短編集1 | ||||||||||
神様の贈り物 | ||||||||||
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「ウワァァ!」
「キャアァァ!」
子供たちは悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑いました。一方伍作どんは、しっかり腰を抜かしてその場に座り込み、目が点に――いえ、点を通り越して白目をむいておりました。
「仲間だ!」 あの不思議な生き物が嬉しそうに叫びました。
「おおい! ここだここだ。こっちだぞー!」
するとその声に導かれるように、大きな大きなお釜はまっしぐらに飛んでくると、ちょうどその生き物の真上でぴたりと止まりました。
「仲間が来たから、オラ行くだ。それから、オメエはオラを食おうとせず助けてくれたから、良い物をやろう。んじゃあ、オメエも元気で!」
そう言い終わるや否や、生き物の姿は上空のお釜から発射された白い光に包まれました。そしてその光の柱とともに、大きなお釜に吸い込まれるかの様に消えてしまったのです。やがて、大きなお釜は再びグゥィィン、グゥィィンと音をたてると、空の彼方へ飛び去ってしまいました。
ようやく静けさを取り戻した浜には、驚きのあまりひっくり返ってしまった子供達と伍作どん――と、何やら小さな巻物が残されておりました。
「なっなっ、伍作どん。これなんだろう?」
「なんか書いてあるよ。伍作どん、読める?」
「おっきなさかなの絵も書いてあるね」
子供達はさっきの恐怖も忘れ、巻物を覗き込みながら口々に尋ねました。
「どれどれ――」
村一番の賢者の爺様に、字を教わったことのある伍作どんは、たどたどしい調子ではありましたが、その巻物を読み始めました。
「この魚、正確には動物であるが、これを鯨と名づけ食料にすると良し。また油は明かりに、鬚や骨は細工物にも良し。この鯨なるものをおまえ達に授けるので、心して受け取るように――と」
ザザザザァ…… ザザザザァ……
ザザザザァ…… ザザザザァ……
海が怪しい音を立て、水平線がみるみる白く光り出しました。
「見て見て、伍作どん! 波が――」
「伍作どん! 津波がくるのか?」
「くるのか?」
「いや、違う」 伍作どんはきっぱりと言いました。
「よく見てごらん、あの沖を。ほら、あんなにたくさんお化け魚――いや、鯨が泳いでいるのだよ」
伍作どんはそう言うと、また沖を見つめました。子供達も一緒になって沖を見つめました。時折、高く水柱を立てながら、鯨は波の合間にその勇姿を見せました。小島ほどもある巨大な体は、日の光を浴びて黒く輝き、それはそれは神々しいまでの美しさでありました。
「なっなっ、伍作どん。あれ食えるのか?」
「でも、つかまえるの大変だよ」
「んでも、あんな大きいのをつかまえたら、アタイらおなかいっぱいになれるよ」
「おなかいっぱいかあ……」
子供達はじっと鯨を見つめました。
「村の者、皆を集めて漁をしなければならんな。それに――」
伍作どんは子供達を振り返って言いました。
「御社も建てねばならん。だってさっきのは、きっと神様に違いないものな」
子供達は伍作どんの言葉にこっくんと頷きました。それから誰からともなく微笑むと、遠い空の彼方に向かって、静かに両手を合わしたのでありました。
隊長! 目標地点に到達しました
うむ。ここは久しぶりだな
確か隊長が、辺境惑星開発部隊の隊員として、初めて訪れた所と聞いておりますが
その通りだ。あれから随分たつからな。惑星レベルはどうなっている?
はい。現在レベルB2。順調な発展をとげているようです。ただ――
ただ、どうした?
それが――現在の所、まったく捕鯨が行われていないのです
なんだと? せっかく私が鯨を与えてやったのに――自制が伴わず乱獲し、絶滅させてしまったとなれば2ポイント、惑星レベルを下げた評価をするしかないな
いえ、それがどうもそうではないようで……ご覧下さい、この鯨の数を!
なんという事だ! それでは私の一番恐れていた事態になったようだ。恐らくここは、あの野蛮な種族によって占領されてしまったに違いない。捕鯨が行われていないのが何よりの証拠だ。止むをえまい。この惑星は処分する。本部と連絡がつき次第、攻撃を開始しよう
はっ!
奴らは我らの恐るべき敵だ。今でも私は忘れんよ。私の仲間が無残に切り刻まれ、奴らの餌食になってしまったあの時を、あの言葉を――ぎらぎら光る青い瞳に残忍な喜びの色を浮かべて奴らは言った……「まあ、なんて美味しいビーフステーキなんざんしょ」と――