あとがき 男性編


「ふたり編」
『ふたり』というエンディングのナンバーが1であるところからおわかりかと思いますが、「片山僚」と「篠崎真奈」の設定を作ったとき、最初に考えついたストーリーがこれです。つまり、これがこの『ふたり』の真のエンディングということになりますね。
このストーリーは真奈の有馬記念降板をめぐる問題がメインで、僚は基本的に「部外者」なので、展開が難しかったです。
強がりの中の寂しさに気付く真奈編とは違った視点で、「僚なりの感情の豊かさ」を描けたらと思って書きました。
途中、『親子』という話に行き着く分岐がありますが、これは父である伸を心から敬い慕っている僚ならではのエンディングとして、絶対に外せない物語でした。
『ふたり』全体のテーマとして「大切な人のために行動する尊さ」と「家族愛」があり、『ふたり』が前者、『親子』が後者の代表となっています。

「馬になった少女編」
この物語は、実は私の中でかなり長いこと温めていたネタでした。
事故で死んだ少女が1年間の限定で馬に転生し、競馬関係の仕事をしている憧れの人に近づこうとしたものの、いつもそばにいてくれるジョッキーの方をいつしか好きになっていた……そこはまるっきり同じです。
違ったのは、元は舞台が桜花賞の週で、しかもジョッキーのためにがんばって勝とうとするものの、本番前日に「タイムリミット」が来てしまう、という皮肉なストーリーだったこと。
小説として形にならなかった理由に「エンディングがひとつに決まらなかった」ことがありました。
それなら、エンディングがいくつもある今回の形式に採用しよう……と考え、収録されたのでした。

「タイムスリップ編」
過去へ飛び、そこで何かをして現在を変える――これは私が愛好しているテーマのひとつです。それで今回も、迷わずこれを織り込みました。
このストーリーはさらに「濡れ衣編」「レイラと泰明編」「30年前編」の3つに分かれます。
「濡れ衣編」は、一生懸命に責任を取ろうとする気持ちを表現したくて作った話です。失敗して僚が死んでしまうパターンもありますが、成功して純也が無事にジョッキーになれたとき、あなたもほっとしてくださったなら嬉しいです。
「レイラと泰明編」は、自分はまったく過去に介入せず、徹底した傍観者として謎を解く形式にしたくて作りました。これだけ僚の姿が透明なのは都合がよすぎる気もしますが、そこはお許しを。
「30年前編」が、一応この展開のメインストーリーです。僚と伸が同年代の親友のように語り合うシーンは、是非入れたいと思っていました。「自分の人生では、誰しも自分が主人公。脇役になろうとするな」――この言葉は、『ふたり』全体でもよくできた一言だと自負しています。

「独身寮ジャック編」
大抵のサウンドノベルに入っている「銃撃戦」ストーリー。この『ふたり』でもその例に漏れず入れようと思い、書いた話です。
内部に残された真奈たち女性を助けるために、僚と泰明が立ち上がる……という発想はよかったんですが、完成してみれば僚はとんちんかんな作戦を立て、その責任を取るためにムチャをするだけの役割でした(笑)。彼にはどうも、策士の才能はないようです。
個人的なお気に入りは、真奈を捕らえるサングラスに僚が銃を突きつけるシーン。それまでの行動で、この銃に実弾が入っているかどうかが変わります。それによって、撃つのと撃たないのと、どっちが正解になるか違う、と。
ゲームのサウンドノベルだと、こういうのはフラグ分岐で簡単に作れるんですが、こうして自分で書く場合、わざわざ同じ文章をコピーしなければいけないのが容量ふさぎですね。(^^;)

「謎の奇病編」
この『ふたり』中、最もエンディング数の多いストーリー展開です。
これと「独身寮ジャック編」は対の存在として考えました。
何かといいますと、独身寮ジャックでは僚が真奈を助けるためにあれこれやるのに対し、こっちは真奈が事件解決のために動きまわり、僚は被害者の立場だということですね。
でも、あまりに被害者すぎてもおもしろくないので、自分で謎を解いてしまう展開も入れました。
ところで、そっちの展開でだけ、泰明が拉致された後に彼の部屋に鍵がかかっていますね(真奈が助ける展開では最初から鍵が開いている)。あの矛盾は僚編完成後に気付き、何とか解決しようとあれこれいじったものの結局直せませんでした。こじつけですが、「僚に自分の病気を知られた泰明が用心して鍵をかけた」という裏ストーリーがあったことにしておいてください(笑)。
その他の反省点は、非現実的なオチを説明するために全体的に文章が長かったことと、エンディング数が多いわりに、僚が死ぬか生きるかふたつのパターンしかなかったことでしょうか。
それにしても、絶対に勝ちたい有馬記念まで生きられないかもしれないのに、あがいたりせず「それなら自分らしく生きたい」などと思う僚も、実は結構冷めたタイプ!?

「ファンレター編」
「理想的なファンとはどういうものか」を考え、その結論を形にしたものがこのストーリーです。
バッドエンドのない展開で、どれを選んでもそれぞれ違う幸せが待っているあたりが気に入ってます。
過去で何かをして現在を変えるのは実際には無理ですが、現在で何かをして未来を変えることは、実際にできます。それだけに、何かに迷ったとき「こうしたら未来はどうなるだろう」と考えてから行動するのは、意味のあることなのではないでしょうか。
ちなみに、ベストエンディングの『もう一度、君に』と同じオチは、私の未発表作品でも使われています。その話では相手の女性は社長夫人だったため、あまり恋愛要素を表に出せなかった失敗があり、それは今回、彼女の立場を変えたことで解決しました。


片山 僚
『ふたり』の男性主人公です。「男らしいナイスガイ」にしようと思いつつ設定を作りました。
ただ単に勇敢でかっこいいだけではなく、父親を思いやる優しさや豊かな感受性をも兼ね備えた、まさにヒーローの中のヒーロー。思考が短絡的で頭はあまりよくないけど、一生懸命さでカバーしてしまう。その素朴さがたまらない魅力……果たしてそんなキャラに仕上がっていたでしょうか?
本来はもうちょっと言葉づかいがぶっきらぼうだったんですが、それだといろんな人から誤解を受けやすいので、少々抑え気味になりました。
……しかし、主人公というのは、本文でエピソードを書き尽くしてしまっている分、こういう「楽屋裏」では逆にネタに困りますね。(^^;)
そういえば、「僚」というネーミングが私は非常に気に入っています。現代では問題だらけの官僚さんの僚でもありますが(笑)、仲間や友達という意味を込めて伸がつけた名前として、とても綺麗にまとまったと思います。
欠点は、「僚」と「俺」の字が異様に似ていて、真奈編の文章チェックをしているとき「しまった、真奈の一人称を『俺』って書いちゃった!」と何回も勘違いしたことくらいでしょうか(笑)。

篠崎 剛士
この人を今回の『ふたり』で再登場させるに当たって一番悩んだのは、実は「一人称」でした。
『あの日の忘れ物』では「ぼく」と呼ばせていましたが、当時は19歳。今回はそれから30年も経って49歳になっているというのに、果たしてまだ「ぼく」のままでいいのかな? それとも「俺」や「私」に変えるべきかな? ……いろいろ考えました。
結局「ぼく」で現状維持となりましたが、そう決めた一番の理由は、私の祖父(故人)が最後まで自分を「ぼく」と呼び続けていたのを思い出したことでした。祖父の年で違和感がなかったなら、剛士くらいどうってことないや、と(笑)。
ただ、一人称は変える必要がなくても、どうしても変えなければならなかった部分もあります。それは真理子の呼び方。昔は「桂木さん」でしたが、いくら何でも名字が変わっている自分の奥さんにそれはないでしょう、と。
これはごく一般的に「真理子」と呼ばせることで解決しました。
なお、真理子の方は剛士の呼び方が「篠崎くん」から「剛士くん」に変わっています。

片山 伸
この人は……相変わらず古傷にがんじがらめにされて生きてますね(苦笑)。僚のたくましさや親孝行の気持ちを目立たせるため、余計に過去を気にするキャラにした傾向もあり、気がつけば『ふたり』全体で一番重い人物だったかもしれません。
『あの日の忘れ物』で失恋させて、今回さらに「奥さんを亡くした」という設定をつけるのはちょっと冒険でした。でも、親子仲がよくてお互いを充分に信頼していれば、単に両親がそろっているだけの家庭よりも幸せになれる――ということを表現したくて、あえて採用しました。
ところで、この『ふたり』執筆中に、昔騎手だった現実の競馬界のとある調教師さん(当時なんと69歳!)が騎手免許試験を受け直すというニュースがありました。もし彼が合格できれば、伸も僚の説得で騎手免許を取り直して再デビュー……というエンディングをどこかに入れようと思っていたんですが、惜しくも不合格だったため、そのプランは立ち消えになってしまったのでした。

長瀬 健一
『あの日の忘れ物』のメンバーの中では、一番競馬界で成功した人です。でも、本当にそれが幸せなのかどうか……という、例によって少々重いテーマも盛り込まれています。
この人は、まず独身の理由を書いておかなければならないでしょう(笑)。といっても、そんな確固たる理由があるわけではなく、ラブストーリーの関係者にできるのと、たまには一生独身を通すジョッキーがいてもいいんじゃないか、という考えによるものだけだったりしますが。
ちなみに、本文には出てきませんでしたが、「惚れにくい」という設定もありました。恋人のようなものは何人もいたけど、心から愛する相手にはついにめぐり会えなかった――と。
愛する相手がいないのなら、独身のままでも恥ずかしくない。私はそういう考え方をしています。

城 泰明
この人は、『ふたり』の影のヒーローと言っても過言ではないでしょう。多くのシナリオでおいしいところを持っていってしまいましたね。作者の私でさえ、まさかここまで目立つキャラになるとは思ってもみませんでした。(^^;)
保健委員のようなことをしてみたり、甘い物が食べられなかったり、野球が得意だったり、意外に情熱的だったり、キレると手がつけられなかったり……性格が地味なわりに個性が強いので、エピソードもたくさん生まれてきたのでしょうか。
実は泰明には、モデルとなった騎手がふたりいます(注:勇亮くんと未崎くんではありません)。
といっても、私は彼らの性格を知っているわけではなく、イメージから「こんなタイプかな」と考えて、それを泰明に乗せただけなので、本当の意味でのモデルではありません。

寺西 宏樹
プロフィールにはっきり「存在感は薄い」と書かれている通り、出番は異様に少ないです。直接のセリフが出てくるシナリオは数えるほどしかありませんね。
本来は、本当に個性のないキャラにしたかったんですが、隠しシナリオを書くときに大変なので、結局は妙なしゃべり方をさせてしまいました。
おまけに「雑学に異様に詳しい」という設定をつけたため、専門的なことを説明するときの語り部になってます。(^^;)
ところで、この人が生まれたのは1974年。
隠しシナリオを読んでない方のために詳しくは伏せますが、この人が「その道」をあきらめた一番の理由は、実はこの生まれ年にあったりします。
なぜなら、18歳以上(高校生は不可)でないと出られない某大型番組が、1992年で終わっているからなんです。
つまり1974年生まれの人は、1993年にようやく出場条件を満たしたと思ったら番組がなくなってしまったんですね。
そのショックから、寺西先生は競馬の仕事に没頭していくのでした(笑)。

五十嵐 敏生
今回、主人公の僚と真奈を除いては、一番いろんな設定がついている人だと思われます。
真奈のゴールドロマネスク乗り替わり事件を起こした(?)のに始まって、真理子を妹のように思っていたり、奥さんを亡くしていたり、弟子がたくさんいたり、昔ながらにこだわっていたり、弥生さんとの関係などなど……。
イメージとしては「とんでもなく不器用な親父」といった感じだったんですが、いろんな設定をつけたことで、逆にそれらをそつなくこなす器用な人になってしまったようなふしもあったりしますね(笑)。

東屋 隆二
今回この『ふたり』を書くに当たって意識したことは、「『絶対悪』を作りたくない」という点でした。せっかく隠しシナリオを見つけたのに、その文章が悪に満ちていたら、努力が報われなかった気持ちになるでしょう?
なので、悪役をどう作るかが問題でした。
そんな中でこの東屋先生は、結構上手く作れたキャラだと思います。
しかし……この人も存在感ないですね。(^^;)
全シナリオでたった1ヶ所しかしゃべってないですもの(真奈編の『スタンドプレイ』というエンディング)。
おまけにシナリオによってはすでに死んでたりしますし。

浅霧 花梨
非常に使いどころの難しかったキャラです。
この人をただの騎手ではなく「ニューハーフ」にした意味をもっと前面に押し出したかったんですが、結局それが生きているのは、真奈編の『ヒーロー登場』というエンディングだけでした。
一応「中身は男性だから女性よりは力が強い」というのもあったりしますが、あのリーゼントは弱かったですものねえ(笑)。
では、ここだからこそ書ける話を。
実は企画の段階では、「独身寮ジャック編」のメインストーリーで僚が真奈を助けに行くとき、犯人グループに怪しまれないように、なんと花梨の部屋でドレスとヘアピースと化粧品を借りて女装することになっていたんです。
それは結局僚のヒーロー的なかっこいいイメージが崩れるのでボツになりましたけど、おかげで花梨の出番がひとつ減ってしまったのでした。

藤原 純也
おそらく、今回一番報われない人でしょう……(泣)。「タイムスリップ編」の限られたエンディングで助けてあげない限り、無実の罪で競馬学校を追われてそれっきりなんですから。
それにしても、その「タイムスリップ編」以外ではまったく名前が出てこないというのも、どうにかならなかったものかと我ながら思います。
普段は忘れているとでもいうのでしょうか……。
僚も真奈もレイラも泰明も、意外に薄情者ですね。(^^;)

田倉 翔太
情報源として、マスコミ関係の登場人物は絶対に外せない存在でした。それで出した人物です。
ちなみにこの人、プロットを作った段階では、なんと「田倉博美」という名前の女性トラックマンでした。
登場人物の男女比を調整するためにそうしていたのですが、女性にすると隠しシナリオのネタが浮かばないのと、「馬になった少女編」の彩夏が好きになった人物が「名前設定なしの男性」になってインパクトが弱いのとで、それなら田倉を男性にして彩夏との関連をつければぴったり、と男性になりました。そんな理由で性別を取り替えられるキャラはそうそうはいるまい(笑)。
なお、「翔太」は、この人が生まれた頃の男の子の命名第1位の名前でした。彼は時流に乗った名前をつけられたわけです。(^^;)

新谷 稔
新谷稔……と書いてしまっていいんでしょうか。とにかく、訳ありのキャラですよね、この人は。ここを読んでくださってる方なら当然ネタバレ可でしょうから書いちゃいますけど、この人だけプロフィールの項目が全部間違っていることになります。
では、この人の本名や生年月日、血液型は?
本名の設定はありません。本当は考えようかと思ったんですが、適当なのが浮かびませんでした。生年月日も同じくです。ただ、新谷ツインズと同い年という設定はできています。血液型は、B型Rhマイナスでなければ何でもいいんですが、とりあえずは天地がひっくり返っても豊には輸血ができないA型Rhプラスあたりでしょうか。
ちなみに、本物の稔はどんな人だったかというと、この「稔」と似た明るさを持っていて、しゃべり方はそれより少しおとなしめ……との設定があります。文章に出てこないところで、いろんな設定を作ってるんですよ、私。

新谷 豊
この人は、本当の性格が一番よくわからないキャラでしたね。突然真奈の前に現れてほとんどしゃべらなくて、ふたりだけになると家族だの双子座だのの話を始めて、あとは事故って病院行き。こんな状態で好感を持つ真奈、あなたは偉い(笑)。
私は今まで何組かの双子の兄弟(あるいは姉妹)をキャラとして作ってきましたが、考えてみればみんな、兄(姉)は明るく人なつっこいタイプで、弟(妹)はちょっと近寄り難いタイプでした。自分でもわからないんですが、何か思い入れでもあるんでしょうか? まさか、柴田ツインズ?(……それはないです。だって、彼らを知る前に作ったキャラもいますもの)
ところで、私はこの新谷ツインズの「稔」と「豊」というネーミングが気に入っています。意味がつながっているのと、画数が同じ13画だということと(なぜか「豊」の方が画数が多く見えるけど、数えてみるとちゃんと同じですよ)。
双子の名前を考えるときには、どうしてもバランスと画数を調べてしまいます。男性の名前としては、他に「修」と「剛」が候補にありましたが、真奈の父親が「剛士」なので使えず、2028年にはちょっと古いかな……と疑問に思いながらも、「稔」と「豊」で通したのでした。


★最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました★

(2000/12/19  夕海)

 

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