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言語室便り

広汎性発達障害を持っているこどもさんへの対応について

当院では基本的に次のように考えて対応しています

目的はパニックを起こさないことではなく、パニックを起こしにくいこどもさんを育てることです。
つまり、パニックを起こすような事態を避け、おそるおそる接するのではなく、想定外のことが起きても冷静に行動できるように育てていくことが重要ということです。

何か予定外のことが起きてこどもさんが騒ぎだしても大人は平然と対応します。

大きな声で制止しようとしても無駄なことが多く、後ろから追いかけていって止めようとすると逆効果です。
前から抱き留めてやって静かになるのを待ちます。
安全が確保されていれば放って置いても構いません。
そのときは「あなたの騒ぎには興味がないよ」というそぶりで目を合わさないでいます。

少し静かになったところでパニックになった理由を聞きます。
「もっと遊びたかったの?」
「うん」
と返事ができたらできるだけ思いを実現してやります。
「もう泣かないの?そしたらもう少し遊んでいいよ」
しかし、また大きな声で泣き出したりしたら、抱っこの状態や目を合わさない状態に戻ります。
泣くより、騒ぐより、ちゃんと伝えたほうがいいという体験をさせることが大切だと考えています。

平常の状態に戻ったときに確認してみます。
「時間が来てもまだ遊ぶって泣くの?」
「うん」
という答えだったら「違うよ」と一言で教えます。
理由の説明は要りません。
「だめ」とか「泣かない」と答えたら「そうね。ちゃんと知ってるんだ」とさりげなく認めてやります。
大げさに褒める必要はないと考えます。
あなたは何でも分かっている子だと先生は知っているよというメッセージをそのさりげなさで表現しています。

次の日も同じ質問を2~3回してみます。そして同じ反応を繰り返します。
また同じようなことが起こりそうな事態を推測するときは、前もって「遊びは終わりですって先生が言ったら泣きますか?」と聞きます。
「泣く」と答えたら「じゃあ今日は遊ばないでください」「泣かない」と答えられたらやはりさりげなく「分かりました」と返します。

パニック中に物を投げたり、人を叩いたり、自傷行為をしたりするのはできるだけ事前に止めたいと思います。
そのときも大声を出すのは意味がありません。
私は両手首をしっかり持って止めるようにしています。手は自分の行為の象徴です。
良くないことをしようとしている自分の手とそれを止めようとしている私の手に注目して欲しいと思っています。
しかし、間に合わず物を投げたときは、うろたえず淡々と片付をします。
ご本人にも手伝わせることができたらしめたものです。
でも、作業中はできるだけ目を合わせず、あまりことばを交わさないようにします。
こちらが騒げばそのことに興奮を覚え、またしたくなります。
またにこやかに一緒に作業をすれば構ってほしいときにまたやってしまいます。

人を叩いてしまったときも騒がないようにします。
すばやく間に入り制止します。
落ち着くのを待ってから一緒に相手に謝りにいき、「もういいよ」と言ってもらいます。
私を叩いたときは落ち着いてから「先生ここ痛かった」と叩かれたところを指します。
そしてそこをなでてもらいます。

物を投げたらいけないことや人を叩いたらいけないことは十分に分かっています。
何の説明も要りません。
淡々と事を進めることが肝要です。

パニックの頻度が下がり、その度合いも弱くなり、またパニックを比較的楽に収めることができるようになったら、今度は意図的にパニックを起こすような負荷を徐々にかけていきます。
励ましてやりながらパニックを起こさずに乗り越えられたという成功体験を積み重ねていきます。
ここでパニックを起こしてしまうと絶望感からまた情緒不安定になっていきますから絶対に乗り越えられるハードルからスタートしなければなりません。

どのこどもさんも人と仲良くしたい、自分も成長していろいろなことができるようになりたいという願望を持っています。
どうやったらそのことがうまくいくのか分からないだけなのです。
うまくいかないときは、こちらの伝え方に工夫が足りないのだと考え、くれぐれもこどもさんのせいにすることがないように自分を戒めています。
こどもさんの潜在能力を信じ続けることがすべての源だと思っています。

言語聴覚士 濵田賀代子

言語室便り

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