彼女の腕をひっぱろうとして、思いとどまった。

誰にも見えない俺がここで彼女を無理に止め、不安定な体勢にしてしまったら、美樹本に対して大きなスキを作ることになる。
そうすれば、間違いなく彼女はやつの餌食となってしまうだろう。
それだけは避けなければならない。
俺は、その瞬間を歴史から抹消するために、最悪の未来からやってきたのだから……。

……みどりと美樹本が、1メートルほどの間隔を取って向かい合った。
俺は彼女を守る意味で、そのふたりの間に割って入った。
俺よりほんの少し背が高い美樹本は、俺の胸のあたりを射るように見つめている。俺を透かして彼女の顔を見ている証拠だ。やはりやつにも、俺の姿は見えていないようだ。

「……ここで、何をしてるんだい?」
美樹本が、精一杯作ってるだろう穏やかな声を出す。
「あたしにはわかったわよ。……あなたが、田中さんでしょう」
みどりの声が、俺の背中から響く。

……その言葉は、1時間ほど前に聞いた美樹本のセリフを思い起こさせた。

『はっきり言われたよ。あなたが田中さんでしょう、って。あれこれ考えてる時間はなかった。一瞬だったから、苦しむ暇もなかっただろう』

俺にもまた、あれこれ考えている時間などなかった。

 

 

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