あとがき 女性編


「ふたり編」
一応、これが『ふたり』のメインストーリーです。他の話では脇役エピソードになってしまう「真奈の有馬降板問題」に徹底的にスポットライトを当てると、こうなります。
真奈は母親の真理子をとことん嫌っていますが、心から憎んでいるわけではなく、本当は寂しいだけなんですね。
これは「ふたり編」に限った話ではないんですが、この『ふたり』という物語は、全体的にとにかく「家族の絆」を前面に押し出しています。微妙な親子関係や兄弟関係などを描いたシリーズになったわけですが……実は私、自分の家族に全然誇りを持てない人間だったりします。
なので書くのにとんでもなく時間がかかり、気付けば登場人物リストをアップしてから丸5ヶ月も経ってしまいました。(^^;)
皆様、すみません。m(_ _)m

「長瀬の疑惑編」
まるで三流ホームドラマのようなオープニングで、「今時これはないだろう」と思われた方多数でしょう、おそらく(笑)。
ただ、私は「不倫」にはかなり嫌悪感を示す人間なので、本当に「真奈は健一の娘だった」という終わらせ方にするつもりは、最初からまったくありませんでした。CDロムを偽造した犯人がわかるかわからないか、結末はそのどちらかということですね。
なお、企画の段階では、このストーリーは「真奈と健一のラブストーリー」でした。実は、エンディング候補の中に「真奈が健一と結婚して騎手をやめてしまう」というのがあったりもしました。結局それは、「長く独身を続けてきた健一がそんな簡単に真奈になびくわけがない」という考えからボツになり、相手が僚に変わって、『連帯責任』というエンディングでそれなりに残っています。
ところで私は、エンディング『優しさ』の中にある「土浦のジャンク屋」というフレーズが、なぜか異様に気に入っています。何となくだけど、楽しそうな気がするでしょ(笑)。

「障害騎手落馬編」
このストーリーも、僚編の「馬になった少女編」と同様、自分の中でかなり長く形にせずに残しておいたネタでした。
実は、これをこの『ふたり』に収録するかしないかは、とても悩みました。「人為的に馬を故障させる」というのがあまりにも救いようのない話で残酷すぎるからです。
結局、本筋と離れたストーリーを2種類入れることで全体をソフトにし、採用したわけですが、その効果もあまりなかったような気が……(泣)。
なお、その「本筋と離れたストーリー」2種類は、「謎の奇病編」「新谷ツインズ編」の予告編のような内容にしてみました。
……あ、もちろんそれらの話とのつながりはありませんので、ケーキを食べた僚やレイラの心配はしないでくださいね。(^^;)

「独身寮ジャック編」
真奈編は事件を追うミステリータイプが多く、全体的に重い雰囲気なので、こういう単純明快なアクションシナリオはいかがでしょう。でも、武装グループの動機など、やはり真奈編特有の「重さ」はご健在です(笑)。
その分、僚編よりはバッドエンドを少なくしてみました。おとなしくしていればそれなりに解決してしまうというのは、現実味があるでしょう?
でも、ベストエンドには多少の冒険も必要にしました。何もしない状態を5とすれば、何かをすれば10か0になります。5で満足するか、0になるリスクを承知で10を求めて冒険心を起こすか――それを選ぶ必要があるのは、小説の中に限ったことではないのではないでしょうか。
ところで、『ライフライン』というエンディングで使われている合言葉「大迷惑」。あれの元ネタは、昔(1989年あたり)のヒット曲です。CDを聴きながらこのシーンを書いていて、合言葉を何にしようか考えていたときにたまたま流れてきて、「これだ!」と一発で決定。単純でしょ(笑)。

「謎の奇病編」
……長かったです。ただひたすら長く、エンディング数も真奈編だけで11通り(僚編も11だから、合計22パターン!)と最も多く、書いても書いても終わらなかったシナリオです。(T_T)やはり、基本的に行動より頭脳で勝負するタイプの真奈には、この手の物語は難しかったのでしょうか。
でも、僚の「タイムリミット」を目前にしてどうしようもなく慌て、その中で彼が自分にとってどれだけ大事だったか気付くあたり、真奈というキャラの本性が出ていて、一番彼女らしい彼女を表現できたシナリオかな、と思っていたりもします。
さて、この物語を考えついたきっかけは、実はとあるゲームボーイ用のRPGでした。
そのゲームでは、男性キャラは最初から冷気攻撃を、女性キャラは最初から炎攻撃を身につけています。それを見て「現代人が魔法を使えるというのもおもしろいかな。性別で使える魔法が違うともっといいかも」と考えたのでした。私の発想の元って、大抵はゲームなんですよね(笑)。

「新谷ツインズ編」
未崎くんの応援ページの管理人として、「双子」は是非書いてみたいテーマでした。全体的に悲劇的なシナリオですが、オチの意外性など(わりとオリジナリティがあると思っているんですが、いかがでしょう?)、結構気に入っている物語です。
自分は優しさのつもりで行動していても、相手にはそれが苦痛でしかないこともある……それは私もよく考えるテーマです。いくら相手を思いやっても、やはり他人の気持ちを100%つかむことはできません。そんな中でどれだけ相手を幸せにできるか、それが問題なんですよね。
ではここで、本文には出てこなかったものの、実は……という裏設定をひとつ。
エンディング『悲報』でわかるように、真奈に用事があった健一は彼女の携帯を一度鳴らしていますね。実はあのとき、携帯は豊が持ってバイクでトレセンに向かっている途中でした。そして彼は、バイクを走らせたまま携帯に出ようとして事故に遭ったのです。
そう――つまり、あの事故の直接の原因は、健一が携帯を鳴らしたことだったわけです。
「長瀬の疑惑編」での過去と合わせるとあまりにも彼が気の毒になるので、このエピソードは本文には出さないことに決めました。
……ここで書いたら同じような気もしますが。(^^;)


篠崎 真奈
『ふたり』の女性主人公です。冷静で理知的だけど無感情で、かわいげのない女です(笑)。
そう書くと精神年齢も高そうに思えるんですが、意外や意外、真奈が「頼りない」を連発している僚の方が、実は大人なんです。真奈は結構強がりで寂しがり屋で、かわいくないのになぜか放っておけないタイプ……にしてみました。
性格は剛士似で、基本的にはおとなしくて内気な女の子です。そんな自分が好きになれなくて強気を装ってみるけど、やっぱりいざとなると弱い。だからヒーローの僚がつい守ってあげたくなる――そんな設定で、ふたりのバランスを取りました。
ところで、私はキャラの星座や血液型の設定(ストーリー的にはほとんど役に立ってない^^;)を決めるとき、星座はだいたい各キャラの性格に合ったのを選ぶんですが、血液型はなぜかどうしても占いに反したくなってしまいます。
なので、おとなしい真奈や弥生がB型だったり、強気で明るい僚やきっかがA型だったりします。
……なぜでしょ。(^^;)

篠崎 真理子
なぜなんでしょう、書いているうちに自然と性格が悪くなっていってしまうキャラです。
これは『あの日の忘れ物』の頃からずっとそうなんですよ。元気で明るい女性、というイメージで書いているつもりが、気がつけば自分と剛士のことしか考えてないような方向に行ってしまうという。うーん、不思議だ。
50歳まで騎手として現役という設定は、とある競馬ゲームから来ています。このゲームでは、騎手は男性でも女性でもみんな50歳くらいまで現役を続けるんです。現実にはちょっと難しいかもしれませんが、小説ならいいやと思って採用しました。

片山 沙穂
完成してみれば、プロフィールに「存在感が薄い」とはっきり書いてある寺西先生よりも存在感なかったですね。(^_^;)本編ではついに一言もセリフがありませんでした。故人なんだから普通はしゃべらない、と言われればそれまでなんですけど。
それでも、せめて僚編ではもうちょっと出番を作れなかったものかと少々悔やまれます。
タイムスリップしたときに会えるようにすればよかったかな。

星野 レイラ
この人は『ふたり』の影のヒロインでしょう。シナリオによっては真奈より目立ってますものね。(^^;)
真奈は基本的に恋愛より仕事の方が好きなキャラなので、ラブストーリー的なエピソードをまかせる役として、必然的にそうなってしまいました。
泰明との絡みがかなり多いですが、それは「レイラと泰明は絶対に結ばれるべき!」と思ってもらうための措置です。真奈や僚は主人公なので、あまりお互いだけにラブラブだと、「自分で選択肢を選んでいる」という気がしなくなりますからね。
ところで、口が悪くて荒っぽいわりには女性的(ミリタリーマニアであることを隠してたり)というイメージは、某美少女戦士アニメの木星の子から来てたりします(最近はこれでわかる人も少なくなったとみた^^;)。

谷田部 弥生
この人は、ひょっとしたら『ふたり』における一番の失敗キャラかもしれません。
五十嵐先生との関係など位置的には重要人物なんですが、何しろ性格も物の見方や考え方も泰明と似ていて、しかも泰明は地味なくせにひたすら目立つキャラなので、この人は単なる「女泰明」に成り下がってしまった傾向があるんです。
この『ふたり』を書くに当たって、すべての登場人物に必ずどれかのストーリーでスポットライトを当てようというポリシーがありましたが、弥生はそれも難しく、結局無理して入れたのが、真奈編の『破片』というエンディングでした。自分に都合のいいことを言ってくれた香先生を信じ続けて、結局彼女と一緒に死んでしまう、あの結末。ハッピーエンドを用意できなかったのが残念でなりません。
やはり、泰明とは全然違う性格のキャラにするべきだったのでしょうか。でもそうすると、隠しシナリオも成立しなくなってしまうし……。
本当に、難しいです。とにかく、今回一番私の頭を悩ませたキャラでした。

高遠 きっか
おそらく、女性の中では一番裏表があるキャラでしょう。
まだ見ていない方が多いと思うので詳しくは書きませんが、きっかの隠しシナリオを見て「え、そうだったの!?」と思っていただけたら本望です。
……それとも、本編の時点でバレてたりして(笑)。
ところで、きっかの身長が175cm、体重が60kgもあるという設定。あれは単に「騎手を断念した」理由づけとして作ったものではないんですよ。
構想の段階では、きっかは装蹄師(馬の蹄に打つ靴代わりの「蹄鉄」を造る人)だったんです。腕力と体力がいるので、どうしても大柄な女性を想像してしまいまして。
でも、ストーリー的にいつも長瀬厩舎にいないと困る部分が多く、たくさんの厩舎をまわる必要がある装蹄師だとそうもいかないので、結局厩務員にしてしまったのでした。

東屋 香
『ふたり』における一番の極悪人かもしれませんね、この人は。もちろん彼女には彼女なりの事情があるんですが、それでもストーリーによってはかなりの大量殺人をやらかすわけですから(恐ろしい……)。
この人の裏事情(隠しシナリオ)の話は、私が福島競馬場へ行ったとき、検量室(客席からとても近くて、騎手が歩きまわっているのがよく見えるんです)の前でふと空想したことがベースになっています。もしここで隠しシナリオ通りの事件が起きたら、香先生と同じことをする人がファンの中から出てくるんじゃないかな、と。物騒なことを考える私(笑)。
そんな事情を持つ香先生なので、本当は「独身寮ジャック編」でも何らかの形で登場させたかったんですが、できずじまいでした。

佐川 みゆき
モデルは私ではありません(と最初に断っておく^^;)。
でも、私がみゆきのような気持ちで騎手の応援を続けているのは確かです。
私は社長令嬢ではないので実現はできませんが、もし自分にお金がたくさんあったら、馬主になって好きな騎手にチャンスをあげられるのに……よくそんなことを考えるんです。
それには、昔『あしながおじさん』を読んで感動しまくったことが影響しているのかもしれません。
『あしながおじさん』ならぬ『あしながお姉様』になりたいという願望から、このキャラが生まれました。

野々村 彩夏
この子が登場する「馬になった少女編」は、前述の通りずっと温存しておいたネタでしたが、その企画段階でのヒロインの名前は、実は「彩夏」ではありませんでした。
何だったかというと、他ならない「真奈」です。
もともと「真奈」という名前も、大きな物語のヒロインに使おうとずっと温めていたものだったんです。
それで、今回女性主人公を「真奈」にした関係でこの子の名前は変えざるを得なくなり、「一番若いキャラだから、とびっきりかわいい名前にしよう」と考えて、「彩夏」と命名しました。気に入ってくださると嬉しいです。
ところで、この子にはモデルになった女性騎手がいます。誰かは……ちょっと内緒です。
でも、適当に言えば確率5分の1で当たってしまうのが怖い。(^^;)


★最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました★

(2000/12/19  夕海)

 

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