大型2輪教習日記 第7回
敗者復活戦に賭ける
普段通りに走るって難しい
 卒検に落ちた日は徹底的に落ち込んだ。正直に言って,多少のミスで減点はされても,70点以上ならOKなのだから何とか合格できるだろうと思っていた。それがまさか一発検定中とは…。なんとしてでも週末には敗者復活戦に挑まねばならない。

11月21日 練習2時限
練習できてよかったかも
 第3段階の教習以来,顔見知りになったT氏も仲よく一緒に落ちてしまった。土曜日の練習でもまた顔を合わせる。「今日の練習が終わってすぐに申し込めば明日の卒検を受けられるね」という話をしながらバイクに跨る。レインボーモータースクール
 この時間は「練習」というゼッケンをつけた教習生がやたら多かった。要するに,みんな卒検おっこち組だ。このため,教官は皆が苦手な課題走行を聞いて,そこを重点的に指導してくれた。さらに,自分で走りたい方の練習コースも選ばせてくれた。文字どおり,2時間の練習となった。
 「練習」ゼッケンを付けて走るのは屈辱的ではあるが,この2時間は非常に有意義だった。思い返せば,第4段階の最後の時間はひどい走りだった。あれでは卒検に落ちても不思議ではない。でも,2時間たっぷり練習すると,かなりうまく,しかも落ち着いて走れるようになった。卒検の時は,自分ではそれほどアガっているとは思わなかったが,実際には結構緊張していたようだ。だから,とんでもないところで大きなミスをしてしまう。明日は落ち着いて走れれば合格できるはずだと自分に言い聞かせて教習所を後にした。

11月22日 卒業検定2回目
頼むぜ桃太郎侍
 開けて日曜日,早朝からバイクで教習所に向かう。今日はこの冬一番の冷え込みで,真冬並みの寒さだ。いつもはFZ400で通っていたが,今日は気分を変えてSRXで出かけた。
 教習所に着いたのは,午前8時。ロビーには一緒に落ちたT氏や,第3段階の教習から顔見知りのS氏らがいる。「もし今日落ちたらもう後がないよね。12月になったら検定コースが変わっちゃうから」などと話す。
 しかし,新しい検定コースをよくよく見てみると,S字やクランクの入り口と出口がすべて右折になっている。現在のコースでは,路肩ぎりぎりを走ってきてそのまま左折してクランクに入り,2mほどですぐに右へ切り返さなければならないため結構難しい。しかも,大型2輪のクランクは普通2輪のコースよりずっと狭いのだ。実際,クランクで足を着いて大減点される人は少なくないという。これが右折で入るとなればずっと余裕があるので簡単になる。教官も新コースの方が簡単だと言っていた。だが,いまさら何を聞いても遅い。とにかく今日合格せねば。
 今回の受験番号は何と1番。願ったり叶ったり。前回のように30分以上も待つより,最初に走ってしまった方が気が楽だ。検定員は桃太郎侍の高橋英樹に似たかっこいいおじさん。人当たり柔らかく,緊張がほぐれる。

今度は急制動で勝利を確信
 例によってグループに分かれて検定が始まり,私は3番目にスタートする。すぐ前には同じ大型2輪のライダーが走っている。外周を回って内コースに入ると,突き当たりで前のライダーがいきなり手を挙げた。コースが分からなくなったという。検定員が飛んできて,「もうわかんないの〜」と言いながらコースを指示する間,後ろで待たされる。なんだか調子が狂うなあ。
 前を走る彼はのんびりしていてメリハリがない。外周の直線では指示速度の40km/hを出すのだが,前が遅いのでゆっくり走らざるをえない。こんなことで減点されたらやだなあと思いながらついていくと,クランクや波状路の入り口でいちいち待たされる。前走者がクランクの中にいる間は進入できないのだ。
 法規走行から波状路に入る。待たされてから発進して波状路へ進入したため,スピードがやや速い。前半はあまりアクセルを開けずに通過することになってしまった。続いて坂道発進,スラロームまでは順調だ。昨日の練習のおかげか,思った以上に落ち着いて走れている。一本橋もちょうど10秒くらいで渡れただろうか。少なとくも9秒は超えているはずなので減点はわずかだ。
 そして問題の急制動。これさえ終われば合格だ,と思って前回は失敗したから,深呼吸をしてからスタートする。早めに加速してスピードメーターをにらみながら針を41km/hぴったりで止める。パイロンの少し手前でスロットルをオフ,そしてブレーキング。制動限界線の1m近くて前で止まった。この瞬間,私は勝利を確信した。
 発着点に戻りバイクから降りると,桃太郎侍に似た検定員が来て,「どうでしたか」と聞く。それはこっちのセリフじゃ,と思いつつも「いつも通り走れたと思います」と答えると,「そうですね,よかったですが左折が大回りになっているので気を付けてください」と言う。確かに,左折はゆっくり過ぎるとふらつくので,アクセルを開けて回るクセがついている。でも,教習中に注意されたことがなかったのでちょっと意外だった。「あとは,波状路が少し速かったですね」と検定員が続ける。「もっとアクセルとクラッチワークができるところを見せるようにしてください。はい,ではお疲れさまでした」と言って解放してくれた。なかなかいい感触だ。ちなみに,前を走っていた彼は,検定員に「ずいぶんのんびり走るなあ〜」と言われていた。大型2輪ではゆっくり走るのは良いことではないのだ。
 1時間後,卒検の結果が発表された。OHPのスクリーンに受験番号が映し出され,赤丸が付いていれば合格,何もなければ落ちたということだ。果たして,受験番号1番には赤丸が付いていた。というより,受験した17人全員が受かっていた。緊張していた肩の筋肉からすう〜っと力が抜けていくのが分かった。一緒に受験したT氏とS氏と握手を交わして合格を祝う。彼らとは連絡先を教えあい,再会を約して別れた。こうして,約1カ月の大型2輪教習は終わったのである。
★次回,免許交付&エピローグで最終回です。

今回のポイント 卒業検定
◆検定中止事項
 卒検では検定中止事項があります。これをやってしまうと,そこで検定はおしまい。ほかが満点でも不合格です。検定中止事項には,右車線通行,スラロームやクランクでのパイロン接触(軽くタッチしただけなら減点のみ)と暴走,制動限界超過,波状路でのエンストや脱輪,一本橋の脱輪(落ちること)と7秒未満での通過などがあります。もちろん,いかなる場合でも転倒すればそこで終わりです。
◆70点以上で合格
 検定中にミスをすれば減点されます。でも,70点以上ならば合格なので,多少のミスは問題ありません。例えば,一本橋を8秒で渡っても,1秒につき5点減点ですから,マイナス10点で済みます。波状路(5秒以上)やスラローム(7秒以内)でも同じです。一発検定中止にならずに走りきれば,合格できる確率は高いと言えます。
◆普段通りに走れるか
 いつもの通りに走れれば,卒検の合格率は95%以上になるでしょう。それほどまでに,あの緊張の中で実力を発揮するのは難しいものです。桃太郎侍の話では,緊張のあまり検定の順番が回ってくるまでに逃げてしまう人もいるそうです。とにかくリラックスして走りましょう。でないと,私のように信じられないようなミスをします。

最終回へ