制御を失って、ふらふらと地球軍基地に落下する戦闘機。あるいは同じく箍が外れ、ガードコニカリー・システムの有効範囲内に取り残された戦闘機。そして退却時、何らかのアクシデントで自爆装置が働かなかった戦闘機。それらの後始末だけのために、延々と待機する。物質的に、精神的に、何の意味もなく、何の未来もないごっこ遊びの後始末のためだけに、漆黒の空を飛ぶ。
「作戦終了。全軍、退却」
母船の動きに合わせ、少しずつ退く。
「R−400部隊、異常なし。T−256部隊、全て順調」
母船からの声が、マークを失意に落とし込む言葉を並べる。
「全部隊、予定通り航行中。全防御システム、レベル2にダウン」
戦場となった空間の密度が薄くなる。風船が膨らむように、その範囲が広がっていく。
「防御システム、レベル1にダウン。全機、帰還せよ。繰り返す。全機、帰還せよ」
ゆっくりと左に旋回する。潮が引くように穏やかさを取り戻した宇宙空間を、じっと見る。太陽の方向。星空と同化した、仄かな光点を見やる。それだけでは物足りず、視線を頭の中に飛ばす。
冥王星、その向こうが海王星。さらに幾分青みを薄めた天王星が続き、優美なリングをまとった土星、力強い模様の木星、そして赤い火星。子供の頃に見た模型そのままに辿り、懐かしい故郷に着く。
ふと、あらぬ想像がマークの頭を過った。蒼い地球のすぐ側を、掠めるように飛ぶ自身の姿をイメージする。星が流れるように、軌跡を描く。地表に向かって落ちていく。
もし、僕が地上に流れ落ちたなら、あの星はどうなってしまうのだろう。この広い宇宙の中で、小さな、小さな、一欠片の塵に過ぎないあの星は……。
すっと横切るものを視覚に感じ、マークは思考を止めた。ゆっくりと弧を描く戦闘機を、目で追う。
父さん……。
マークは目を閉じた。そして、大きく息を吐く。
いつの日か……。
操縦桿を持つ手に、軽く力が込められる。四肢を動かすがごとく、滑らかに戦闘機が方向を定める。白いバームクーヘンに向かって、まっすぐに飛ぶ。
いつの日か、僕も父と同じように、何も感じなくなるのだろうか。父は本当に、何も感じていないのだろうか。そういえば、なぜ、父は戦闘機に乗ったのだろう。システムのエリートだったのに、なぜ?
マークの前で、父の戦闘機がひらりと翻った。優雅にとんぼ返りをうち、そのまま滑る。
そうか。まだ、システム制御がかかってないんだ。この手の中には、自由がある。まだ、自由が……。
マークは父に倣って、軽く戦闘機を遊ばせた。その感覚が、たまらなく心地良い。かかった負荷が消える瞬間に、幸福を覚える。マークに一つの決意が生まれる。
いつの日か……。
脳裏に、星が流れた。