病歴聴取が終了したら、身体の診察に入る前に、インタビューによって得られた情報の整理と分析を行います。

病歴から得た情報の整理と分析の仕方

  • 情報の整理は「問題リスト」の作成によって行い、

  • 情報の分析は「診断への評価」「医学的計画」を立てることによって行います。


とくに救急患者では、このような情報の整理と分析はきわめて重要になります。



まず初めに「問題リスト」を作成します。

病歴には、たとえば定期健康検査で偶然発見されたタンパク尿のみで自覚症状をまったく欠き、 既往歴や家族歴にも問題がないために内容がきわめて単純明快、というような場合があります。

こんな場合は別として、病歴の聴取からは、数多くのしかも多岐にわたる医学的問題が発見されるのが普通です。 これらの問題は、そのすべてを医学的評価の検討材料として取り上げなければなりませんが、 これらを順不同に並べていったのでは、疾病の概略やその程度などの評価が的確に行いにくくなります。

そこで、医学的評価を的確に行うために、まず、インタビューによって得られたすべての情報を次の定義に基づいて分類します。 その上で、「問題リスト」を作成し、これをもとにして診断や治療の評価を行います。

病歴から得られた情報は、

  • 活動性の問題(active problem)

  • 非活動性の問題(inactive problem)

に二大別します。


すなわち、未解決な問題としてその解決をはかることが現在もっとも重要で、 可能な限り迅速に解決策を講じる必要がある問題を「活動性の問題」に分類します。

一方、すでに解決済みの問題や、患者の背景を把握するために欠くことのできない問題は「非活動性の問題」に入れます。

インタビューによって発見した問題の整理は、次のように順序立てて行います。

@まず、主訴に関連した問題をひとまとめにして、これを「活動性の問題#1」として取り上げます。

A次に、これ以外の問題について、お互いの関連性を順次検討していき、 もし関連があればそれらをまとめて1つの問題とします。 また、お互いに無関係の問題と考えられるときには、それぞれを個々の問題として取り上げます。

Bこのようにして取り上げた問題について、その問題が活動性か否かを判断していき、 順に「活動性の問題#2、#3、〜」あるいは「非活動性の問題#1、#2、〜」として箇条書きにしていきます。

Cなお、このような整理のときに、問題を個々に取り上げるか、あるいはまとめて1つの問題として取り上げるかの判断は あまり厳密ではなくてもかまいません。それは、このあとに行う身体の観察や臨床検査によって、 医学的問題はより正確な分類が可能となるからです。
すなわち、問題リストは、新しい情報が追加されるたびに再評価を行い、最新のものへと変更していきます。

大切なことは、インタビューで発見した問題をもれなく網羅した問題リストを作成することです。



次に、この問題リストをもとにして、「診断への評価」を行い、「医学的計画」を立てます。

すなわち、現時点でもっとも可能性の高い臨床診断、および鑑別すべき疾患について考察し、 さらに今後の診療計画を立案します。これらの考察や立案の内容は、単なる主観的予想によるものではなくて、 論理的で科学的な根拠が明示できるものであり、しかも明確な客観性を示すものであることが厳しく求められます。

臨床医には不可欠な論理的思考力と判断力の育成のために、 臨床実習では、この過程に多くの時間をかけ、全力を傾注します。

診断への評価や医学的計画は、問題リストにあげた個々の問題ごとに行います。

まず、問題の原因となっている病態の特定を試み、さらにこの病態に一致する疾患を考察します。 しかし、問題に関する情報は未だ病歴からのみに限定されているので、当然のことながら、 このときの病態の特定や疾病の診断は、現時点においてもっとも可能性の高いと思われるもの(すなわち、仮の診断)となります。

次に、診断を確定するための検査計画、問題を解決するための治療計画、 および治療や予防のための患者教育の計画を立てます。これらはまとめて「初期計画」と呼ばれます。

なお、確定すべき診断とは、単に疾病の診断(すなわち、病名を付けること)だけではなく、
  • 病因的診断
  • 病理学的(形態学的)診断
  • 機能的診断(病態の特定、あるいは重症度や進行度の判定)
のすべてを明確にすることです。

多くの場合、病因・発症誘因の推定や重症度の判定は、病歴からの情報によって可能となります。 とくに、病歴は救急患者の早期発見にきわめて有用です。

したがって、診断の評価のときには、病名が何かの考察で終わるのではなく、 上の3つの診断についても考慮が必要なことをぜひ銘記しておいて下さい。



この病歴聴取の直後に行う情報の「整理と分析」は、実地診療ではきわめて大切で、高度の論理的思考力を必要とする領域です。

臨床実習は、この能力を育成する最良の時間です。

臨床実習では、主治医から臨床診断や治療方針について意見を聞く前に、あるいは診療録(カルテ)に記載してある考察を参照する前に、 必ず自分自身の考えをまとめておく必要があります。 また、実習のときに行われる症例検討会では、自分の担当ではなくても、自分では このようにまとめて考察したいという意見を必ず持つようにします。
常にこのように思考力を訓練していると、先生の判断と自分のそれとの相違が明確となって、 この相違を少なくするための思考と判断のためには何が必要なのかが次第に分かってきます。

情報の整理と分析が実際にはどのように行われ、その論理性がいかに大切かを 臨床実習のときにぜひ学んで下さい。

それでは、次の身体の診察の基本へ進んで下さい。




HomePage Back to HomePage
To PageTop Jump up to PgTop