俺はひとまず銃をパーカーのポケットにしまうと、その誘惑的な渦に手を伸ばした。
今の俺には、怖いものなど何ひとつなかった。
死を怖がらなくなったとき、人間はすべてのことにおいて開き直れる。
今の俺がそうなんだろう。
渦は俺の腕をつかむと、ものすごい力で中にひっぱり込んだ。
……お、おい! 俺をどうするつもりなんだ!
まさか、この期に及んでまで俺とみどりを引き離そうってのか?
そんなのはごめんだ!
やめてくれ!
怖いものなど何ひとつないはずの俺が怖くなり、声にならない声で叫び終えたとき、体はもうすでに完全に渦に飲み込まれていた……。
……あたり一面、すべてが赤いひずみ。
体の重みもほとんど感じない。
ただ、羽毛が舞うようにゆっくりゆっくり、どこともつかない場所へと落ちていくのがわかった。
……もしかしたら俺は、もう死んだのかもしれない。
落ちていくということは、行き先は地獄なのか。
俺にとっては、みどりと一緒にいられないこと自体がもう地獄みたいなものなのに。
何か生前の行いにまずいところがあったんだろうか。
思い当たることといえば、彼女を守れなかった罪くらいだ。
……ああ、その罪はとても重いのだ。
静かに裁きを待つしかない……。
俺は目を閉じて、小さな引力に身をまかせた。
もしかすると、俺は彼女のそばになんかいない方がいいのかもしれないな……。
そんなことを考えて、せつなさに胸を痛めながら。